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新撰組異聞外伝 〜 神無月 行き散る 想いを継いで 〜


今は秋の終わり。

木々の葉が少しずつ綺麗に色付き始めた。



藤田五郎と妻の時尾は、家に居る。

藤田五郎の妻の時尾のお腹には、二人の子供が居る。



時尾のお腹は、産み月が近づいてきているという事もあり、かなり大きくなっている。

藤田五郎は時尾を普通の表情で見た。

時尾は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「大丈夫です。」

藤田五郎は時尾の様子を確認すると、何も言わずに自分の部屋へと戻っていった。



そんなある日の事。

藤田五郎の家に一人の青年が訪れた。

青年の年齢は、二十代半ばのようにも見えるが、もう少し若くも見える。

穏やかで優しい雰囲気の青年に感じる。

時尾には青年に関する記憶はない。



青年は時尾に微笑みながら軽く礼をした。

時尾は青年を不思議そうに見ながらも、軽く礼をした。

青年は時尾に微笑んで話し出す。

「奥方様。初めまして。私は、市村鉄之助と申します。以前の事になりますが、藤田先生と一緒に仕事をしていた者です。」

時尾は市村鉄之助と名乗った青年に微笑んで話し出す。

「初めまして。藤田の妻の時尾と申します。」

市村鉄之助と名乗った青年は、時尾を微笑んで見た。



市村鉄之助は時尾に微笑んで話し出す。

「奥方様。ご出産が近いのでしょうか?」

時尾は市村鉄之助に微笑んで話し出す。

「はい。来月が産み月となります。」

市村鉄之助は時尾に心配そうに話し出す。

「ご出産が近いという事は、今は大変な時期なのではないですか? 私の話し相手になっていて大丈夫なのですか?」

時尾は市村鉄之助に微笑んで話し出す。

「お話しをする事は、負担にはなりません。それに、お産は病気ではありません。余り心配しないでください。」

市村鉄之助は時尾を心配そうに見ている。

時尾は市村鉄之助に微笑んで話し出す。

「直ぐに藤田を呼んできます。少しお待ちください。」

市村鉄之助は時尾に微笑んで話し出す。

「奥方様。お体の事があるので、急がなくても大丈夫です。無理はしないでください。」

時尾は市村鉄之助に微笑んで話し出す。

「お気遣い頂いてありがとうございます。」

市村鉄之助は時尾に微笑んで軽く礼をした。

時尾は市村鉄之助を微笑んで一瞥すると、部屋から出て行った。



時尾は藤田五郎の部屋を訪れた。

藤田五郎は時尾を普通の表情で見た。

時尾は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「市村様というお客様が見えられています。」

藤田五郎は時尾を怪訝そうに見た。

時尾は藤田五郎に不思議そうに話し出す。

「市村様をご存じではないのですか?」

藤田五郎は時尾に普通に話し出す。

「産み月も近い。知らない奴と気軽に話しをするな。」

時尾は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「すいません。次からは注意します。でも、市村様からは、危険な様子は感じませんでした。」

藤田五郎は時尾を普通の表情で黙って見た。

時尾は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「お客様のお名前は、市村鉄之助様というそうです。以前に一緒に仕事をしていた事があるとお話しされていました。後は、五郎さんの事を、藤田先生と呼んでいました。」

藤田五郎は時尾に普通に話し出す。

「わかった。」

時尾は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「お知り合いの方だったのですね。安心しました。もう一度、お茶の用意をしてきます。」

藤田五郎は時尾に普通に話し出す。

「俺が声を掛けるまで部屋に来るな。」

時尾は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「わかりました。」

藤田五郎は時尾を普通の表情で見ながら黙って頷いた。

時尾はお茶の用意をするために、藤田五郎の部屋から去っていった。



藤田五郎は、市村鉄之助と名乗る青年が待っている部屋へと向かった。



市村鉄之助は、新撰組の隊士だった。

藤田五郎が今とは違う名前を名乗っていた頃に、市村鉄之助は新撰組の隊士となった。

藤田五郎の上役にあたる土方歳三の配属となった。

市村鉄之助は土方歳三や他の隊士達と共に、函館まで行った。

函館の戦いの途中で、市村鉄之助は行方知れずとなった。

市村鉄之助は行方知れずとなったまま、函館の戦いは終結した。

土方歳三は函館の戦いの中で亡くなったが、市村鉄之助は函館の戦いの中を生き残った。

市村鉄之助が行方知れずとなってから数ヶ月ほど後の事になるが、土方歳三の家族の家を訪れた。

市村鉄之助は、土方歳三から預かった品物を大事そうに持っていた。

市村鉄之助が函館の戦いの中で行方知れずとなっていたのは、土方歳三が多摩に住んでいる身内に品物を持っていくように極秘に命令したのが理由だった。



それからいくつもの年月が過ぎた後に、新撰組の隊士の一人だった市村鉄之助と名乗る青年が、藤田五郎の家を訪れている。



藤田五郎は、市村鉄之助と名乗る青年が居る部屋の中へと入っていった。



市村鉄之助と名乗る青年は、藤田五郎を見ると微笑んで話し出す。

「藤田先生。お久しぶりです。市村です。覚えていらっしゃいますでしょうか?」

藤田五郎は市村鉄之助と名乗る青年を見ながら、普通の表情で黙って頷いた。



藤田五郎の家を訪れた青年は、市村鉄之助本人である事は間違いないらしい。



市村鉄之助は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「私の事を覚えていらっしゃったのですね。とても嬉しいです。」

藤田五郎は市村鉄之助に普通に話し出す。

「函館から居なくなった後に、多摩で何年か世話になったと聞いた。その後は、多摩を出て、実家に向かったと聞いた。」

市村鉄之助は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「はい。函館に居る時に、土方先生から何点か品物を預かりました。土方先生の命を受けて、多摩に住んでいるご家族のもとに向かいました。土方先生のご家族の住んでいる多摩では、数年ほどお世話になりました。その後は、実家に戻りました。」

藤田五郎は市村鉄之助に普通に話し出す。

「何年も前に病で亡くなったと聞いた。」

市村鉄之助は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「はい。何年か前に病を患いました。なかなか病が治らなくて、医者が私の家族に、もしもの事を考えておくようにと、話しをしていたそうです。その時の出来事が間違えて伝わったと思います。」

藤田五郎は市村鉄之助を普通の表情で黙って見ている。

市村鉄之助は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「今は元気です。安心してください。」

藤田五郎は市村鉄之助に普通に話し出す。

「なぜ俺に会いに来たんだ?」

市村鉄之助は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「はい。実は、先日、私が亡くなったという噂を聞いたと、知り合いから教えてもらいました。多摩の方達が心配しているかも知れないと思ったので、ご挨拶も兼ねて、元気な姿を見て頂こうと思い、多摩に行きました。多摩の方達から、藤田先生が東京に居ると聞きました。藤田先生も私が亡くなったという噂を聞いているかも知れないと思ったので、ご挨拶も兼ねて、お伺しました。」

藤田五郎は市村鉄之助の話しが一段落すると、黙って部屋から出て行った。

市村鉄之助は藤田五郎の様子を不思議そうに見た。



藤田五郎は部屋に直ぐ戻ってきた。

市村鉄之助は藤田五郎に真剣な表情で話し出す。

「藤田先生。私は鹿児島に行こうと思っています。」

藤田五郎は市村鉄之助を普通の表情で黙って見た。

市村鉄之助は藤田五郎に真剣な表情で話し出す。

「西郷先生のもとに行きたいと思っています。」

藤田五郎は市村鉄之助を普通の表情で黙って見ている。

市村鉄之助は藤田五郎に真剣な表情で話し出す。

「西郷先生は、私達を逆賊として扱いました。近藤先生や土方先生の命を奪いました。新撰組の隊士達もたくさん亡くなりました。私が西郷先生のもとに行きたいと思うのは、変でしょうか?」

藤田五郎は市村鉄之助を普通の表情で黙って見ている。

市村鉄之助は藤田五郎に真剣な表情で話し出す。

「私は、今の政府は何かが間違っていると思っています。武士の時代は終わりました。でも、西郷先生のもとでなら、再び武士になれるように思いました。」

藤田五郎は市村鉄之助に普通に話し出す。

「ずっと武士でいたいのか?」

市村鉄之助は藤田五郎に真剣な表情で話し出す。

「はい。時代は変わっても、私は武士です。最期まで武士として生きていたいです。」

藤田五郎は市村鉄之助を普通の表情で黙って見ている。

市村鉄之助は藤田五郎に真剣な表情で話し出す。

「土方先生は、最期まで武士として生きていました。私も、最期まで武士として生きたいです。」

藤田五郎は市村鉄之助を普通の表情で黙って見ている。

市村鉄之助は藤田五郎を真剣な表情で黙って見ている。

藤田五郎は市村鉄之助に普通に話し出す。

「この時期に鹿児島に行くのは危険だぞ。」

市村鉄之助は藤田五郎に真剣な表情で話し出す。

「承知しています。」

藤田五郎は市村鉄之助を普通の表情で黙って見ている。

市村鉄之助は藤田五郎に真剣な表情で話し出す。

「私と藤田先生は、敵同士になる可能性があるかもしれませんね。」

藤田五郎は市村鉄之助を普通の表情で黙って見ている。

市村鉄之助は藤田五郎に真剣な表情で話し出す。

「私は実家に戻らずに、このまま鹿児島へ向かう予定です。鹿児島に着いたら、西郷先生のもとで生きていきます。」

藤田五郎は市村鉄之助を普通の表情で黙って見ている。

市村鉄之助は藤田五郎に真剣な表情で話し出す。

「私は土方先生に函館から追い出されました。土方先生は私を助けてくれたと思っています。土方先生に助けて頂いた大切な命です。粗末には出来ません。この命を粗末に扱ったら、土方先生に叱られてしまいます。しかし、間違っている事は正さないといけません。私はそう思っています。」

藤田五郎は市村鉄之助に普通に話し出す。

「俺と敵同士として会う事になったら、どうするつもりだ?」

市村鉄之助は藤田五郎に真剣な表情で話し出す。

「戦の場で敵として出会ったら、藤田先生でも容赦はしません。藤田先生も私の事を容赦しないでください。」

藤田五郎は市村鉄之助を普通の表情で見ながら黙って頷いた。

部屋の外から時尾の穏やかな声が聞こえた。

「お茶をお持ちしました。」

藤田五郎は部屋の中から、時尾に普通に話し掛ける。

「入っていいぞ。」

部屋の外から時尾の穏やかな声が聞こえて来た。

「失礼します。」

市村鉄之助は真剣な表情から、微笑んだ表情へと変わった。



時尾がお茶を持って部屋の中に入ってきた。

市村鉄之助は時尾に微笑んで軽く礼をした。

時尾は市村鉄之助を微笑んで見た。

藤田五郎は時尾と市村鉄之助の様子を、普通の表情で見ている。

時尾は、市村鉄之助と藤田五郎の前にお茶を置くと、直ぐに部屋を出て行った。



藤田五郎は市村鉄之助に普通に話し出す。

「結婚はしているのか?」

市村鉄之助は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「結婚はしていません。付き合っている人もいません。好きな人もいません。ずっと一人です。」

藤田五郎は市村鉄之助を普通の表情で黙って見ている。

市村鉄之助は藤田五郎に真剣な表情で話し出す。

「藤田先生のお子様が、男の子なのか、女の子なのか、とても知りたいです。だから、藤田先生のもとに、いつの日になるかわかりませんが、お邪魔したいと思います。」

藤田五郎は市村鉄之助を普通の表情で見ながら黙って頷いた。

市村鉄之助は、湯気の立っている温かい湯飲みを手に取ると、美味しそうに飲み始めた。

藤田五郎は市村鉄之助を普通の表情で黙って見ている。

市村鉄之助は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「実は、藤田先生に会いにきた理由はもう一つあります。」

藤田五郎は市村鉄之助を普通の表情で黙って見ている。

市村鉄之助は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「函館から多摩に向かっている最中の出来事になりますが、私は沖田先生と話しをしました。」

藤田五郎は市村鉄之助を普通の表情で黙って見ている。

市村鉄之助は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「その頃は、沖田先生は既になくなっていますよね。私と沖田先生が話しをしたと言っても、信じて頂けないですよね。」

藤田五郎は市村鉄之助を普通の表情で見ながら、ゆっくり首を横に振った。

市村鉄之助は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「信じて頂けて嬉しいです。沖田先生と話しをした出来事は、函館から多摩へ向かうなかで、忘れる事の出来ない思い出となっています。誰にも話しが出来なくて、考えても答えが出なくて、ずっと気になっていました。藤田先生とお話しが出来て良かったです。」

藤田五郎は市村鉄之助を普通の表情で黙って見ている。

市村鉄之助は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「鹿児島へ行くと決めた時に、藤田先生と会いたくなりました。そして、多摩で私が亡くなったという噂を聞いた事もあって、藤田先生のもとにお伺いいたしました。」

藤田五郎は市村鉄之助を普通の表情で黙って見ている。

市村鉄之助は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「藤田先生と話しをする事が出来て、とても嬉しかったです。」

藤田五郎は市村鉄之助を普通の表情で黙って見ている。

市村鉄之助はお茶を飲み終わると、静かに立ち上がった。

藤田五郎は市村鉄之助に続いて立ち上がった。

市村鉄之助は藤田五郎に真剣な表情で深く礼をした。

藤田五郎は市村鉄之助を見ながら普通の表情で黙って頷いた。

市村鉄之助は部屋を出て行った。



市村鉄之助は玄関へと向かって歩いている。

時尾が市村鉄之助を見ると、微笑んで軽く礼をした。

市村鉄之助は時尾を見ると、微笑んで話し出す。

「これから鹿児島に行きます。」

時尾は市村鉄之助に微笑んで話し出す。

「鹿児島に行かれるのですか? 遠くて大変ですね。」

市村鉄之助は時尾に微笑んで話し出す。

「はい。でも、鹿児島に優秀な方がいます。その方のもとで、やりたい事があります。」

時尾は市村鉄之助を微笑んで見ている。

市村鉄之助は時尾に微笑んで話し出す。

「鹿児島に行く事は、今の私には、とても大切な夢の一つです。」

時尾は市村鉄之助に微笑んで話し出す。

「夢が叶うと良いですね。」

市村鉄之助は時尾に微笑んで話し出す。

「はい。」

時尾は市村鉄之助を微笑んで見ている。

市村鉄之助は時尾に微笑んで話し出す。

「元気なお子様を産んでください。」

時尾は市村鉄之助に微笑んで話し出す。

「ありがとうございます。」

市村鉄之助は時尾に微笑んで話し出す。

「落ち着いたら、先生と奥方様の間に生まれたお子様の元気な姿を、見に来たいと思います。」

時尾は市村鉄之助に微笑んで話し出す。

「藤田と私とお腹の子と三人で、市村様のお越しをお待ちしています。」

市村鉄之助は時尾に微笑んで軽く礼をした。

時尾も市村鉄之助に微笑んで軽く礼をした。

市村鉄之助は藤田五郎の家から去っていった。



その日の夜の事。

藤田五郎は不思議な気配を感じた。

縁に出ると、庭の桜が満開になって咲いている。

藤田五郎は横にも不思議な気配を感じた。

普通の表情でゆっくりと横を見た。



沖田総司が藤田五郎を微笑んで見ている。

藤田五郎は沖田総司を普通の表情で見ている。

沖田総司が藤田五郎に微笑んで話し出す。

「斉藤さん。こんばんは。」

藤田五郎は沖田総司を普通の表情で見ながら黙って頷いた。

沖田総司は藤田五郎を微笑んで見ている。

藤田五郎が沖田総司に普通に話し出す。

「鉄之助と話をした。鹿児島へ行くそうだ。」

沖田総司は藤田五郎を微笑んで見ながら黙って頷いた。

藤田五郎は沖田総司を普通の表情で黙って見た。

沖田総司は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「鉄之助は、危険の増していく場所へと向かったのですね。」

藤田五郎は沖田総司を普通の表情で見ながら黙って頷いた。

沖田総司は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「斉藤さんと鉄之助は、敵同士になるかもしれませんね。」

藤田五郎は沖田総司を普通の表情で見ながら黙って頷いた。

沖田総司は庭に咲いている満開の桜を微笑んで見た。

藤田五郎は庭に咲いている桜を普通の表情で見た。



沖田総司は藤田五郎を見ると、微笑んで話し出す。

「斉藤さん。もう直ぐお父さんになりますね。」

藤田五郎は沖田総司を普通の表情で見ながら黙って頷いた。

沖田総司は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「お子さんが生まれる頃に、斉藤さんと話がしたいです。」

藤田五郎は沖田総司を普通の表情で黙って見ている。

沖田総司は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「鉄之助の事が気になりますか?」

藤田五郎は沖田総司を普通の表情で見ながら、ゆっくりと首を横に振った。

沖田総司は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「鉄之助は、斉藤さんと笑顔で話しが出来るようになっていたのですね。鉄之助は立派になりましたね。」

藤田五郎は沖田総司を普通の表情で黙って見ている。

沖田総司は沖藤田五郎に心配そうに話し出す。

「私は何か変な事を言ったのでしょうか?」

藤田五郎は沖田総司を普通の表情で見ながら、小さく首を横に振った。

沖田総司は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「安心しました。変な事を言って、斉藤さんを怒らせてしまったかと思いました。」

藤田五郎は沖田総司を普通の表情で黙って見ている。

沖田総司は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「鉄之助のおかげで、斉藤さんに逢えました。感謝しないといけませんね。」

藤田五郎は沖田総司を普通の表情で黙って見ている。

沖田総司は藤田五郎を苦笑しながら話し出す。

「鉄之助は私の事を、相変わらず沖田先生と呼んでいました。何度も止めてくれと言ったのに、忘れているようですね。」

藤田五郎は沖田総司に普通に話し出す。

「忘れてはいないと思う。」

沖田総司は藤田五郎を微笑んで見た。



それから少し後の事。

沖田総司は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「そろそろ時間のようです。」

藤田五郎は沖田総司を普通の表情で見ながら黙って頷いた。

沖田総司は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「斉藤さん。また呼んでください。楽しみに待っています。」

藤田五郎は沖田総司を普通の表情で見ながらゆっくりと頷いた。

沖田総司は藤田五郎を微笑んで見ながら、静かに居なくなった。



沖田総司の姿は見えなくなった。

藤田五郎は庭を見た。

庭に咲いていた満開の桜は、もとの姿に戻っていた。

藤田五郎は部屋の中へと戻っていった。



これから語る事は今から未来の出来事となる。



今の藤田五郎にとっては、未来の出来事となる。

今の市村鉄之助にとっても、未来の出来事となる。

誰も知る事の出来ない、未来の出来事となる。



月が変わり、十二月になった。

藤田五郎と時尾の間に、長男の勉が生まれた。



年を越して、二月になった。

九州の地で、新政府軍と鹿児島の西郷隆盛に味方する士族との戦いが始まった。



それから幾つかの日々が過ぎた。

西郷隆盛に味方をしていた市村鉄之助という名前の青年が、戦死をしたらしいという風の噂が流れた。

戦ではたくさんの人が亡くなっている。

特に西郷隆盛の味方をした者は、たくさん亡くなっている。

確認を取る事は、難しい状況となっている。



葉桜の季節になった。

藤田五郎は、新政府軍の一員として九州へ向かう事になった。



それから更に月日が過ぎた。

藤田五郎は、時尾と勉のもとに戻ってきた。



それから沢山の日々を重ねている。

藤田五郎と時尾と勉は、市村鉄之助が訪れるのを待っている。



市村鉄之助が藤田五郎の家を訪れる事は、二度となかった。




〜 完 〜





はじめに       後書き

目次


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