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〜 雪月花 新撰組異聞外伝 編 〜


〜 白詰草の想い出 あはむとぞ思ふ 〜



「瀬をはやみ 岩にせかるる 滝川の われてもすゑに あはむとぞ思ふ」

「小倉百人一首 第七十七番」、及び、「詞花集」より

作者:崇徳院(すとくのいん)



明治と呼ばれる時代を迎えた。



沖田総司の息子の幼い敬一と母親の美鈴は、京都のある場所で静かに暮らしている。



美鈴と敬一にとっての大切な人の名前は、新撰組一番組組長 沖田総司。

沖田総司は病のために、明治という時代を前にして、若くして亡くなってしまった。



美鈴は、沖田総司の療養先の知り合いを通じて、亡くなった事を知った。

敬一は沖田総司と美鈴が離れている間に生まれたため、沖田総司と敬一が一緒に過ごした事もお互いの姿を見た事も一度もない。



新政府は治世の安定を図るために、戦いを続けている幕府側の関係者を探している。

新政府に見付かった者は、幕府側の関係者の行方を尋ねられ、悪くすれば処罰のために捕まっている。

新撰組や幕府への複雑な思いから、関係者を探している者もいる。



美鈴は敬一が幼い事もあり、京都から動く事が出来ない。

美鈴は京都の外に出た事がない。

美鈴が京都の外に行っても頼れる者は居ないに等しい。

幼い敬一と美鈴の二人で、知らない土地で生活するのはかなり厳しい事になる。

現在の美鈴と敬一にとって、危険は伴うが京都で生活をするのが一番安全な選択肢となっている。



美鈴は幼い敬一を守りながらの生活が続いている。

美鈴と敬一が落ち着いた生活を過ごす事が出来る様になるのは、もう少し先の事になるかも知れない。



時は明治の初め。



春の日の事。



ここは、京都。



幼い敬一と美鈴が住んでいる家。



美鈴は小さい紙を微笑んで見ている。

敬一は美鈴に微笑んで話し出す。

「おかあさん。ぼくもみたい。」

美鈴は小さい紙を見せると、敬一に微笑んで話し出す。

「四つ葉の白詰草を貼った紙よ。四つ葉の白詰草は、幸せ呼ぶお守りだそうなの。」

敬一は小さい紙を見ながら、美鈴に微笑んで話し出す。

「ほんとう?」

美鈴は小さい紙を持ちながら、敬一に微笑んで話し出す。

「本当よ。お父さんから話を聞いたの。」

敬一は美鈴を見ると、微笑んで話し出す。

「ぼくもほしい。」

美鈴は小さい紙を持ちながら、敬一に微笑んで話し出す。

「明日になったら、お母さんと一緒に四つ葉の白詰草を探しに行きましょうね。」

敬一は美鈴に微笑んで話し出す。

「おかあさんとおなじものがほしい。」

美鈴は小さい紙を持ちながら、敬一に微笑んで話し出す。

「四つ葉の白詰草を貼った紙は、この一枚しかないの。」

敬一は美鈴に寂しそうに話し出す。

「ぼくもおかあさんといっしょがいい。」

美鈴は小さい紙を持ちながら、敬一に微笑んで話し出す。

「敬一。お母さんの話を聞いてくれる?」

敬一は美鈴を不思議そうに見た。

美鈴は小さい紙を持ちながら、敬一に微笑んで話し出す。

「お父さんがお母さんのために見つけてくれた四つ葉の白詰草なの。お母さんが押花にしたの。敬一が大きくなっても欲しいと思ったら、これをあげる。でも、それまではお母さんが持っていたいと思っているの。」

敬一は美鈴を寂しそうに見た。

美鈴は小さい紙を持ちながら、敬一に微笑んで話し出す。

「敬一。お願いがあるの。」

敬一は美鈴を不思議そうに見た。

美鈴は小さい紙を持ちながら、敬一に微笑んで話し出す。

「敬一にお母さんの持っている四つ葉の白詰草を預けるわね。敬一が大きくなったらお母さんに返してね。」

敬一は美鈴に嬉しそうに話し出す。

「わかった!」

美鈴は敬一に微笑んで話し出す。

「無くさない様に、お守りの中に仕舞っておきましょうね。」

敬一は美鈴に笑顔で頷いた。

美鈴は小さい紙を丁寧にたたむと、敬一のお守りの中に仕舞った。

敬一は美鈴を笑顔で見た。

美鈴は敬一に微笑んで話し出す。

「敬一。お昼寝をしましょう。」

敬一は美鈴の笑顔で頷いた。



美鈴は敬一の昼寝の支度を始めた。



それから少し後の事。



ここは敬一と美鈴の家。



敬一は気持ち良さそうに昼寝をしている。



美鈴は沖田総司の位牌の前に居る。



美鈴は沖田総司の位牌に微笑んで話し出す。

「敬一に総司さんから頂いた四つ葉の白詰草を預けました。お守りの中に入れたので、無くす事はないと思います。でも敬一は幼いので、四つ葉の白詰草の事は忘れてしまうかも知れません。でも、これで良かったですよね。」

部屋の中には美鈴の穏やかな声だけが聞こえている。

美鈴は沖田総司の位牌に微笑んで話し出す。

「また何かあったらお話しを聞いてください。」

言い終わると、ゆっくりと立ち上がり、敬一の様子を確認しに行った。



それからいくつかの季節が過ぎた。



敬一と美鈴だけの生活を始めてから、何度目かの春の季節を迎えた。

敬一と美鈴は、京都から東京に移り、新たに生活を始めている。



敬一は、父親である沖田総司が信頼をしていた斉藤一に逢いに出掛けた。



斉藤一は藤田五郎と名乗っていた。



敬一は藤田五郎の家に頻繁に出掛けるようになった。

藤田五郎の妻の時尾は、敬一に優しく接してくれる。

藤田五郎と時尾の息子で幼い勉は、敬一が訪ねてくると喜んでくれる。



敬一にとっては楽しい日々が続いている。



そんなある春の日の事。



ここは、東京の町。



綺麗な青空が広がっている。



ここは、藤田五郎、時尾、勉の家。



敬一は、藤田五郎の家を訪れている。



敬一は時尾に微笑んで話し出す。

「今日は勉君と遊びに来ました。」

時尾は敬一に微笑んで話し出す。

「いつも勉と一緒に遊んでくれてありがとう。」

敬一は時尾に微笑んで話し出す。

「勉君と一緒に遊ぶのは楽しいです。」

時尾は敬一に微笑んで話し出す。

「勉を連れてきます。少し待っていてくださいね。」

敬一は時尾に微笑んで話し出す。

「はい。」

時尾は勉の居る部屋に行こうとした。

敬一は数本の白詰草の花が活けてある小さい器を見つけた。

時尾は敬一に微笑んで話し出す。

「勉と一緒に出掛けた時に、白詰草の花を摘んできたの。」

敬一は時尾に微笑んで話し出す。

「お母さんと一緒に京都や東京で見た事があります。」

時尾は敬一を微笑んで見た。

敬一は白詰草の花を不思議そうに見た。

時尾は敬一に不思議そうに話し出す。

「何かありましたか?」

敬一は時尾に考え込みながら話し出す。

「白詰草の事で、お母さんと大事な話しをしました。でも、なぜだか分からないけれど、話の内容を思い出す事が出来ません。」

時尾は敬一に微笑んで話し出す。

「考え込み始めると、思い出せない事が多いから、焦らずに考えた方が良いわよ。」

敬一は時尾に微笑んで話し出す。

「はい。」

時尾は敬一に微笑んで話し掛ける。

「今日は良い気だから、私と勉と敬一君の三人で、白詰草を見に行きましょうか。」

敬一は時尾に微笑んで話し出す。

「はい。」

時尾は敬一に微笑んで話し出す。

「出掛ける支度をするので、少し待っていてね。」

敬一は時尾に微笑んで話し出す。

「はい。」

時尾は勉の居る部屋へと向かった。



それから少し後の事。



ここは、藤田五郎の家。



敬一は時尾と勉の出掛ける支度が終わるのを待っている。



勉が敬一の前に嬉しそうに来た。

時尾は敬一の前に微笑んで現れた。

敬一は勉に微笑んで話し出す。

「勉君。一緒に出掛けられるね。楽しみだね。」

勉は敬一に笑顔で頷いた。



時尾、勉、敬一の三人は、白詰草を見るために出掛けて行った。



ここは、東京の町に在るたくさんの白詰草が咲いている場所。



綺麗な青空が広がっている。



勉は敬一に嬉しそうに話し出す。

「いっしょ。あそぶ。」

敬一は勉に笑顔で話し出す。

「白詰草を一緒に見ようね!」

勉は敬一に笑顔で頷いた。

敬一は白詰草を笑顔で見始めた。

勉も白詰草を笑顔で見始めた。

時尾は木の下に座ると、敬一と勉の様子を微笑んで見始めた。



勉は敬一を見ると、微笑んで話し出す。

「あそぼ。」

敬一は勉を見ると、微笑んで話し出す。

「白詰草を見るのは飽きたのかな?」

勉は敬一に微笑んで話し出す。

「あそぼ。」

敬一は勉を微笑んで見た。

時尾は敬一と勉の傍に微笑みながら来た。

勉は時尾を笑顔で見た。

時尾は勉に微笑んで話し出す。

「勉。白詰草の冠を作ってあげる。」

勉は時尾に笑顔で頷いた。

敬一は時尾を不思議そうに見た。

時尾は敬一を見ると、微笑んで話し出す。

「白詰草の花で冠を作るの。敬一君の分も作るから、少し待っていてくださいね。」

敬一は時尾に慌てた様子で話し出す。

「二人分の冠を作ったら、時尾さんに負担が掛かります! 僕の事は気にしないでください!」

時尾は敬一に微笑んで話し出す。

「敬一君が想像するほど大変ではないと思うの。だから遠慮する必要はないのよ。」

敬一は時尾に微笑んで話し出す。

「お願いします。」

時尾は敬一を微笑んで見た。

敬一は時尾を微笑んで見た。

時尾は近くにある白詰草の花を採り始めた。

勉は白詰草の花を採ると、時尾に笑顔で渡した。

時尾は勉から白詰草の花を受け取ると、微笑んで話し出す。

「勉。ありがとう。」

勉は時尾を笑顔で見た。

敬一は時尾と勉の様子を微笑んで見た。



時尾は白詰草の冠を作り始めた。



白詰草の冠が出来上がった。



時尾は白詰草の冠を持ちながら、勉に微笑んで話し出す。

「白詰草の冠が出来たわよ。」

勉は時尾を笑顔で見た。

時尾は勉の頭に白詰草の冠を微笑んで載せた。

勉は白詰草の花の冠を頭の上に載せながら、嬉しそうにしている。

敬一は時尾と勉の様子を微笑んで見ていたが、突然に何かを思い出した表情になった。

時尾は敬一を不思議そうに見た。

敬一は時尾に微笑んで話し出す。

「少しだけ思い出しました。」

時尾は敬一に微笑んで話し出す。

「良かったですね。」

敬一は時尾に微笑んで話し出す。

「はい。」

勉は白詰草の花の冠を載せながら、時尾と敬一を嬉しそうに見た。

敬一は時尾に微笑んで話し出す。

「斉藤さんと話しがしたいです。後で都合の良い日を教えてください。」

時尾は敬一に微笑んで頷いた。

敬一は時尾に微笑んで話し出す。

「今から少しだけ探し物がしたいです。時間は大丈夫ですか?」

時尾は敬一に微笑んで頷いた。



敬一は時尾と勉の傍で微笑みながら何かを探し始めた。



それから暫く後の事。



ここは、藤田五郎の家。



敬一は既に帰っている。

時尾と勉の二人が家の中に居る。



藤田五郎が家に帰ってきた。



時尾は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「今日、敬一君が家に来ました。勉と一緒に遊んでくれました。」

藤田五郎は時尾を普通の表情で見た。

時尾は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「敬一君が五郎さんと話しがしたいので、都合の良い日を教えて欲しいと話しをしていました。」

藤田五郎は時尾に普通の表情で頷いた。

時尾は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「敬一君は白詰草の事で、何か聞きたい事があるのだと思います。」

藤田五郎は時尾に普通の表情で頷いた。

時尾は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「先にお酒を飲まれますか?」

藤田五郎は時尾に普通の表情で頷いた。

時尾は台所へと居なくなった。



それから何日か後の事。



ここは、藤田五郎の家。



敬一は藤田五郎の家を訪れている。



時尾は敬一に微笑んで話し出す。

「敬一君から頼まれている物だけど、二日ほど待ってくれるかしら? 藤田も二日後なら話しが出来るそうなの。」

敬一は時尾に微笑んで話し出す。

「分かりました。」

時尾は敬一に微笑んで話し出す。

「飲み物を用意します。少し待っていてくださいね。」

敬一は時尾に微笑んで話し出す。

「ありがとうございます。」

時尾は敬一の返事を微笑んで確認すると、台所へと居なくなった。



それから二日後の事。



ここは、東京の町。



朝から青空が広がっている。



ここは、敬一と美鈴の家。



美鈴は洗濯物を干している。

敬一は美鈴の傍に来ると、微笑んで話し出す。

「お母さん。斉藤さんの家に出掛けてくるね。」

美鈴は洗濯物を干すのを止めて、敬一を見ると、微笑んで話し出す。

「斉藤さんに迷惑を掛けないようにね。」

敬一は美鈴に微笑んで頷いた。

美鈴は敬一に微笑んで話し出す。

「行ってらっしゃい。」

敬一は美鈴に笑顔で話し出す。

「行ってきます!」

美鈴は敬一を微笑んで見た。



敬一は元気良く出掛けて行った。



それから少し後の事。



ここは、藤田五郎の家。



敬一は藤田五郎の家を訪れている。



敬一は直ぐに藤田五郎の部屋へと向かった。



ここは、藤田五郎の部屋の前。



敬一は藤田五郎の部屋の前に来ると、微笑んで声を掛けようとした。

障子が開いて、藤田五郎の姿が現れた。

敬一は藤田五郎に僅かに驚いた様子で話し出す。

「斉藤さん。こんにちは。」

藤田五郎は敬一に普通に話し出す。

「なかに入れ。」

敬一は藤田五郎に軽く礼をすると、部屋の中へと入っていった。



ここは、藤田五郎の部屋の中。



藤田五郎と敬一は、部屋の中に二人きりとなっている。



敬一は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「今日は斉藤さんに確認したい事があって来ました。」

藤田五郎は敬一に普通の表情で頷いた。

敬一は自分が持っているお守りの中から、小さい紙を取り出した。

藤田五郎は敬一を普通の表情で見ている。

敬一は藤田五郎に小さい紙を見せると、確認するように話し出す。

「僕とお母さんが京都に居た頃に、四つ葉の白詰草を押花にして貼った紙を、お母さんからもらいました。つい最近まで、お守りの中に仕舞ってあった事を忘れていました。」

藤田五郎は敬一を普通の表情で見ている。

敬一は藤田五郎に確認するように話し出す。

「お父さんがお母さんに贈った四つ葉の白詰草だという事も思い出しました。でも、お母さんとの話しの内容をはっきりと覚えていないので、僕が持っている理由が分かりません。」

藤田五郎は敬一を普通の表情で見ている。

敬一は藤田五郎に確認するように話し出す。

「お母さんから無理にもらった物かも知れません。だとしたら、お母さんに急いで返したいです。でも、僕が持っていないといけない物かも知れません。どうしたら良いのか分からなくなってしまって、斉藤さんに相談しにきました。」

藤田五郎は敬一に普通に話し出す。

「美鈴さんに話を聞いたらどうだ?」

敬一は藤田五郎に言い難そうに話し出す。

「お母さんに話しを聞く事は出来ません。もしお母さんに話を聞いたら、覚えていない事が分かってしまいます。」

藤田五郎は敬一に普通に話し出す。

「敬一の持っている四つ葉の白詰草は、総司が美鈴さんと一緒になる前に、総司が美鈴さんに贈った物だ。総司が美鈴さんに白詰草を贈ったきっかけは、二人に気を利かせた新撰組の幹部の一人が、総司に四つ葉の白詰草の話をした事になる。」

敬一は藤田五郎を真剣な表情で見た。

藤田五郎は敬一に普通に話し出す。

「異国では、四つ葉の白詰草は、幸運のお守りとして扱われているそうだ。総司はその話を聞いて、美鈴さんに歌と四つ葉の白詰草を一緒に贈る事にした。美鈴さんは総司からもらった四つ葉の白詰草を押花にして、総司が歌を書いた紙に貼って大事にしていた。」

敬一は藤田五郎に心配そうに話し出す。

「お母さんに返した方が良いのかな?」

藤田五郎は敬一に普通に話し出す。

「それは敬一が決める事だ。」

敬一は藤田五郎に言い難そうに話し出す。

「僕が無理にもらったのなら、早く返したいんだ。でも、お母さんが僕に譲ってくれたかも知れないよね。だとしたら、お母さんに話をしないで、ずっと持っていたいんだ。」

藤田五郎は敬一に普通に話し出す。

「敬一の話しからすると、敬一が美鈴さんから四つ葉の白詰草の押花を貼った紙を受け取ったのは、京都に住んでいる頃になる。俺には詳しい経緯は分からない。」

敬一は困った様子で下を向いてしまった。

藤田五郎は敬一に普通に話し出す。

「気になるなら美鈴さんに話をしろ。」

敬一は顔を上げると、藤田五郎を悩みながら見た。

藤田五郎は敬一に普通に話し出す。

「悩んでいても答えは出ないぞ。美鈴さんとしっかりと話しをしろ。敬一が本当に欲しい物ならば、改めて美鈴さんから譲ってもらえば良いだろ。」

敬一は藤田五郎を悩みながら見た。

藤田五郎は敬一に普通に話し出す。

「四つ葉の白詰草が幸運のお守りと言われている。総司は美鈴さんに四つ葉の白詰草を贈った。美鈴さんは敬一に四つ葉の白詰草を預けたか譲った。この三つが事実だという事は分かるよな。」

敬一は藤田五郎に悩みながら頷いた。

藤田五郎は敬一を普通の表情で見た。



部屋の外から、時尾の穏やかな声が聞こえてきた。

「敬一君に渡したい物があって来ました。」



藤田五郎は普通の表情で障子を開けた。



時尾は小さい紙を持ちながら、部屋の外に微笑んで立っていた。



藤田五郎は時尾を普通の表情で見た。

敬一は藤田五郎の後で、時尾を僅かに悩んだ表情で見た。

時尾は四つ葉の白詰草を貼った小さな紙を差し出すと、敬一に微笑んで話し出す。

「敬一君から頼まれていた四つ葉の白詰草の押花が出来上がったの。早く渡したくて持ってきたの。」

敬一は四つ葉の白詰草の押花を貼った小さな紙を受け取ると、時尾に微笑んで話し出す。

「ありがとうございます。」

時尾は藤田五郎と敬一に微笑んで軽く礼をすると、部屋の前から去っていった。



藤田五郎は障子を閉めると、敬一を普通の表情で見た。

敬一は四つ葉の白詰草の押花を貼った小さな紙を丁寧に仕舞うと、藤田五郎に微笑んで話し出す。

「お母さんにも四つ葉の白詰草を持っていて欲しいと思ったんだ。僕も四つ葉の白詰草を持っていたいと思ったんだ。時尾さんと勉君と一緒に出掛けた時に、四つ葉の白詰草を見付けたから、時尾さんに押花にして欲しいと頼んだんだ。」

藤田五郎は敬一を普通の表情で見た。

敬一は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「お母さんに僕が持っている四つ葉の白詰草を返す事になったら、僕が見付けた四つ葉の白詰草は、自分で持つ事にします。」

藤田五郎は敬一に普通の表情で頷いた。

敬一は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「斉藤さん。もう一つお願いがあります。」

藤田五郎は敬一を普通の表情で見た。



それから暫く後の事。



ここは、敬一と美鈴の家。



美鈴は洗濯物を取り込んでいる。

玄関から敬一が帰ってきた音が聞こえた。

美鈴は洗濯物の取り込みを止めると、微笑みながら玄関へと向かった。



ここは、敬一と美鈴の家の玄関。



美鈴は玄関に来たが、敬一は居ない。



敬一の明るい声が、美鈴の後ろから聞こえてきた。

「お母さん! ただいま!」

美鈴は後ろを振り向くと、敬一に微笑んで話し出す。

「お帰りなさい。」

敬一は美鈴を笑顔で見た。



それから少し後の事。



ここは、沖田総司の位牌の在る部屋。



美鈴は沖田総司の位牌の前に微笑んで来た。



沖田総司の位牌の前に二枚の紙が置いてあった。

美鈴は不思議そうに二枚の紙を手に取った。



一枚は、美鈴が敬一に譲った、沖田総司が美鈴に贈った四つ葉の白詰草を押花にして、四つ葉の白詰草と一緒に贈った歌を書いた和紙に貼った物。

もう一枚は、最近採ったと思われる四つ葉の白詰草を押花にして、歌を書いた真新しい和紙に貼った物。



美鈴は二枚の和紙を微笑みながら見ていた。



真新しい和紙に書いてある歌が、美鈴にとって見慣れた筆跡で書いてある。



美鈴は真新しい和紙に書いてある歌を思議そうに読み始めた。



美鈴は読み終わると、真新しい和紙を優しく胸に抱いた。

悲しくないのに、自然と涙が流れてくる。

美鈴は真新しい和紙を胸に抱きながら、沖田総司の位牌に微笑みながら呟いた。

「総司さん。ありがとうございます。」

言い終わると、真新しい和紙と古い和紙を優しく胸に抱いて、静かに泣き続けた。



敬一は、部屋の外から美鈴の様子を笑顔で見た。



美鈴は沖田総司の位牌の前で泣いているように見える。



敬一は部屋の中へと慌てた様子で入っていった。



敬一は美鈴の傍に来ると、心配そうに話し出す。

「お母さん。何か遭ったの? 大丈夫?」

美鈴は二枚の和紙を沖田総司の位牌の前に戻すと、直ぐに涙を拭いた。

敬一は美鈴を心配そうに見た。

美鈴は敬一に微笑んで話し出す。

「大丈夫よ。」

敬一は美鈴に心配そうに話し出す。

「でもお母さんは泣いていたよね。」

美鈴は敬一に微笑んで話し出す。

「泣いていないから大丈夫よ。」

敬一は美鈴を心配そうに見た。

美鈴は沖田総司の位牌の前に戻した古い和紙を手に取った。

敬一は美鈴を心配そうに見ている。

美鈴は古い和紙を持ちながら、敬一に微笑んで話し出す。

「敬一。この紙に貼ってある物は、四つ葉の白詰草なの。幸運のお守りなの。お父さんがお母さんのために探してくれた贈り物なの。」

敬一は美鈴を心配そうに見ている。

美鈴は古い和紙を差し出すと、敬一に微笑んで話し出す。

「お父さんからの贈り物の四つ葉の白詰草は、敬一に預けるわね。大きくなった時にお母さんに返してね。」

敬一は古い和紙を心配そうに受け取った。

美鈴は沖田総司の位牌の前から、真新しい和紙を手に取ると、敬一に微笑んで話し出す。

「こちらの押花の貼ってある紙は、お母さんが預かっていても良いかしら? 敬一が必要になった時に声を掛けてね。その時は直ぐに敬一に返すわね。」

敬一は古い和紙を持ちながら、美鈴に配そうに頷いた。

美鈴は真新しい和紙を持ちながら、敬一に微笑んで話し出す。

「お父さんからの贈り物の四つ葉の白詰草を貼った紙は、敬一のお守りの中に仕舞っておきましょう。」

敬一は美鈴に心配そうに頷くと、自分の持っているお守りの中へと古い和紙を丁寧に仕舞った。

美鈴は真新しい和紙を持ちながら、敬一に微笑んで話し出す。

「もう一枚の四つ葉の白詰草の押花の貼った紙は、お母さんのお守りの中に大事に仕舞っておくわね。」

敬一は美鈴に心配そうに頷いた。

美鈴は真新しい和紙を、自分のお守りの中に丁寧に仕舞った。

敬一は美鈴を心配そうに見た。

美鈴は敬一に微笑んで話し掛ける。

「二人一緒に幸運のお守りを持っているわね。」

敬一は美鈴に微笑んで頷いた。

美鈴は敬一に微笑んで話し出す。

「敬一。お腹が空いたわよね。何か用意をするから待っていてね。」

敬一は美鈴に微笑んで頷いた。



ここは、藤田五郎の家の庭。



藤田五郎は一人で庭に居る。



藤田五郎は普通の表情で空を見上げた。



綺麗な青空が広がっている。



藤田五郎は青空を見ながら、普通の表情で呟いた。

「瀬をはやみ 岩にせかるる 滝川の われてもすゑに あはむとぞ思ふ」

青空の中を白い雲がゆっくりと動いている。

藤田五郎は青空を見ながら、普通の表情で呟いた。

「敬一が総司の代わりに美鈴さんのために選んだ歌だ。総司より筋が良いぞ。さすが美鈴さんの子だな。」



辺りに心地良い風が吹いた。



藤田五郎は辺りを普通の表情で見回した。

庭には桜が咲いている様子はない。

藤田五郎は普通の表情で青空を見上げた。



青空の中を先程より僅かに早く白い雲が動いている。



藤田五郎は青空を見上げながら、普通の表情で呟いた。

「敬一はしっかりとしている。さすが美鈴さんの子だ。」

視線を戻すと、辺りを普通の表情で見回した。

辺りには桜の咲いている様子はない。

藤田五郎は青空を見上げると、普通の表情で呟いた。

「総司らしいな。」



辺りに心地良い風が吹いてきた。



藤田五郎は視線を戻すと、部屋の中へと戻っていった。



「お父さんがお母さんに贈った四つ葉の白詰草を、もし僕がもらうなら、お母さんに僕が見付けた四つ葉の白詰草を贈りたいんだ。僕がお父さんの代わりに歌を選んで、歌を紙に書いて、四つ葉の白詰草を貼るんだ。お母さんに僕が持っている紙を返す事になったら、僕が見付けた四つ葉の白詰草を貼った歌を書いた紙は、自分のために持つ事にするんだ。」

「斉藤さん。歌を選ぶのを手伝ってください」

「瀬をはやみ 岩にせかるる 滝川の われてもすゑに あはむとぞ思ふ」

「斉藤さん。お父さんや斉藤さんの仕事を悪く言う人が居るよね。お父さんとお母さんは離れ離れになってしまった後も、必ず逢えると信じていたと思うんだ。意味は少し違うかも知れないけれど、良い歌だなと思ったんだ。」

「お母さんはこの歌を喜んでくれるかな?」

「お父さんの笑顔が見てみたいな。」

「お父さんとお母さんが、楽しそうに話をしている様子を見てみたいな。」




〜 完 〜





はじめに           本編           後書き

目次


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