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鎌倉夢語り 〜 大姫 編 〜
〜 花影の迷宮 〜
まず、はじめに。
この物語の時点での大姫と海野小太郎幸氏の年齢です。
大姫は、七歳。
海野小太郎幸氏は、十二歳。
では、物語の世界へどうぞ・・・
元暦元年四月二十六日。
入間河原にて源義高が討ち取られた。
大姫はこの事実をまだ知らない。
源義高が討たれたという報告は、御所内を静かに駆け巡った。
源義高の主従関係にあった海野小太郎幸氏は、討たれる事は無かったが、軟禁状態のようになってしまった。
北条政子はこの事実を大姫に話をしないように、侍女達にきつく口止めをした。
侍女達も大姫の事を心配して、北条政子の命令に全員で従う事にした。
それから数日後の事。
大姫が侍女達に笑顔で話し掛ける。
「義高様と小太郎殿はどこですか?」
侍女達は大姫を一瞬だけ困った様子で見た。
大姫は侍女達を不思議そうに見た。
侍女は大姫に微笑んで話し掛ける。
「義高様も小太郎殿もどちらかにお出掛けのようです。」
大姫は侍女に微笑んで話し掛ける。
「義高様と小太郎殿が戻ったら、姫は直ぐにお部屋に行きます。覚えておいてくださいね。」
侍女達は大姫を見ながら微笑んで頷いた。
北条政子は侍女から大姫の様子の報告を受けると、海野小太郎幸氏のもとを隠密に訪れた。
海野小太郎幸氏は北条政子の訪問を、驚く様子もなく普通の表情で見ている。
北条政子は海野小太郎幸氏に微笑んで話し掛ける。
「ご無事な姿が見られて安心しました。」
海野小太郎幸氏は北条政子に黙って礼をした。
北条政子は海野小太郎幸氏に困惑した表情で話し出す。
「小太郎殿を何とかしてここから出します。大姫に会ってくれませんか?」
海野小太郎幸氏は北条政子に普通に話し出す。
「会いません。」
北条政子は海野小太郎幸氏に悲しそうに話し掛ける。
「鎌倉の仕打ちを怒っていますか?」
海野小太郎幸氏は北条政子に普通に話し出す。
「私と大姫様の繋がりは、何も残っていません。身分も違います。会ってもお話しする事は、何もありません。」
北条政子は海野小太郎幸氏の様子を悲しそうに見ている。
そんなある日の事。
月夜が辺りを明るく照らしている。
海野小太郎幸氏が大姫の部屋を隠密に訪れた。
大姫は海野小太郎幸氏に笑顔で話し掛ける。
「小太郎殿! お帰りになったのですね!」
海野小太郎幸氏は大姫に微笑んで話し掛ける。
「大姫様。突然のお話しで申し訳ないのですが、暫く鎌倉を留守にしたいと思います。」
大姫は海野小太郎幸氏を不思議そうに見た。
海野小太郎幸氏は大姫に微笑んで話し掛ける。
「大姫様とお会い出来るのも、もしかしたら、これが最後になるかも知れません。」
大姫は海野小太郎幸氏に不思議そうに話し掛ける。
「義高様がお出掛けしてから、まだお戻りになりません。小太郎殿は義高様のもとに行かれるのですか?」
海野小太郎幸氏は大姫を微笑んで見ている。
大姫は海野小太郎幸氏に笑顔で話し掛ける。
「わかりました! 気を付けてお出掛けしてくださいね!」
海野小太郎幸氏は大姫を見ながら微笑んで礼をした。
大姫は海野小太郎幸氏に笑顔で話し掛ける。
「義高様と一緒に早く帰ってきてくださいね!」
海野小太郎幸氏は大姫に微笑んで話しかける。
「義高様の都合が付けば、大姫様のもとに一緒に戻って参ります。」
大姫は海野小太郎幸氏に笑顔で話し掛ける。
「小太郎殿! 行ってらっしゃい!」
海野小太郎幸氏は大姫を見ながら微笑んで礼をした。
それから数日も経たないうちに、源頼朝の命令により、海野小太郎幸氏は鎌倉から出て行く事になった。
海野小太郎幸氏の向かった先は木曾。
源義高の居ないなかでの帰路となっている。
源義高も海野小太郎幸氏も居ない鎌倉。
大姫は源義高と海野小太郎幸氏の帰りを、小御所でずっと待ち続けている。
そんなある日の事。
大姫が源義高斬首の話しを聞いてしまった。
侍女達は大姫を心配そうに見た。
大姫は目を見開いて騒ぎ始めた。
「義高様が殺されたの?! 小太郎殿は?! 姫も殺されるの?!」
侍女達は大姫のもとに心配そうに来た。
大姫は侍女に向かって不安そうに騒いでいる。
「義高様はどこですか?! 小太郎殿が義高様の所に行くとお話ししていました! 嫌です! 義高様に逢わせてください! 小太郎殿に逢わせてください! 姫も義高様と小太郎殿の所にお出掛けします!」
侍女達は大姫を必死になだめるが、大姫は落ち着く事もなく、騒ぎ続けた。
大姫はその日から食事を一切しなくなった。
泣くか騒ぐだけの日々を過ごし始めた。
北条政子は大姫の部屋を訪れた。
大姫は北条政子を気にする事もなく、泣き続けている。
北条政子は大姫に心配そうに話し掛ける。
「大姫。何かを食べてください。」
大姫は北条政子に怒鳴った。
「嫌です! 姫もお父様に殺されます! お父様は大嫌いです! お母様も大嫌いです! 義高様を殺した人は、みんな大嫌いです!」
北条政子は大姫を悲しそうに見ている。
周りに居る人達も大姫の様子を悲しそうに見ている。
大姫の体調はどんどんと悪くなっていく。
床に着くようになってしまった。
北条政子は大姫に心配そうに話し掛ける。
「大姫は殺されませんよ。私が殺させません。大姫の好きな物を用意します。一緒にお食事をしましょう。」
大姫は床から起体を起こすと、北条政子に泣きながら話し出す。
「嫌です! 義高様を殺した人は、みんな大嫌いです! お父様は大嫌いです! お母様も嫌いです! 義高様はどこですか?! 小太郎殿はどこですか?!」
北条政子も侍女達も、大姫の様子を悲しそうな表情でなだめ続けた。
大姫は日々を重ねるごとに元気が無くなっていく。
一日のほとんどを床の中で過ごすようになってしまった。
北条政子や侍女達が大姫に食事をさせようとするが、ほとんど食事をする事のない日が続いている。
北条政子は源頼朝に詰め寄った。
「大姫をあのようにしたのは、頼朝殿です! 何とかしてください!」
源頼朝は北条政子の話しを困惑した表情で聞いている。
北条政子の怒りは収まることなく、源頼朝に詰め寄る日々が続いている。
源頼朝は日々の政務を忙しくこなしながらも、悩み続けている。
大姫の体調は鎌倉の人達も知るところとなっている。
鎌倉の人達は大姫に同情をしているという話も聞こえてくる。
源頼朝は北条政子や大姫の様子を見ながら悩む日々が続いている。
「源義高の斬首の命を下した事は、間違っていたのか? それとも、正しかったのか?」
源頼朝の心の中での悩みに応える者は誰も居ない。
そんなある日の事。
入間河原で源義高を討ち取った者が亡くなった。
源頼朝の命だった。
北条政子が大姫のもとを訪れた。
大姫はぐったりとした様子で床に着いている。
北条政子は大姫に微笑んで話し掛ける。
「義高殿を討った者が亡くなりましたよ。」
大姫は床に着いたまま泣き出した。
「義高様はどこですか? 小太郎殿はどこですか? 姫はどうなるのですか?」
北条政子は大姫を悲しそうに見ている。
大姫は床に着いたまま、泣きながら話し出す。
「義高様を殺した人はみんな大嫌い。」
北条政子は大姫を悲しそうに見ている。
大姫は北条政子を見ることもなく、泣き続けている。
大姫は床のなかで一日を過ごす事が多くなった。
北条政子や侍女達は、大姫に食事をさせようと気を遣った。
食事をする事はほとんどないが、飲み物などを僅だが口にする時がでてきた。
大姫の起きている時間が少しずつだが、増えてきた。
そんなある日の事。
庭には紫陽花の花が咲いている。
大姫は床から起き上がると、庭で紫陽花を見ている。
北条政子は大姫のもとに来ると、微笑んで話し掛ける。
「大姫。今日は紫陽花を見ているのですね。綺麗な色をしていますね。」
大姫は北条政子の存在を気にする事もなく、侍女達に寂しそうに話し出す。
「義高様と小太郎殿と大銀杏を見ると約束しました。それなのに、まだお戻りになりません。どうしたのでしょうか? 何か聞いていませんか?」
侍女達は大姫に申し訳なさそうに話し掛ける。
「何も聞いておりません。」
北条政子は大姫に悲しそうに話し掛ける。
「大姫。」
大姫は北条政子の存在を気にせずに、侍女達に不思議そうに話し掛ける。
「義高様と小太郎殿は、姫と一緒に大銀杏を見てくれると約束しました。それなのに、まだお戻りなりません。どうしてですか? 木曾に戻られたのですか? だから、戻られるのが遅いのですか?」
侍女達は大姫に何も言う事が出来なくなってしまった。
北条政子は悲しそうに大姫のもとから居なくなった。
ここは木曾のとある場所。
海野小太郎幸氏のもとに急ぎの文が届けられた。
宛名を確認すると、源頼朝からの文だった。
海野小太郎幸氏は真剣な表情になり、文を読み始めた。
今日の大姫は、床に着いている。
ほとんど食事をする事もなく、一日を過ごしている。
大姫は床の中から、侍女に小さい声で話し掛ける。
「紫陽花が見たいです。」
大姫の部屋の障子が少し空けられた。
大姫は床の中から庭を寂しそうに見ている。
侍女達は大姫の様子を心配そうに見ている。
大姫は、開けられた障子の間から、寂しそうに紫陽花を見ていたが、急に笑顔になった。
侍女達は大姫の様子を不思議そうに見た。
大姫が笑顔で床から起き上がると、部屋の外へと走り出した。
大姫の部屋の外に居るのは、海野小太郎幸氏。
大姫は海野小太郎幸氏の前に来ると、笑顔で話し掛ける。
「小太郎殿! お帰りなさい!」
海野小太郎幸氏は大姫に微笑んで話し掛ける。
「大姫様。戻ってくるのが遅くなり、申し訳ありませんでした。」
大姫は笑顔で海野小太郎幸氏に抱き付いた。
海野小太郎幸氏は大姫を受け止めると、微笑んで話し掛ける。
「大姫様。食事をされていますか?」
大姫は海野小太郎幸氏に抱き付きながら、笑顔で話し掛ける。
「義高様も一緒に戻られたのですよね!」
海野小太郎幸氏は大姫を抱きながら、微笑んで話し掛ける。
「義高様は大事な用事があると言って、どこかへとお出掛けになってしまいました。私もお話ししたい事があり、義高様を捜しているのですが、見付かりません。とても大切な用事でお出掛けなのだと思います。」
大姫は海野小太郎幸氏に抱き付きながら、笑顔で話し掛ける。
「だから、小太郎だけ先に戻ってきたのですね!」
海野小太郎幸氏は大姫を抱きながら、大姫に微笑んで話し掛ける。
「大姫様がお食事をされないと聞いて、私一人だけになりますが、戻ってまいりました。義高様が鎌倉に戻られた時に、大姫様の元気がなかったら心配します。これからは、しっかりとお食事をして、いつも元気な姿でいてください。」
大姫は海野小太郎幸氏に抱き付きながら、笑顔で頷いた。
海野小太郎幸氏は大姫を微笑んで抱いている。
大姫は海野小太郎幸氏に抱き付きながら、寂しそうに話し掛ける。
「小太郎殿は、直ぐに義高様を捜しにいかれるのですか?」
海野小太郎幸氏は大姫を抱きながら、微笑んで頷いた。
大姫が海野小太郎幸氏に抱き付きながら、寂しそうに話し掛ける。
「小太郎殿! 行かないでください! 義高様のお帰りを姫と一緒に鎌倉で待っていてください! 姫は義高様も小太郎殿もどちらもいないと寂しいです! 一人で待っているのは寂しいから嫌です!」
海野小太郎幸氏は大姫を抱きながら、微笑んで話し掛ける。
「大姫様。私は鎌倉にずっと居るのは、無理です。木曾に戻らないといけない時もあります。大姫様のお傍にはずっと居られません。」
大姫は海野小太郎幸氏に抱き付きながら、寂しそうに話し掛ける。
「一人で待っているのは嫌です!」
海野小太郎幸氏は大姫を抱きながら、心配そうに様子を見ている。
小御所の人達が大姫と海野小太郎幸氏の様子を、悲しそうな顔で見ている。
更に少し離れた場所に源頼朝と北条政子が居る。
源頼朝は普通の表情で大姫と海野小太郎幸氏の様子を見ている。
北条政子は悲しそうに大姫と海野小太郎幸氏の様子を見ている。
源頼朝は北条政子に小さい声で話し掛ける。
「これからは、小太郎を適当な時期に鎌倉に呼ぶ事にして、今回は小太郎を直ぐに木曾に戻したい。」
北条政子は源頼朝を見ると、悲しそうに話し掛ける。
「小太郎殿が居なくなったら、大姫が悲しみます。」
源頼朝は北条政子に小さい声で話し掛ける。
「大姫は子供だから、義高との思い出が忘れなれないだけだ。いずれ忘れる。適当な時期に小太郎を呼んで何度か会わせればいいだろ。時が経てば、小太郎が鎌倉に来なくなっても何も言わなくなるはずだ。」
北条政子は源頼朝に真剣な表情で話し掛ける。
「本気でそのように思われているのですか?」
源頼朝は北条政子に訝しげに話し掛ける。
「どういう意味だ?」
北条政子は源頼朝に冷たい表情で話し掛ける。
「大姫や義高殿を切り捨てて鎌倉を守った鎌倉殿ですから、わからないかと思いますが、大姫にとって小太郎殿は重要な存在です。小太郎殿には鎌倉に仕えてもらうというのは、どうでしょうか?」
源頼朝は北条政子に素っ気無く話し掛ける。
「好きにしろ。」
北条政子は源頼朝に冷たい表情で話し掛ける。
「私は頼朝殿の事を、武士の頂点に立つ方として見ると、優秀な方だと尊敬します。ですが、父親として見ると、最低な方です。」
源頼朝は北条政子を普通の表情で見た。
北条政子は源頼朝の様子を確認する事もなく、大姫と海野小太郎幸氏のもとへと歩いていった。
北条政子は大姫と海野小太郎幸氏の前に来ると、微笑んで話し掛ける。
「小太郎殿は大姫の傍に居るから心配はいりません。ただ、小太郎殿には義高殿に大切なお話しがあります。義高殿を捜しに行かないといけません。その間は大姫が一人で待つ事になります。大姫なら待っていられますよね。」
大姫は海野小太郎幸氏に嬉しそうに抱き付き始めた。
海野小太郎幸氏は大姫を抱きながら、大姫に微笑んで話し掛ける。
「大姫様。よろしくお願いします。」
大姫は海野小太郎幸氏に抱き付きながら、嬉しそうに頷いた。
それから暫く後の事。
大姫は海野小太郎幸氏に笑顔で話し掛ける。
「小太郎殿! 小太郎って呼んでも良いですか?」
海野小太郎幸氏は大姫を不思議そうに見た。
大姫は海野小太郎幸氏に笑顔で話し掛ける。
「義高様が小太郎って呼んでいました! 姫も義高様のように小太郎殿の事を呼びたいです! 義高様が鎌倉に居ない間は、小太郎と呼びたいです! 良いですか?!」
海野小太郎幸氏は大姫に微笑んで話し掛ける。
「大姫様のお好きな呼び方で呼んでください。」
大姫は海野小太郎幸氏に笑顔で話し掛ける。
「では、小太郎!」
海野小太郎幸氏は大姫に微笑んで話し掛ける。
「大姫様。何か御用でしょうか?」
大姫は海野小太郎幸氏に笑顔で抱き付いた。
海野小太郎幸氏は微笑んで大姫を受け止めた。
すると、どこかから囁くような声が聞こえてきた。
「義高様・・・」
「私小太郎と一緒に、義高様のお帰りを、鎌倉でお待ちしています・・・」
「鎌倉に居れば、義高様に必ず逢えると想うから・・・」
* * * * * *
ここからは後書きとなります。
源義高は入間河原で討ち取られ斬首されます。
元暦元年四月二十六日の事です。
その場で斬首されたらしいです。
大姫は源義高の死を伏せられていたらしく、その事実を知ったのは少し後の事らしいです。
源義高の死を知った大姫は、食事をしたり何かを飲んだりする事の出来ない日が続いたそうです。
大姫はそのために体調を崩してしまい、寝込む日々が始まったそうです。
海野小太郎幸氏は大姫が源義高の死で食事が出来なくなっている間、傍には居なかったようです。
海野小太郎幸氏は、源義高の鎌倉脱出時に身代わりとして部屋の中に居たのですが、殺害される事もなく助かっています。
海野小太郎幸氏も鎌倉に何度も戻ってきているらしく、いつの時点かは不明ですが、大姫とは会っていると思います。
大姫が体調を崩すまで落ち込んでしまったために、北条政子が源頼朝に何とかしろと詰め寄ったそうです。
そうしたら、源義高を斬首した人は、斬首が切腹かをして亡くなったそうです。
しかし、大姫が元気になるはずもなく体調の悪い日が続いたそうです。
源頼朝がその人を処分した理由は、はっきりとしません。
もしかしたら、大姫が元気になると思って処分したのかもしれません。
大姫の体調の変化が鎌倉の町に広がり、自分の評判が落ちる事を気にしたのかもしれません。
はっきりとした事は、良くわかりませんでした。
源頼朝の命令で源義高を斬首して、逆にその事が原因で亡くなった人も、大姫や源義高のように源平の争いの犠牲者だと思います。
書いているうちに、悲しくて辛い物語だなと思いました。
「花影」ですが、「かえい」と読みます。
月の光などによって出来る花の影のことをいうそうです。
特に桜の花の影をいうそうです。
この物語では時期が夏なので、桜の季節ではありませんが、書いている時には、桜をイメージしてしまいました。
楽しんで頂けると嬉しいです。
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