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〜 雪月花 戦国恋語り 信玄の娘 松姫 編 〜
〜 文紡ぎ 時の始まり 常盤なる松のさ枝を 〜
登場人物
松姫[武田信玄の五女]、奇妙丸[織田信長の嫡男](文だけの登場)、
武田信玄、菊姫[武田信玄の四女]、油川夫人[武田信玄の側室、菊姫と松姫の母]、
「八千種の 花は移ろふ 常盤なる 松のさ枝を 我れは結ばな」
「万葉集 第二十巻 四五〇一番」
作者:大伴家持(おおとものやかもち)
永禄十年の事。
武田信玄の四男の武田勝頼と正室との間に、男子が誕生した。
武田勝頼の正室は、織田信長の妹の娘となる。
織田信長と養女となり甲斐の国に嫁いできた。
武田家と織田家を繋ぐ待望の男子の誕生により、両家とも慶んでいた。
そんなある日の事。
武田勝頼の正室が産後の肥立ちが悪く亡くなってしまった。
武田家と織田家は、お互いに無視の出来ない相手となっている。
武田勝頼の正室が亡くなった事により、武田家と織田家の関係が疎遠になるかもしれない。
武田家にとっても、織田家にとっても、無視の出来ない事態となった。
武田家と織田家は、再度の縁組が必要となった。
織田家では、武田勝頼の正室となる養女を探し出す、又は、織田信長の嫡男の奇妙丸の正室となる娘を武田家側から探し出して縁談を申し込む、二つの内の一つを武田家に申し込むための協議を始めた。
武田家では、武田信玄の四男の武田勝頼との縁談、又は、織田信長の嫡男の奇妙丸との縁談、二つの内の一つを織田家が申し込むと考えて、対応を協議し始めた。
正室を迎え入れるか、正室として相手側に送り出すか、この二つは同じ様でも全く違う。
武田家と織田家の力関係など、いろいろな事を考えて判断しないといけない。
武田家と織田家では、どちらが先に縁談を申し込むのか、縁談を申し込む時期をいつにするのか、お互いの出方を探り始めた。
武田家と織田家の微妙な駆け引きが始まった。
永禄十年十月の事。
武田信玄の嫡男の武田義信が、幽閉の末に亡くなった。
四男の武田勝頼は、嫡男の武田義信が亡くなった事により、武田家の実質的な跡取りとなった。
織田家は美濃の攻略などにより、周りへの影響力を発揮し始めた。
武田家と織田家の間では、表面上は穏やかな時間が過ぎていった。
永禄十年十一月の事。
冬の季節を迎えている。
そんなある冬の日の事。
武田家と織田家の間で、“武田信玄の五女の松姫”と“織田信長の嫡男の奇妙丸”との縁談が調った。
武田信玄の五女の松姫は七歳、織田信長の嫡男の奇妙丸は十一歳、共に幼い年齢での縁談となる。
子煩悩で有名な武田信玄が、幼い松姫の事を心配していた。
武田家と織田家で話し合った結果、武田信玄の希望を聞き入れて、松姫の輿入れは暫く先の事となった。
ここは甲斐の国に在る、油川夫人、菊姫、松姫が住んでいる屋敷。
松姫と菊姫は、庭に居る。
松姫は菊姫に笑顔で話し出す。
「姉上! 父上がいらっしゃるそうですね! 楽しみてすね!」
菊姫は松姫に微笑んで話し出す。
「父上とたくさんお話しが出来ると良いわね。」
松姫は菊姫に笑顔で話し出す。
「はい!」
菊姫は松姫を笑んで見た。
油川夫人は松姫と菊姫の傍に来ると、微笑んで話し出す。
「お松。お菊。もう直ぐ父上が見えられますよ。」
菊姫は油川夫人を見ると、微笑んで話し出す。
「はい。」
松姫は油川夫人を見ると、笑顔で話し出す。
「はい!」
油川夫人は松姫と菊姫の返事を微笑んで確認すると、武田信玄を迎える準備のために庭から去って行った。
菊姫は松姫に微笑んで話し出す。
「お松。また後でね。」
松姫は菊姫に微笑んで話し出す。
「はい。」
菊姫は、自分の部屋へと普通に歩いて戻っていった。
松姫は、自分の部屋へと元気良く戻っていった。
武田信玄が、油川夫人、菊姫、松姫の住んでいる屋敷に到着した。
松姫と菊姫は、武田信玄の前に笑顔で現れた。
武田信玄は松姫と菊姫を微笑んで見た。
菊姫と松姫は、武田信玄に笑顔で同時に話し出す。
「父上! こんにちは!」
武田信玄は松姫と菊姫に微笑んで話し出す。
「お菊もお松も元気だな。」
松姫と菊姫は、武田信玄に笑顔で同時に話し出す。
「はい!」
武田信玄は松姫と菊姫を微笑んで見た。
武田信玄、油川夫人、菊姫、松姫は、部屋の中に居る。
武田信玄は松姫に微笑んで話し出す。
「お松。織田信長殿の嫡男の奇妙丸殿との縁談が決まった。」
松姫は武田信玄を不思議そうに見た。
油川夫人は武田信玄に心配そうに話し出す。
「お松は、まだ七歳です。輿入れには少し早いかと思います。」
武田信玄は油川夫人と松姫に微笑んで話し出す。
「奇妙丸殿は十一歳、お松は七歳。二人の年齢を考えて、お松の輿入れを暫く先の事にしてもらった。」
油川夫人は武田信玄を安心した表情で見た。
松姫は武田信玄と油川夫人に笑顔で話し出す。
「父上! 母上! 良い縁談を整えて頂いて、ありがとうございます! 松はとても嬉しいです!」
武田信玄は松姫に微笑んで話し出す。
「もう少し経つと、織田家から使者が来る。奇妙丸殿からお松への贈り物か文が届くかも知れない。お松も奇妙丸殿に何か贈る物が有れば、用意をしておいてくれ。」
松姫は武田信玄に笑顔で話し出す。
「はい!」
武田信玄は松姫を微笑んで見た。
その翌日の事。
ここは菊姫の部屋。
松姫は菊姫の傍に笑顔で座っている。
菊姫は松姫に微笑んで話し出す。
「お松。とても嬉しそうね。」
松姫は菊姫に笑顔で話し出す。
「はい!」
菊姫は松姫を微笑んで見た。
松姫は菊姫に笑顔で話し出す。
「姉上! 奇妙丸様への贈り物は、何が良いと思いますか?!」
菊姫は松姫に微笑んで話し出す。
「文を書くというのはどうかしら?」
松姫は菊姫に笑顔で話し出す。
「奇妙丸様から文を頂いたら、直ぐに返事を書きます! 奇妙丸様から文を頂けない時は、松から奇妙丸様に文を書きます!」
菊姫は松姫に微笑んで頷いた。
それから何日か後の事。
織田家の使者が甲斐の国に着た。
武田信玄、武田信玄の重臣、織田家の使者、松姫は、躑躅ヶ崎館の一室に居る。
松姫は武田信玄と織田家の使者に笑顔で話し出す。
「武田信玄の娘の松です! 奇妙丸様に相応しい正室になれるように、日々努力を重ねていきたいと思います! 宜しくお願い致します!」
武田信玄、武田信玄の重臣、織田家の使者は、松姫を微笑んで見た。
武田信玄は松姫に微笑んで話し出す。
「奇妙丸殿からお松に宛てた文が有るそうだ。」
松姫は武田信玄に笑顔で話し出す。
「直ぐに文を読んでも良いですか?! 読み終わったら、直ぐにお返事を書きたいと思います!」
武田信玄は松姫に微笑んで頷いた。
松姫は武田信玄を笑顔で見た。
武田信玄は松姫に微笑んで文を手渡した。
松姫は武田信玄から笑顔で文を受け取った。
武田家の重臣と織田家の使者は、松姫の様子を微笑んで見ている。
松姫は文を大事そうに抱えながら、武田信玄と織田家の使者に笑顔で礼をした。
織田家の使者は松姫に微笑んで礼をした。
松姫は文を大事そうに抱えながら、部屋を出て行った。
ここは松姫の部屋。
菊姫は松姫と話しをするために部屋を訪れた。
松姫は文を大事そうに手に持ちながら、菊姫を笑顔で見た。
菊姫は松姫を微笑んで見た。
松姫は文を大事そうに広げて読み始めた。
菊姫は松姫の横で、微笑んで文を読み始めた。
松姫様へ
はじめまして。
奇妙丸と申します。
暦は中冬を迎えて、一日毎に冬の寒さを感じるようになってきました。
松姫様はいかがお過ごしでしょうか。
松姫様との縁談の話しを父上から聞きました。
松姫様との縁談をとても喜ばしく思っています。
松姫様に贈り物をしたいと思ったのですが、何を贈れば良いのかわかりませんでした。
今回は歌をお贈り致します。
八千種の 花は移ろふ 常盤なる 松のさ枝を 我れは結ばな
気に入って頂けると嬉しいです。
松姫様とお逢い出来る日は、暫く先に成るとの事。
祝言を挙げる日も、暫く先に成るとの事。
とても寂しくて残念に思います。
松姫様と祝言を挙げた後には、末永く添い遂げたいです。
松姫様とお逢いする事が出来た時には、松の枝を一緒に結びたいです。
望む日が一日も早く訪れる事を、楽しみにお待ち申し上げております。
甲斐の国は、更に寒さが厳しいと思います。
お体に気を付けてお過ごしください。
奇妙丸より
菊姫は松姫に微笑んで話し出す。
「奇妙丸様は、正室となるのがお松だから、“松”と“常盤”という言葉が入っている歌を贈ったのね。更に、“松の枝を結ぶという幸せになる”という言い伝えがあるから、二人で一緒に結びたいという想いと、奇妙丸様とお松を結ぶという想いも一緒に込めたのね。とても良い歌を頂いたわね。」
松姫は文を大事そう抱えながら、菊姫に笑顔で話し出す!
「はい!」
菊姫は松姫に笑顔で話し出す。
「奇妙丸様は十一歳とお聞きしたけれど、しっかりとした素晴らしい方ね。お松は素敵な方の正室に成る事が出来て良かったわね。」
松姫は菊姫に笑顔で話し出す。
「はい!」
菊姫は松姫を微笑んで見た。
松姫は奇妙丸に文の返事を直ぐに書いた。
松姫の書いた文は、織田家の使者が大切に預かった。
奇妙丸様
初めまして。
松と申します。
甲斐の国は寒いです。
松は母上や姉上と共に、元気に過ごしています。
松が幼いために、奇妙丸様の元に直ぐに興し入れする事が出来なくて、申し訳ないと思っています。
奇妙丸様に相応しい正室となれるように、日々努力を重ねていきたいと思います。
素敵なお歌をありがとうございました。
松も奇妙丸様と末永く添い遂げたいです。
松も奇妙丸様に喜んで頂ける歌を贈る事が出来るように勉強します。
奇妙丸様から頂いた文が嬉しくて、今の気持ちをどの様に書いて良いかわからなくなりました。
短い文になってしまった事をお許しください。
奇妙丸様とお逢いする事が出来る日を、楽しみにお待ち申し上げております。
寒い日が続きます。
春はもう少し先になります。
奇妙丸様もお体にお気を付けてお過ごしください。
松より
武田信玄の五女で七歳の松姫。
織田信長の嫡男で十一歳の奇妙丸。
お互いの姿を知らない文で紡ぐ想い。
不思議な恋物語が始まった。
* * * * *
ここからは後書きになります。
武田信玄の娘の「松姫」、織田信長の嫡男の「奇妙丸(後の織田信忠)」の物語です。
第一作目という事で、婚約から始まる物語になります。
子煩悩で有名だった武田信玄が、幼い「松姫」の事を心配して、織田家に嫁がせるのを先に延ばしたという話があります。
武田信玄は、「松姫」の心配と離れた場所から織田家の動向を確認するという、二つの思いを叶えるために、この話しを持ち出したのかもしれません。
織田信長も武田信玄の機嫌を損ねずに、「松姫」の様子を伺うという名目で甲斐の国を訪ねる事も出来て、都合も良い状態で関係を続けられると考えたのかもしれません。
武田家と織田家で、いろいろと話し合った末の事だと思いますが、「松姫」と「奇妙丸」は、二人の年齢がある程度になるまで、甲斐と岐阜という離れた地で暮らす事となりました。
「松姫」と「奇妙丸」は、お互いに夫婦となれる日を信じて文を交換していました。
しかし、数年後に両家の政治的な思惑から関係が悪化してしまい、二人は一度も出逢う事なく一生を終えます。
「松姫」は誰とも結婚をする事なく、武田家滅亡後は仏門に入り一生を終えます。
「織田信忠」には側室はいましたが、正室を娶る事なく「本能寺の変」で亡くなります。
「松姫」と「奇妙丸」の婚約は、永禄十年(1567年)の事になります。
「松姫」が七歳くらい、「奇妙丸」が十一歳くらいなります。
婚約が整った月は、詳しい経過はわかりませんが、十一月頃(現在の暦で11月下旬から1月頃中旬の頃)ではないかと言われています。
武田信玄と織田信長の動きを考えると、正式に話しを進めるとしたら、十一月頃になるのかなと思いました。
永禄十年(1567年)十一月より前の事となりますが、武田勝頼の正室の織田信長の養女(織田信長の妹の娘[遠山夫人(とおやまふじん)])が、男の子を出産します。
しかし、遠山夫人は産後の肥立ちが悪く亡くなってしまいます。
織田家と武田家の両家共に、縁が切れる事は避けたかったと思います。
そういう事があり、再び縁組を調える必要が出てきたのだと思います。
織田家が武田家に再び誰かを嫁がせるのか、武田家が織田家に誰かを嫁がせるのか、思惑が入り乱れたと思います。
永禄十年(1567年)十月には、武田信玄の嫡男だった武田義信が、幽閉されていた末に亡くなります。
武田義信の死は、自害か病死かについては、いろいろな説があり、はっきりとしません。
小説やドラマなどでは、切腹をして亡くなる事が多いように感じました。
この物語に登場する歌は、「万葉集 第二十巻 四五〇一番」からになります。
「八千種の 花は移ろふ 常盤なる 松のさ枝を 我れは結ばな」
ひらがなの読み方は、「やちぐさの はなはうつろふ ときはなる まつのさえだを われはむすばな」です。
作者は、「大伴家持(おおとものやかもち)」です。
意味は、「もろもろの花は色あせてしまいます。いつまでも色あせない松の枝を私たちは結びましょう。」となるそうです。
原文は、「夜知久佐能 波奈波都呂布 等伎波奈流 朝都能左要太乎 和礼波牟須婆奈」です。
松の枝を結ぶ事で、幸せを祈る風習があったようです。
天平宝文二年(758年)二月に、中臣清麻呂(なかとみのきよまろ)の邸宅で行われた宴席での歌です。
「武田信玄の娘 松姫」と「織田信長の嫡男 奇妙丸」という、戦国の歴史の中に飲み込まれてしまった二人の幼少時代の恋物語です。
楽しんで頂けると嬉しいです。
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