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〜 雪月花 新撰組異聞外伝 編 〜


〜 秋 七種の花 藤袴 朝顔の花 そして 〜


「秋の野に 咲きたる花を 指折り かき数ふれば 七種の花」

「万葉集 第八巻 一五三七番」

作者:山上憶良(やまのうえのおくら)



「萩の花 尾花 葛花 なでしこの花 をみなえし また藤袴 朝顔の花」

「万葉集 第八巻 一五三八番」

作者:山上憶良(やまのうえのおくら)



時は明治。



今は政府の治世。

政府の治世の前は、幕府の治世だった。

幕府と政府の間で戦いがあった。

幕府は戦に負けて、政府の治世になった。



政府も世間も幕府に最期まで味方した者や家族への対応は冷たい。

幕府に最期まで味方した者や家族の中には、目立たないように過ごす者や過去を隠して過ごす者がいる。



沖田総司は新撰組一番組組長を務めていたので、幕府側の立場の者になる。

沖田総司は、病のために戦いにはほとんど加わらず、戦いの結末も知らずに病のために亡くなったが、政府も世間も幕府側の立場の者として考えている。

沖田総司には、妻の美鈴と生まれたばかりの息子の敬一という大切な家族が居た。

沖田総司は戦いによる混乱のために、生まれたばかりの息子の敬一に一度も逢えずに亡くなった。



それから幾つかの季節が過ぎた。



今は秋。



ここは、京都。



日中は暑さを感じる時があるが、陽が落ちると暑さを感じなくなってきた。



美鈴と敬一は、沖田総司を慕い尊敬しながらも、沖田総司の家族だと分からないように過ごしている。

美鈴は、敬一を守り育てながら笑顔で過ごしている。

敬一は、美鈴を慕いながら笑顔で過ごしている。



ここは、幼い敬一と美鈴の住む家。



ここは、縁の傍。



美鈴は微笑んで縫い物をしている。



敬一は美鈴の傍に笑顔で来た。



美鈴は縫い物の手を止めると、敬一を微笑んで見た。

敬一は美鈴に笑顔で話し出す。

「おかあさん。しごと。」

美鈴は敬一に微笑んで頷いた。

敬一は美鈴に笑顔で話し出す。

「きれい。よろこぶ。」

美鈴は敬一に微笑んで話し出す。

「受け取る人に喜んでもらえるように努力するわね。」

敬一は美鈴を笑顔で見た。

美鈴は敬一に微笑んで話し出す。

「少し経ったら休むから、待っていてね。」

敬一は美鈴に笑顔で話し出す。

「いっしょ。しごと。みる。」

美鈴は敬一を微笑んで頷いた。

敬一は美鈴を笑顔で見た。

美鈴は微笑んで縫い物をした。



それから少し後の事。



ここは、食卓の有る部屋。



美鈴は麦茶を微笑んで入れている。

敬一は美鈴を笑顔で見ている。



美鈴は食卓の上に麦茶を置くと、敬一に微笑んで話し出す。

「薄めの麦茶を入れたの。熱いから少し経ってから飲みましょう。」

敬一は美鈴に笑顔で頷いた。

美鈴は敬一に微笑んで話し出す。

「敬一。見せたい物があるの。」

敬一は美鈴に笑顔で頷いた。



美鈴は箪笥の前に微笑んで来た。

敬一は美鈴の傍に笑顔で来た。



美鈴は箪笥の引き出しを開けると、秋の七草の柄の千代紙を丁寧に取り出した。

敬一は美鈴を笑顔で見た。

美鈴は箪笥の引き出しを閉めると、敬一の前に秋の七草の柄の千代紙を微笑んで置いた。

敬一は秋の七草の柄の千代紙を見ると、美鈴に笑顔で話し出す。

「きれい。」

美鈴は敬一に微笑んで話し出す。

「お父さんがお母さんに贈った秋の七草の柄の千代紙よ。大切な贈り物よ。」

敬一は美鈴を笑顔で話し出す。

「あき。ななくさ。ちよがみ。おくりもの。」

美鈴は敬一に微笑んで頷いた。

敬一は秋の七草の柄の千代紙を笑顔で見た。

美鈴は敬一に微笑んで話し出す。

「良い機会だから、秋の七草の説明をするわね。」

敬一は美鈴を見ると、笑顔で頷いた。

美鈴は秋の七草の柄の千代紙の柄を一つずつ差しながら、敬一に微笑んで話し出す。

「萩、薄、葛、撫子、女郎花、藤袴、桔梗。」

敬一は秋の七草の柄の千代紙の柄を一つずつ指しながら、美鈴に笑顔で話し出す。

「はぎ、すすき、くず、なでしこ、をみなえし、ふじばかま、ききょう。」

美鈴は秋の七草の柄の千代紙を指すのを止めると、敬一に微笑んで話し出す。

「敬一。凄いわ。秋の七草を全て言えたわよ。」

敬一は秋の七草の柄の千代紙を指すのを止めると、美鈴を笑顔で見た。

美鈴は敬一に微笑んで話し出す。

「お父さんから、秋の七草の柄の千代紙と一緒に、歌を二首もらったの。」

敬一は美鈴に笑顔で話し出す。

「おしえて。」

美鈴は敬一に微笑んで話し出す。

「“秋の野に 咲きたる花を 指折り かき数ふれば 七種の花”。“萩の花 尾花 葛花 なでしこの花 をみなえし また藤袴 朝顔の花”。」

敬一は美鈴を不思議そうに見た。

美鈴は敬一に微笑んで話し出す。

「今の敬一には難しいわよね。敬一が大きくなったら、歌について説明するわね。」

敬一は美鈴に笑顔で話し出す。

「あき。ななくさ。うた。おぼえる。」

美鈴は敬一に微笑んで話し出す。

「二首を一緒に覚えるのは大変だから、一首だけ覚えましょう。残り一首は、敬一が大きくなってから覚えましょう。」

敬一は美鈴に笑顔で頷いた。

美鈴は秋の七草の柄の千代紙の柄を指しながら、敬一に微笑んで話し出す。

「“萩の花 尾花 葛花 なでしこの花 をみなえし また藤袴 朝顔の花”」

敬一は秋の七草の柄の千代紙の柄を指しながら、美鈴に笑顔で話し出す。

「“はぎのはな をばな くずはな なでしこのはな をみなえし またふぢばかま あさがほのはな”」

美鈴は秋の七草の柄の千代紙を指すのを止めると、敬一に微笑んで話し出す。

「敬一。秋の七草の歌を覚えたのね。凄いわよ。」

敬一は秋の七草の柄の千代紙を指すのを止めると、美鈴を笑顔で見た。

美鈴は敬一に微笑んで話し出す。

「“尾花”は薄の別名なの。“朝顔”は花の種類は分からないけれど、“桔梗”として親しんでいる人が多いの。」

敬一は美鈴を笑顔で見た。

美鈴は敬一を微笑んで見た。

敬一は美鈴に笑顔で話し出す。

「おとうさん。おかあさん。ぼく。いっしょ。あき。ななくさ。ちよがみ。ほしい。」

美鈴は敬一に微笑んで話し出す。

「秋の七草の柄の千代紙は、お父さんが特別に作ったから、今は手に入らないの。敬一。大事に使える?」

敬一は美鈴に笑顔で話し出す。

「だいじ。つかう。」

美鈴は秋の七草の柄の千代紙を微笑んで取った。

敬一は美鈴を笑顔で見た。

美鈴は敬一に秋の七草の柄の千代紙を差し出すと、微笑んで話し出す。

「敬一に秋の七草の柄の千代紙をあげる。」

敬一は美鈴から秋の七草の柄の千代紙を受け取ると、笑顔で話し出す。

「ありがと。だいじ。する。」

美鈴は敬一を微笑んで見た。

敬一は秋の七草の柄の千代紙を持ちながら、美鈴を笑顔で見た。

美鈴は敬一に微笑んで話し出す。

「敬一。麦茶を飲みましょう。」

敬一は美鈴に秋の七草の柄の千代紙を差し出すと、笑顔で話し出す。

「だいじ。しまう。」

美鈴は敬一から秋の七草の柄の千代紙を受け取ると、微笑んで頷いた。

敬一は美鈴を笑顔で見た。

美鈴は秋の七草の柄の千代紙を箪笥に丁寧に仕舞った。



敬一は食卓の前に笑顔で座った。

美鈴は食卓の前に微笑んで座った。



美鈴は敬一に微笑んで話し出す。

「いただきます。」

敬一は美鈴に笑顔で話し出す。

「いただきます。」

美鈴は麦茶を微笑んで飲み始めた。

敬一は麦茶を美味しそうに飲み始めた。



それから幾つもの季節が過ぎた。



敬一と美鈴は、京都から東京に住いを替えた。



今は秋。



ここは、東京の町。



日中は暑さを感じる時があるが、陽が落ちると暑さを感じなくなってきた。



ここは、敬一と美鈴の住む家。



縁の傍。



美鈴は微笑んで縫い物をしている。



敬一は美鈴の前に笑顔で来た。



美鈴は縫い物を止めると、敬一に微笑んで話し出す。

「斉藤さんの家に出掛けなくて良いの?」

敬一は美鈴に微笑んで話し出す。

「時尾さんと勉君に秋の七草の柄の千代紙の話をしたんだ。勉君が秋の七草の柄の千代紙を見たいと言ったんだ。勉君に秋の七草の千代紙を見せるために持って行くんだ。秋の七草の柄の千代紙を持って行く準備が出来たら出掛けるよ。」

美鈴は敬一に微笑んで話し出す。

「時尾さんと勉君が喜んでくれると良いわね。」

敬一は美鈴に微笑んで頷いた。

美鈴は敬一に微笑んで話し出す。

「敬一。風呂敷を用意するから少し待っていてね。」

敬一は美鈴に微笑んで話し出す。

「さすがお母さん。」

美鈴は敬一を微笑んで見た。



美鈴は家の中へと微笑んで入って行った。

敬一も家の中へと微笑んで入って行った。



それから暫く後の事。



ここは、藤田五郎、妻の時尾、幼い息子の勉の住む家。



藤田五郎は仕事のために家に居ない。



ここは、時尾と勉の部屋。



時尾は微笑んで居る。

時尾の傍には、焙じ茶が載ったお盆が置いてある。

勉は笑顔で居る。

敬一は微笑んで居る。

敬一の傍には、包みが置いてある。



敬一は包みを微笑んで広げた。

時尾は包みを微笑んで見た。

勉は包みを笑顔で見た。



包みの中には、秋の七草の柄の千代紙が入っている。



勉は秋の七草の柄の千代紙を見ながら、時尾と敬一に笑顔で話し出す。

「きれい。」

時尾は秋の七草の柄の千代紙を見ながら、勉と敬一に微笑んで話し出す。

「敬一君の話の通り、綺麗な秋の七草の柄の千代紙ね。」

敬一は時尾と勉を微笑んで見た。

勉は時尾と敬一を見ると、笑顔で話し出す。

「あき。ななくさ。」

時尾は勉に微笑んで話し出す。

「秋の七草が一度に見られるわね。」

勉は時尾に笑顔で頷いた。

敬一は時尾に微笑んで話し出す。

「秋の七草が一緒に見られるように考えて作った柄だそうです。僕が幼い頃にお母さんから譲り受けました。」

時尾は敬一に微笑んで話し出す。

「千代紙の柄を考えた人は、風流な人だったのね。」

敬一は時尾を嬉しそうに見た。

勉は敬一に笑顔で話し出す。

「おにいちゃん。うれしい。」

敬一は勉を見ると、笑顔で頷いた。

時尾は勉と敬一を微笑んで見た。

敬一は勉に微笑んで話し出す。

「お母さんから秋の七草の柄の千代紙を分けてもらった時に、秋の七草を詠んだ歌を教えてくれたんだ。」

勉は敬一に笑顔で話し出す。

「おしえて。」

敬一は時尾を微笑んで見た。

時尾は敬一に微笑んで頷いた。

敬一は勉に微笑んで話し出す。

「秋の七草の柄の千代紙を使いながら、秋の七草を詠んだ歌を教えるね。」

勉は敬一に笑顔で頷いた。

敬一は秋の七草の柄の千代紙の柄を一つずつ指しながら、勉に微笑んで話し出す。

「“萩の花 尾花 葛花 なでしこの花 をみなえし また藤袴 朝顔の花”」

勉は秋の七草の柄の千代紙の柄の秋の七草を一つずつ指しながら、敬一に笑顔で話し出す。

「“はぎのはな をばな くずはな なでしこのはな をみなえし またふぢばかま あさがほのはな”」

敬一は勉に微笑んで話し出す。

「勉君。歌を詠めたね。凄いね。」

勉は時尾と敬一に笑顔で話し出す。

「すごい。」

時尾は勉に微笑んで頷いた。

勉は時尾に笑顔で話し出す。

「あき。ななくさ。ちよがみ。ほしい。」

時尾は敬一に微笑んで話し出す。

「敬一君。秋の七草の柄の千代紙を手に入れたのは京都よね。」

敬一は時尾に微笑んで話し出す。

「はい。」

時尾は勉に微笑んで話し出す。

「勉。敬一君の持っている千代紙と同じ柄は手に入らないかも知れないけれど、近い内に秋の七草の柄の千代紙を探しに行きましょう。」

勉は時尾に笑顔で頷いた。

敬一は時尾に微笑んで話し出す。

「時尾さん。秋の七草の柄の千代紙が見付からなかったら、この千代紙を差し上げます。」

時尾は敬一に微笑んで話し出す。

「気を遣わないで。」

敬一は時尾に微笑んで話し出す。

「いつもお世話になっているお礼として受け取ってください。」

勉は敬一に笑顔で話し出す。

「おにいちゃん。ありがと。たいせつ。する。」

時尾は勉に微笑んで話し出す。

「勉。今は千代紙をもらうと決まっていないの。千代紙をもらうと決まった時にお礼を言いましょう。」

勉は時尾に笑顔で頷いた。

敬一は時尾と勉を微笑んで見た。



それから暫く後の事。



ここは、敬一と美鈴の住む家。



玄関。



敬一は風呂敷を持ちながら、笑顔で帰ってきた。



美鈴は敬一の前に微笑んで現れた。



敬一は風呂敷を持ちながら、美鈴に笑顔で話し出す。

「お母さん! ただいま!」

美鈴は敬一に微笑んで話し出す。

「敬一。お帰りなさい。」

敬一は風呂敷を持ちながら、美鈴を笑顔で見た。

美鈴は敬一と風呂敷を不思議そうに見た。

敬一は風呂敷を持ちながら、美鈴に微笑んで話し出す。

「勉君に秋の七草の柄の千代紙を使いながら、秋の七草を詠んだ歌を教えたんだ。勉君が秋の七草の歌を勉強したいから、千代紙が欲しいと言ったんだ。時尾さんは勉君に秋の七草の柄の千代紙を探そうと話したんだ。秋の七草の柄の千代紙が見付からないと、勉君が寂しがるかも知れないわね。秋の七草の柄の千代紙が見付からない時は、勉君に譲ると言って預けてきたんだ。」

美鈴は敬一に微笑んで話し出す。

「時尾さんと勉君は、千代紙を預けた時に困っていなかったの?」

敬一は美鈴に微笑んで話し出す。

「時尾さんも勉君も喜んで預かってくれたよ。」

美鈴は敬一を微笑んで見た。

敬一も美鈴を微笑んで見た。

美鈴は敬一に微笑んで話し出す。

「敬一。外は暑かったわよね。麦茶を用意してあるの。麦茶を飲みながら話しましょう。」

敬一は美鈴に微笑んで頷いた。



美鈴は家の中へと微笑んで入って行った。

敬一も家の中へと微笑んで入って行った。



それから暫く後の事。



ここは、藤田五郎の家。



玄関。



藤田五郎は普通に帰ってきた。



時尾は藤田五郎の前に微笑んで現れた。

勉は藤田五郎の前に笑顔で来た。



時尾は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「お帰りなさい。」

勉は藤田五郎に笑顔で話し出す。

「おかえり。」

藤田五郎は時尾と勉に普通の表情で頷いた。

勉は藤田五郎に笑顔で話し出す。

「あき。ななくさ。おにいちゃん。いっしょ。おぼえる。」

藤田五郎は勉を普通の表情で見た。

時尾は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「今日は敬一君が来ました。詳しい話は家の中でします。」

藤田五郎は時尾に普通に話し出す。

「話しを続けてくれ。」

時尾は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「敬一君が秋の七草の柄の千代紙を持っていると言った時に、私と勉が見たいと言いました。敬一君が秋の七草の柄の千代紙を持ってきてくれました。綺麗な柄なので勉と褒めました。敬一君が勉に秋の七草を詠んだ歌を教えてくれました。勉が秋の七草を勉強したいから、千代紙が欲しいと言いました。勉に別な日に秋の七草の柄の千代紙を探しに行こうと言いました。敬一君は、秋の七草の柄の千代紙が見付からなければ譲ると言って、私と勉に預けて帰りました。」

藤田五郎は時尾に普通に話し出す。

「敬一は勉にどのような歌を教えたんだ?」

時尾は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「“萩の花 尾花 葛花 なでしこの花 をみなえし また藤袴 朝顔の花”です。」

藤田五郎は時尾に普通に話し出す。

「敬一が持ってきた千代紙を見せてくれ。」

時尾は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「秋の七草の柄の千代紙は私と勉の部屋にあります。五郎さんの部屋にお持ちします。」

藤田五郎は時尾に普通に話し出す。

「一緒に行く。」

時尾は藤田五郎に微笑んで軽く礼をした。



藤田五郎は家の中へと普通に入って行った。

勉は家の中へと笑顔で入って行った。

時尾は家の中へと微笑んで入って行った。



それから僅かに後の事。



ここは、時尾と勉の部屋。



藤田五郎は普通に居る。

敬一は笑顔で居る。

時尾は微笑んで居る。

時尾の傍には包みが置いてある。



時尾は包みを微笑んで広げた。

藤田五郎は包みを普通の表情で見た。

勉は包みを笑顔で見た。



包みの中には、秋の七草の柄の千代紙が入っていた。



藤田五郎は時尾を見ると、普通に話し出す。

「敬一が千代紙について話した内容を教えてくれ。」

時尾は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「秋の七草を一緒に見られるように考えて作った柄の千代紙で、京都で手に入れた千代紙だと話していました。」

藤田五郎は時尾に普通に話し出す。

「敬一の持ってきた千代紙は、敬一の父親が美鈴さんのために注文して作った千代紙だ。敬一の説明した歌は、敬一の父親が美鈴さんに千代紙に添えて贈った歌だ。」

時尾は藤田五郎に申し訳なさそうに話し出す。

「敬一君はある程度の経緯は知っているのですね。敬一君は千代紙を譲ると楽しそうに話していたので、形見の品だと思わずに受け取ってしまいました。」

藤田五郎は時尾に普通に話し出す。

「気にするな。」

時尾は藤田五郎に心配そうに話し出す。

「次に敬一君が訪ねてきた時に千代紙を返します。」

藤田五郎は時尾に普通に話し出す。

「返すなら早い方が良い。明日にでも俺が返しに行く。」

時尾は勉に微笑んで話し出す。

「勉。秋の七草の柄の千代紙は、敬一君と敬一君のお母さんにとって大切な形見の品なの。敬一君に返しましょう。」

勉は時尾を寂しそうに見た。

時尾は勉に微笑んで話し出す。

「勉。秋の七草の柄の千代紙を探しに行きましょう。秋の七草の柄の千代紙が見付からない時は、勉の好きな柄の千代紙を買いましょう。」

勉は時尾に笑顔で話し出す。

「ちよがみ。さがす。」

時尾は勉に微笑んで頷いた。

藤田五郎は時尾と勉を普通の表情で見た。

時尾は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「よろしくお願いします。」

藤田五郎は時尾に普通の表情で頷いた。



その翌日の事。



ここは、敬一と美鈴の住む家。



食卓の在る部屋。



美鈴は微笑んで夕飯の支度をしている。



敬一は美鈴の傍に微笑んで来た。



美鈴は夕飯の支度をしながら、敬一を微笑んで見た。

敬一は美鈴に微笑んで話し出す。

「今日の夕飯はおかずの種類が多いね。」

美鈴は夕飯の支度をしながら、敬一に微笑んで頷いた。



玄関から誰かが訪ねてきた音が聞こえた。



敬一は美鈴に微笑んで話し出す。

「僕が行くね。」

美鈴は夕飯の支度をしながら、敬一に微笑んで頷いた。



敬一は玄関へと微笑んで向かった。



それから僅かに後の事。



ここは、玄関。



敬一は玄関に微笑んで来た。



藤田五郎の普通の声が玄関の外から聞こえてきた。

「こんばんは。藤田です。」



敬一は玄関の戸を不思議そうに開けた。



藤田五郎が包みを普通の表情で持ちながら立っている。



敬一は藤田五郎に不思議そうに話し出す。

「斉藤さん。こんばんは。」



藤田五郎は包みを持ちながら、玄関に普通に入ってきた。



敬一は玄関の戸を不思議そうに閉めた。

藤田五郎は包みを持ちながら、敬一に普通に話し出す。

「夕飯の最中か?」

敬一は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「お母さんが早めに夕飯の支度をしていますが、夕飯を食べるのはもう少し後です。」



美鈴が藤田五郎と敬一の前に微笑んで現れた。



美鈴は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「斉藤さん。こんばんは。」

藤田五郎は包みを持ちながら、美鈴に普通の表情で頷いた。

敬一は美鈴を微笑んで見た。

美鈴は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「簡単ですが、肴を用意しました。お時間があれば家に上がって休んでください。」

藤田五郎は包みを持ちながら、美鈴に普通の表情で頷いた。



美鈴は家の中へと微笑んで入って行った。

藤田五郎は包みを持ちながら、家の中へと普通に入って行った。

敬一は家の中へと微笑んで入って行った。



それから僅かに後の事。



ここは、食卓の有る部屋。



美鈴は微笑んで来た。

藤田五郎は包みを持ちながら、普通に来た。

敬一は微笑んで来た。



美鈴は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「お酒の用意をしてきます。」

藤田五郎は包みを持ちながら、美鈴に普通に話し出す。

「酒はありがたく頂くが、用事が終わってからで良いだろうか?」

美鈴は藤田五郎に微笑んで頷いた。

藤田五郎は包みを普通に広げた。

美鈴は包みを微笑んで見た。

敬一も包みを微笑んで見た。



包みの中には、秋の七草の柄の千代紙が入っていた。



敬一は藤田五郎を不思議そうに見た。

美鈴は藤田五郎を微笑んで見た。

藤田五郎は敬一と美鈴に普通に話し出す。

「総司が美鈴さんに贈った千代紙だろ。敬一と美鈴さんにとって大切な千代紙だろ。時尾から、敬一が勉のために千代紙を譲ってくれたと教えてもらった。敬一が勉を信じて好意を持ってくれるのは嬉しいが、勉が所有するべき品物ではない。時尾は事情を知ると、敬一に千代紙を返したいと言った。俺は了承した。勉には納得してもらった。」

敬一は藤田五郎に困惑した様子で話し出す。

「斉藤さん。僕の取った行動は、斉藤さんや時尾さんや勉君に迷惑だったの?」

藤田五郎は美鈴を普通の表情で見た。

美鈴は藤田五郎に微笑んで頷いた。

藤田五郎は敬一に普通に話し出す。

「敬一の取った行動は迷惑ではない。勉が女子ならば感謝して受け取ったかも知れないが、勉は男子だ。勉は、敬一の想いを理解できる年齢ではないし、成長するにつれて興味が変わるだろう。今は敬一か美鈴さんが所有するのが一番良いと思う。」

敬一は考え込んだ。

藤田五郎は敬一を普通の表情で見た。

美鈴は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「縁でお酒を飲みながら話しの続きをしますか?」

藤田五郎は美鈴に普通の表情で頷いた。

美鈴は敬一に微笑んで話し出す。

「敬一。斉藤さんに迷惑を掛けないようにね。」

敬一は美鈴に考え込みながら頷いた。

美鈴は敬一を微笑んで見た。



それから少し後の事。



ここは、縁。



藤田五郎は杯の酒を普通の表情で飲んでいる。

敬一は考え込みながら、藤田五郎を見ている。

藤田五郎と敬一の傍には、肴、お酒、お茶、などが置いてある。



敬一は藤田五郎に考え込みながら話し出す。

「やはり迷惑ですよね。」

藤田五郎は杯の酒を飲みながら、敬一に普通に話し出す。

「先程も話したが、迷惑ではない。」

敬一は藤田五郎に考え込みながら話し出す。

「お母さんに秋の七草の柄の千代紙を勉君に譲ったと言いました。お母さんは僕の話を笑顔で聞いていました。」

藤田五郎は杯の酒を飲みながら、敬一に普通に話し出す。

「美鈴さんは、敬一を信じて、敬一の考えを尊重しているから、笑顔で話を聞いたと思う。」

敬一は藤田五郎を考え込みながら見た。

藤田五郎は杯の酒を飲みながら、敬一に普通に話し出す。

「敬一が総司と美鈴さんの想いが込められた千代紙を贈る相手は、勉ではない。敬一に千代紙を早く返すと決めたから、訪ねてきた。」

敬一は藤田五郎に不思議そうに話し出す。

「僕が秋の七草の柄の千代紙を贈るべき相手は誰になるのでしょうか?」

藤田五郎は杯の酒を飲みながら、敬一に普通に話し出す。

「直ぐに思い浮かぶ人物は、妻や娘や孫娘だな。」

敬一は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「僕が千代紙を贈るのは、物凄く先の出来事になりますね。」

藤田五郎は杯の酒を飲みながら、敬一に普通に話し出す。

「敬一が早く祝言を挙げたら、物凄く先の出来事にはならないだろ。」

敬一は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「斉藤さん。早く祝言を挙げると言いますが、僕は結婚できる年齢ではありません。相手も現れていません。」

藤田五郎は杯の酒を飲みながら、敬一に普通に話し出す。

「生まれる前から許婚がいたり、幼い頃に許婚がいたり、などの状況を除けば、相手がいつ現れるか分からないだろ。」

敬一は藤田五郎を微笑んで見た。

藤田五郎は杯の酒を飲みながら、敬一に普通に話し出す。

「総司が美鈴さんのために頼んで作った千代紙だ。二度と手に入らない千代紙だ。敬一の想いを理解できる相手に贈れ。」

敬一は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「はい。」

藤田五郎は杯の酒を飲みながら、敬一を普通の表情で見た。

敬一は徳利を持つと、藤田五郎に微笑んで話し出す。

「お酌をします。」

藤田五郎は敬一に杯を普通に差し出した。

敬一は徳利を持ちながら、藤田五郎の杯に酒を微笑んで注いだ。

藤田五郎は杯の酒を普通の表情で見た。

敬一は徳利を持ちながら、藤田五郎を微笑んで見た。

藤田五郎は杯の酒を普通の表情で飲んだ。



それから何日か後の事。



ここは、藤田五郎の家。



食卓の在る部屋。



食卓の上には、包みが広げてある。

広げた包みの上には、千代紙がある。

藤田五郎は時尾と勉を普通の表情で見ている。

勉は時尾と千代紙を笑顔で見ている。

時尾は勉と千代紙を微笑んで見ている。



時尾は勉に微笑んで話し出す。

「秋の七草ではないけれど、かっこよい柄ね。」

勉は時尾を見ると、笑顔で頷いた。

時尾は勉に微笑んで話し出す。

「勉。お父さんにお礼を言いましょうね。」

勉は藤田五郎に笑顔で話し出す。

「ありがと。」

藤田五郎は勉に普通の表情で頷いた。

勉は藤田五郎と時尾に普通に話し出す。

「おにいちゃん。あげる。」

時尾は勉に微笑んで話し出す。

「敬一君が来たら、千代紙を贈りましょうね。」

勉は藤田五郎と時尾を笑顔で見た。

藤田五郎は時尾と勉を普通の表情で見た。



「秋の野に 咲きたる花を 指折り かき数ふれば 七種の花」

「萩の花 尾花 葛花 なでしこの花 をみなえし また藤袴 朝顔の花」

沖田総司から美鈴へ、美鈴から敬一へ、秋の七草の柄の千代紙が想いを繋いでいく。

敬一が次に繋げる相手は、藤田五郎にも美鈴にも敬一にも分からない。

鮮やかな秋の七草の柄の千代紙と共に、穏やかな時が過ぎていく。




〜 完〜 





はじめに       後書き

目次


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