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〜 雪月花 戦国恋語り 信玄の娘 松姫 編 〜


〜 文紡ぎ 春待ち月 君が御言を持ちて通はく 〜


登場人物

松姫[武田信玄の五女]、奇妙丸[織田信長の嫡男](文だけの登場)

武田信玄、油川夫人[武田信玄の側室、仁科五郎盛信と菊姫と松姫の母]、

仁科五郎盛信[武田信玄の五男](文だけの登場)、菊姫[武田信玄の四女]、



「み吉野の 玉松が枝は はしきかも 君が御言を 持ちて通はく」

「万葉集 第二巻 一一三番」より

作者:額田王(ぬかたのおおきみ)



武田信玄の五女の松姫と織田信長の嫡男の奇妙丸との婚約が調ってから、暦が次の月へ移った。

今は冬の季節の終わりを迎えている。



ここは甲斐の国。



油川夫人、菊姫、松姫の住んでいる屋敷の中。

松姫の元に仁科五郎盛信から文が届いた。

松姫は部屋に戻ると、楽しそうに文を読み始めた。



お松へ

楽しい毎日を過ごしているようだね。

奇妙丸殿とお松の婚約が調った事は、私にとっても喜ばしい出来事だ。

お松が毎日のように喜ぶ気持ちは、私にも良くわかる。

忙しい日が続いているので、母上やお菊やお松とゆっくりと話しが出来なくて、寂しいと思っている。

お松の笑顔を見て、私も元気になりたいと思う事がある。

お松は奇妙丸殿との縁談までには、覚える事がたくさんあって大変だと思う。

寒い日が続くから無理をしないように。

仁科五郎盛信より



菊姫が松姫の部屋を訪れた。

松姫は文を机に置くと、菊姫を笑顔で見た。

菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「五郎兄上からの文を読んでいたのね。」

松姫は菊姫に微笑んで話し出す。

「はい。」

菊姫は松姫に少し拗ねた様子で話し出す。

「五郎兄上は私には文を書いてくれないの。お松が羨ましいな。」

松姫は菊姫に微笑んで話し出す。

「五郎兄上は、奇妙丸様と婚約をした松の事を気遣ってくれたのだと思います。」

菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「五郎兄上はお松とほとんど逢う事が出来ないから心配なのね。」

松姫は菊姫を微笑んで見た。

菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「五郎兄上とゆっくりと話しをしたいわね。」

松姫は菊姫に微笑んで話し出す。

「はい。」

菊姫は松姫を微笑んで見た。



部屋の外から侍女の声が聞こえてきた。

「菊姫様。松姫様。油川夫人がお呼びです。」

松姫は文を大事そうに仕舞い始めた。

菊姫は障子を開けると、侍女に微笑んで話し出す。

「お松と一緒に直ぐに行くと伝えてください。」

侍女は菊姫に礼をすると、油川夫人の部屋へと向かった。



松姫は菊姫の横に来ると、微笑んで話し出す。

「母上の部屋に行きましょう。」

菊姫は松姫に微笑んで頷いた。

菊姫と松姫は、油川夫人の部屋に向かった。



ここは油川夫人の部屋の中。

油川夫人、菊姫、松姫は、一緒に部屋の中に居る。

油川夫人は菊姫と松姫に微笑んで話し出す。

「お松は奇妙丸様に嫁ぐ日までに、覚える事がたくさんあります。お菊は縁談がいつ調っても良いように、一緒に勉強しましょう。」

松姫は油川夫人に笑顔で話し出す。

「はい!」

菊姫は油川夫人に微笑んで話し出す。

「はい。」

油川夫人は菊姫と松姫に微笑んで話し出す。

「信玄公の息女は立派だと言われるように、しっかりと勉強に励みましょう。」

松姫は油川夫人に笑顔で話し出す。

「はい!」

菊姫は油川夫人に微笑んで話し出す。

「はい。」

松姫は油川夫人に笑顔で話し出す。

「母上! 歌を教えてください!」

油川夫人は松姫に微笑んで話し出す。

「お松は歌を覚えたいの?」

松姫は油川夫人に微笑んで話し出す。

「松は奇妙丸様から素敵な歌を頂きました。松も奇妙丸様に素敵な歌を贈りたいです。」

油川夫人は松姫と菊姫に微笑んで話し出す。

「わかりました。今日は歌の勉強をしましょう。」

松姫は油川夫人に笑顔で話し出す。

「お願いします!」

菊姫は油川夫人に微笑んで話し出す。

「お願いします。」

油川夫人は菊姫と松姫を微笑んで見た。



油川夫人、松姫、菊姫の三人が、歌の勉強をしている最中の事。



武田信玄が屋敷を突然に訪れた。



油川夫人、菊姫、松姫は、歌の勉強を中断すると、武田信玄の元へと向かった。



油川夫人、菊姫、松姫は、武田信玄の前に来た。

武田信玄は松姫と菊姫に微笑んで話し出す。

「お菊もお松も元気だね。」

松姫は武田信玄に笑顔で話し出す。

「奇妙丸様の元にいつ嫁いでも良いように、姉上と一緒に勉強をしています!」

武田信玄は油川夫人を見ると、微笑んで話し出す。

「お松が奇妙丸殿に嫁ぐのは先の事だぞ。」

油川夫人は武田信玄に微笑んで話し出す。

「お松が嫁ぐ日が急に決まったら困ります。」

武田信玄は油川夫人に微笑んで話し出す。

「勉強に励む事は良い事だが、二人を焦らすなよ。」

油川夫人は武田信玄に微笑んで話し出す。

「はい。」

松姫は武田信玄に笑顔で話し出す。

「今は奇妙丸様に歌を贈るための勉強をしています!」

武田信玄は松姫に微笑んで話し出す。

「歌の勉強は大変だ。焦らずに落ち着いて勉強しなさい。」

松姫は武田信玄に笑顔で話し出す。

「はい!」

武田信玄は松姫に微笑んで話し出す。

「奇妙丸殿からお松宛に文が届いた。」

松姫は武田信玄に笑顔で話し出す。

「父上! 本当ですか?!」

武田信玄は松姫に微笑んで文を手渡した。

松姫は武田信玄から文を受け取ると、笑顔で話し出す。

「父上! 奇妙丸様から頂いた文を直ぐ読みたいです!」

武田信玄は松姫に微笑んで頷いた。

松姫は文を大事そうに持ちながら、武田信玄に笑顔で話し出す。

「返事を書きます! 奇妙丸様に渡してください!」

武田信玄は松姫に微笑んで話し出す。

「明日また来る。焦らずに落ち着いて返事を書くように。」

松姫は武田信玄に笑顔で話し出す。

「はい!」

武田信玄は松姫に微笑んで頷いた。

松姫は文を大事そうに持ちながら、部屋へと戻っていった。



ここは松姫の部屋の中。

松姫は部屋に戻ると、笑顔で文を広げた。

文の中に薄くて小さい物を包んだ紙が入っている。

松姫は不思議そうに紙を広げた。



紙の中には松の葉が二本だけ入っている。

松姫は紙に包んであった松の葉を不思議そうに見た。

松の葉に変わった様子は無い。

良く見掛ける松の葉と同じだった。

松姫は紙に包んであった松の葉を机に上に置くと、微笑んで文を読み始めた。



松姫様へ

寒い日が続きますが、いかがお過ごしでしょうか。

私は、父上や信玄公のように一日も早くなりたいと、稽古や勉強に励んでいます。

先日の歌を褒めて頂けてとても嬉しいです。

歌についても更なる勉強を続けていきたいと思います。

春待ち月が終わると、新しい年になり春を迎えます。

松の木や枝を贈る事が出来ないので、私の屋敷に植わっている松の葉を同封しました。

い年をお迎えください。

奇妙丸より



松姫は文を読み終わると、机の上に置いてある紙の上の松の葉を笑顔で見た。

机の上から大事そうに紙と松の葉を手に取ると、笑顔で呟いた。

「奇妙丸様がいつも見ていらっしゃる松の木の葉なのね。」

丁寧に机に紙と松の葉を置いた。

机に向かうと、文の返事を笑顔で書き始めた。



その翌日の事。



武田信玄が先日の話通り屋敷を訪れた。

松姫は武田信玄の前に来ると、笑顔で話し出す。

「奇妙丸様への文を書きました! よろしくお願いします!」

武田信玄は松姫に微笑んで頷いた。

松姫は武田信玄に笑顔で文を差し出した。

武田信玄は松姫から微笑んで姫を受け取った。



奇妙丸様へ

こちらも寒い日が続いています。

松は奇妙丸様に相応しい正室になれるように勉強を始めました。

覚える事がたくさんあります。

奇妙丸様の文を読んで、私も更にしっかりと勉強しようと思いました。

松の葉の贈り物ありがとうございます。

とても嬉しいです。

大切にします。

私も奇妙丸様へのお礼に、屋敷に植わっている松の葉を贈り物にします。

もう一つ奇妙丸様に贈り物をします。

み吉野の 玉松が枝は はしきかも 君が御言を 持ちて通はく

喜んで頂けると嬉しいです。

これから更に寒い日が続きます。

奇妙丸様もお体に気を付けてお過ごしください。

良い年をお迎えください。

松より



松の葉と文が結ぶ想い。

もう少し経つと新しい年を迎えます。




*      *      *      *      *      *




ここからは後書きになります。

この物語に登場する歌は「万葉集 第二巻 一一三番」です。

「み吉野の 玉松が枝は はしきかも 君が御言を 持ちて通はく」です。

ひらがなの読み方は、「みよしのの たままつがえは はしきかも きみがみことを もちてかよはく」です。

作者は「額田王(ぬかたのおおきみ)」です。

意味は、「吉野の松の枝は、いとおしいことですわ。あなたさまのお言葉を持ってくるなんて」となるそうです。

原文は「三吉野乃 玉松之枝者 波思吉香聞 君之御言乎 持而加欲波久」です。

この歌は、弓削皇子(ゆげのみこ)が苔の生えた松の枝を折って贈ったのに答えて、額田王が詠んだ歌だそうです。

松姫達が歌について話をしているのは、「雪月花 戦国恋語り 信玄の娘 松姫 編」の「文紡ぎ 時の始まり 常盤なる松のさ枝を」で登場した歌が元になっています。

この物語の中で「仁科五郎盛信」が名前だけ登場します。

「仁科五郎盛信」呼び方を「盛信」と「五郎」のどちらにしようか考えました。

油川夫人は仁科五郎盛信の生母、菊姫と松姫にとっては同腹の兄になります。

「五郎」を使っていても問題がないと考えて、今回の物語では「五郎」としました。

「春待ち月」は「はるまちつき」と読みます。

「陰暦十二月の異称」です。

楽しんで頂けると嬉しいです。





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