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〜 雪月花 新撰組異聞外伝 編 〜


〜 初見月から梅見月へ 今は漕ぎいでな 〜


「熟田津に 船乗りせむと 月待てば 潮もかなひぬ 今は漕ぎいでな」

「万葉集 第一巻 八番」より

作者:額田王(ぬかたのおおきみ)



ある冬の日の事。



将軍が上洛する時の任務に就く者達の募集があった。

近藤勇は今回の募集に応募したいと考え始めた。



近藤勇が考えを決めかねている間に、年を越して新年を迎えた。



暦の上では春になったが、寒い日が続いている。

春の暖かさを感じる事が出来るのは、もう少し先の事になるのかもしれない。



ここは多摩に在る試衛館



近藤勇の部屋。



土方歳三は近藤勇に呼ばれたために部屋を訪れた。

近藤勇は土方歳三に普通に話し出す。

「上様が上洛を行う時の警護に就く者達の募集を、昨年の冬から始めただろ。歳はどう思う?」

土方歳三は近藤勇に普通に話し出す。

「近藤さんは参加したいのだろ。」

近藤勇は土方歳三に普通の表情で頷いた。

土方歳三は近藤勇に普通に話し出す。

「俺も参加したいと思っている。」

近藤勇は土方歳三を普通の表情で見た。

土方歳三は近藤勇に普通に話し出す。

「近藤さんも俺も武士だ。誰が何と言おうと、俺達は武士だ。だが、俺達は剣がどれだけ強くても、江戸の人達は俺達を認めてくれない。このままでは、近藤さんが一介の道場主で終わってしまう。近藤さんはもっと高みを目指す事の出来る人だ。俺は近藤さんにもっと出世して欲しいと思っている。」

近藤勇は土方歳三に微笑んで話し出す。

「歳に褒めてもらえて嬉しいよ。」

土方歳三は近藤勇に真剣な表情で話し出す。

「近藤さん。試衛館の強い奴らと一緒に京に行こう。出世の機会は、今回の募集を逃すと二度と無いかも知れない。」

近藤勇は土方歳三に微笑んで話し出す。

「歳の今の話しを聞いていると、私の出世のために、みんなを巻き込むように聞こえる。私は、天然理心流の強さと素晴らしさを、みんなに理解して欲しいと思っているだけだ。」

土方歳三は近藤勇に真剣な表情で話し出す。

「近藤さんが出世をすれば、周りの評価も態度も変わる。俺達を見下した奴らの態度や評価も変わる。試衛館の仲間達の評価も上がる。」

近藤勇は真剣な表情で考え込み始めた。

土方歳三は近藤勇に真剣な表情で話し出す。

「天然理心流を正当に評価してもらえる場所と機会を見つけよう。俺は近藤さんを必ず出世させる。みんなで周りの奴らを見返そう。」

近藤勇は土方歳三に考え込みながら話し出す。

「少し考えさせてくれ。」

土方歳三は近藤勇に真剣な表情で頷いた。

近藤勇は真剣な表情で考え込み始めた。

土方歳三は近藤勇に真剣な表情で話し出す。

「近藤さん。京に行くなら、大切な事を考えておく必要がある。」

近藤勇は土方歳三を不思議そうに見た。

土方歳三は近藤勇に真剣な表情で話し出す。

「近藤さんは誰に五代目を継がせたいと思っているんだ? もしもの時の事を考えて、五代目を継がせたい人物には、江戸か多摩に留まってもらうべきだと思う。」

近藤勇は土方歳三に考え込みながら話し出す。

「五代目を継いで欲しい人物はいるが、歳に話しをして良い事ではないと思う。」

土方歳三は近藤勇に微笑んで話し出す。

「試衛館にとって大切な事だ。今の俺に話しをする事ではない。特に、近藤さんが決めかねているのなら、絶対に話しをしてはいけない。」

近藤勇は土方歳三に微笑んで話し出す。

「歳。ありがとう。」

土方歳三は近藤勇を微笑んで見た。

近藤勇は土方歳三を微笑んで見た。

土方歳三は普段通りに部屋を出て行った。



それから何日か後の事。



ここは多摩に在る試衛館。



近藤勇の部屋。



沖田総司は近藤勇に呼ばれたために、元気良く部屋を訪れた。

近藤勇は沖田総司に真剣な表情で話し出す。

「総司。頼みたい事がある。」

沖田総司は近藤勇に不思議そうに話し出す。

「どの様な頼み事ですか?」

近藤勇は沖田総司に真剣な表情で話し出す。

「上様が上洛する時に警護に就く者を募集しているんだ。私は上様の警護に就きたいと思っている。警護の任務に応募する時には、私一人だけではなく、試衛館の門下生にも声を掛けるつもりだ。」

沖田総司は近藤勇に微笑んで話し出す。

「上様の上洛のための警護に就く事が出来るのですか? 滅多に出来ない経験ですね。私も応募したいです。」

近藤勇は沖田総司に真剣な表情で話し出す。

「総司には私の代理として試衛館に残ってもらいたい。門下生達に稽古を就けてくれ。」

沖田総司は近藤勇に納得のいかない様子で話し出す。

「なぜ私が試衛館に残らないといけないのですか?!」

近藤勇は沖田総司に真剣な表情で話し出す。

「私が京に行ったら、試衛館に戻ってくるまでには、それなりの日数が掛かる。状況によっては、京に長く留まる事も考えられる。試衛館や門下生達の稽古を任せられるのは、総司しかいない。」

沖田総司は近藤勇に納得のいかない様子で話し出す。

「近藤さんが京に行くのなら、私も京に行きたいです!」

近藤勇は沖田総司に真剣な表情で話し出す。

「総司。これは命令だと思ってくれ。」

沖田総司は近藤勇を不機嫌そうに睨んだ。

近藤勇は沖田総司を真剣な表情で見た。

沖田総司は不機嫌そうな表情のまま、障子を乱暴に開けた。

近藤勇は沖田総司を僅かに驚いた表情で見た。

沖田総司は部屋の外に出ると、近藤勇を睨んだ。

近藤勇は沖田総司を驚いた表情で見ている。

沖田総司は近藤勇を睨みながら、乱暴に障子を閉めた。



それから数日後の事。



ここは多摩に在る試衛館。



近藤勇の部屋。



土方歳三は近藤勇の部屋を困惑した様子で訪れた。

近藤勇は土方歳三を不思議そう見た。

土方歳三は近藤勇に困惑した様子で話し出す。

「近藤さん。大体の察しはつくが、総司に何を言ったんだ?」

近藤勇は土方歳三を不思議そうに見た。

土方歳三は近藤勇に困惑した様子で話し出す。

「総司が稽古を就けると、門下生の中に必ず怪我人が出る。」

近藤勇は土方歳三に苦笑しながら話し出す。

「総司が稽古を就けると、怪我人が出てしまう事が多い。私も気を配るように話しをしているのだが、総司が聞き入れてくれなくて困っている。」

土方歳三は近藤勇に困惑した様子で話し出す。

「総司の稽古が終わると、気絶する者や怪我をする者の数が、ここ数日の稽古で更に増えている。このまま放っておいたら、誰も稽古が出来なくなる。」

近藤勇は土方歳三を困惑した様子で見た。

土方歳三は近藤勇に困惑した様子で話し出す。

「もう一つ気になる事がある。門下生の一部が、ここ数日の総司は、恐ろしくて近寄れないと話しをしていた。」

近藤勇は困惑した様子で考え込む仕草を見せた。

土方歳三は近藤勇に心配そうに話し出す。

「今の状況は、総司と近藤さんを含めて、全てに悪い影響がでている。早く手を打った方が良い。」

近藤勇は土方歳三に微笑んで話し出す。

「歳。気を遣ってくれてありがとう。」

土方歳三は近藤勇を微笑んで見た。

近藤勇は軽く息をはくと、困惑した表情で考え込み始めた。

土方歳三は近藤勇に軽く礼をすると、黙って部屋を出て行った。



それから少し後の事。



ここは多摩の試衛館。



近藤勇の部屋。



沖田総司は近藤勇に呼ばれたために、不機嫌そうに部屋を訪れた。

近藤勇は沖田総司に微笑んで話し出す。

「総司。京に行きたいのか?」

沖田総司は近藤勇に不機嫌そうに話し出す。

「はい。」

近藤勇は沖田総司に微笑んで話し出す。

「私と総司が京に行ったら、試衛館と門下生達の稽古を、誰に任せたら良いと思う?」

沖田総司は近藤勇に不機嫌そうに話し出す。

「近藤さん。」

近藤勇は沖田総司を微笑んで見た。

沖田総司は近藤勇に不機嫌そうに話し出す。

「私は京に行きます。近藤さんは試衛館に残って、今まで通り稽古を就ければ問題ないと思います。」

近藤勇は沖田総司に真剣な表情で話し出す。

「上様の上洛の警護には危険が伴う。上洛するまでの間に、もしもの事が起れば、試衛館の門下生達をまとめないといけない。試衛館を安心して任せる事が出来る者がいなければ、安心して上様の警護に就く事が出来ない。試衛館に残った者達は、更なる稽古が必要だ。」

沖田総司は近藤勇に不機嫌そうに頷いた。

近藤勇は沖田総司に真剣な表情で話し出す。

「総司は天然理心流の指南免許を習得している。歳は若いが、立派に稽古を就ける事が出来る。私が居ない間の試衛館を任せる事が出来るのも、総司しかいないと考えている。」

沖田総司は近藤勇を驚いた表情で見た。

近藤勇は沖田総司に真剣な表情で話し出す。

「総司は上様の上洛の警護に就きたいのか?」

沖田総司は近藤勇に真剣な表情で話し出す。

「はい。」

近藤勇は沖田総司に真剣な表情で話し出す。

「わかった。私と一緒に上様の上洛のための警護に就こう。」

沖田総司は近藤勇を真剣な表情で見た。

近藤勇は沖田総司に真剣な表情で話し出す。

「上様の上洛の警護の任務に就く事は、危険は伴うが、たくさんの人達と出会う事が出来る。総司にとって良い経験になるのかも知れないな。」

沖田総司は近藤勇を真剣な表情で見た。

近藤勇は沖田総司に真剣な表情で話し出す。

「総司。これから忙しくなるぞ。覚悟をしておけ。」

沖田総司は近藤勇に真剣な表情で話し出す。

「はい!」

近藤勇は真剣な表情で頷いた。



それから何日か後の事。



近藤勇は、自分や土方歳三や沖田総司を含めた試衛館の者達が、将軍の上洛のための警護に就きたいと申し出た。

近藤勇の申し出が通り、将軍の上洛の任務に就く事になった。



試衛館の全ての門下生達が京に向かう訳ではないが、慌しい日々が始まった。



そんなある日の事。



ここは多摩に在る試衛館。



近藤勇の部屋。



土方歳三は近藤勇の部屋を微笑んで訪れた。

近藤勇は土方歳三を不思議そうに見た。

土方歳三は近藤勇に苦笑しながら話し出す。

「総司が物凄く張り切って稽古を就けている。」

近藤勇は土方歳三を不思議そうに見た。

土方歳三は近藤勇に苦笑しながら話し出す。

「総司は上様の上洛の警護に就く者達に、普段より厳しい稽古を就けている。」

近藤勇は土方歳三を僅かに困惑した様子で見た。

土方歳三は近藤勇に苦笑しながら話し出す。

「総司の指導する稽古が更に厳しくなった。張り切り過ぎないように、近藤さんから話しをしてくれ。このままだと、上様の上洛の警護の任務に就く前に、怪我人ばかりになってしまう。」

近藤勇は土方歳三に微笑んで話し出す。

「今の言い方だと、歳も怪我をするという事か?」

土方歳三は近藤勇に微笑んで話し出す。

「怪我をする事のないように努力している。」

近藤勇は土方歳三に微笑んで話し出す。

「張り切っている総司を止める事が出来る人物は、誰もいないだろ。」

土方歳三は近藤勇に微笑んで話し出す。

「総司を止める事の出来る奴が、一人だけいるような気がする。」

近藤勇は土方歳三を不思議そうに見た。

土方歳三は近藤勇に微笑んで話し出す。

「秘密。」

近藤勇は土方歳三を微笑んで見た。

土方歳三は近藤勇に微笑んで話し出す。

「一度で良いから、近藤さんから総司に話しをしてくれ。」

近藤勇は土方歳三に微笑んで頷いた。

土方歳三は近藤勇に微笑んで軽く礼をすると、部屋を出て行った。



京へ向う日が一日と近づいてくる。

試衛館も落ち着かない日が続いている。



そんなある日の事。



ここは多摩に在る試衛館。



門下生達が集う一室。



門下生達がくつろいで話しをしている。

沖田総司は硯箱や紙を小脇に抱えながら、部屋の中に元気良く入ってきた。

門下生達は沖田総司を不思議そうに見た。

沖田総司は硯箱と紙を小脇に抱えながら、門下生達に笑顔で声を掛ける。

「私には、これから大切な用事があります! 部屋を貸してください!」

門下生達は、沖田総司の様子を見ると、軽く礼をしながら部屋を出て行った。



部屋の中には、沖田総司が一人だけとなった。

沖田総司は硯箱と紙を机に置くと、元気良く声を出す。

「この部屋なら、落ち着いて文を書く事が出来る!」

部屋の中には、沖田総司の元気の良い声だけが響いた。

沖田総司は文を書く用意を笑顔で始めた。



沖田総司は机の前に座りながら、真剣な表情で考え込んでいる。

筆を持って紙に書こうとしたが、直ぐに止めしまった。

硯に筆を置くと、考え込みながら呟いた。

「近藤さんが京に長く留まる事もあると言っていたよね。そうなると、山口君に簡単に逢う事が出来ないよね。いい加減な文を書く事は出来ないよね。何を書いたら良いのか、分からなくなってきた。」

部屋の中には沖田総司の呟いた声だけが聞こえている。

沖田総司は軽く息をはくと、紙を見ながら真剣な表情で考え込み続けた。



その日の夜の事。



夜空には綺麗な月が浮かんでいる。



ここは多摩に在る試衛館。



近藤勇の部屋。



部屋の障子は開け放たれている。



近藤勇と土方歳三は、部屋の中で酒を飲んでいる。

土方歳三は酒を飲み終わると、近藤勇に微笑んで話し出す。

「総司が部屋の中で、ずっと文を書いていたらしい。」

近藤勇は酒を飲みながら、土方歳三を微笑んで見た。

土方歳三は近藤勇に微笑んで話し出す。

「総司は、思うような文が書けないのか、考え込む仕草を良く見せている。総司にとって、とても大切な文だという事が分かるよ。」

近藤勇は酒を飲み終わると、土方歳三に微笑んで頷いた。

土方歳三は近藤勇に微笑んで話し出す。

「近藤さん。俺も総司と同じ様に、京に行く前に伝えたい事がある。」

近藤勇は土方歳三を不思議そうに見た。

土方歳三は近藤勇に真剣な表情で話し出す。

「俺は多摩には未練が無い。俺にとっての大切な場所は、近藤さんが居る場所だ。そして、近藤さんを必ず出世させる。」

近藤勇は土方歳三を微笑んで見た。

土方歳三は近藤勇に真剣な表情で話し出す。

「俺は近藤さんを大名にしてみせる。俺達を見下した奴らを、近藤さんの前にひれ伏す姿を見せてやる。」

近藤勇は土方歳三に微笑んで話し出す。

「私の事をそこまで想ってくれて嬉しいよ。私も大名に相応しい人物と言われるように更に精進する。」

土方歳三は近藤勇を真剣な表情で見た。

近藤勇は夜空を見上げた。



夜空には綺麗な月が浮かんでいる。



土方歳三は夜空を見ると、真剣な表情で呟いた。

「熟田津に 船乗りせむと 月待てば 潮もかなひぬ 今は漕ぎいでな」

近藤勇は土方歳三を見ると、微笑んで話し出す。

「額田王が詠った威勢の良い歌だな。」

土方歳三は近藤勇を見ると、真剣な表情で頷いた。

近藤勇は夜空を見ると、微笑んで呟いた。

「熟田津に 船乗りせむと 月待てば 潮もかなひぬ 今は漕ぎいでな」

土方歳三は近藤勇を真剣な表情で見た。

近藤勇は土方歳三を見ると、真剣な表情で話し出す。

「上様の上洛の警護に就く前の日にも詠ってくれないか?」

土方歳三は近藤勇に真剣な表情で頷いた。

近藤勇の部屋の障子に、月明かりに透けた沖田総司の影が映し出された。

近藤勇は沖田総司の影に向って、微笑んで声を掛ける。

「総司。一緒に酒を飲みに来たのか?」

沖田総司は近藤勇と土方歳三の前に姿を現すと、笑顔で話し出す。

「近藤さんの部屋に来たら、威勢の良い歌が聞こえてきました!」

近藤勇は沖田総司に微笑んで話し出す。

「歳が、上様の上洛の警護に就く前に、歌を詠んでくれたんだ。」

沖田総司は近藤勇に笑顔で話し出す。

「とても良い歌を聞きました! ありがとうございます!」

近藤勇は沖田総司に微笑んで話し出す。

「この歌を詠ったのは歳だぞ。礼は歳に言え。」

沖田総司は土方歳三に笑顔で話し出す。

「土方さん! ありがとうございます!」

土方歳三は沖田総司に微笑んで話し出す。

「今の歌の出典は“万葉集”だ。作者は“額田王”だ。」

沖田総司は土方歳三に笑顔で話し出す。

「はい!」

土方歳三は沖田総司を微笑んで見た。

沖田総司は近藤勇に微笑んで話し出す。

「近藤さん! 申し訳ありませんが、私には大事な用事があります! 上様の上洛の警護に就く前までに、終わらせないといけません! 明日も今日と同じ部屋を貸してください!」

近藤勇は沖田総司に微笑んで話し出す。

「わかった。ただし、大事な用事の事を考え過ぎて、稽古を怠るなよ。」

沖田総司は近藤勇に笑顔で話し出す。

「はい!」

近藤勇は沖田総司を微笑んで見た。

沖田総司は近藤勇に笑顔で礼をすると、部屋から居なくなった。



土方歳三は月を見ると、微笑んで呟いた。

「熟田津に 船乗りせむと 月待てば 潮もかなひぬ 今は漕ぎいでな」

近藤勇は月を見ると、微笑んで呟いた。

「熟田津に 船乗りせむと 月待てば 潮もかなひぬ 今は漕ぎいでな」

土方歳三は近藤勇を微笑んで見た。

近藤勇は土方歳三を微笑んで見た。



朝になった。



多摩には青空が広がっている。



ここは多摩に在る試衛館。



今日の試衛館の稽古は、近藤勇が一人で就ける事になった。

沖田総司は、一日だけだが余裕が出来た。



沖田総司は朝の稽古を終えて着替え終わった。



沖田総司は硯箱と紙を小脇に抱えながら、試衛館の中に在る一室の中へと元気良く入っていった。



それから暫く後の事。



ここは多摩に在る試衛館。



沖田総司の居る部屋。



沖田総司は机の前の文を見ながら、笑顔で呟いた。

「山口君に渡す文が書けた。」

文には、文字がびっしりと書いてある。

沖田総司は文を見ながら笑顔で呟いた。

「歌も書いたから、更に良い感じの文になったよね。」

文が乾いた事を確認すると、懐に大事そうに仕舞った。

硯箱を小脇に抱えた。

元気良く障子を開けると、部屋を出ていった。



多摩の空の色は、僅かに橙色に染まり始めている。

月が僅かな光を放ちながら、薄っすらと姿を見せている。



沖田総司は硯箱を小脇に抱えながら、薄っすらと見える月を見て、笑顔で呟いた。

「熟田津に 船乗りせむと 月待てば 潮もかなひぬ 今は漕ぎいでな」

僅かではあるが、先程より月の形がはっきりと見えるようになった。

沖田総司は視線を元に戻すと、硯箱を脇に抱えながら、笑顔のまま縁を歩き始めた。



その翌日の事。



ここは京の町。



一軒の道場。



竹刀の打ち込み合う音が聞こえてくる。



道場の師範代は、斉藤一という名前のまだ歳若い青年。

歳は若いが、剣の腕を見込まれて師範代となった。



斉藤一は普通の表情だが、道場の中には緊張感が漂っている。

門下生達は真剣な表情で竹刀を交えている。

斉藤一は門下生達に普通の表情で話し出す。

「本日の稽古は、これで終わりにする。」

門下生達は斉藤一を見ると、真剣な表情で話し出す。

「斉藤先生! ありがとうございました!」

斉藤一は門下生達に普通の表情で頷いた。



沖田総司は多摩に在る試衛館で指南免許を習得しました。

多摩に在る試衛館で稽古を就けています。

山口一は事情が合って江戸を離れて、斉藤一と名乗り始めました。

今は京に在る道場で剣の腕を見込まれて、師範代を勤めています。

沖田総司と斉藤一は、多摩と京に離れてしまいました。

沖田総司は、山口一が斉藤一と名前を変えた事を知りません。

斉藤一が京に居る事も知りません。

斉藤一は、沖田総司が上様の上洛の警護に就いて京に来る事を知りません。



沖田総司と斉藤一は、いろいろな事情が重なり離れてしまいましたが、再び近づこうとしています。

沖田総司と斉藤一を繋ぐ不思議な縁は、ずっと続いているようです。



船出の時間が近づいてきました。




〜 完 〜





はじめに       後書き

目次


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