このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

旅の音楽

人生の旅で出会ったさまざまな音楽の中から、私のお気に入りを紹介します。

JULVERNE “Emballade...”


風の音楽〜キャンディーズの世界へ


MILES DAVIS/Kind of Blue (1959)
 
夏の夜、部屋を真っ暗にして、この作品を聴く。1曲目、ビル・エヴァンスのピアノとポール・チェンバースのベースによるイントロが始まった瞬間から暗闇がサーッと青く透き通り、部屋の空気がひんやりしてくるように感じる。とりわけ3曲目“Blue in Green”はピアノのイントロからトランペットやサックスのソロまで、すべての音に全く無駄がなく、これ以外の音の配列は考えられないというぐらい完璧に聞こえる。しかし、それも即興の産物であった。このレコーディングセッションを失敗テイクも含めて完全収録したブートレグ盤を聴くと、この曲のイントロもエヴァンスは毎回違うパターンで弾いている。各メンバーはその場でスケッチ程度の譜面を渡され、手探り状態で演奏しながら、数度の失敗・中断を経て、ようやく完奏できたテイクがアルバムに採用されているのだ。収録曲のすべてが、まさに神がかり的な名演。絶品。ジャズの奇跡がここにある。
 はじめ、友人から借りたCDをカセットに録音して聴いていたのだが、ある日突然、このアルバムはやはり自分で買わなくては、と思い、CDを買って帰ると、新聞の夕刊がマイルスの死を報じていた



福田進一/優しき玩具〜吉松隆ギター作品集  (1997)
 
現代音楽というと難解なイメージがあるけれど、「非音楽的で美しくない現代音楽の撲滅をめざしている」という作曲家・吉松隆の作品にはひたすら美しく抒情的なものが多い。これはそんな吉松作品をクラシック・ギタリストの福田進一が音にした小品集。曲によってはギター二重奏だったり、ハーモニカが加わったりする。作曲家本人が「このアルバムは大げさに言えば、私の中にあるルネサンスから現代そして民族音楽からポップスに至るまでの人類の音楽すべての記憶と、福田さんの持っている古典から現代に至る高度なギター演奏法のノウハウとアイデアがびっしり詰まった『タイムカプセル』であり『宝の小箱』なのである」(ライナーノートより)というように、ノスタルジックな曲、ロマンティックな曲、悲しく切ない曲などなど・・・次から次へと現われては消えていく。純粋に音楽を聴く喜びを感じさせてくれる作品。


ACOUSTIC ASTURIAS/Bird Eyes View (2004)
 
1980年代末〜90年代にかけて3枚の素晴らしいアルバムを発表したプログレッシブロックグループASTURIASが大山曜(ガットギター)、北辻みさ(ヴァイオリン)、筒井香織(クラリネット)、川越好博(ピアノ)によるアコースティック・ユニットとして復活。4つの楽器の魅力を最大限に活かしたアレンジで、それぞれが主役になったり脇にまわったりしながら有機的に結びつき、非常に完成度の高い作品を紡ぎ出している。3曲目のイントロのピアノなど人間業とは思えないほどの、まさに超絶技巧だが、単なるテクニックのひけらかしではなく、歌心あふれるメロディの美しさ、豊かさこそがこの作品の魅力だと思う。5曲入りミニアルバムだが、聴き終わると、つい2回、3回とリピートしてしまう。発売から1年余りで自主制作→全国流通→フランスのレーベルから全世界発売(!)へと展開していったところに、この作品の評価の高さがあらわれている(そのたびにジャケットが変更になっているため3種類のジャケットが存在するが、内容は同じ)。2005年にはメキシコのフェスティヴァルに参加、2006年にはフランスとイタリアでも演奏して好評を得るなど、今後がますます楽しみ。美しい音楽を愛するすべての方におすすめ。興味のある方は こちら 。試聴もできます。


ACOUSTIC ASTURIAS/Marching Grass on the Hill(2006)
 大山曜(ガットギター)、川越好博(ピアノ)、筒井香織(クラリネット)、伊藤恭子(ヴァイオリン)の4人による超絶アンサンブル・ユニット、アコースティック・アストゥーリアスの2作目。前作は5曲入りミニアルバムだったが、今作は12曲で70分近いヴォリューム。聴き応え十分の充実作。しかも、今回はavex io からのメジャーデビューアルバムである。2006年夏に新ヴァイオリニスト伊藤恭子が加入したが、この作品では12曲中9曲で前作と同じ北辻みさが弾いている。
 従来のファンに加えて新しいリスナーを意識して、癒し系の曲、クラシック・メドレー(といっても、そこらの凡庸なアレンジとは訳が違う!)、歌もの(Voはいとうかなこ)も入っているが、今回も曲良し、アレンジ良し、演奏良しの力作がずらりと並んでいる。ジェントルでエレガントでカッコイイ!! 当然、美しい音楽を愛するすべての方におすすめ! 


BILL EVANS TRIO/Explorations (1961)
 
ビル・エヴァンスは古い映画の主題歌やポピュラーソング、時にはあまり知られていない曲を見つけてきて、その曲の魅力を最大限に引き出すのが上手かった。オリジナルのメロディを素直に弾くのではなく、ややひねくれた解釈で弾いているのに、格調が高い。そして、これ以外の解釈、弾き方はありえないと人々に思わせてしまう魔力がある。このことは、毎回同じことの繰り返しでは聴衆の納得が得られないジャズの本質を考えると、エヴァンスの後継者たち、そしてエヴァンス自身をも悩ませることになったのではないか。エヴァンス(p)、スコット・ラファロ(b)、ポール・モチアン(ds)のトリオによるいわゆる四部作に人気が集中しているのは、このトリオが音楽性、テクニック、3人の緊密性において優れていたのはもちろんだが、エヴァンスの生涯の愛奏曲の初演ヴァージョンが多く収められていることも大きな理由だと思う。
 このアルバムでは、どこかドビュッシーのような“Haunted Heart”、愛らしいワルツ“Elsa”、M.デイヴィス作の“Nardis”、アドリブによる変奏から始まり、隠れていた主題が最後に出てくるという斬新な“How Deep Is the Ocean?”、切なげなメロディの“I Wish I Knew”などがお気に入り。
 もちろん、「初演が最高!」の典型といえる“My Foolish Heart”が入った極上のライブ盤“WALTZ FOR DEBBY”や“Blue in Green”のトリオヴァージョンが聴ける“PORTRAIT IN JAZZ”も愛聴盤。

 


SLAPP HAPPY/Acnalbasac Noom (1973,1982)
 
スラップ・ハッピーはドイツの女性ヴォーカリスト、 ダグマー・クラウゼ 、イギリス人の作曲家アンソニー・ムーア、米ニューヨーク出身の詩人ピーター・ブレグヴァッドの3人によるポップ・グループ。70年代に結成され、わずかな作品を残して姿を消し、1998年に突然、新作を発表。その勢いで2000年には来日まで果たしてしまった(僕も吉祥寺のスターパインズカフェに聴きにいったけれど、静かにじわじわと感動が広がっていくような素晴らしいライブだった)。
 この作品は1973年にドイツの前衛ロックバンド・ファウストの協力を得て制作されたが、レコード会社から発売拒否され、お蔵入り。1980年にようやく陽の目を見た。奇妙なタイトルはカサブランカ・ムーンの逆さ読み。前衛ポップというか不思議ポップというか…。普通ではないが、決して難解でもない。むしろ人懐こいとすら言える。なにより、ダグマーのヴォーカルがいい。キュートだったりコケティッシュだったりシリアスだったりエレガントだったりと変幻自在。ポピュラー音楽の世界ではなかなかいない声の持ち主だと思う。この作品はレコード会社に発売拒否された後、別アレンジで再レコーディングされ、英国ヴァージンレーベルから“Casablanca Moon”として発売されたが、それよりもこのお蔵入り盤の方が70年代という時代を感じさせない普遍性を持っているように感じられ、僕はこっちをよく聴いている。最近、入手困難になっているかもしれないが、こういう作品はビートルズ並みにいつでもどこでも買えるようにすべきだと思う。2000年の来日時のライブ盤“LIVE IN JAPAN”も彼らの魅力を伝えてくれる好盤。


 2005年、スラップハッピーの“Acnalbasac Noom”と“Casablanca Moon”が相次いで国内再リリースされました。また廃盤にならないうちに、聴いてみてください。


JOHN GREAVES/Songs (1995)
 ジョン・グリーヴスは1970年代、ヘンリー・カウやナショナル・ヘルスといったイギリスのジャズロック系バンドで活躍したベーシストだが、最近はフランスに拠点を移して渋い歌物アルバムも作っている。なかでも、これはロバート・ワイアットなど多彩なゲストを迎えて制作され、まるでヨーロッパの短編映画を見るような気分にさせられるポップソング集。とりわけ、ワイアットが歌う"The Song”が感動的だ。また、メンバー&スタッフ紹介をそのまま歌詞にして曲に乗せてしまうセンスも洒落ている。


DOOPEES/Doopee Time〜Time in the Air (1995)
 謎の少女キャロライン・ノヴァクを主人公にしたヤン富田プロデュースによるポップ・グループ、ドゥーピーズ。ヤン富田の前作ASTRO AGE STEEL ORCHESTRA/Happy Living(1994)で初めて登場したが、その中で「私たちはこのCDの中に住んでいるから、会いたくなったら、また聴いてね」などといっているように、ドゥーピーズはいわば架空のグループである。ジャケットに女の子の写真が載っているが、キャロライン自身も実在しない架空の少女と考えた方がいいのかもしれない。彼女の愛くるしい声も女性の肉声を電気的に加工して作ったもののように感じられる(その後、キャロラインの声はバッファロー・ドーターの大野由美子の声を加工したものと明らかにされています)。
 アルバムはキャロラインがお姉さん的存在のスージーたちに導かれつつ時間と空間を超えた旅を通じて精神的に成長していくというストーリー仕立て。音楽的には実験的要素も盛り込みながらも、全体としては美しいポップアルバムで、音のワンダーランドをキャロラインたちと共に旅しているような気分にさせてくれる。ラストのビーチボーイズのカバー“Caroline,No”が終わった時、確かにもう一度キャロラインたちに会いたくなる。

 ちょっと聴いてみますか?   はい   いいえ         こんな映像もありました。


平岩英子/Airium (1997)
 平岩英子はとてもアーティスティックな雰囲気をもったシンガーである。声は少しハスキーながら、しっとり系。詩の世界もユニークで、ラブソングでも甘くなりすぎないのがいい。ピアノの腕もなかなか。彼女の5枚のアルバムはどれも好きだが、初めて出会ったのが、この2枚目「エアリウム」だった。タイトルはアクアリウム(水族館)のアクア(水)をエア(空気)に入れ替えた造語だそうだ。空から舞い降りてくるような多重録音コーラスで幕を開けるこのアルバムは彼女の作品の中でもとりわけカラフルな印象が強いが、あえて色彩的なイメージでいえば、やはり青だろうか。透き通るようなブルー。ラスト曲はまさに“Blue”。ひんやりとしたピアノの響きが印象的。そして、エンディングのスキャットがアルバム冒頭のコーラスへと繋がっていく円環構造になっている。「Blue」のほか「カラカラ」「はこぶね」「サボテン」「Snow Field」「昨日見た夢のように」などがお気に入り。
 ついでに言うと、平岩英子は僕が過去に最も多くライヴを見たアーティストでもある(15回ぐらい)。基本はピアノ弾き語りのスタイルながら毎回、さまざまなゲスト・ミュージシャンを迎え、同じ曲でもさまざまなアレンジで、時にインプロヴィゼーションを取り入れたり、演奏した曲を直後にプレイバックしてそこにハーモニーを重ねる、なんてことまでやっていて、毎回毎回が新鮮な体験だった。残念ながら現在は活動休止中だが、復活を期待したい。待ってます!


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VIRGINIA ASTLEY/From Gardens Where We Feel Secure (1983)
 ヴァージニア・アストレイが音で描く田園風景画。小鳥のさえずり、教会の鐘の音、虫の声などをバックにピアノ、フルートと声で、英国の初夏のさわやかな一日の光景をつづっていく。牧歌的な風景の中で、草の上に寝転がって、まどろむような音楽。

    映像


RALPH VAUGHAN WILLIAMS/NEVILLE MARRINER conducting ASMIF/Greensleeves (1972)
 イギリスの作曲家ヴォーン・ウィリアムズの管弦楽曲集。N.マリナー指揮、アカデミー室内管弦楽団(Academy of St.Martin‐in‐the‐Fields). ヴォーン・ウィリアムズはイギリスの古い民謡の採集に努めた作曲家で、「グリーンスリーヴスによる幻想曲」や「タリスの主題による幻想曲」など民謡や教会音楽を取り入れた作風で知られる。僕はクラシックのCDはあまり持っていないのだが、この人の作品だけはいろいろ持っていたりする。このアルバムもひたすら美しい曲ばかりが収められていて、天気のよい日曜日の朝に窓を開けて聴きたい一枚。
 ヴォーン・ウィリアムズは交響曲も9曲書いているが、5番が好き。3番「田園交響曲」はひたすらのどかで、盛り上がらず、眠ってしまいそうになる。また、同傾向の作曲家としてはフレデリック・ディリアスがいる。この人の名前はケイト・ブッシュの曲“Delius”で知ったのだが、美しい作品が多い。


モシリ/ウレパ・モシ〜互いに育てあう世界 (1993)
 
アイヌ詞曲舞踊団「モシリ」。こう書いても、ほとんどの人はピンと来ないと思うが、坂田明(サックス&クラリネット)、吉野弘志(ウッドベース)、フェビアン・レザ・パネ(キーボード)、吉田哲治(トランペット)、八尋知洋(パーカッション)というゲストミューミュージシャンの豪華な顔ぶれを見たら興味を持つ方もいるかもしれない。また、22分24秒、6分14秒、13分55秒、7分11秒という収録4曲の長さにも、ある人は興味を引かれるだろうし、たじろぐ人もいるだろう(後者のほうが多い?)。
 僕が彼らを知ったのは、北海道旅行中、屈斜路湖畔の「丸木舟」という店で食事をしたときのことだった。店内に流れていたのが、これ。その不思議な魅力を持った音楽に思わず耳を奪われてしまった。様々なパーカッションとアイヌの民族楽器ムックリ、小川のせせらぎを思わせるピアノが謎めいた森の奥に迷い込んだような雰囲気を醸し出し、地を這うようなウッドベースやクラリネットや神秘的な女声コーラスが不思議に重なり合って、めくるめく世界を展開していく。土俗的かつ宇宙的、古代的かつ現代的、素朴でありながら洗練された音楽。アイヌの音楽というと2004年に亡くなった安東ウメ子さんの素晴らしい作品が話題になったが、モシリはシンセや打ち込みのリズム(予算の都合?)なども使っている分、よりモダンな響きを持っていると言える(曲によっては陳腐にも響きかねないが…)。
 彼らは現在12枚ものアルバムを発表しているが、これは5作目。僕が店で耳にしたのはその3曲目だった。迷わず買った。はまった。いつのまにか、12枚全部揃えてしまった。今でも12枚のうち、これを聴くことが一番多い。あとは1作目「カムイ・チカプ(神の鳥)」。
 ところで、彼らはアイヌ詞曲舞踊団を名乗っている。つまり単なる音楽グループではない。彼らの本質はライブを見ないと分からない。アイヌの伝統的な歌と踊りをベースに最新のテクノロジーも導入しながら呪術性をも感じさせるパフォーマンス。僕は北海道で3回、東京で2回見たが、そのたびに圧倒される。ライブビデオがVHSとLDで出ていたが、いつのまにかVHSがカタログから落ちてしまった。DVD化を期待。21世紀に生きるアイヌの文化を創造し続ける「モシリ」のことを少しでも多くの人々に知ってもらいたいと思う。
 ちなみに、彼らのCDは一般のお店では売られておらず現地か通信販売でのみ入手できる。

  公式サイトは こちら


鈴木祥子/Long Long Way Home (1990)
 
鈴木祥子は旅する音楽家である。べつに各地を旅行しながら音楽活動を行っているという意味ではない。つねに旅人の視点、あるいは旅する精神の持ち主とでも言ったらいいだろうか。そもそも人間には2つのタイプがある。共同体の一員であることにこだわる村人型と、ひとつの共同体に安住できずに(本当の?)居場所を常に探し求める旅人型。はっきり分類できるわけではないが、皆それぞれにどちらかの傾向をより強く持っているのではないか。言うまでもなく、鈴木祥子は後者であろう。このアルバムは「帰る場所を探すための旅」がテーマになっている。ところが、アルバムの最後に収められた曲のタイトルは「どこへもかえらない」。そこには、ひとは誰もが孤独であることへの深い自覚に基づいたポジティブな開き直りすら感じられる。
 この4枚目の作品までの彼女は、アコースティック系のサウンドの印象もあってか、大人しく、清楚で、どこか儚げなイメージに包まれていた。そこに彼女自身は違和感を抱いていたという。そんなパブリックイメージを振り払うべく、これ以降、徐々に独自の道を歩み始める。過渡期的な作品である次作「Hourglass」を経て、帰るべき場所を持たない者の強さと弱さを生々しく表現するロックミュージシャンへと変貌していくのだ。それは従来のファンの少なからぬ数を失う結果になったかもしれないが、同時に新たな共感者を得ることにもなった。「Long Long Way Home」はそうした鈴木祥子の音楽人生の転換点になった記念碑的作品。音楽的にも完成度が高い、美しく魅力的なポップアルバム。

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陳綺貞/譲我想一想 (1998)
 
1975年生まれの台湾の女性シンガーソングライター、陳綺貞(Cheer Chen)のデビュー・アルバム。ギターやピアノを中心にオーボエや弦楽カルテットなどを交えたアコースティック・サウンドをバックに歌う爽やかで初々しい作品。彼女の詩と音楽は「耳で聞けるエッセイ、目で読める音楽」と評され、台湾だけでなくアジア各国で若者の共感と支持を集め、また、数多くのアーティストへの楽曲提供によりソングライターとしての評価も高い。残念ながら、この作品は日本では発売されていないが、近作は国内発売もされ、今は2005年リリースのベスト盤「陳綺貞精選(チア・チェン ベスト)」が入手しやすく、彼女の作品を知るのに絶好の選曲でもある。日本が大好きでプライベートではたびたび日本を訪れているという彼女の日本公演が実現するのも近いのでは、と期待しているのだが…。

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MAGMA/K.A -Kohntarkosz Anteria (2004)
 フランスの音楽集団マグマの作品をひとに薦めるのはちょっと難しい。それは犬や猫やウサギみたいな可愛いペットを飼いたがっている人に野生の猛獣を薦めるような結果になりかねないからだ。僕はマグマの音楽にそんな野獣のような荒々しさと美しさと気高さを感じる。そう、世界で最も激しい音楽も、最も美しい音楽も、彼らの演奏の中にある…当然異論はあるだろうけれど、僕はそう思ってしまう。
 1967年に亡くなったジャズの巨人ジョン・コルトレーンの音楽とその精神を継承すべく結成され、1970年にデビューしたマグマはドラマー、クリスチャン・ヴァンデール(Christian Vander)を中心に度重なるメンバーチェンジを繰り返し、80年代には活動休止、コーラスとピアノ中心のアコースティック・ユニット OFFERING へ移行、そして1996年に若いメンバーを加えて再編され、現在もなお活動を続けている。また、1998年、2001年、2005年に来日も果たし、その圧倒的な演奏を日本のファンの前でも披露している。
 その音楽性は一般的には英国のキングクリムゾンなどと同様にプログレッシブロックに分類されるが、実際にはジャズロック的なリズムの上に、時に賛美歌風、時にオペラ風、時にゴスペル風、しばしば異様な(!)混声合唱を乗せたようなものと言ったらいいだろうか。東欧系のクラシック作曲家、バルトーク、ストラヴィンスキーやオルフの作品との類似性も指摘されるところだ。また、しなやかで躍動感に溢れたリズムを叩き出すクリスチャンのドラムにはコルトレーン・カルテットのドラマーだったエルヴィン・ジョーンズを思わせる瞬間もある(実際、彼は少年時代にコルトレーン・カルテット加入前のエルヴィンとすでに知り合っていたといい、後には共演歴もある)。さらに、マグマの特異性を際立たせる要因として彼らがこの世に存在しない創造言語コバイア語で歌っているということも大きい。巻き舌を多用した独特の発音はなんとなくドイツ語やロシア語を思わせるが、しかし、どこの国の言葉でもない、ということは逆にどこの国でも通じる、ということでもある。彼らの歌にはそれだけの説得力がある。2005年のライブを目の前で観て、クリスチャンの歌声(彼はドラマーとしてだけでなく、ヴォーカリストとしても超一流だ)を間近で聴いた時、そのことを確信した。
 このアルバムはそんなマグマの2004年の最新作。70年代に作曲され、そのままお蔵入りになっていた作品を改めて完成させ録音した3部構成で50分近い大作。これまでの長い音楽経験のすべてが反映され、なおかつ全く無駄がない。一気に聴けて、長さをあまり感じない、というか、聴き終えると、すぐにまたリピートしたくなる。僕にとっては永遠の愛聴盤になりそうな一枚。

 公式サイト(フランス語と英語)のMagma Web Radioで彼らのデビュー作から最新作まで試聴できる。 http://www.seventhrecords.com/

  参考映像1     参考映像2    (←いずれもK.Aの抜粋です)


野崎美波/ハルモニア (2005)
 
僕の中で2005年の大ヒットアルバムがこの作品。TV、CM、映画、ネット系音楽などを数多く手がけている作曲家&ピアニスト・野崎美波の2ndアルバム。上のマグマは決して万人向きではないが、こちらはどなたにもお薦めできる。彼女の名前は最初、どこかのライブ告知のチラシで知ったのだが、その後、たまたまこの作品を見つけて買ってみた。いやぁ、これは素晴らしい。
 この作品は「21世紀の室内楽」という通りインストゥルメンタル曲中心なのだけれど、一部の曲では彼女のスキャットも聴ける。ピアノのソロで幕を開け、2曲目からガットギター(宮田誠)、チェロ(橋本歩)、ハープ(吉野友加)、クラリネット(清水一登)、フルート(国吉静治)、ドラム(坂田学)といった楽器が曲ごとに加わり、最後はまたソロピアノで終わるという構成。全曲生演奏で、曲調はクラシカルなものからボサノバ調まで多彩。特にピアノソロ曲以外は全曲で聴けるチェロのつややかな響きが印象的。風のように爽やかで、陽だまりのように暖かい音楽。天気のよい休日はこのアルバムで目覚めると、きっといい一日になりそう。

 2002年発表の1枚目も実は大傑作で、あわせてオススメ! 公式サイトは http://www.suzakmusik.com/minaminozaki/


小島麻由美/me and my monkey on the moon (2000)
 
小島麻由美の1995年から1999年までのシングルコレクションとアルバム未収録曲、計21曲を収めたベスト盤。あるアーティストの作品から1枚選ぶ時にベスト盤、というのは反則のような気もするが、やっぱりこれはいい。ライヴで越路吹雪や由紀さおりなどを好んでカバーしている小島麻由美は昭和の歌謡曲やジャズやブルースの要素を含んだノスタルジックな曲を数多く作っているが、このアルバムは「みんなのうた」的なかわいい曲からエロティックな曲までコジマ・ワールドの魅力満載の1枚。これから彼女の作品を聴いてみようという人にはまずこの作品がオススメ。僕は「ぱぶろっく」以降のラスト3曲の流れが気に入っている。オリジナルアルバムでは2003年の「愛のポルターガイスト」がカッコイイ!
 公式サイトは  http://www.kojimamayumi.com/

 2006年の最新作「スウィンギン・キャラバン」も傑作です。

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 MIKE OLDFIELD/Incantations (1978)
 英国のマイク・オールドフィールドといえば、映画「エクソシスト」で使われた“Tubular Bells”が有名で、僕も大好きだけれど、一番よく聴くのは、この“Incantations”だったりする。邦題は「呪文」。4部構成、トータル72分を超える壮大なロックシンフォニーとでもいうべき作品で、LP2枚組みとして発売されたが、CD化に際して1枚にまとめられている。マイクがひとりで2千回以上とも言われるオーバーダビングを重ねて創り上げた“Tubular Bells”以降、“Hergest Ridge”,“Ommadawn”と続く三部作はどれも感動的だけれど、この4作目の「呪文」はまさに集大成的な傑作。例によって、ほとんどの楽器をマイクが演奏しているほか、今回はさらにストリングスや女性コーラス隊、アフリカン・ドラムなどが加わり、力強くも美しい作品に仕上がっている。どんどん場面が展開していく構成が素晴らしく、グイグイと引き込まれる。とりわけ、Pierre Moerlinのヴィブラフォン、そして、Maddy Priorの歌唱が印象深い。

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 福間未紗/フェスタ・マニフェスト (1999)
 福間未紗という名前を初めて知ったのは、1998年頃、吉祥寺のライブハウスのちらしで、だったと記憶している。それから1年ぐらい経って、CDショップの試聴コーナーにこのアルバムがあり、なんとなく聴いてみた。一気に引き込まれた。はっきり言って、これは名盤です! 「アコースティックとエレクトロを融合したフューチャー・フォークここに誕生!」というキャッチコピーの通り、斬新でありながら、ある種のノスタルジーを感じさせる音。子どもの頃の、まだ自分を取り巻く世界が不思議に満ちていた時代に引き戻されるような、でも、実際はそんな幼い自分の姿を大人の自分が遠い宇宙からひとりぼっちで眺めているような気分にもさせられる作品。胸に染みます。


 JULVERNE/Emballade...  (1983)
 ベルギーのジュルヴェルヌは、ピアノ、フルート、クラリネット、バスーン、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバスといったクラシカルな楽器編成で、オリジナル曲を演奏する室内楽団。彼らの音楽を形容するのに、しばしばエリック・サティが引き合いに出されるが、変拍子を多用し複雑な構成をもつシリアスな演奏の中に独特の軽やかさ、趣味性、ノスタルジーといったものを感じさせるセンスの良さが持ち味だ。
 さて、そんなジュルヴェルヌの3作目は女性ヴォーカルを加えて古き良き時代のラグタイム、シャンソン、ジャズ、タンゴなどを演奏した異色作にして大傑作。まずは古めかしい自転車に乗った女性が描かれたアルバム・ジャケットが素晴らしい(このページのトップに掲出)。そして、古風なカフェで撮影された正装したメンバーの写真。まさに、このジャケットのイメージ通りの音楽である。
 しかし、残念ながら、この作品、日本では(本国でも?)入手するのが極めて難しい。1983年にアナログ盤が出て以来、CD化されることもなく時が流れ、まさに幻の名盤だったのだ(日本ではアナログ時代から彼らの作品は一度も国内発売されたことがない)。ようやく2002年に世界で初めてCD化されたのが韓国のレーベルからだった。当然、日本ではごく一部のマニア系ショップにしか出回らなかったようだ。
 しかし、この韓国盤、いわゆる紙ジャケでオリジナル・ジャケットを完全に再現し、グループを取り巻くベルギー音楽シーンの人脈図、ディスコグラフィー、たぶん詳細な解説(ハングルだけど)も付いた充実ぶり。日本でも紙ジャケ・ブームだけど、こういう作品こそリリースして欲しい。
 ちなみに、ジュルベルヌの作品でCDリリースされたのは、ほかに新録音を含むベスト盤“Le retour du Captain Nemo”(1992)と久しぶりの新作だった“La pavillon des passions humaines”(2000)で、いずれもベルギーのIglooレーベルから。たぶん、今はこちらも入手困難かも。こんな状況、なんとかならないものだろうか。

 
2009年、Julverneの1st〜4thまでのアルバムが日本で発売されました。この機会にぜひ聴いてみてください。


 NATIONAL HEALTH/National Health (1978)
 
ナショナル・ヘルスは1970年代後半に活動し、いわゆるカンタベリー派ジャズロックのひとつの完成形を世に示した英国のバンドである。カンタベリー派とは英国南東部のカンタベリーで結成されたワイルド・フラワーズから分派したソフト・マシーンとキャラヴァンという2つのバンドを源流とする音楽一派で、その特徴は音楽家としての飽くなき探究心をもって、ジャズやロック、現代音楽などあらゆる音楽の要素を貪欲に取り込み、構築性と即興性を兼ね備え、細部のアレンジから楽器の一音一音の音色に至るまで非常に凝った曲作り、音作りをする点と言えようか。そのため聴き手の側もじっくりと音楽を聴き込むことを求められ、その分、マニアックな音楽とは言えるかもしれない。また実際、集中して聴くことによって、より多くの発見と感動を味わえる作品が多いのも確かだ。こう書くと、非常に難解そうに思われるかもしれないが、実際は至るところにウィットとユーモアが散りばめられ、聴いていると(あるいは聴く前からジャケットや曲名などで)思わずニヤリとさせられてしまう部分も多い。要するに、ミュージシャン自身がやりたいことをやりたい放題にやって楽しんでいて、その面白さを聴衆も共有することで楽しむ、といった性質の音楽なのだ。入門編としてはキャラヴァンあたりがジャズっぽいノリのソフトポップといった風情で親しみやすいし、心地よい音楽でもあり最適だろう(とくに3rd“In The Land of Grey and Pink”)。
 さて、ナショナル・ヘルスである。カンタベリー派のハットフィールド&ザ・ノースとギルがメッシュという2つのバンドのメンバーを中心に1975年に結成されたバンドであり、初期のメンバーにはイエスやキングクリムゾンのドラマーだったビル・ブルフォードもいたことで知られる。しかし、当時はパンク/ニューウェイヴの全盛期であり、彼らの複雑な音楽はレコード会社から悉く無視されるという憂き目に遭い、ようやく1枚目のアルバムが発表されたのは1978年のことだった。2人のキーボード奏者、アラン・ガウエンとデイヴ・スチュワートを中心にフィル・ミラー(G)、ニール・マレイ(B)、ピップ・パイル(Ds)、アマンダ・パーソンズ(Vo)、さらにゲストとしてフルートの名手ジミー・ヘイスティングス、ジョン・ミッチェル(Perc)を加え、力強く、美しく、むちゃくちゃカッコイイ音楽を演奏している。僕はこの作品を20年以上愛聴しているけれど、まるで飽きるということがない。それどころか、いまでも聴くたびに新たな発見をして感動を覚えたりする。最終曲で1曲目のテーマが再現され、最後は夜風のようなフルートが吹き渡るなか、星空の彼方にゆっくりゆっくり舞い上がっていくような静かなエンディングが感動的。
 ミソサザイのさえずりが高らかに響き渡るさわやかな朝の情景から始まる2nd"Of Queues and Cures”も絶品。


  2nd発表時のメンバーによるこんな映像を見つけました。ベースのジョン・グリーヴスがフォークやスプーンを床に叩きつけるパフォーマンスが見どころ?


 ANTONELLA RUGGIERO/Big Band!(2005)
 
イタリアのポップス・グループ、 マティア・バザール の歌姫だったアントネッラ・ルッジェーロはソロに転向後も音楽的な領域を広げつつ、素晴らしい作品を次々と発表しているが、これは2005年のアルバム。タイトル通り、ビッグバンドをバックに従え、ゴージャスな雰囲気。「ベサメ・ムーチョ」「ビギン・ザ・ビギン」「キャラヴァン」など有名な曲を多数取り上げており、かつてアクロバティックとも形容された彼女のヴォーカリストとしての力量を存分に楽しめる。マティア・バザール時代の名曲も極上のジャズアレンジで聴くことができ、ファンにはたまらない作品だろう。


 CAMEL/Moonmadness (1976)
 キャメルの音楽に初めて出会ったのは高校生の時のこと。それまでラジオのポップス・ベストテンみたいな番組で流れる音楽(アバとかクイーンとかエアロスミスとか…)ばかりを聴いていたのだが、レコード店でたまたま見つけた幻想的なジャケットに惹かれて衝動買いしたのが、この作品だった。
 レコードに針を落とすと(当時はまだアナログ時代…)、流れてきたのは今までに聴いたこともないような音楽だった。世の中にはこんなにも美しいロックがあったのか、と思った。叙情的なフルート、甘美なギター、冷ややかなシンセサイザー、ハイハットを主体にしたセンシティヴなドラム、…。そして、意表をつく曲展開。とりわけ、“Song within a song”やラストの“Lunar Sea”が気に入った。世界にはたくさんの素晴らしい音楽があり、ただ目の前の流行を追っているだけではそのほとんどに出会うことができない、ということを教えてくれた、僕にとっては大切な一枚。

  映像1  (「Moonmadness」と並ぶ代表作「The Snow Goose」の演奏シーン)    映像2 (Lunar Sea)   映像3 (Song within a song)


 HATFIELD & THE NORTH/Hatfield & The North (1973)
 英国のカンタベリー系ジャズロックを代表するバンド、ハットフィールド&ザ・ノースを初めて聴いたのも高校生の時。キャメルの音楽にはまって2代目ベーシスト、リチャード・シンクレアの声に魅了され、彼がキャメル加入以前に在籍したキャラヴァンやハットフィールドも聴くようになったわけだが、最初からわかりやすかったキャラヴァンに比べて、このハットフィールドの1stは初めはなんだかさっぱり解からない、という印象だった。A・B面とも曲が切れ目なく繋がっていて、どこからどこまでがどの曲なのかも分からないし、アレンジも複雑で、すっかり迷宮に迷い込んだような気分にさせられた。でも、高校生の小遣いでは決して安くはない金額(といっても2,000円だったと思うけど)を出して買ってしまったので、とりあえず何度か聴いてみた。そうしたら、解かった。これは素晴らしい作品だ、ということが。そして、音楽の迷宮に迷い込むことこそが音楽を聴くことの魅力であり、快感なんだ、ということも。
 デイヴ・スチュワート(kb)、フィル・ミラー(g)、リチャード・シンクレア(b,vo)、ピップ・パイル(ds)の4人に、ロバート・ワイアット(vo)やフルート、サックス奏者がゲストに加わり、さらにここぞという時に天から舞い降りてくる天使のような歌声を聞かせてくれるアマンダ、バーバラ、アンの女の子3人組のコーラス隊ノーセッツ(イギリスのキャンディーズとは誰も呼ばない…)。彼らが生み出した音楽的遊び心に溢れた作品。今となっては、こんなにカッコよくて、美しくて、しかも、とぼけた作品をどうして難解に感じたのかと不思議に思ってしまう。
 彼らは2枚のアルバムを発表しただけで、1975年に解散。一般的には2nd“The Rotters’Club”の方がよりスッキリしているせいか、評価が高いが、僕はむしろ1stを聴くことが多い。ハットフィールドはその後、何度か再編され、2005年10月には来日も果たした。

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 MYLENE FARMER/Ainsi Soit Je...(1988)
 1984年にデビューしたミレーヌ・ファルメールはフランス語圏を中心にヨーロッパでは絶大な人気を誇るアーティスト。これは彼女の2ndアルバム。僕のイメージするフランスのキレイなお姉さんの典型のようなルックスながら、この外見に騙されてはいけない。彼女が歌うのは、ポップな装いを施しつつ、愛と憎しみ、孤独、暴力、エロス、異端、背徳、不条理…人間の心の奥底に潜むドロドロとしたものを鷲づかみにして引きずり出すような歌である。そして、彼女の芸術は創作上のパートナー、ローラン・ブトナ(Laurent Boutonnat)による映像によって、より鮮烈に表現される。通常のプロモーション・ヴィデオの域を遥かに超越した、あたかも短編映画のような作品。これはもう見ていただくしかない。かなり強烈。凄いです。そして、最後はどん底に突き落とされ、放置されるような気分にもなる。それにしても、フランスではこういうPVをふつうにテレビで放送できるのだろうか?

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  たぶんダラダラと続く

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