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〜 雪月花 新撰組異聞 編 〜
〜 春宵の夢物語 桜の一節 百種の言 〜
「この花の 一節のうちに 百種の 言ぞ隠れる おほろかにすな」
「万葉集 第八巻 一四五六番」より
作者:藤原広嗣(ふじわらのひろつぐ)
「この花の 一節のうちは 百種の 言持ちかねて 折らえけらずや」
「万葉集 第八巻 一四五七番」より
作者:娘子(をとめ)
今は春。
ここは、京の町。
夜空には月と星が綺麗に輝いている。
ここは、屯所。
沖田総司の部屋。
沖田総司は床の中で静かに寝ている。
部屋の中が不思議な空気に包まれた。
沖田総司は床の中でゆっくりと目を開けた。
少女が沖田総司を笑顔で覗き込んでいる。
沖田総司は、夜の国の住人で少女と同じ顔の“夢”だと直ぐに分かった。
沖田総司は床の中で、夢に微笑んで話し出す。
「夢ちゃん。こんばんは。」
夢は沖田総司の顔を覆うのを止めると、沖田総司に微笑んで話し出す。
「総司さん。こんばんは。」
沖田総司は床の上に体を微笑んで起こした。
夢は沖田総司に微笑んで抱き付いた。
沖田総司は床の上に体を起こして、赤い顔で動きを止めた。
夢は沖田総司を微笑んで抱いて、不思議な空気に包まれた。
沖田総司は赤い顔で床の上に起きて、不思議な空気に包まれた。
夢は沖田総司を微笑んで抱いて、静かに居なくなった。
沖田総司は赤い顔で床の上に起きて、静かに居なくなった。
一瞬の後の事。
ここは、夜の国。
広い草原。
夜空には、月と満天の星が輝いている。
心地良い空気に包まれている。
一本の満開の桜が植わっている。
澄んだ池が在る。
満開の桜は月の光と星の光を受けて、静かに咲いている。
澄んだ池の水面が満開の桜を綺麗に映している。
夢は沖田総司を微笑んで抱いて、静かに現れた。
沖田総司は赤い顔で動きを止めて、静かに現れた。
夢は沖田総司から微笑んで放れた。
沖田総司は夢を赤い顔で見た。
夢は沖田総司に微笑んで話し出す。
「総司さん。夜の国に着ました。」
沖田総司は夢に赤い顔で話し出す。
「夢ちゃん。何度も同じ内容を話して申し訳ないけれど、抱き付いて夜の国に来るのは止められないかな?」
夢は沖田総司に微笑んで話し出す。
「美鈴さんが抱き付いても夜の国には来られませんよ。」
沖田総司は夢に赤い顔で話し出す。
「夢ちゃん。私の話す内容は違う。」
夢は沖田総司に微笑んで話し出す。
「総司さん。総司さんの話す内容と違う点を具体的に教えてください。」
沖田総司は夢を赤い顔で動揺して見た。
夢は沖田総司を微笑んで見た。
池が淡く光った。
沖田総司は池を不思議な表情で見た。
夢は池を微笑んで見た。
池に少女の姿が映っている。
満開の桜が映っている。
沖田総司は池を見ながら、夢に不思議な様子で話し出す。
「鈴ちゃんの姿が見える。」
夢は沖田総司に微笑んで話し出す。
「総司さんが美鈴さんを強く想って話したので、池が総司さんの想いに反応しました。」
沖田総司は夢を赤い顔で見た。
夢は沖田総司に微笑んで話し出す。
「夜の国では不思議な出来事がたくさん起こります。照れないでください。」
沖田総司は池を赤い顔で見た。
夢は沖田総司と池を微笑んで見た。
沖田総司は池を怪訝な表情で見た。
夢は沖田総司を不思議な表情で見た。
沖田総司は池を見ながら、夢に怪訝な様子で話し出す。
「鈴ちゃんは誰かと一緒に居る雰囲気なのに、相手の姿が見えない。」
夢は沖田総司に微笑んで話し出す。
「斉藤さんが美鈴さんから離れているかも知れません。」
沖田総司は池を見ながら、夢に怪訝な様子で話し出す。
「鈴ちゃんが一緒に居る相手は、斉藤さんではない。」
夢は沖田総司に微笑んで話し出す。
「美鈴さんと一緒に居る相手が斉藤さんでないと思う理由は何ですか?」
沖田総司は池を見ながら、夢に怪訝な様子で話し出す。
「勘だ。」
夢は沖田総司を微笑んで見た。
沖田総司は夢を見ると、夢に落ち着かない様子で話し出す。
「鈴ちゃんが私の知らない人物と笑顔で会っている! 私に姿を隠す人物だ! 物凄く怪しい!」
夢は沖田総司に微笑んで話し出す。
「総司さん。美鈴さんが一緒に居る人物は、私の知り合いです。怪しい人物ではありません。美鈴さんに危険はありません。落ち着いてください。安心してください。」
沖田総司は夢に落ち着かない様子で話し出す。
「鈴ちゃんは素直で優しい子だ! 鈴ちゃんは悲しませてはいけない子だ! 鈴ちゃんに危険が及んでいない保障はない! 鈴ちゃんの居場所を早く教えてくれ!」
夢は沖田総司を苦笑して見た。
沖田総司は池を落ち着かない様子で見た。
桜の枝が折れる音がした。
夢は桜を不思議な表情で見た。
桜の枝が折れている。
夢は沖田総司を心配して見た。
沖田総司が桜の小枝を落ち着かない様子で握り締めている。
夢は沖田総司に心配して話し出す。
「総司さん。折れた桜の枝を握っています。」
沖田総司は手を不思議な表情で見た。
沖田総司は桜の小枝を握り締めている。
桜の小枝には、つぼみがたくさん付いている。
沖田総司は桜の小枝を握り、桜の小枝を驚いて見た。
夢は沖田総司を心配して見た。
沖田総司は桜の小枝を握り、夢を見ると、慌てて話し出す。
「夢ちゃん! 折った桜の枝を元に戻す道具とか、折った桜の枝を元に戻す薬とか、知らない?!」
夢は沖田総司に困惑して話し出す。
「残念ながら、知りません。」
沖田総司は桜の小枝を握り、夢を動揺して見た。
夢は沖田総司に申し訳なく話し出す。
「美鈴さんが総司さんの傍に来ます。私は早く去らなければなりません。」
沖田総司は桜の小枝を握り、夢に動揺して話し出す。
「夢ちゃん! 待って!」
夢は申し訳ない様子で、静かに居なくなった。
沖田総司は桜の小枝を握り、辺りを慌てて見た。
少女が微笑んで、静かに現れた。
斉藤一は普通の表情で、静かに現れた。
沖田総司は桜の小枝を握り、斉藤一と少女を動揺して見た。
少女は沖田総司を不思議な表情で見た。
斉藤一は沖田総司を普通の表情で見た。
少女は桜の小枝を驚いて見た。
沖田総司は桜の小枝を握り、少女に慌てて話し出す。
「鈴ちゃんが誰かと楽しそうに話す姿が池に映ったんだ! 鈴ちゃんの話し相手の姿は池に映っていなかったんだ! 鈴ちゃんは私の知らない人物と話しているように感じたんだ! 鈴ちゃんが物凄く心配で物凄く落ち着かない気持ちになったんなだ! 気付いたら、桜の小枝を握っていたんだ!」
少女は桜の小枝を触ると、桜の小枝に悲しく話し出す。
「私のために痛い思いをさせてごめんなさい。」
沖田総司は桜の小枝を握り、少女に心配して話し出す。
「鈴ちゃん。ごめんね。」
少女は桜の小枝を触ると、沖田総司に悲しく話し出す。
「総司さん。桜の小枝を早く花瓶に挿したいです。」
沖田総司は桜の小枝を握り、少女を動揺して見た。
少女は桜の小枝を触り、桜の小枝に悲しく話し出す。
「早く花瓶に挿してあげるね。」
沖田総司は少女を悲しく見ながら、桜の小枝をゆっくりと放した。
少女は桜の小枝を悲しい表情で持った。
沖田総司は少女に悲しく話し出す。
「鈴ちゃん。ごめんね。」
少女は桜の小枝を持ち、静かに泣き出した。
沖田総司は少女を動揺して見た。
斉藤一は少女に普通に話し出す。
「美鈴さん。少し休もう。」
少女は桜の小枝を持ち、斉藤一に静かに泣いて話し出す。
「桜の小枝を早く花瓶に挿したいです。」
斉藤一は少女に普通に話し出す。
「今は草原に居る。花瓶は無い。花瓶を用意するために、良く訪れる家に行こう。」
少女は桜の小枝を持ち、斉藤一に静かに泣いて頷いた。
斉藤一は沖田総司に普通に話し出す。
「総司。行くぞ。」
沖田総司は斉藤一に悲しく話し出す。
「私は後から行きます。斉藤さん。鈴ちゃんを頼みます。」
斉藤一は沖田総司に普通の表情で頷いた。
少女は桜の小枝を持ち、沖田総司を静かに泣いて見た。
沖田総司は斉藤一と少女を悲しく見た。
斉藤一は普通の表情で、静かに居なくなった。
少女は桜の小枝を持ち、静かに泣いて、静かに居なくなった。
沖田総司は悲しい表情で軽く息をはいた。
心地良い風が吹いた。
沖田総司は夜空を悲しく見た。
夜空には、月と満天の星が綺麗に輝いている。
妖精のあきが心配して現れた。
沖田総司は妖精のあきを見ると、妖精のあきに悲しく話し出す。
「鈴ちゃんを悲しませてしまった。」
妖精のあきは沖田総司に心配して話し出す。
「美鈴さんは、総司さんが美鈴さんのために勢いで折ってしまった桜に対して、悲しい気持ちと申し訳ない気持ちで一杯になったのですね。」
沖田総司は妖精のあきに悲しく話し出す。
「あきちゃん。頼みがあるんだ。」
妖精のあきは沖田総司に心配して話し出す。
「私は桜を元に戻す薬も桜を元の戻す魔法も知りません。」
沖田総司は妖精のあきに悲しく話し出す。
「魔法や薬で桜を元に戻しても、鈴ちゃんは喜ばない。私は別な内容を頼みたいんだ。」
妖精のあきは沖田総司に心配して話し出す。
「私の出来る範囲のお手伝いをします。遠慮なく言ってください。」
沖田総司は妖精のあきに悲しく頷いた。
僅かに後の事。
ここは、夢の家。
一室。
心地よい空気に包まれている。
斉藤一は普通に居る。
少女は桜の小枝を悲しく持っている。
花瓶が少女の傍に在る。
少女は桜の小枝を悲しく花瓶に挿した。
斉藤一は少女を普通の表情で見ている。
少女は斉藤一に悲しく話し出す。
「私は総司さんと斉藤さんと桜に迷惑を掛けてしまいました。」
斉藤一は少女に普通に話し出す。
「美鈴さんは総司や俺に迷惑を掛けていない。桜の件は美鈴さんに責任は無い。悩むな。」
少女は斉藤一に悲しく話し出す。
「総司さんは家に後で来ると話しました。総司さんは私と居たくないと思っています。」
斉藤一は少女に普通に話し出す。
「総司は俺に美鈴さんを頼むと話した。総司は美鈴さんと一緒に居たいから、美鈴さんを心配する。安心しろ。」
少女は斉藤一を悲しく見た。
斉藤一は少女に普通に話し出す。
「夜の国で聞いた話だが、植物は育てる人の想いによって、違う育ち方をするそうだ。俺達の住む場所も同じ状況だと思う。美鈴さんが悲しみ続けたら、桜に美鈴さんの悲しさが伝わる。美鈴さんの桜への想いが無駄になる。桜の前では、花が咲くと信じて笑顔で居ろ。」
少女は斉藤一に微笑んで頷いた。
斉藤一は少女に普通の表情で頷いた。
妖精のあきが微笑んで、静かに現れた。
妖精のあきは斉藤一と少女に微笑んで話し出す。
「斉藤さん。美鈴さん。こんばんは。」
斉藤一は妖精のあき普通に表情で頷いた。
少女は妖精のあきに微笑んで話し出す。
「あきちゃん。こんばんは。」
妖精のあきは斉藤一と少女に微笑んで話し出す。
「暫く後に、斉藤さんと美鈴さんと出掛けたい場所があります。ご都合は大丈夫ですか?」
斉藤一は妖精のあきに普通の表情で頷いた。
少女は妖精のあきに微笑んで頷いた。
妖精のあきは斉藤一と少女を微笑んで見た。
暫く後の事。
ここは、広い草原。
心地良い空気に包まれている。
夜空には、月と満天の星が綺麗に輝いている。
一本の満開の桜が植わっている。
小さい桜が一本の満開の桜の傍に植わっている。
澄んだ池が在る。
桜は月と光と満天の星の光を受けて、静かに咲いている。
澄んだ池の水面が桜を綺麗に映している。
沖田総司は桜を微笑んで見ている。
沖田総司の着物は少し汚れている。
妖精のあきが微笑んで、静かに現れた。
斉藤一は普通の表情で、静かに現れた。
少女は微笑んで、静かに現れた。
沖田総司は、斉藤一、少女、妖精のあきを、微笑んで見た。
少女は沖田総司に心配して話し出す。
「総司さん。お着物が汚れています。」
沖田総司は少女に微笑んで話し出す。
「今の程度の汚れは、汚れた内に入らないよ。」
少女は沖田総司を心配して見た。
沖田総司は少女に微笑んで話し出す。
「私は桜の小枝を折ってしまった。鈴ちゃんの笑顔が戻る方法と桜に詫びる方法を考えた。新しい桜を植えたいと考えたけれど、頻繁に夜の国に来ないから、小まめに育てられない。私が悩んでいたら、妖精のあきちゃんが、桜が増えるのは嬉しいから、私が夜の国に居ない間は育てると申し出たんだ。妖精のあきちゃんは、私が桜を育てる時間が増えると、鈴ちゃんが心配や寂しさを感じるかも知れないと心配したんだ。妖精のあきちゃんは、私が桜を育てる時は、鈴ちゃんが私の傍に居るのが良いと提案したんだ。専門的な知識のある人が小まめに育てれば、栽培関係が不慣れな私が育てても、桜がしっかりと育つよね。鈴ちゃんは、綺麗な桜を見られるし、心配や寂しさを感じる時間が少なくなる。」
少女は沖田総司を微笑んで見た。
沖田総司は少女に慌てて話し出す。
「良く考えたら、桜は春しか咲かない! 春以外に桜を見ても楽しくないよね!」
少女は沖田総司に微笑んで話し出す。
「総司さんが植えた桜です。四季を通じて楽しく見られます。」
沖田総司は少女を微笑んで見た。
少女も沖田総司を微笑んで見た。
沖田総司は少女に恥ずかしく話し出す。
「私の言動の自戒の意味を込めて、一首の歌を小さな看板に書きたいと考えているんだ。」
少女は沖田総司に微笑んで話し出す。
「総司さんが看板に書きたいと考えるお歌を教えてください。」
沖田総司は少女に恥ずかしく話し出す。
「“この花の 一節のうちに 百種の 言ぞ隠れる おほろかにすな”。妖精のあきちゃんが教えてくれた歌なんだ。」
少女は沖田総司に微笑んで話し出す。
「素敵なお歌を選ばれたのですね。」
沖田総司は少女に微笑んで話し出す。
「褒めてくれてありがとう。」
少女は沖田総司に微笑んで話し出す。
「総司さんの選ばれたお歌には返歌があります。返歌も素敵なお歌です。」
沖田総司は少女に微笑んで話し出す。
「鈴ちゃん。返歌を教えてくれるかな?」
少女は沖田総司に微笑んで話し出す。
「“この花の 一節のうちは 百種の 言持ちかねて 折らえけらずや”。お歌の意味は、“この桜の枝では沢山の言葉を持ち切れないので、このように折れてしまったのですね。”、だそうです。」
沖田総司は少女に微笑んで話し出す。
「返歌も素敵だね。」
少女は沖田総司に申し訳なく話し出す。
「お歌の意味などを考えずに話してしまいました。ごめんなさい。」
沖田総司は少女に微笑んで話し出す。
「鈴ちゃん。返歌を教えてくれてありがとう。みんなに楽しんでもらうために、両方の歌を看板に書くね。」
少女は沖田総司を微笑んで見た。
沖田総司も少女を微笑んで見た。
斉藤一は沖田総司と少女を普通の表情で見た。
妖精のあきは沖田総司と少女を微笑んで見た。
暫く後の事。
ここは、夢の家。
一室。
心地よい空気に包まれている。
沖田総司は微笑んで居る。
沖田総司は浴衣を着ている。
斉藤一は普通に居る。
妖精のあきは微笑んで、静かに現れた。
沖田総司は妖精のあきを微笑んで見た。
斉藤一は妖精のあきを普通の表情で見た。
妖精のあきは沖田総司に微笑んで話し出す。
「今回の総司さんの言動を知った方達が、総司さんの植えた桜を見たい、総司さんが歌を書いた看板を見たい、総司さんが桜を植えた経緯の看板を作りたい、歌の説明付の歌碑を作りたい、などと話しています。」
沖田総司は妖精のあきを驚いて見た。
妖精のあきは沖田総司を微笑んで見た。
斉藤一は沖田総司と妖精のあきを普通の表情で見た。
沖田総司は妖精のあきに恥ずかしく話し出す。
「鈴ちゃんに確認を取らないと、私は返事が出来ない。」
斉藤一は沖田総司に普通に話し出す。
「美鈴さんは歌碑などを含めた提案を喜んでいる。美鈴さんは総司に任せると話した。」
妖精のあきは斉藤一を不思議な表情で見た。
斉藤一は妖精のあきに普通の表情で見た。
妖精のあきは斉藤一を微笑んで見た。
沖田総司は斉藤一に不思議な様子で話し出す。
「斉藤さん。鈴ちゃんが私に任せると話したのですか?」
斉藤一は沖田総司を普通の表情で見た。
沖田総司は妖精のあきに微笑んで話し出す。
「鈴ちゃんは歌碑などを含めた提案を喜んでいるんだよね。恥ずかしいけれど、了承の返事をするよ。」
妖精のあきは沖田総司に微笑んで話し出す。
「総司さんの返事をみんなに伝えてきます。」
沖田総司は妖精のあきを微笑んで見た。
妖精のあきは微笑んで、静かに居なくなった。
斉藤一は沖田総司に普通に話し出す。
「総司。実は、美鈴さんは歌碑を含めた提案を何も知らない。」
沖田総司は斉藤一に不思議な表情で話し出す。
「斉藤さん。勘違いをしたのですか?」
斉藤一は沖田総司に普通に話し出す。
「総司は夜の国の恩人だ。先程の話の内容から想像すると、総司に因んだ名所になる可能性が高い。総司は夜の国の恩人だから、夜の国の住人は素晴らしい歌碑を作る可能性が高い。俺は総司に先を見越して話した。」
沖田総司は斉藤一に怪訝な表情で話し出す。
「斉藤さん。もしかして、私に嘘を付いたのですか?」
斉藤一は沖田総司に普通に話し出す。
「俺は先を見越して話した。俺は嘘を付いていない。」
沖田総司は斉藤一を怪訝な表情で見た。
斉藤一は沖田総司に普通に話し出す。
「総司は俺を友達と幾度も話すが、本当は俺を友達と思っていないんだ。寂しいな。」
沖田総司は斉藤一に慌てて話し出す。
「私は斉藤さんを本当の友達と思っています! 私は斉藤さんを信じています! 鈴ちゃんが何も知らないと分かった途端に、鈴ちゃんが困る姿を想像して焦ってしまいました!」
斉藤一は沖田総司に普通に話し出す。
「総司が美鈴さんから了承の返事をもらえば、全て良い方向に納まる。」
沖田総司は斉藤一を考え込んで見た。
斉藤一は沖田総司に普通に話し出す。
「総司お兄ちゃん。俺のために、美鈴さんのために、夜の国の住人のために、頼みます。」
沖田総司は斉藤一に苦笑して頷いた。
斉藤一は沖田総司を普通の表情で見た。
少女が部屋の中に微笑んで入ってきた。
沖田総司は少女を微笑んで見た。
斉藤一は少女を普通の表情で見た。
少女は沖田総司に微笑んで話し出す。
「汚れを落とす専門家に頼む時間の掛かるお洗濯、汚れ落としより早く仕上げるのを優先するお洗濯、二つが選べました。総司さんの大切なお着物です。時間は掛かりますが、汚れを落とす専門家に頼むお洗濯に決めました。」
沖田総司は少女に恥ずかしく話し出す。
「私の着物は、鈴ちゃんの可愛い着物と違って、普通の着物だよ。」
少女は沖田総司に微笑んで話し出す。
「総司さんの身なりはいつも綺麗でしっかりとしています。」
沖田総司は少女に恥ずかしく話し出す。
「私を褒めてくれるのは嬉しいけれど、身なりが綺麗でしっかりとしているのと、着物の質は別だよね。」
少女は沖田総司を不思議な表情で見た。
沖田総司は少女に恥ずかしく話し出す。
「鈴ちゃん。気遣ってくれてありがとう。仕上がりが楽しみだね。」
少女は沖田総司に微笑んで頷いた。
沖田総司は少女を微笑んで見た。
斉藤一は沖田総司と少女を普通の表情で見た。
沖田総司は斉藤一と少女に恥ずかしく話し出す。
「安心したら急に眠くなりました。」
斉藤一は沖田総司に普通に話し出す。
「夜の国は安全だ。俺が美鈴さんの傍に居る。安心して眠れ。」
沖田総司は斉藤一に微笑んで頷いた。
少女は沖田総司を微笑んで見た。
沖田総司は少女に微笑んで話し出す。
「鈴ちゃん。少し眠るね。」
少女は沖田総司に微笑んで頷いた。
沖田総司は少女を微笑んで見た。
少し後の事。
ここは、夢の家。
一室。
障子は開いてある。
心地よい空気に包まれている。
沖田総司は床の中で静かに寝ている。
斉藤一は杯の酒を普通の表情で飲んでいる。
少女は沖田総司に寄り添って静かに寝ている。
斉藤一は杯の酒を飲むのを止めると、少女に掛け布団を静かに掛けた。
沖田総司は床の中で静かに寝ている。
少女は掛け布団に包まれて、沖田総司に寄り添って静かに寝ている。
斉藤一は杯の酒を普通の表情で飲んだ。
「この花の 一節のうちに 百種の 言ぞ隠れる おほろかにすな」
「この花の 一節のうちは 百種の 言持ちかねて 折らえけらずや」
大切に想う気持ちから生まれた夜の国で起きた出来事。
春の夜の国の時間は穏やかに過ぎていく。
〜 完 〜
* * * * * *
ここまで読んで頂いてありがとうございます。
ここからは後書きになります。
この物語に登場する歌は、二首です。
一首目は「万葉集 第八巻 一四五六番」
「この花の 一節のうちに 百種の 言ぞ隠れる おほろかにすな」
ひらがなの読み方は「このはなの ひとよのうちに ももくさの ことぞかくれる おほろかにすな」
作者は「藤原広嗣(ふじわらのひろつぐ)」
歌の意味は「この桜の枝には沢山の言葉が込められています。だから、粗末にしないでください。」となるそうです。
原文は「此花乃 一与能内尓 百種乃 言曽隠有 於保呂可尓為莫」
藤原広嗣が娘子(をとめ)に桜の枝といっしょに贈った歌だそうです。
娘子からの返歌は次の番号の歌です。
二首目は「万葉集 第八巻 一四五七番」
「この花の 一節のうちは 百種の 言持ちかねて 折らえけらずや」
ひらがなの読み方は「このはなの ひとよのうちは ももくさの こともちかねて おらえけらずや」
作者は「娘子(をとめ)」
歌の意味は「この桜の枝では沢山の言葉を持ち切れないので、このように折れてしまったのですね。」となるそうです。
原文は「此花乃 一与能裏乃 百種乃 言持不勝而 所折家良受也」
藤原広嗣が娘子に桜の枝といっしょに贈った歌に対して、娘子が返事をした歌だそうです。
藤原広嗣の歌は一つ前の番号です。
娘子が誰の事かは不明だそうです。
「春宵(しゅんしょう)」は「春の夜。春の宵。」の意味です。
「夢物語(ゆめものがたり)」は「見た夢の話し。夢語り。」の意味です。
楽しんで頂けると嬉しいです。
はじめに
目次
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