このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

象潟——『奥の細道』を歩く


『奥の細道』
象潟
 江山水陸の風光数を盡して、今象潟に方寸を責。酒田の湊より東北の方、山

を越磯を傳ひ、いさごをふみて、其際十里、日影やゝかたぶく比、汐風眞砂を吹

上、雨朦朧として鳥海の山かくる。闇中に 莫作して雨も又奇也とせば、雨後の晴

色又頼母敷と、蜑の苫屋に膝をいれて、雨の晴を待。其朝天能霽て、朝日花やか

にさし出る程に、象潟に舟をうかぶ。先能因嶋に舟をよせて、三年幽居の跡をと

ぶらひ、むかふの岸に舟をあがれば、花の上こぐとよまれし櫻の老木、西行法師

の記念をのこす。江上に御陵あり、神功后宮の御墓と云。寺を干満珠寺と云。此

處に行幸ありし事いまだ聞ず。いかなる事にや。此寺の方丈に座して簾を捲ば、

風景一眼の中に盡て、南に鳥海天をさゝえ、其陰うつりて江にあり。西ハむやむや

の關路をかぎり、東に堤を築て、秋田にかよふ道遥に、海北にかまえて、浪打

入るところを汐ごしと云。江の縦横一里ばかり、俤松嶋にかよひて又異なり。

松嶋ハ笑ふが如く、象潟ハうらむがごとし。寂しさに悲しみをくはえて、地勢魂を

なやますに似たり。

  象潟や雨に西施がねぶの花

  汐越や鶴はぎぬれて海涼し

蚶満寺の森  象潟も久しぶりだった。前に訪れた時は、鳥海山登山のついでにちょっと立ち寄った、という程度だったので、今回はゆっくり歩くつもりだった。象潟駅の観光案内所で、象潟「九十九島」眺望のいい場所を訊いたら、「合歓の丘」を勧めてくれた。
 「ねむの丘」は平成10年開設の、温泉、レストラン、多目的ホールなどを備えた総合レジャー施設で、その最上階の展望室からは、なるほど、かつて海に浮かんでいたという「九十九島」が一望の下だ。駐車場の先の大きな森が蚶満寺。遠景は、頂上を雲に隠した鳥海山の裾野。
蚶満寺の森
天然記念物 象潟天然記念物 象潟  「松島は笑ふがごとく、象潟は恨むがごとし」と、芭蕉がたたえた景勝の地も、文化元年(一八〇四)の大地震で大地が隆起、芭蕉が舟を寄せた蚶満寺や能因島などの島々は、陸続きの小高い丘となった。今は一面の水田の中に松の茂る丘の点在する景観(国の天然記念物)となっている。これは蚶満寺山門からの眺め。
蚶満寺山門  蚶満寺はは、かつて「八十八潟、九十九島」の中心で、芭蕉はここkrの景観を、「俤松嶋にかよひて又異なり。松嶋ハ笑ふが如く、象潟ハうらむがごとし。寂しさに悲しみをくはえて、地勢魂をなやますに似たり」、と絶賛した。蚶満寺山門
舟つなぎ石舟つなぎ石  蚶満寺には、猿丸太夫の「姿見の井戸」、西行法師「歌桜の跡」などが残っている。これはかつての舟着場の跡の「舟つなぎ石」。
芭蕉句碑  蚶満寺の庭の小高い所に、この句碑がある。宝暦13年(1763)建立の古碑には、右左に「象潟の雨や西施がねぶの花」と、句の最初の形が彫られている。ごつごつした自然石に大きく刻まれた「芭蕉翁」の文字に、建立者の敬愛の情がにじみ出ている。芭蕉句碑
芭蕉像芭蕉像  蚶満寺山門前の池の周囲には、いくつもの碑や像がある。この芭蕉像は、『奥の細道』300年記念で建立されたもの。
ねむの花ねむの花  以前訪れた時、蚶満寺のねむの花は記憶にないが、今回は蚶満寺の池のぐるりに満開だった。「ねむの花」は象潟町の花として、観光用にも一役買っているようだった。
雨の「九十九島」  蚶満寺でゆっくり過ごしているうちに雨になた。しばらく雨宿りをしていたが、止む気配はなく雨脚はますます激しくなった。やむなくタクシーで天然記念物象潟「九十九島」を巡って。象潟駅に戻った。「九十九島」
芭蕉句碑芭蕉句碑  JR象潟駅前に、高さ3m、幅2mという大きな句碑が建っている。蚶満寺所蔵の芭蕉真筆を写真拡大したという銅版が、自然石にはめ込まれている。碑文は「象潟 きさかたの雨や西施がねぶの花」にはじまり、「武陵芭蕉庵桃青」の署名で終わっている。

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