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茨城空港を見る
意外なポテンシャルと厳しい現実


イメージキャラ「スカイスリー」が誘う...


2010年3月11日に開港した茨城空港。
当初はアシアナ航空のソウル線のみの就航で、「国内線の来ない国内空港」という状況に、無駄な空港の象徴と批判されていました。

その後4月16日からスカイマークが神戸線を就航させ、ようやく国内線も就航するようになりましたが、それでも1日わずか2往復の就航というのは、地方空港とはいえ都市近郊に位置する空港としては異例の本数といえます。

その割りに「無駄な公共事業」叩きの声がいまひとつという不思議な側面もあるこの茨城空港。就航先が個人的には縁浅からぬ神戸空港ということで、その気になれば利用する機会を作れそうですが、取り敢えず空港だけ訪問してみました。


※特記なき写真は2010年4月撮影

※2010年6月24日、8月12日 補筆


●いつの間にかの開港
茨城空港は2010年3月11日に開港したのですが、正直言ってまさに「いつの間にか」という印象です。
最近の地方空港の開港というと静岡、神戸ですが、反対運動などの批判がメインとはいえ、何かと話題になっていただけに、この茨城空港の開港はどちらかというと静かです。もちろん話題にもならないという非常に厳しい事態であるという側面もあるだけに、いっそう厳しい船出と見ることも出来ます。

この「いつの間にか」感を強めているのが、茨城空港は航空自衛隊百里基地の「増設」ともいえる施設という事実でしょう。軍民共同化とそれに合わせて滑走路の増設という「設備投資」は、地方空港の開港というより航空自衛隊の主力基地の拡充という性格であることが暗黙の了解とされ、だから「地方空港整備」としての批判はいまひとつということもいえます。

また既存基地の拡充という側面から、重機がうなりを上げて何も無いところに「ご立派な」空港を建設するという、批判派にとって格好の絵になるシーンが手に入らないことも、この「静かな開港」の一因かもしれません。

●開港までの苦闘と展開
開港スケジュールが固まった時点においても就航会社が決まらない、このままだと開港時に路線がない、という前代未聞の事態すら懸念されていましたが、なんとかアシアナ航空のソウル線の就航が決まりました。

デイリー運行だけましとはいえ、国際線が1日1便のみというのはなんともささやかで、後述するようにローコスト航空会社、いわゆるLCCをターゲットにしながら、結局話が進展しないまま開港を迎えたようです。このあたりは成田の平行滑走路の延長、羽田の再国際化という逆風が大きく、空きがなくてやむなく、という消極的選択すら出てこない外部環境が大きいのですが、茨城空港側に問題があるように見られています。

その潮目が変わった?のは1月29日です。
まさに青天の霹靂というのでしょうか、スカイマークが3月11日当日のみ、開港記念フライトを行うと発表したのです。

神戸→茨城→神戸→茨城→羽田の計4便。最後の茨城発羽田行きは回送がわりでしょうが、前代未聞の短距離便です。しかもこれが記念ツアーでなく、便名を持ち一般発売されたというのは想定の範囲を超えていました。

これがいわゆる瞬間蒸発となり、2月2日に関係者、招待者用にブロックしていたであろう席を追加放出するなど、開港日のみの現象ではありますが、予想を上回る利用となったのです。
これに気をよくしたのか、2月6日には4月16日から神戸−茨城線を就航させるとの発表があり、ようやく国内線も就航したのです。

●異例尽くしの神戸線
まずインパクトがあったのが、21日前までに発売される「前割21」の価格です。
なんと片道5800円です。普通運賃でも12000円、3日前までの「前割3」で9800円と、これはインパクトがあります。さすがに金土日は2000円アップで、夏休みに入るとさらに上がりますが、それでも割安です。
なにせ石岡から東京まで高速バスで約1500円、特急で料金回数券利用で約2000円という土地柄ですから、羽田や新幹線へのアクセス抜きでこの価格は驚きです。

さらに茨城空港に地上要員を置かないというケチケチ作戦。窓口要員に整備士まで、神戸発の便に同乗し、そのまま茨城発の便で帰るというのです。
ただしこの奇想天外な施策、海外では存在するパターンですし、LCCの就航を促進している茨城空港にはうってつけなんですが、折り悪くスカイマークは搭乗員から経営者まで不祥事が続出し、4月6日に航空局より、安全運航体制の確立のための業務改善について勧告を受けて、4月13日までに復命するというタイミングとあって、ひょっとしたら認められないのではという声もありましたが、13日に改善計画書が提出されたこともあり、ギリギリで容認されました。

神戸での宣伝(2010年5月撮影)


●茨城空港へ行ってみる
さて、茨城空港に行ってみました。
クルマ利用ですが、常磐道千代田石岡ICからという県南、東京方面からの王道アクセスにしてみたところ、やはり千代田石岡ICからが長いし混みました。

千代田石岡ICには茨城空港の案内も

特に恋瀬橋付近、千代田バイパスの整備中ですが、恒常的に混みます。そこからはR6から分かれる山王台を含めて流れてはいましたが、所詮は昔からの片側1車線の国道、県道ということで巡航速度は低く、これが山王台などで滞ったらかなり厳しいでしょう。

この日は千代田石岡ICから20分強で到着。公式サイトでは25分とあり、石岡口はそんなに飛ばせない道路事情であることを考えると、25分という数字は手堅い感じです。

さて、道路のほうはR355に入り、バス専用道になろうとしている旧鹿島鉄道の跡地を見て、小川の手前で県道に左折します。訪問したのは大型連休中の平日でしたが、5月1日のチャーター便大量運行時に備えて、通常のアクセス道路は搭乗客、見学客は別ルートに誘導していましたが、あの看板の置き方は常に見学客が別ルートへというように読めました。

完成間近なバス専用道(新高浜−四箇村)

小川から続く集落が果てる頃、茨城空港は右折というポイントに。ここからは開港に合わせて整備されたメインエントランスといえる道路で、4車線分の用地が確保されています。
もともと百里基地が近いせいか、森林と畑の地目で、沿道に韓国語を交えた歓迎の幟旗が並んでいますが、寂しい道中です。

ファイナルアプローチの新道

ようやく正面に空港が見えてきたか、というころ、正面に広がった光景に仰天です。
半端じゃないスピードで低空飛行する戦闘機のシルエット。1機は反転してアクロバティックな運動をしています。
どうやら百里基地の訓練のようですが、スカイマークの神戸発が到着して、出発までの小1時間にも訓練というのは驚きです。後で調べると、訓練は基本的に平日のみですが、マニアにはたまらない光景が繰り広げられています。もっとも、タッチの差で出遅れた格好の私はほぞを噛みましたが。

●駐車場などを見る
ターミナルビルの乗降に関する動線が1階で完結する構造ということもあって、駐車場との行き来は横断歩道になっています。
これは神戸空港も同じですから驚きませんが、駐車場への入口が正面側になく、反対側まで半周回ってからとなるのがやや迂遠です。

見学客は駐車場を取り巻く周回路の向こうにある臨時駐車場へ、とありますが、本設側も空きが十分にあり、そちらに駐車します。
このあたり、神戸空港における開港当初の駐車場不足と比較したくなりますが、便数が全然違うため利用者の駐車が圧倒的に少ないことを考慮しないといけません。

臨時駐車場側から見た駐車場とターミナル

ちなみに本設の駐車場は完全アスファルト舗装で、一部を芝生敷きにした神戸空港とは違う趣きです。
ターミナルビルに向かうと、ビル正面のバス乗り場につくばへのリムジンが停車中。その後方、水戸行きのバス乗り場には10人ほどが並んでいますが、おそらく高速便に乗るのでしょう。
アプローチ道路への交差点で石岡行きのバスとすれ違いましたが、車内の人影は3人程度。直通便とはいえ一般車ですから見劣りはしますが、茨城県側が力を入れている県南、東京方面の流動という意味ではお寒い限りです。

つくば行きリムジン


●ターミナルビル1階を見る
周回道路と交差する横断歩道には誘導員が立ち、歩行者優先でさばいているのは開港当初の神戸空港でも見られた光景です。そしてターミナルビルへ、と横断歩道正面のガラス張りはただのガラス窓で、出入口は左右になっており、ちょっと肩透かし。駐車場からの動線という意味ではあまり感心できない構造です。

横断歩道正面はガラスの壁...

入るとほぼ正面が2階の物販や展望デッキへのエスカレータで、その右手、ちょっと寂しいスペースが団体受付。逆に左手は賑わっており、まずセキュリティエリアへの入口、その先に航空会社のカウンターがあります。
到着は左右に分かれ、左が国内線、右が国際線ですが、カウンターを左手に集約したため、右手のエリアは閑散としている印象です。

左スカイマーク、右アシアナ

ちょうど神戸線の手続が佳境で、セキュリティに行列が出来ています。カウンターはアシアナは常設で看板などディスプレイも華やかですが、スカイマークは地上要員を置かない前提なので、ポスターを貼っているだけ。徹底した簡素化です。

神戸行きのセキュリティに並ぶ乗客

ちなみに帰り際にもう一度見ると、アシアナ航空のソウル便の手続が始まったところで大賑わい。カウンターで並び、さらにセキュリティで、と考えると、かなり割り切った簡素な構造が、開港ご祝儀の賑わいだとしても混雑時にちょっと能力不足になるようです。

アシアナのカウンターの混雑


●ターミナルビル2階を見る
2階に上がってみましょう。右手に売店、左手に軽食堂、あとは県と小美玉市のPRコーナーというささやかな施設ですが、物販がこれしかないこともあって混みあっています。
後述するように「目隠し」をしている百里基地ですが、見せないけど売り込みはします、ということで、売店には百里基地コーナーがあり、戦闘機や部隊のエンブレムをデザインしたグッズが置かれていました。

百里基地コーナーもある売店

吹き抜け構造になっているため2階は周回路になっていますが、ターミナルビル正面側は幅が狭く、通路としての用しかなさないのでは、無駄なスペースという印象もあります。
神戸空港は2階、3階が吹き抜けですが、周回路を設けず3階は片側に寄せており、そのほうが使い勝手のいい構造になったのでは、と思います。

そして展望デッキに出るとここが今日一番の混雑です。
このあと神戸便の離陸時には立錐の余地もない、という表現があながちオーバーに聞こえないほどの人出になりましたが、やはり空港見学というと航空機を見るというのは当然の話です。
そう考えると、航空機が見えないこともある展望デッキを持つ関空の構造はやはり異様です。

デッキ正面、滑走路側は通常なら金網のところ、ガラス張りです。
何かすっきりしない見通しに、よくよく見ると、すりガラスじゃないですか。これは無粋な、意味がない、と思った次の瞬間、この一瞬不可解な構造の意味が分かりました。

左向きは百里基地が見えるのですりガラスになる。右向きは見せても大丈夫なのでただのガラスになる。

ターミナルビルからデッキに出る部分は一段高く、「すりガラス」の上から向こうが見えます。
そして滑走路の向こうに広がるのは百里基地の格納庫。エプロンに出ているのは戦闘機でしょうか。F4とF15が配属されていますが、あれはF15だとはっきり見分けがつきます。

そう、ここは首都防衛の航空部隊の最前線基地である百里基地ですから、さすがに防諜上基地側は見せられません。これが金網や通常のガラスだと、最前線基地を見渡せる「お立ち台」になってしまいます。ゆえにどこからでも百里基地方向を見ようとすると曇りガラスになる特殊ガラスになっており、基地が見えない方向のみ通常のガラスのように見えるのです。
こうした「配慮」は六甲ライナーの魚崎付近や、愛知万博のロープウェイでもありましたが、あちらはまずい区間になると電気的信号で曇る「瞬間曇りガラス」でした。ただし、市街地通過に伴うプライバシーへの配慮だったのが、今回はどう見ても軍事施設の情報保護とかなり生々しいです。

まあ、「すりガラス」と床の間にはスペースがあり、そこからは素通しで撮影が出来ます。
それなりに基地側も見えますが、それくらいなら問題ないということでしょうか。
こうしてみると警備員とともに警察官がいる理由も、雑踏警備やテロ防止だけでなく、百里基地対策の任務もあるかもしれません。

●特徴ある出発
さてこの茨城空港最大の特徴は、LCC対応の施設ということ。

コストのかかるボーディングブリッジは設置せず、昔ながらのタラップで搭乗します。
この点だけ捉えて、茨城空港はブリッジもない貧相な空港、という批判も聞かれますが、どうしても「オラが空港」を立派にしたい意思が働くなかで、見栄えよりもコスト削減と割り切った決断はなかなか出来ないものであり、評価すべきことです。

実際、不採算に悩む地方空港への批判の一つが過剰な設備であり、引き合いに出される海外の地方空港での搭乗風景は、小型機にタラップで乗り込むものですから、茨城空港の対応はそうした批判への一つの解といえます。

屋根付待機スペースからタラップへ

タラップの昇降がしんどそうに見えますが、まあバリアフリー対策として別手段を用意はしていますが、基本階段というのは確かにしんどいものの、タラップからはターミナルビル、アクセス乗り場まで総て1階平面にまとまっており、上下移動は実は少ないのです。

タラップが外れていよいよ出発

ターミナルビルから徒歩でタラップへ、となると気になるのは荒天時ですが、ターミナルビルの延長部分に屋根つきの通路というか待機スペースが確保されています。そこからタラップまでは露天ですが、どうするのでしょうか。
展望デッキから見ていると、737-800の機材はターミナルビルからやや距離を置いて、しかも斜めに停まっています。
これもLCC対応の秘策の一つで、ターミナルビルに直付けすると、出発時は牽引車によるプッシュバックとなることから、そのコストを廃するために、少し離れて停めて、出発時はそこで自走、旋回して滑走路に向かうのです。

ぐいっと方向転換して...

見ていると、タラップが外れて、エンジンの回転音が上がると、ゆっくりと自走しながら向きを変え、最後はお尻をこちらに向けて滑走路に向かう姿はこれまでなかった光景であり、一見の価値はあります。

ちなみに茨城空港には誘導路がなく、滑走路を端部まで進んでUターンすることになりますが、これも面白い構造でしょう。

滑走路へ向かう


●予想外の部分と未だしの部分
こうしてみると、LCC対応を謳うだけあって、各所にこれまでの地方空港にはなかった「仕掛け」があり、それをうまく活用することで運行コストを大幅に下げた就航が可能です。

また、ターミナルビルは国際ビジネスジェットの就航を考慮した構造になっているという話もあり、LCCやビジネスジェットに特化した首都圏第三空港としての器は十分に備わっているといえます。

一方で規模を考えると、ターミナルビルはこれでも大きいです。いっそ吹き抜けも諦めていればさらにコンパクトになっていたわけですし、現在吹き抜けで使えないスペースが通常のフロアなら、、将来の旅客増加時や修学旅行での利用時における集合場所に活用できたのです。

イミグレーションなどの設備があることも理由とはいえ、神戸空港のターミナルビルと大きさの印象は変わりません。(ただし神戸空港は一部4階建ての3階建てと上下は大きい)

吹き抜けは見栄えは良いが...

あとは入口のところでも批判しましたが、動線をあまり考えてない構造が見られます。
最大のものが、入口を入って、セキュリティの前を通り奥のカウンターで手続をして、また戻るという動き。神戸空港も同様ですが、こちらは手前の入口から奥のセキュリティまで奥行きがあり、中間の左右にカウンターがあるため、「く」の字に動くことから、動きにあまり無駄が生じません。

その他、団体対応の待合スペースが見当たらないこと。利用促進の王道は修学旅行での利用ですが、このためには一堂に集合できるスペースが必要です。神戸空港もこれが手薄で批判されていますが(無駄だと言われてコンパクトにしたら、今度は狭いと批判されて...)、上記の通り吹き抜けを諦めれば無駄なくスペースを確保できたのにと思います。

●アクセスの問題
もともと爆音が気になる戦闘機部隊の基地ということで人里離れているため、最寄り駅やICまでの距離が長いです。一方で土地はありますから無料駐車場の整備により、自動車交通による広域集客がこの空港を活かす鍵といえます。

ところが道路の整備はどうでしょうか。茨城県の空港ということで、県都水戸へのアクセスは最優先で整備したようで、アプローチ道路から右折するとすぐバイパスになり、終点を左折するとすぐ東関道の茨城空港北ICです。

東関道・茨城空港北IC

このルートの開通もギリギリでしたが、茨城町JCTから北関東道経由で水戸大洗ICというルートが確保されたことで、水戸市街、また東水戸道路経由でひたちなか市街へのアクセスは良好です。
若干手戻りにはなりますが、友部JCT経由で日立方面など県北へのアクセスも合格点ですし、県西部、栃木県方面も北関東道経由で予想以上にスムーズといえます。

問題は県南方面です。千代田石岡ICが玄関口になりますが、R6とR355の分岐する山王台交差点は渋滞の名所ですし、その先の恋瀬橋もたいてい混んでいます。
鉄道アクセスもこのルートで石岡駅に到るわけですし、つくば市方面も千代田石岡ICに出ないといけません。その意味で、当初の「東京メトロポリタン空港」と題して首都圏からの集客を志向した割りに、そっち方面へのアクセスがお粗末というのはいただけません。

実は美野里PAの2kmほど三郷寄りに石岡・小美玉スマートICの整備が決まっており、そこから石岡旭台に出る道路を使い、R355に合流できるルートが確保できますが、千代田石岡IC経由よりはマシとはいえ、R355の混みやすい区間を利用することからいまいち感が払拭できません。
北側の広域農道経由かもしれませんが、こちらも「まっすぐ」とは言えず、微妙なルートです。

バスルートのほうは石岡から四箇村までの旧鹿島鉄道跡地をバス専用道にする工事が進んでいます。空港アクセスバスやかしてつバス(鹿島鉄道代替バス)程度の本数なら、今回の工事のように一般道との交差点付近にすれ違い箇所を設置している程度で十分であり、かしてつバスと合わせて機能向上が期待できますが、石岡からの鉄道アクセスが問題で、土浦での乗り継ぎや、特急利用時のコストの問題など、せっかくのLCC利用メリットが相当減殺されそうです。

人影まばらな石岡行き直行便

ついでに言えば、直行便を逃すと一般路線バスで小川駅(旧鹿島鉄道常陸小川駅跡)に出て、かしてつバスに乗り換えという案内ですが、掘っ立て小屋然とした「待合室」?があるだけの更地で乗り換え待ちというのはひどすぎます。だからといって鹿島鉄道だったらどうかと言われたら、あの古豪が空港アクセスと言うと趣味的には面白いでしょうが、いい勝負です。
水戸とつくばへは高速バスタイプのリムジンバスが運行していますが、一般道・茨城町経由の水戸−茨城空港−小川駅線とそれと乗り継ぐかしてつバス、直行の石岡行きは一般路線バスであり、もう少し何とかならなかったものでしょうか。

小川駅での乗り換えはこんな感じ(2009年5月撮影)

あと、意外と利用が期待できるのは鹿島方面ですが、東関道の整備を待つしかないというのは辛いです。鹿島からは成田、羽田と東関道、湾岸線で既につながっており、対等の土俵に上がるまで時間がかかるのでは、潜在需要を顕在化することは難しいでしょう。

なお、茨城県が茨城空港の利便性向上を目指し、5月27日から東京方面への直行高速バスの運行を始めました。
2011年3月まで期間限定での「空港バス運行実証事業」として、茨城県が年間5000万円を上限にする助成とセットにして関東鉄道に業務委託し、1日3往復の運行。運賃は片道1000円、航空機利用客は半額と破格の条件で、都心からの利用を引っ張ろうとしていますが、さすがにこれはどうでしょうか。苦戦も伝えられるおり、6月19日からは発着を他の関鉄高速バスと同様に出発八重洲南口、到着日本橋口として、当初の鍛冶橋駐車場から格段に便利になっていますが。

●思わぬ実績
開港から2ヶ月。思わぬ実績というのが正直なところです。
国際線は3月の実績が85%、国内線も4月の実績が78%と、上々の滑り出しといっていいでしょう。
特に神戸−茨城線の実績は予想外で、神戸−茨城線と振り替わる形で運休した神戸−福岡線が20%そこそこに低迷したことを考えると、1日1往復という使い勝手の悪さを考えると想像以上の実績です。

国際線はこの後4月が64%、5月に入ると55%とつるべ落としなのが気掛かりですが、需要の多くを占める観光客にとって、5月は農繁期という指摘もあるわけで、もう少し様子を見るべきでしょう。
一方で国内線は5月の搭乗率が75%と高値安定であり、こちらは底堅い需要をつかんだようにも見えます。

この神戸線、衝撃の「5800円」もさすがに金〜日は2000円アップですが、それでも埋まってます。7月16日からの夏休み期間はさらに上がって月〜木7800円、金〜日はさらに1000円アップですが、埋まっています。もっとも割り当てがごく少ないのかもしれませんが、空席状況から察するに、前割21は10席、それ以外は20席以上の設定があるようで、その前割はほぼ連日満席という状況です。

この実績を見る限りは、少なくとも国内線は夏休みまでの梅雨枯れの時期を乗り切ったと見ていいでしょうし、高搭乗率が期待できる夏休みになだれ込むことで定着へのハードルを一つクリアしたといえます。

国際線のほうも、5月1日、2日で20便の運航と言う「チャーター便による茨城空港ジャック」のような派手な話題はないものの、中国のLCCが就航に向けて最終調整とのことで、実績が出てきたことでこれまで「瀬踏み」をしてきたキャリアが出てくる可能性があります。
唯一ネックは需要が期待できる中国線について、軍民共用空港は安全保障上の観点から、旧共産圏からの乗り入れについて曜日や時間帯を制限しているという制約があること。国交相と防衛相が協議に入るとのことですが、首都防衛の最前線ゆえ安全保障を疎かにすることは論外であり、キャリアや国籍によっては諦めざるを得ないケースが出てくるかもしれません。

これに関しては7月末から中国のLCC「春秋航空」がプログラムチャーター便の形で、茨城−上海間に週3便程度運航することが正式に決まっており、安全保障上の問題は一応クリアしたようです。

なお、これは余談ですが意外と知られてない事実として、アシアナ航空のソウル便は、ANAのコードシェア便となっており、NH6987/6988の便名が付いています。ですからANAも就航している、と言えなくもない?

賑わう売店


●見え隠れするポテンシャル
こうして見ると、結論めいたことを言うには時期尚早に過ぎるとはいえ、やはり首都圏の一角を押さえた空港の需要の底堅さというべきでしょうか。ポテンシャルはやはりそこそこあるということが分かります。

先行して開港した静岡空港と比較しても、路線数、便数が全然違うとはいえ、メインが約80人乗りのエンブラエルに対し、約160人乗りの737-800というわけで、地方対地方の路線にならざるを得ない静岡空港と比べて、非常に恵まれた環境にあるといえます。

まあどうせ開港ご祝儀、「動員」だろうと言いたくなるのでしょうが、修学旅行という「かさ上げ」の定番がまだ数字に入っておらず、茨城という地味なエリア相手では神戸側からの「動員」が困難な中でのこの数字は驚きです。

そうしたポテンシャルをうかがわせるものとして、上記の訪問時に見た空港駐車場の状況があります。
神戸空港と比べて空いている、とは書きましたが、その駐車車両のナンバーが実に興味深いです。
つまり、水戸や土浦といった地元車両が多くを占める中、ご当地ナンバーで登場したつくばがそこそこ目立ちます。また、とちぎ、栃木、宇都宮といった北関東道つながりの栃木県方面のクルマがかなりのシェアを占めており、このあたりは未明発の空港リムジンが豊富なことからも裏打ちされている北関東の旺盛な航空需要が早くも食いついてきていると感じます。

もう一つあっと思ったのは、大阪や神戸など関西ナンバーのクルマが少数ながらいたこと。
単身赴任の一時帰宅か、妻子帯同の赴任での帰省か、いずれにしても関西に生活拠点がある(あった)人による対関西の流動が存在するのです。
これはつくばの研究所関係ではかなりの数になるでしょうし、実際、根っからの関西人エンジニアがつくばに転勤というケースもそれなりに見聞きするだけに、こうした帰宅・帰省需要はバカになりません。特に出張と違い、コスト優先の度合いが高い流動ですし。

このあたりを占う傍証として、関西圏から常磐道方面への高速バスが意外と厚みがあることがあります。
ドリーム号が季節運行ながらつくば発着があり、つくば、土浦経由水戸行きの「よかっぺ号」があり、日立、高萩を経ていわき、浪江への「シーガル号」があってそれぞれ定着しているという事実は、このエリアと関西圏の流動が太いことを示しています。

定期フライトは現状これが総て


●化けるかポシャるか
国際線に関してはどうも水ものと言うか、需要期に合わせてチャーター便を飛ばといった対応のほうがいいかもしれません。
韓国ソウル便は一番無難な路線ではありますが、国際線定着のカギとも言えるビジネス需要として見た場合、茨城県の産業集積との親和性があるかと言うと、それならば中国便のほうが期待が持てると言えます。

一方で国内線は、神戸空港の開港当初の数字には及ばないものの、まずまずのスタートダッシュであり、それをいかに定着させるかで今後が決まります。

そう考えた時、今の午前中に1往復が飛来して去っていくダイヤはなんとも使い勝手が悪いのです。
1日1往復で往復とも茨城空港を使うのであれば日帰りは出来ません。さらに時間帯が時間帯ですから、往路か復路の1日は非常に時間を無駄に使うことになります。
私自身、話のタネに利用を考えてみましたが、神戸8時20分発、神戸11時55分着のダイヤはなんとも使い勝手が悪く、茨城発を使って午後の仕事に使うか、後泊して神戸発で帰るか、と言うしか使い道がありません。

やはりここは午後、欲を言えば夕方に1往復してこそ真価を発揮するといえます。
需要が心配であればひねり技として、神戸−札幌の増発対応として茨城経由便にするといった対応もあり得ます。
経由便は経由地でいったん降機する問題がりますが、スカイマークは神戸−札幌−旭川の経由便を運行するなど経由便での設定を否定しておりませんし、茨城折り返しによるダイヤ制約が消えて、例えば午前便なら茨城発、神戸発とも朝のうちに出せるといったメリットが打ち出せます。
少なくとも夕方の1往復があれば、ビジネス対応が可能になるので、利便性が段違いになりますし、これで大化けの可能性もあります。

一方で肝心な県がそういうところに目が向いているか。
ここまでの実績で見えてきた取るべき方向性に気が付いていないようにも見えます。
つまり、東京からの集客に固執して採算割れ前提の高速バスを設定したことはその象徴です。高速バスが盛況と言う話を聞かないばかりか、石岡方面へのバスも芳しい話を聞かないのに対し、少なくとも国内線は順調な利用を継続しているわけです。

つまり、少ないように見えても茨城県をはじめとする北関東の需要は実はあると言うこと。そうなれば運行ダイヤなど地元の利便性を極大化するべく航空会社に働き掛けると言った対応を取っているのか。

気になるのは無駄なコストを削減する狙いもあるんでしょうが、ターミナルビルの営業時間が8:30-17:00ということ。まさにお役所仕事ですが、午前中から昼下がりで発着が全部終わるのですから仕方が無いとはいえ、では夕方便の増発を考えた時、事務方から売店まで対応は即応できるのか。

また、運行時間が拡大した時、百里基地側との調整はどうなるのか。
展開させたくても実はできない、というようなオチが無いことを祈るだけですが、その先の展開と努力が見えてこないのが一番の心配時と言えますし、それで腐らすにはやはりもったいないポテンシャルがあるのです。

茨城行きの表示(2010年6月撮影)



【2010年6月24日 補筆】
記事をアップしてわずか4日でまさかの展開です。

2010年6月24日、スカイマークは 神戸−茨城線の運休を発表 しました。

それだけだと「ああ、やっぱり」というところですが、運休を伝えるプレスリリースを見ると、先の福岡線のような搭乗率の低迷を理由とした「通常の運休」とは違う事情が浮き彫りになっています。

いわく、自衛隊との共同使用で、自衛隊の事情で運行が左右されると言うことを特筆大書しているのです。首都防空の最前線である空自の主力基地ですからそれくらいは想定の範囲内では、と思う反面、営業収支は黒字で、本社費などの経費配賦後は赤字だが、3往復程度の運行で黒字を確保したかった、と言うくだりを見ると、あながち言い訳とも言えないような理由です。

そして直接的な原因は、7月25日(日)の百里基地航空祭でしょう。
リリースでは運行ダイヤの大幅な変更を求められたとあり、周辺道路の渋滞で搭乗客が空港に辿りつけるかも怪しい状況では、書きいれ時でもある夏休みに入って最初の週末に、茨城線のみならず無関係の神戸−沖縄、神戸−羽田線にも影響が出るとあっては話にならないと言えます。

空自との共用ですからある程度の折り合いは求められるとはいえ、商業空港において増発どころか定期便の運航スケジュールすら覚束ないというのは、さすがに想定のはるか上を行く事態ですし、茨城県の調整不足と言うか見込みの甘さがまず厳しく問われます。
当初の記事では上記の通り、「運行時間が拡大した時、百里基地側との調整はどうなるのか。展開させたくても実はできない、というようなオチが無いことを祈るだけですが」と書きましたが、まさかのオチと言うのでは話になりません。

せっかく「当初の想定よりも好調で」と会社に言わせ、また北関東の航空需要のポテンシャルを再認識させながら、このような事態になったというのは非常に残念です。
茨城空港のセールスにおいて、県は空自の拡張含みで安く上がったと言ってましたが、航空機の運行と言う根本の部分のイニシアチブをとれないのでは、定期便の就航など出来るはずもなく、安物買いの銭失いを地で行った格好です。

茨城行きも早くも見納め...(2010年6月撮影)

【2010年8月12日 再補筆】
結局この騒動は何だったのか、という結末です。

2010年7月20日、スカイマークは10月からの 神戸−茨城線の運行再開 を発表しました。
さらに同社社長は新千歳、中部への便も就航させると表明。元の鞘に収まるどころか拡大する格好になっています。

公式には懸念材料が関係各所の尽力によりクリアになったということですが、どういう交渉、そしてどういう駆け引きがあったのか。
どうも察するに「大人の対応」らしきものが見え隠れしてきます。

まあ少なくとも茨城県が相当汗をかいたことは間違いないわけですが、スカイマークも急転直下再開すると言うことは、今回の騒動が利用率低迷による運休の隠れ蓑ということではなかったことに他ならないわけで、そう考えるとやはりそれなりの潜在能力がある空港という評価が可能になります。

そう考えるとますます、地元がこの空港をどのように育てるのか、という取り組みが問われるわけで、それ次第でこの空港の行く末が決まってくると言えます。



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