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新撰組異聞外伝 〜 清明 染井吉野の出逢いの後に 〜
まず始めに、
この物語は、「敬一と美鈴」、「藤田五郎と時尾と勉」という二つの短編で構成されています。
以上の点、ご了承願います。
では、物語の世界へどうぞ・・・
〜 敬一と美鈴 〜
ある春の日の事。
ここは東京の町。
辺りには一重の桜の花が咲き乱れている。
沖田総司の息子の敬一と母親の美鈴は、桜を見ながら歩いている。
敬一は美鈴を見ると、微笑んで話し出す。
「お母さん。明日どうしても出掛けたい所があるんだ。」
美鈴は敬一に微笑んで話し出す。
「気を付けて出掛けてね。」
敬一は美鈴に微笑んで話し出す。
「少し帰りが遅くなるかも知れないけれど、気にしないで待っていてね。」
美鈴は敬一を心配そうに見た。
敬一は美鈴に微笑んで話し出す。
「お母さん。心配しなくても大丈夫だよ。」
美鈴は敬一に微笑んで話し出す。
「無理だけはしないようにね。」
敬一は美鈴に微笑んで頷いた。
美鈴は敬一を微笑んで見た。
敬一は美鈴に微笑んで話し出す。
「お母さん。桜が綺麗に咲いているね。」
美鈴は敬一に微笑んで頷いた。
敬一は前を指すと、美鈴に微笑んで話し出す。
「お母さん。向こうの桜は、とても綺麗に咲いているね。近くで見ようよ。」
美鈴は敬一の指した桜の木を一瞥すると、敬一を見て微笑んで頷いた。
敬一と美鈴は、敬一の指した桜の木へと向かって歩いていった。
その翌日の事。
ここは東京の町。
辺りには、昨日と同じく一重の桜の花が咲き乱れている。
ここは、敬一と美鈴の住んでいる家の中。
庭からも一重の桜が綺麗に咲いている姿を見る事が出来る。
美鈴は庭から見える桜の花を時折見ながら、繕い物をしている。
敬一は美鈴の前に来ると、笑顔で話し出す。
「お母さん! これから出掛けるね!」
美鈴は繕い物の手を止めると、敬一を見て微笑んで話し出す。
「行ってらっしゃい。」
敬一は美鈴に笑顔で話し出す。
「行ってきます!」
美鈴は敬一を微笑んで見た。
敬一は美鈴の見守る中を、元気良く出掛けて行った。
それから暫く後の事。
陽はまだ高い所から差している。
ここは敬一と美鈴の家。
美鈴は家の中で繕い物をしている。
時折手を止めると玄関の方向を見る。
玄関に人の居る気配は無い。
美鈴は再び繕い物の続きをする。
庭から見える桜に目を留める事も無く、同じ事を何度も繰り返している。
美鈴は繕い物の手を止めると、沖田総司の位牌のある部屋へと向かった。
ここは沖田総司の位牌の在る部屋。
美鈴は沖田総司の位牌の前に、静かに座った。
沖田総司の位牌を見ながら微笑んで呟いた。
「敬一の様子からすると、帰ってくるまでに時間がありますよね。だけど、なぜか気になってしまって、玄関の様子が気になってしまいます。不思議です。」
少し間を置くと、沖田総司の位牌に微笑んで話し出す。
「敬一は、詳しい事は教えてくれませんでしたが、楽しそうに出掛けて行きました。だから気になってしまうのでしょうか?」
少し間を置くと、沖田総司の位牌に微笑んで話し出す。
「敬一が帰って来た時にお腹が空いていると困るので、何か用意をしようと思います。」
少し間を置くと、ゆっくりと立ち上がった。
美鈴は障子を開けると、部屋の外へと出て行った。
それから暫く後の事。
ここは敬一と美鈴の家。
敬一の元気の良い声が、家の中に聞こえてきた。
「お母さん〜! ただいま〜!」
美鈴は敬一の前に現れると、微笑んで話し出す。
「お帰りなさい。」
敬一は美鈴を笑顔で見た。
美鈴は敬一に微笑んで話し出す。
「長く出掛けていたから疲れたわよね。直ぐにお茶を用意するわね。」
敬一は美鈴に笑顔で話し出す。
「ありがとう!」
美鈴は敬一の返事を微笑んで確認すると、台所へと向かった。
敬一は笑顔で食卓の前に座っている。
美鈴は敬一の前に、お茶とおにぎりとお漬物を置くと、申し訳なさそうに話し出す。
「残り物のご飯で、おにぎりを作ったの。お腹が空いていたら食べてね。」
敬一は美鈴を見ると、笑顔で話し出す。
「お母さんが作る物は、いつも美味しいよ! おにぎりも大好きだよ!」
美鈴は敬一を微笑んで見た。
敬一は美鈴に笑顔で話し出す。
「いただきます!」
美鈴は敬一を微笑んで見ている。
敬一はおにぎりを美味しそうに食べ始めた。
それから暫く後の事。
ゆっくりと陽の光が沈み始めている。
ここは敬一と美鈴の家。
敬一と美鈴の夕食は既に終わっている。
美鈴は夕食の後片付けをしている。
敬一は食卓に座って美鈴の様子を微笑んで見ている。
美鈴が夕食の後片付けを終えて、敬一の傍に来た。
敬一は美鈴に笑顔で話し出す。
「お母さん! 斉藤さんに逢ってきたんだ!」
美鈴は敬一を驚いた表情で見た。
敬一は美鈴に笑顔で話し出す。
「斉藤さんは、お母さんから聞いた話や、お父さんの手紙に書いてある通り、とても優しい人だったよ!」
美鈴は敬一に不思議そうに話し出す。
「斉藤さんにどうやって連絡を取ったの?」
敬一は美鈴に笑顔で話し出す。
「連絡は取っていないよ。」
美鈴は敬一に心配そうに話し出す。
「斉藤さんは敬一の事を知らないはずよね。連絡無しに突然に逢いに行って、怪しまれなかったの?」
敬一は美鈴に笑顔で話し出す。
「怪しまれたよ! でも、お父さんが斉藤さん宛に書いた手紙や、松平様が書いた手紙を、斉藤さんに読んでもらったんだ! お母さんから聞いた斉藤さんとの思い出の話しもしたんだ! 斉藤さんは僕の事を信じてくれたよ!」
美鈴は敬一に心配そうに話し出す。
「松平様に連絡を取ったの?」
敬一は美鈴に笑顔で話し出す。
「松平様の家族の人に連絡を取ったんだ!」
美鈴は敬一を心配そうに見た。
敬一は美鈴に笑顔で話し出す。
「松平様やご家族の方達は、とても優しかったよね! 困った事が起きた時には来ても良いと言われていたから、会いに行ったんだ!」
美鈴は敬一に心配そうに話し出す。
「なぜお母さんに事前に話しをしてくれなかったの?」
敬一は美鈴を不安そうに見た。
美鈴は敬一に心配そうに話し出す。
「斉藤さんは、お父さんとお母さんが、とてもお世話になった人なの。敬一が斉藤さんに逢いたいと思ったのなら、お母さんが斉藤さん宛に手紙を書く事が出来たのよ。そうすれば、突然に押し掛けたりせずに逢う事が出来たのよ。斉藤さんも敬一の事を怪しまなかったと思うの。」
敬一は美鈴を不安そうに見た。
美鈴は敬一に心配そうに話し出す。
「お父さんが斉藤さん宛に書いた手紙は、敬一とお母さんにとって、とても大切な手紙なの。」
敬一は美鈴に申し訳なさそうに話し出す。
「僕は、斉藤さんにずっと前から逢いたかったんだ。東京に着たけれど、斉藤さんに逢う事は、ずっと出来なかったよね。お母さんは斉藤さんに逢いに行く話しを、僕に一度もしなかったよね。だから、お母さんは斉藤さんに逢えない事情があると思ったんだ。でも、僕は、一度で良いから斉藤さんに逢いたかったんだ。だから、お母さんに黙って松平様に連絡を取って、斉藤さんの家に出掛けたんだ。」
美鈴は敬一を心配そうに見た。
敬一は美鈴に不安そうに話し出す。
「お母さん。勝手な事をして、ごめんなさい。」
美鈴は敬一に微笑んで話し出す。
「敬一は斉藤さんにとても逢いたがっていたわよね。それなのに、お母さんは斉藤さんと敬一が逢う事が出来るように、何もしてこなかったわね。お母さんも敬一に謝らないといけないわね。」
敬一は美鈴に心配そうに話し出す。
「僕が勝手にした事だよ。お母さんは謝る必要は無いよ。」
美鈴は敬一に微笑んで話し出す。
「敬一。ごめんなさい。」
敬一は美鈴に微笑んで首を横に降った。
美鈴は敬一に微笑んで話し出す。
「松平様と斉藤さんにお礼の手紙を書くわね。」
敬一は美鈴に微笑んで話し出す。
「斉藤さんの家には、もう一度行こうと思っているんだ。お詫びやお礼は、僕から言うよ。だから、お母さんは手紙を書かなくていいよ。」
美鈴は敬一に心配そうに話し出す。
「これから敬一がお世話になるのなら、お母さんも斉藤さんに手紙を書きたいの。」
敬一は美鈴に微笑んで話し出す。
「斉藤さんにはご家族の人がいるんだ。ご家族の人とは、きちんと逢った事がないんだ。僕から先に挨拶をしてもいいかな?」
美鈴は敬一に微笑んで話し出す。
「分かったわ。当分の間だけど、お母さんは斉藤さんに手紙を書くのを控えるわね。」
敬一は美鈴に微笑んで話し出す。
「お母さん。ありがとう。」
美鈴は敬一に微笑んで話し出す。
「もし手紙を書いても大丈夫になったら、お母さんに直ぐに教えてね。」
敬一は美鈴に微笑んで頷いた。
それから数日後の事。
早く咲き始めた一重の桜が散り始めた。
ここは敬一と美鈴の家。
庭から見える桜は、なぜか散る様子も無く、綺麗に咲き続けている。
美鈴は庭から見える桜を時折見ながら、繕い物をしている。
敬一は美鈴に笑顔で話し出す。
「お母さん! 斉藤さんの家に出掛けようと思うんだ!」
美鈴は繕い物の手を止めると、敬一に微笑んで話し出す。
「斉藤さんやご家族の方に迷惑を掛けないようにね。」
敬一は美鈴に笑顔で話し出す。
「分かった!」
美鈴は敬一に微笑んで話し出す。
「気をつけて行ってらっしゃい。」
敬一は美鈴に笑顔で話し出す。
「行ってきます!」
美鈴は敬一を微笑んで見た。
敬一は美鈴の見守る中を元気良く出掛けて行った。
敬一の姿は見えなくなった。
ここは敬一と美鈴の家の庭。
庭には、桜の花や花びらがたくさん落ちている。
美鈴は庭に来ると、綺麗な姿で落ちている桜の花を拾った。
大事そうに手に乗せると、沖田総司の位牌のある部屋へと向かった。
ここは沖田総司の位牌の在る部屋。
美鈴は沖田総司の位牌の前に、桜の花を静かに置くと、微笑んで話し出す。
「総司さん。桜の花が綺麗に咲き続けています。障子をずっと開けておく訳にはいかないので、いつでも見られるように桜の花を用意しました。」
少し間を置くと、沖田総司の位牌に微笑んで話し出す。
「敬一が斉藤さんに逢いに行きました。ご家族の方と暮らしているそうです。きっと幸せに過ごされているのだと思います。新しい時代になるまでに、斉藤さんにはいろいろな事が遭ったはずです。私や敬一が斉藤さんに連絡を取ったら、迷惑が掛からないかと心配して、東京に着たのに挨拶を控えていました。そのために、敬一には悪い事をしてしまいました。」
少し間を置くと、沖田総司の位牌に微笑んで話し出す。
「斉藤さんは敬一の話しを、信じてくれたようです。敬一は、これから何度も斉藤さんの家に出掛ける事になると思います。」
少し間を置くと、沖田総司の位牌に微笑んで話し出す。
「総司さん。またお話しを聞いてください。」
部屋の中が優しい気配に包まれたような気がした。
美鈴は部屋の中を不思議そうに見回した。
部屋の中に変わった様子はない。
美鈴は静かに立ち上がると、部屋から出ていった。
ここは藤田五郎と妻の時尾と幼い息子の勉の家。
敬一は藤田五郎の家の玄関の前に来ると、元気良く声を出した。
「こんにちは!」
時尾が敬一の前に微笑んで現れた。
敬一は時尾に笑顔で話し出す。
「こんにちは! 初めまして! 僕は藤田さんと以前に仕事していた同僚の息子です! 今日は藤田さんに逢いに来ました!」
時尾は敬一に微笑んで話し出す。
「藤田に確認を取ってきます。玄関で少しお待ちください。」
敬一は時尾に笑顔で話し出す。
「はい!」
時尾は家の中へと居なくなった。
それから僅かに後の事。
ここは藤田五郎の家の玄関。
敬一は微笑みながら玄関で待っている。
時尾は敬一の前に現れると、微笑んで話し出す。
「藤田は部屋に居ます。案内します。どうぞお上がりください。」
敬一は時尾に笑顔で話し出す。
「はい! 失礼します!」
時尾は敬一を微笑んで見た。
時尾と敬一は、藤田五郎の部屋へと向かった。
ここは藤田五郎の部屋。
時尾と敬一は、藤田五郎の部屋の前に来た。
時尾は部屋の外から、藤田五郎に微笑んで話し掛ける。
「お客様をお連れしました。」
藤田五郎は障子を開けると、時尾と敬一を普通の表情で見た。
時尾は藤田五郎に微笑んで軽く礼をすると、縁を歩きながら居なくなった。
敬一は藤田五郎に笑顔で話し出す。
「斉藤さん! こんにちは!」
藤田五郎は敬一に普通に話し出す。
「部屋の中に入れ。」
敬一は藤田五郎に笑顔で話し出す。
「失礼します!」
藤田五郎は敬一に普通の表情で頷いた。
敬一は藤田五郎の部屋の中へと、笑顔で入っていった。
藤田五郎は敬一が部屋に入ると、障子を閉めた。
藤田五郎の部屋から見える庭に、静かな風が吹いた。
桜の花びらが、風に乗ってたくさん舞い始めた。
* * * * * *
〜 藤田五郎と時尾と勉 〜
ある桜の咲く春の日の事。
藤田五郎と沖田総司の息子の名乗る敬一が出逢った。
染井吉野が咲く中での出逢いとなった。
敬一は染井吉野の咲く中を元気良く去って行った。
藤田五郎は敬一が居なくなって直ぐに、出掛けていた妻の時尾と幼い息子の勉と出逢った。
藤田五郎と時尾と勉は、一緒に家へと帰ってきた。
藤田五郎は家に帰えると、直ぐに部屋の中に入った。
ここは藤田五郎の部屋。
藤田五郎は大事に仕舞ってある沖田総司の刀を取り出した。
刀の持ち主だった沖田総司は既にこの世に居ないが、刀は凛とした雰囲気を漂わせている。
人によっては、刀を怖く感じるかも知れない。
沖田総司は厳しい世の中を生き抜いてきた。
沖田総司の選んだ刀も厳しい世の中を生き抜いてきた事になる。
凛とした雰囲気や怖く感じるのも当然かも知れない。
藤田五郎は沖田総司の刀に普通の表情で呟いた。
「総司の言っていた、物凄い者、面白い者、らしき者に逢ったぞ。」
沖田総司の刀は凛とした雰囲気を辺りに漂わせている。
藤田五郎は沖田総司の刀に普通の表情で呟いた。
「総司と息子は、一度も会ったことの無いはずなのに、良く似ているぞ。性格はともかく、容姿は美鈴さんに似ていて良かったな。」
沖田総司の刀の凛とした雰囲気は変わらないが、部屋の中の雰囲気が微妙に変わった。
藤田五郎は部屋の中の様子を気にする事なく、沖田総司の刀に普通の表情で呟いた。
「総司。息子は名前を教えなかったぞ。何を考えているんだろうな。総司に似て面白いし変わっているから、これから何が起こるのか、とても楽しみだよ。」
沖田総司の刀の凛とした雰囲気は変わらないが、部屋の中の微妙に変わった雰囲気は続いている。
藤田五郎は沖田総司の刀に普通の表情で呟いた。
「総司。話しは後でゆっくりとしよう。」
沖田総司の刀の凛とした雰囲気は変わらないまま、部屋の中の雰囲気が元に戻った。
藤田五郎は沖田総司の刀を大事そうに仕舞うと、部屋を出て行った。
ここは藤田五郎の家の庭。
庭の一重の桜は綺麗な姿で咲いている。
藤田五郎、時尾、勉は、庭に居る。
勉は桜を笑顔で見ている。
時尾は勉の様子を気にしながら、桜を微笑んで見ている。
藤田五郎は時尾と勉を普通の表情で見ている。
時尾は藤田五郎を微笑んで見た。
藤田五郎は時尾を普通の表情で見た。
時尾は勉に微笑んで話し掛ける。
「お父さんと話しをするから、少し待っていてね。」
勉は時尾に笑顔で頷いた。
時尾は藤田五郎を微笑んで見た。
藤田五郎は時尾に普通に話し出す。
「以前の事になるが、一緒に仕事をしていた仲間の息子と逢った。近い内に訪ねてくると思う。その子が来たら、俺に確認を取らずに部屋に案内して構わない。」
時尾は藤田五郎に微笑んで話し出す。
「同僚の息子さんのお名前を教えて頂いてよろしいですか?」
藤田五郎は時尾に普通に話し出す。
「名前がはっきりと分からない。まだ子供だから、訪ねてきたら直ぐにわかると思う。」
時尾は藤田五郎に微笑んで話し出す。
「分かりました。それらしい方が訪ねてきたら、一度だけ確認させてください。次からは確認せずに案内します。」
藤田五郎は時尾に普通の表情で頷いた。
時尾は藤田五郎を微笑んで見た。
藤田五郎は時尾に普通に話し出す。
「部屋に戻る。」
時尾は藤田五郎に微笑んで軽く礼をした。
藤田五郎は自分の部屋へと戻っていった。
時が過ぎて夜になった。
ここは藤田五郎の家。
藤田五郎、時尾、勉は、普段通りに夕食を終えた。
藤田五郎は時尾に普通に話し出す。
「桜を見ながら酒を飲みたくなった。肴を少し多めに用意してくれ。」
時尾は藤田五郎に微笑んで話し出す。
「用意が出来しだいお部屋にお持ちします。」
藤田五郎は時尾に普通の表情で頷いた。
時尾は台所へと居なくなった。
藤田五郎は自分の部屋へと戻っていった。
それから少し後の事。
庭の一重の桜は、綺麗な姿で咲いている。
ここは藤田五郎の部屋の前に在る縁。
藤田五郎は縁に座って、庭に咲いている桜を普通の表情で見ている。
時尾はお盆を持って藤田五郎の傍に来ると、微笑んで話し出す。
「お酒と肴の用意が出来ました。どちらに置きますか?」
藤田五郎は時尾を見ると、普通に話し出す。
「縁に置いてくれ。」
時尾は藤田五郎の横に、お盆を静かに置いた。
藤田五郎は時尾を普通の表情で見た。
時尾は静かに立ち上がると、縁を歩きながら居なくなった。
藤田五郎は杯に酒を注ぐと、庭に咲いている桜を見ながら酒を飲み始めた。
庭に咲いている桜が、更に綺麗に咲き乱れた。
藤田五郎は酒を飲むのを止めると、桜を見ながら普通に呟いた。
「桜は一人で見るに限るな。」
庭の桜が突然に散り始めた。
藤田五郎は酒を飲みながら、普通の表情で桜の散る様子を見ている。
庭は瞬く間に桜の花びらで覆われた。
藤田五郎は桜の花びらで覆われた庭を見ながら、普通の表情で酒を飲んでいる。
桜の花びらは、止まる事なく少しずつ散り続けている。
藤田五郎は酒を飲むのを止めると、普通に話し出す。
「そろそろ出てきたらどうだ?」
沖田総司は藤田五郎の横に静かに姿を現した。
藤田五郎は沖田総司を普通の表情で見た。
沖田総司は藤田五郎に拗ねた様子で話し出す。
「斉藤さん。私を呼んだのに、一人で酒を飲みながら桜を見るなんて酷いです。」
藤田五郎は沖田総司に普通に話し出す。
「庭が桜の花びらで覆われた姿を見たかったんだ。実際に桜の花びらで覆われると、掃除が大変だろ。総司が桜を咲かせれば、居なくなれば直ぐに元に戻るだろ。」
沖田総司は藤田五郎に拗ねた様子で話し出す。
「斉藤さん。やっぱり酷いです。」
藤田五郎は沖田総司に普通に話し出す。
「酒は飲めるのか?」
沖田総司は藤田五郎に寂しそうな微笑みで話し出す。
「まだです。」
藤田五郎は沖田総司に普通に話し出す。
「肴を食べるだろ。」
沖田総司を藤田五郎に微笑んで頷くと、掌を差し出した。
藤田五郎は肴として用意された沢庵を箸で取ると、沖田総司の掌に置いた。
沖田総司は沢庵を美味しそうに食べ始めた。
藤田五郎は沖田総司に普通に話し出す。
「いろいろと話そうと思ったが止めた。」
沖田総司は藤田五郎に微笑んで話し出す。
「時間はたくさんあります。話しをしたくなったら呼んでください。その時にゆっくりと話をしましょう。」
藤田五郎は沖田総司に普通の表情で頷いた。
沖田総司は藤田五郎を微笑んで見た。
藤田五郎は桜の花びらに覆われている庭を、普通の表情で見た。
沖田総司は桜の花びらに覆われている庭を、微笑んだ表情で見た。
それから少し後の事。
時尾が用意した酒も肴もほとんど無くなった。
沖田総司と斉藤一は、縁に座りながら桜を見ている。
沖田総司は藤田五郎を見ると、微笑んで話し出す。
「そろそろ時間のようです。」
藤田五郎は沖田総司を見ると、普通の表情で頷いた。
沖田総司は藤田五郎に微笑んで軽く礼をすると、その場から静かに居なくなった。
藤田五郎はお盆を持ちながら、立ち上がると、庭を普通の表情で見た。
庭も桜の木も元の姿に戻っている。
桜の木はたくさんの綺麗な花を咲かせている。
藤田五郎はお盆を持ちながら、時尾の元へと向って縁を歩き出した。
それから数日後の事。
早く咲き始めた一重の桜が散り始めた。
ここは藤田五郎の部屋。
藤田五郎は部屋の中に一人で居る。
部屋の外から時尾の声が聞こえてきた。
「五郎さん。以前にお話しをされていた、仕事仲間の息子さんらしき方が見えられています。部屋に案内してもよろしいですか?」
藤田五郎は障子を開けると、時尾に普通の表情で頷いた。
時尾は藤田五郎に微笑んで話し出す。
「では直ぐにお連れ致します。」
藤田五郎は時尾に普通の表情で頷いた。
時尾は玄関へと戻っていった。
藤田五郎は障子を閉めて、部屋の中へと戻っていった。
藤田五郎は沖田総司の刀を取り出すと、普通の表情で呟いた。
「総司。息子が着たぞ。これから何が起こるのかとても楽しみだな。」
部屋の外から、時尾の穏やかな声が聞こえてきた。
「お客様をお連れしました。」
藤田五郎は刀を大事そうに仕舞うと、障子を開けた。
藤田五郎は時尾と沖田総司の息子の敬一を普通の表情で見た。
時尾は藤田五郎に微笑んで軽く礼をすると、縁を歩いて去っていった。
敬一は藤田五郎に笑顔で話し出す。
「斉藤さん! こんにちは!」
藤田五郎は敬一に普通に話し出す。
「部屋の中に入れ。」
敬一は藤田五郎に笑顔で話し出す。
「失礼します!」
藤田五郎は敬一に普通の表情で頷いた。
敬一は藤田五郎の部屋の中へと、笑顔で入っていった。
藤田五郎は敬一が部屋に入った事を確認すると、障子を閉めた。
藤田五郎の部屋から見える庭に、静かな風が吹いた。
桜の花びらが、風に乗ってたくさん舞い始めた。
〜 完 〜
はじめに
後書き
目次
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