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羽田「国際ハブ空港」化の波紋と問題
日本は「国際ハブ空港」にこだわるべきなのか


さらなる展開が進む羽田空港


前原国交相が10月12日に橋下大阪府知事との会談で示した羽田空港の「国際ハブ空港」化の方針。
会談のテーマであった関空の活性化問題など吹き飛んでしまい、我が国国際線の玄関口である成田空港の位置づけが大きく変わることを意味するだけに、成田空港のありかたが急にクローズアップされる大騒動になりました。

そもそも関空も含めて「国際ハブ空港」にこだわる必要性も含めて、今回の「騒動」を考えていきましょう。




●国交相発言の波紋
前原国交相が10月12日の橋下大阪府知事の会談で、羽田空港を「国際ハブ空港」として位置づけ、国際化を進めていく方針を示したことは、関空を我が国の「国際ハブ空港」の一つとしている府知事のみならず、大阪府や地元財界、関空会社にも大きな衝撃を与えています。

そもそもいわゆる関西3空港問題の解決を関空への集約で達成しようとする府知事が、年間8〜9億円の関空への拠出金の凍結をちらつかせて関空活性化、ひいては関空中心の航空行政の実施についての言質を取るべくを会談に臨んだのですが、肩透かしどころか藪からとんでもない大蛇が出てきた格好です。

今回の「羽田国際ハブ空港」化は単に関空の位置づけといった問題だけでなく、国際線は成田空港、国内線は羽田空港というこれまで国交省が推進してきた「内際分離」の原則を覆すものになります。
というよりも、関空の問題など瑣末なレベルであり、成田と羽田の棲み分けの問題という航空行政の喉に刺さった小骨、というか「虎の尾」をいきなり踏んだ格好です。

ですから当初はマスコミ受けのする府知事のカウンターコメントがメディアをにぎわせていましたが、一夜明けると成田市長や千葉県知事など、今回の発言がもっとも影響する成田空港の関係者側の反発を大きく報じましたし、その後は「内際分離」の見直しをすべきか否かという成田と羽田の問題として語られています。

成田空港の問題は歴史的経緯もあり、責任ある立場の人間が軽々に語るべきものではないのですが、今回の国交相の発言は成田をはじめとするほかの国際空港との関係や、歴史的経緯への配慮について十分検討して、根回しをした形跡もない「突発的」なものに見えます。
国交省内では詰めていたようですが、首相にすら諮っていなかったという報道もあるわけで、準備不足というか、大臣と言う「政治家」としての発言としてはいささか軽すぎる感が否めません。

これではよしんば羽田を「国際ハブ空港」にするのが国益に叶うベストの選択だったとしても、最初のボタンの掛け違いがあからさまであり、まとまる話もまとまらなくなってしまう懸念を招く軽率な発言ではないでしょうか。

今回、森田千葉県知事が「怒りで眠れなかった」とコメントし、国交相に「殴り込み」のような会談を申し入れましたが、さすがに国交相も事態の深刻化を避けたのか、国交省が2008年に打ち出した両空港を一体的に運用して24時間運航の「首都圏空港」とする方針に変わりはないことを示して、成田が国際線のメインであることにかわりがないとして県知事の怒りを鎮めましたが、国交相の「本音」が示された以上、いつ再燃してもおかしくない状態が続くことになります。

●国際ハブ空港とは
国交相の認識は、日本にはハブ空港が存在しないので、羽田を24時間国際化して国際ハブ空港を整備するというものです。そして羽田と成田に分かれた内際の乗り継ぎが不便だから韓国の仁川が日本のハブ空港になっているとも指摘しています。

こうした現状の原因が「内際分離」であり、さらに騒音問題から成田の24時間運用が出来ないということというわけで、羽田の24時間国際化によりわが国に初めて「国際ハブ空港」が誕生すると位置づけているようです。

このあたり、「国際ハブ空港」とは何ぞや、という論点にもなるわけで、国交相が「羽田は国際ハブ空港」と言ったり、大阪府知事が「関空は国際ハブ空港」と言ったからといって国際ハブ空港として認識されるものでもありません。

逆に国際ハブ空港を自認する関空から(伊丹や神戸と競合する)国内線だけでなく、国際線まで撤退表明が相次ぐ傍ら、「内際分離」を徹底している成田が特に欧米キャリアのアジア各国へのゲートウェイとして機能することで、事実上の国際ハブ空港となっているなど、結局は旅客、荷主にとっての利便性に裏打ちされた航空会社の事業方針で決まるのです。

●国際ハブ空港の条件
いわゆる「ハブアンドスポーク」の概念が先行した感も無きにしも非ずといったら言い過ぎでしょうか。大陸間の広域拠点間路線を受け入れて、各大陸州へのゲートウェイとして域内各国への区間便に継送するダイナミックな形態をイメージする人も多いでしょう。

もしくは国の玄関口として国際線を受け入れて、国内線で各地に継送する形態を思い浮かべる人もまた多いかと思います。

しかし、そういった「イメージ」はさておき、そうした形態が成立する条件を考えるとどうでしょうか。

国際流動の中継地と言う意味で純粋な国際ハブ空港が成立するとしたら、ヒト、モノ、カネの太い流れに裏打ちされた広域拠点間流動がまずありきで、それがどうしても途中で寄航しないと成立しない、という極めて限られた条件下において、さらに日本が地理的にそうした中継点、寄航地になりえないと成立しません。

我が国の地理的条件でそれが成立しそうなのは東南アジアと北米の流動程度でしょう。かつて冷戦時代にソ連上空の通過が出来ずに飛行距離が伸びたせいでアラスカのアンカレジが純粋な寄航地として繁栄していた例がありますが、そういった特殊な要因が今後発生しない限り、日本が純粋な寄航地としてだけの国際ハブ空港になることは難しいです。

もしくは国の玄関口という位置付けであれば、そこがその国で一番国際流動の多い都市か、どんぐりの背比べ的な都市が並んでいるかのどちらかでしょう。
つまり、その国に対する主たる需要がある都市へは直行便でまかない、それ以外は乗り継ぎで、と言う条件です。

なお、この「国」というのは複数の国からなる地域に置き換えることも可能です。欧州の玄関口、アジアの玄関口、と言った位置付けになりますが、この場合も直行便が就航するのはその地域に対する主たる需要が見込まれることが条件になります。

●日本における「国際ハブ空港」の性格
そういう定義で見た場合、日本に置き得る国際流動の中継地としては東南アジアと北米間くらい。あとは欧州と豪州間も可能性としてはありますが、こちらはシンガポールのほうが地の利があります。
そうなると日本が発地か最終目的地になる流動がメインとなる、「国の玄関口」「地域の玄関口」としての国際ハブ空港というのは明白です。

その場合、日本との流動と、一部国際間の中継流動により、航空会社が期待できる収益を極大化するスキームを提示することで、国際拠点間流動の一端を担うことは重要ですし、そのためには日本との流動が他のアジア諸国よりも多く、かつ採算に優れている流動が過酷できるという条件が維持できることが必須です。
つまり、空港の名称や機能よりもまず、日本がアジアの中で特に経済面において中心であり続ける戦略こそが重要であり、そうである間は日本が「国の玄関口」「地域の玄関口」として機能できるのです。

しかし、もし日本国内で国際ハブ空港として機能することが期待される空港があったとしても、それが流動にあっておらず、主たる目的地へも乗り換えが必要ということであれば、航空会社にとっては国際拠点間流動の幹線路線を日本に仕向けずともいいわけです。
それが日本国内なのか、ソウルや香港なのか、という違いは相手先にとってはまさに瑣末な問題であり、そうなればソウルや香港といった国にある国際ハブ空港と競合するのです。

そう考えたとき、我が国の「国際ハブ空港」の立地は、少なくとも現状であれば我が国最大の都市圏である首都圏以外には存在し得ないと考えます。

●整備すべき対象は
そういう意味では国交相の「日本にハブをしっかり造ってから(関西3空港の扱いを検討)」という発言は正鵠を射ていますが、首都圏に置くべき「国際ハブ空港」はどうあるべきか、となるとどうでしょうか。

「内際分離」を撤廃して羽田を「国際ハブ空港」とするには24時間国際化することが前提になりますが、いかに4つ目の滑走路ができ、将来は5つ目の滑走路も出来るとはいえ、国内線の需要を「人質」にした羽田発着枠の差配が成立するくらいの輸送力不足の中で、成田を完全代替するだけの能力はありません。
また、24時間運用といっても、首都圏の需要に頼る面が大きい場合、特に深夜帯の運用にどれだけの需要があるのか。逆に人口密集地の上空に航路が設定されているだけに、騒音問題も考えられます。

そうなると一部の路線を羽田につれてくるメリットがどの程度なのか。
国内線との乗り換えが便利になる反面、国際線同士の乗り換えに支障が出ることは無いのか。
羽田は「近い」という印象がありますが、2011年7月と目される成田新高速の開通により、時間距離ではスカイライナーで日暮里から36分、一般特急でも1時間を切ることになるわけで、現状の京成線経由レベルと目される料金や有効列車の本数を勘案すれば、成田は相対的には遠いが、絶対的に遠いとはいえない状況になるため、「近い」というメリットは実は大きくなくなってしまうかもしれません。

もちろん空港間の移動で無理が利く旅客ではなく、自分では動けない貨物のことを考えると内際路線が同一空港で乗り継ぎ出来るメリットは大きいです。
ただそれとて外環や圏央道の整備が前提になりますが、工業集積が進む北関東エリアへのアプローチに優れた成田のメリットを失う需要も出てくるわけで、これも「首都圏とそれ以外」の比較衡量になります。

つまり、首都圏に「国際ハブ空港」を整備すべきではありますが、それが国内線との乗り継ぎを前提にした羽田であるべきと言うことは絶対の条件ではないと考えます。

4000m級滑走路はこれ一本の成田


●「国際ハブ空港」である必然性は
そもそも首都圏以外からの国際線需要がどの程度なのか。仁川経由、また関空や中部経由といった需要がどの程度なのか。
こうした需要があるのに応えていないから羽田を「国際ハブ空港」にというのが国交省と大臣のスタンスと言えます。

しかし少なくとも関空経由の場合、伊丹から関空に移管することで内際乗り継ぎが便利になったはずなのに、それは純粋な国内線需要としては失った関西圏での需要をカバーできるだけの厚みがないわけです。
また、仁川経由は就航都市の多さだけがクローズアップされていますが、週14便の静岡は別格として、地方空港の多くは週2〜4便の就航に過ぎず、成田への国内線が日に21便あるということと比較すると、気にするほどのものなのか。

仁川経由が気になるとして、仁川の利用者は2600万人程度。そしてトランジットは実は1割強です。そのすべてが日本の地方都市というわけはないでしょうが、週2〜4回の就航でさらに韓国内を最終目的地としない流動がどの程度なのか。
羽田移管によりそうした流動へ対応する代わりに、国際線同士の乗り継ぎへの影響や、国際線就航により増発余力を失う羽田の国内線需要への影響が出るわけですが、どちらが優位なのを考えたら、現在の「なんちゃってハブ」で十分であり、「国際ハブ空港」の形式にこだわる必要性もあまりないような気がします。

ちなみに「国際ハブ空港」のモデルのようにされているシンガポールのチャンギですが、成田が年間3500万人に対し、4000万人クラスというのは立派ですが、その7割程度がトランジットです。
だから域内のゲートウェイと言うのが大事と言われそうですが、インドから豪州にかけてのアジア大洋州の中心に位置する地理的条件や、旧植民地と宗主国を結ぶルートの一部という要因、また仲介貿易や金融で立国しているがゆえの国際流動の多さに加え、東南アジアに多い「国際出稼ぎ」の流動といった特殊要因が大きいことも事実ですし、こうした中継地であることに国の存立を賭けてきたお国柄である以上、当然の結果とも言えます。

逆にトランジット比率が低いがゆえに成田、そして関空などを加えた日本が最終目的地と言う流動数はアジアの中でもやはり大きいわけで、日本の取るべき道は、二兎を追うよりもまず日本の目的地としての魅力を高めることで「日本行き」の設定が経営上ベスト、とという信任を維持することに尽きるのではないでしょうか。

●関空の大風呂敷
今回の会談で橋下知事は「西日本にもハブ空港が必要だ」と訴え、伊丹空港を廃止したうえで関西空港を国際ハブ空港として位置づけることを求めました。

しかし、日本における国際ハブ空港の条件を考えたとき、まず首都圏であることは言うまでもない話です。そしてその後でもう一つ国際ハブ空港が成立できる余地があるかを考えるべきです。

上記の通り、日本における国際ハブ空港に欠かせないのは空港がもつ基礎的な需要です。
しかし、関空の需要を支える関西エリアは現状では力不足と言わざるを得ません。
日本の玄関口であるためには日本の活性化がまず必要であるのと同様に、関空の活性化を考える以前の問題として、関西の活性化を考えないといけないのです。
そう考えたとき、都合のいいときだけ「オール関西」の顔をして、メリットは「大阪」で、と言うスタンスが露骨な現状で、関西がまとまれるかどうか。

いろいろ言われる関空ですが、唯一光明が見出せるのは厚みのあるアジア関連の路線網であり、それは歴史的、地理的条件に育まれたまさに関西の地域的特色といえます。
関西に基礎需要があるアジア関連路線は関空乗り入れに価値がありますし、こうした路線を対象に首都圏からの需要も集める、さらにこれが育てば特に北米からの路線も期待できると言う、小規模ながらもまさに「国際ハブ空港」として機能する可能性があるのです。

それに対して今の府知事はそれを伸ばすことで関空をハブ空港として育てようとしているのか。
残念ながらどうもそうでないように見えます。
関西の地域特性を活かした関西流の国際ハブ空港というよりも、東京に伍して、東京と比肩する2大都市としてのプライドを満たすための国際ハブ空港を整備したいのではと疑いたくなるのです。

国際空港としての風格は十分の関空


●成田と関空の問題のレベルは違う
まず日本における国際ハブ空港の条件を考えると、今回の「羽田の24時間国際化」「国際ハブ空港化」の表明で反発した成田、関空の両空港の問題には実は大きな質の違いがあることがわかります。

需要地における国際ハブ空港の置き方を問う成田に対し、需要地でない関空。もちろん「地域振興」「均衡ある国土の発展」と言う意味はあるのでしょうが、そうなると関空の主張は、JALの経営危機で注目を集めた「無駄な地方空港」の問題と相似形を描いてしまいかねない危うさがあるのです。

そういう意味ではまず関空は現実的な将来像を描いてからこの議論に参戦すべきと言ったら厳しすぎでしょうか。

そしてこの問題を冒頭で「虎の尾」と表現した、絶対に避けては通れない「成田の特殊性」があるのであり、成田空港は千葉県の経済的な犠牲のみならず、まさに「血」で贖って開港した歴史を忘れてはいけません。

暴力闘争、政治闘争への道を拓いた反対派の責任は非常に大きいですが、「歴史的和解」で謝罪したように、国の責任もまた重いのです。それを考えると、国が一方的に「使い捨て」にするような方針変更は容認できるものではありません。
いつまでもこだわるべきではない、という声もありますが、簡単に忘れてはいけないのです。

そうした下地がある中ででてきたのが羽田の「国際ハブ空港」化であり、これまでも不自然なまでに離発着コースを千葉県側に偏倚させて騒音問題を「押し付けられて」きた千葉県としてはメリットを奪われ、デメリットは増幅という論外の事態になるのでは話になりません。

特に騒音問題は横田空域の問題があるとはいえ千葉県側の一方的な負担とも言える状態であり、今回の国交相の「方針」がでるや間髪を入れずに歓迎した東京都や神奈川県は、まず応分の「負担」をしてから議論の土俵に上がるべきでしょう。
東京都は朝7時台に5便の低騒音機の離陸を受け入れるだけで、それすら批判しているレベルですし、神奈川県は離陸機がかなり高空になった時点で飛ぶ程度。千葉県並みの負担と言うのは、京浜間の人口密集地の上空に着陸コースを設定して初めて言える話です。
(千葉県側は特に浦安〜千葉の住宅地上空を通り最終のアプローチに向かう設定になっている)

今回の森田千葉県知事と国交相による早速の会談にしても、県知事が都内選出の衆院議員時代に羽田国際化を主張していたことを引いて、千葉県の事情を本当に伝えたのか、という批判があがったように、千葉県側のこの問題への執着と不信感は残念ながらかなり深いのです。

検問がお約束の成田空港


●余談だが...
府知事の主張には「東京」や「中央政府」を必要以上に意識しすぎている印象を受けるのであり、よしんば現状が「東京一極集中」の弊害だとしても、現状逃避とまでは言いませんが、現状にそぐわない「背伸び」すら感じる主張には、もう少し地に足をつけた主張をすべきではと思うのです。

「大阪の夢よもう一度」にこだわるあまり、「東京一極集中」へ抵抗することが実は「大阪一極集中」への道のりになっている。
それが関西圏としての一致団結を阻んでいるどころか、兵庫県の対応に代表されるように大阪への警戒心すら生んでいるのです。

今回の会談では、「日本」を語る国交相と「大阪」を語る府知事に、立ち位置の違い以上のものを感じました。
もちろん府知事ですから府レベルの目線で語ることも大切ですが、国益を語る大臣に対してはどうなのか。「国益」が意に沿わないから拠出金を引き揚げるというのでは子供のけんかです。





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