●夕暮れ迫る温泉街●
駅を出た我々は、地図もろくに見ず、あてずっぽうで旅館を探し始めた。
道の右側(川沿い)に旅館が並んではいるが、どの旅館なのか皆目見当が付かない。
協議の結果、出発前に印刷しておいた予約票を見ることにした。
なるほど。これから泊まる旅館は『み●い』というのか。
これで何となく分かった。
これからの行動は非常に単純だ。このまま道を歩き続けて、『み●い』という看板を探せばいい。
もしなかったらそのときは引き返せばよいのだ。完璧だ。
計画通り、暫く歩くと件の旅館の看板が見えてきた。
玄関もなかなかいい感じで、我々は靴を脱ぎ、ロビーに上がった。
私の脳内旅館では、ここで仲居さんの盛大な歓迎を受ける予定だったのだが
ロビーには人気がない。どうも夕食の準備でてんやわんやのようだ。厨房が騒がしい。
私は非常に消費者意識の高い男であるので、
カウンターの前に立ち、比較的小さな声で数回「すいません」「ごめんください」
と呼んでみたが一向に関係者が出てくる気配がない。
早く部屋に入りたいんだけどなーと思いながら、カギもないので、
ロビーの椅子にぼけっと連れと座っていた。
旅館の窓越しに聞こえてくる川の音が耳に心地よい。
半ば放心状態で座ること数分。呆けている我々を発見した仲居さんが、マッハで厨房に駆け去り、
女将と思しき人物が出てきた。
なかなか感じのいい応対で、特に気分を害していたわけでもなかった
我々のほうが恐縮してしまうほどだった。
部屋に通された我々は、
部屋を隅々まで探検し、畳の上を転がり、
旅館気分を満喫したので、散歩に出ることにした。
●夕暮れに涼やかな風が渡る●
飯田線に沿って歩きながら、時々藪を漕いで川に下りながら、
夕暮れの散歩はどんどんと進んでいく。
旅の友はさっき旅館で貰った観光地図だ。
こういった地図のいいところは、縮尺が非常にアバウトなところ。
メインストリートの縮尺は比較的小縮尺だが、
それ以外はかなり大胆にデフォルメされている。
例えば、この地図でいうと、『市街地』:『ちょっと外れ』の縮尺比は大体１:２であった。
マーベラス！
しかしながら、散歩出発時刻は午後５時前。
我々は晩御飯の予告時刻、午後６時には旅館に帰っていなくてはならない。
この調子だとかなりの強行軍になることが予想される。もう行くも帰るも強行軍だ。
エクセレント！
道すがら、様々なものを見る。
●これって、廃車処理中ですか？●
いつかは土に帰るという事で、地層処分待ちのお車だろうか。
なかなかダイナミックにいたるところに見受けられる。
また、何だかいい感じの階段を見つけたので、登ってみた。
当然途中からは結構ダッシュだ。
●やぶ蚊がスクランブルしてくる●
トンネルを抜けると、そこは雪国であった。
そう、そこは踊り子が東京から赴任してきた英語の教師に恋をする土地。
「それは、うどんぞなもし」
●脱力●
公衆便所と、社が二つ。以上。
せめてここの由縁を書いた看板くらいは欲しいところ。
トイレに入ってもやぶ蚊攻めに会うのは必死となれば、撤退するしかない。
いったい何だったんだここは。
露出不良で撮った写真は手ブレだらけになるしでもう散々。
唯一、息を呑んだのは、見晴台からのこのカット。
●フレームに収まらなかったところまでお見せしたかった●
見晴らしのよい景色も楽しんだし、ということで、
この謎の階段を下りた私達は、いい感じの踏切をわたった。
１００Ｍほども歩いたときに、電車の走ってくる音を耳にしたので
慌てて写真を撮るべく踏み切りの場所に駆け戻った。もう汗だく。
電車が走ってくる音が聞こえる。
私は電車を写真に収めるべくカメラを構えたが、電柱が非常に邪魔だ。
非常に苦労しながら、無様に移動する。
ああ、電車がやってくるよ。