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続・善光寺平かけあし一日周遊記
至福の朝編 飯山の景色
■飯山菜の花公園
ここには過去何度も来ているが、花の盛りが過ぎていたり、夕刻の到着になったりで、いまひとつ楽しめていない。
今回は、その点では万全だ。花はまさに最盛期、山の端に雲こそ多いが天気にも恵まれ、出店はこれから店開き、来客も刻々と増えつつあり、ちょうどよい具合に賑々しく、いるだけで楽しくなってくる趣だ。
しかしここでも誤算。長女の足が校庭内で止まってしまった。どうやら遊具に魅かれてここで遊びたいらしいが、そんなことは近所の公園でもできる。せっかく早起きし、絶妙の時期に訪れたのだから、それを楽しまない法はあるまい。なだめすかしつつ、菜の花畑に足を踏み入れる。
飯山市菜の花公園にて(平成16(2004)年撮影)絶景、絶景。
菜の花の黄が、燦々とした陽光を浴び、実に美しい。遠景の山容はおぼろに霞んでいるものの、近景の空気は澄んで色々はみな映え、しかも千曲の流れは穏やかで、申し分ない佳景である。
島崎藤村は「破戒」のなかで、飯山の風景をこのように活写している。
「寺は信州下水内郡飯山町二十何ヵ寺の一つ、真宗に附属する古刹で、ちょうどその二階の窓に寄りかかって眺めると、銀杏の大木をへだてて飯山の町の一部分も見える、さすが信州第一の仏教の地、古代を眼の前に見るような小都会、奇異な北国風の屋造り、板葺きの屋根、または冬期の雪よけとして使用する特別の軒庇から、ところどころに高くあらわれた寺院と樹木の梢まで−−全て旧めかしい町の光景が香の烟の中に包まれて見える」 菜の花公園から見渡せる飯山市街の風景は、千曲川をはさんだ遠くにあり、家々は豆のように小さい。時代が遷って冬が温暖になったことに加え、雪の重みをよく支えうる建築構造の発達により、藤村のいうところの「奇異な」印象は薄れている。いま見えるのは、静かで落ち着いた街のたたずまいだけである。菜の花公園から飯山市街を遠望(平成16(2004)年撮影)
何枚か写真を撮っているうちに、今度は長男の腰が浮き始めた。「菜の花迷路」に挑戦したいのだという。もっと景色を堪能したいところ、いささか無粋ではあるが、長女よりまともな反応ではある。さすが四歳年長、その場でなければ楽しめないことを楽しむ、という基本が身についてきたか。
ここで一家離散し、妻は長女について校庭遊び、私は長男を目の端に入れつつ、出店をかまって買物にいそしむ。飯山は、美味に恵まれている。試食に供されていたことごとくがおいしく、垂涎しながら味わう。結局、これだけのものを買ってしまった。
こごみ×3袋
蕗のとう
朝採りアスパラ
しめじ
スノーキャロット(人参を一冬雪中に保存したもの)
菜の花漬け
野沢菜の油炒め
きゃらぶき
茗荷の粕漬け
なめ茸(瓶詰)
ニンニク(瓶詰)
根曲がり竹水煮(瓶詰)
こうして書き連ねてみると、ずいぶん買ったものだ。でも、どれも美味だから外せない。一度味わうと執着を覚えさせる魔力がひそんでいるものばかりだ。
支払を済ませてから、アスパラを生で一本かじってみた。ちょっとだけ鋭い青みが鼻に届き、そのあと口中に甘みがやわらかく広がってくる。まさに頬がとろけ落ちそうなほど、最高の美味である。
長男も迷路遊びに飽きたようだ。校庭に移って遊び回る。飯山に来てまで、と苦笑するしかない。校庭の反対側まで歩き回っていた長女も戻ってきた。時計は 11:00を示しつつある。先を急ぐことにしよう。
■インターミッション
土産に酒屋で「水尾吟醸」を買いこみ、知人宅に立ち寄ってみる。連休の真っ盛りだというのに、知人は在宅していた。しばし飯山線ぎわの庭先で立ち話。
そういえば来る道すがら、一目でわかる「鉄」系の三脚が何本も立っていたが、南から聞き慣れない汽笛が届いてくる。慌てて私もカメラを取り出し、DD16+「浪漫」の通過を見送った。逆光だからいい写真にはならないか。出来事に乏しい飯山線では、年に数度かの珍事ではあるが、だいぶくすんできた印象も伴う。機関車+客車という方法は、今世紀の日本の鉄道には明らかに適合していない。同系の後継車が登場しないのがその尤なる証、貨物列車でさえ電車方式のスーパーレールカーゴがデビューしている。当面は現状のままでも間に合うとして、さて今後はどうなるのか。
知人と一緒に昼食をと思ったが、長女が寝入っているので諦め、まずは長野に移動することにした。
車中で昼食の場所を審議する。ここで長男に意見を求めてしまったのが後悔のもとで、曰く、「『おおぎや』のラーメンがいい!」との由。なんで信州に来てまでラーメンなのか。ラーメンが不味いわけではないけれど、せめて「高山亭」の蕎麦を食したかったのに・・・・・・
DD16+「浪漫」(平成16(2004)年撮影)
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