このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください





羽田再国際化が招く千葉の騒音公害
理不尽な「被害押し付け」は看過できない


船橋市内の自宅から見上げた機影


羽田空港の再拡張の完成、そして再国際化から1年が経ちます。
「遠い成田」と言うステレオタイプの評価を是とする向きからは歓迎する羽田の再国際化ですが、一方でさまざまな問題も出ています。

こうした中で看過できないのは、飛行ルート変更に伴う騒音問題の悪化です。
国際線が羽田発着になって便利になる受益者がその被害を全く負担しないで、対岸の千葉県の騒音被害を増加させてメリットだけ享受する状況は千葉県側にとっては全く容認できない話です。

そればかりか国内線についても飛行ルート変更は不便さを際立たせる結果となっており、再国際化という「エゴ」がもたらす迷惑は想像以上でした。


※写真は2009年10月、2011年1月、10月撮影


●羽田再拡張、再国際化から一年
1978年の成田空港開港以来、一部路線を除き原則国際線は成田発着として、内際分離を徹底してきた首都東京の空の玄関ですが、2010年に再拡張が完成したのを機に再国際化されました。

グランドオープンの際には、これからの海外旅行は羽田一拓、と言わんばかりの報道ぶりに加え、国際線ターミナルも新しい観光スポットとして大宣伝されました。
さすがに1年経ってブームも沈静化していますが、成田空港の利用者数が目立って減少するなど、羽田シフトは確実に発生しています。

この再国際化を可能にしたのが羽田の再拡張。1984年に着工し、1993年のビッグバード完成から2004年の第二ターミナル完成と続く沖合展開事業でも羽田の過密状態は解消されず、再拡張となったのです。
その完成形はオープンパラレルの平行滑走路が井桁状に2組というスタイル。これにより増加した離発着回数を国際線に充当することで再国際化が達成されたのです。

羽田空港国際線ターミナル


●成田との関係
そもそも成田空港は沖合展開前の羽田空港の過密状態を解消するための「分港」です。
「新東京国際空港」と名乗っていた時代もありましたが、確かに成田は都心から遠いため、羽田の利便性を第一に考える人は城南地区や神奈川方面を中心に多いです。
とはいえ関空と違い、地元千葉はもちろん埼玉方面も含めて、成田が必ずしも不便と言えない人も多く、そのあたりが「京阪神のどこからも遠い」関空との違いです。

羽田の再国際化は内際乗り継ぎが羽田−成田の移動となることを考えると飛躍的に改善されることもあり、地方にもメリットがあると喧伝されました。
しかし内際乗り継ぎにおける国内線がバス連絡になる成田も大概ですが、連絡バスで乗り継ぐか、京急で1駅、モノレールに到っては第二ビルから3駅目と離れた別ターミナルですから、同じ空港と思っていると肩透かしを食います。特に同一航空会社(アライアンス)での正規の乗り継ぎでない限り、羽田国内線と国際線の移動は荷物を伴う「大移動」です。

成田の国内線はバス...(ANAターミナル)

そして問題なのは成田において成立していたアジア、大洋州各国との国際乗り継ぎ需要への対応です。
外外の乗り継ぎは国内にいると気付きにくいですが、成田はそうした需要のハブなのです。
ところが羽田の再国際化で、こうした路線が羽田と成田に分かれると、首都圏を目的地や発地とする需要はともかく、外外の乗り継ぎが事実上崩壊するのです。
これはソウルや上海などとの競争において不利になる要因であり、オールジャパンとして国益に反するといえます。

●飛行ルートのこれまで
さて本題です。再拡張の完成で離着陸のコースも変わりました。
これまではオープンパラレルのA、C滑走路を風向きによって方向を違えて使っており、それでは対応できない横風時のみB滑走路を使っていました。

ところが今回、2組目のオープンパラレル滑走路が出来たことにより、1組を離陸、もう1組を着陸というように使用して、発着本数を増加させたのです。

これによりこれまで横風時にしか使用されなかったB滑走路と、それに並行して新設されたD滑走路の使用頻度が高まりました。そして特に着陸地の進入経路が大きく変わったのです。

つまり、これまでは基本的にA、C滑走路に北もしくは南から入るだけであり、南から入る場合は木更津付近から真っ直ぐ進むか、東京湾上で合流する格好であり、北から入る場合は京浜島のあたりでUターンするように進路を変えて着陸していました。

ですから、基本的に航行ルートは東京湾上であり、例えば西日本方面からの便だと、鴨川付近から木更津上空を経て真っ直ぐ降りるか、市原市付近で東京湾上に出て、湾曲する京葉地域の海岸線をショートカットする格好で進んでいました。

これらはもっぱら伊丹や神戸からの便での実見ですが、東京湾上に出るポイントは市原市付近であり、ごくまれに千葉市内上空(美浜区)を飛行したケースがあるくらいでしたし、北日本方面からの便は、市川市付近で市街地を真っ直ぐ横切って東京湾上に出る感じでした。

●まさかの輻輳
それがB、D滑走路に降りることを前提にするようになって大きく変わりました。
北側からC滑走路に降りるように大きくターンをきればまた違ったのでしょうが、発着本数の極大化を狙ったため、無理が無いレベルのカーブでアプローチするようになったのです。

このときB滑走路はさすがに真っ直ぐ降りると葛西付近など市街地がアプローチルートになるため、東京ゲートブリッジのあたりで左旋回するのを基本としていますが、その角度を極力浅くしたため、浦安市付近では市街地に極めて近接して飛行するようになりました。

通常なら北側に位置するB滑走路は北日本、南側のD滑走路は西日本便となるところですが、どうもうまく行かなかったんでしょうね。航路をクロスさせることでアプローチをやりやすくしたのです。
そのためB滑走路には西日本便、D滑走路には北日本便が着陸し、その航路は千葉市上空で交差したのです。

その航路の確保の為に、なんと西日本便の航路は千葉市の市街地上空で東京湾上に出ることになったのです。右側の窓から見ると、千城台、穴川インター、幕張新都心を見やりながら東京湾上に出て、三番瀬を過ぎると埋立地が突出する新浦安のマンション群、TDRに近づいてファイナルアプローチとなるのです。

これまでが養老川河口付近で東京湾上に出ていたのとは大違いで、堂々の市街地上空通過です。
その反面、同様の高度で市街地上空通過が茶飯事だった木更津市付近の負荷は下がりましたが、木更津と千葉で、千葉の騒音被害を高めるというのはありえない選択です。

木更津羽鳥野で見る着陸機

※以下写真で見るとたいしたことがないように見えますが、実際に肉眼で見るとかなりの大きさです。

さらに北日本便はD滑走路にアプローチするための転進点を千葉市街地に置き、かつB滑走路に着陸すべく東京湾上を進む航路に接近しすぎないように間隔を取って東京湾上を進むため、R16に並行する格好で南下して、蘇我付近で東京湾上に出るのです。

こうして千葉市の市街地上空にまさかの輻輳地帯が出現したのです。

●騒音被害
日中はそれでもあまり気にならないのは事実ですが、夜になると一変します。
羽田の到着ラッシュとなる19時から22時にかけての時間帯、「夜のしじま」だった住宅地にジェット機の爆音が響くようになりました。

事前の説明では十分な高度を取る、ということでしたが、その高度には相当なばらつきがあり、高層住宅では横目に見る、という感じで飛んでいるケースもあります。また、ルートも幅を持たせて一ヶ所に集中しないようにすると言いながら、実際にはほぼ決まった場所を飛んでおり、事前の説通りでない、つまり、約束を反故にする「騙し討ち」状態です。

特に雲がかかっているときは有視界飛行にしたいのか、早い段階で高度を下げているようで、密雲の中から爆音が聞こえてきたかと思うと、雲の切れ間からヌッと大きな機体が姿を見せるのです。
高度についてはかなりの低層雲でもない限り、南風好天時であっても房総半島上空で雲の下に出ており、これが雲への反射となって騒音被害を増加させている感じがします。

そして「節電の夏」となった今夏はエアコンを控えて窓を開けて涼む機会も増えましたが、宵の口から夜半までの間、テレビの音声をかき消すレベルだったという声も多いです。
実際、我が家でも後述のようなこともあり、コースによっては爆音は結構聞こえるわけで、テレビの音声の邪魔になるレベルというのも冗談抜きで体験したのです。

こうした騒音被害というと伊丹空港ですが、伊丹の教訓で騒音対策を地上側、機材側それぞれで進化させてきたというのに、なぜ日本一稠密な空港で敢えて陸上コースに変更するようなことをしたのか。
伊丹の騒音に比べるとたいしたことは無いとは言え、ゼロに近い状態からの「悪化」であり、簡単に容認できるものではありません。

●さらなる被害エリア拡大
それでも「陸上」といっても海沿いのエリアであればまだわかります。
しかし今回の航路変更ではまさかとしか言いようが無いエリアでの「被害」が出てきたのです。

南風荒天時の着陸においては着陸直前の転進を行なわず、計器誘導での着陸を可能にするため、B、D滑走路の延長線上を真っ直ぐ降りてくるようになります。
そのため、陸上に大きく食い込むことになったのです。

京成津田沼駅から見た着陸機

北日本からD滑走路に降りてくる便は習志野原エリアを縦断しており、習志野台から津田沼付近(谷津駅から船橋競馬場駅付近上空)を通ることで、これが我が家にも騒音被害を与えるのです。さらにB滑走路着陸便は葛西など江戸川区上空を飛ぶのですが、西日本からのコースというのに、なんとR16沿いに北上して、千葉ニュータウンから旧沼南町付近で江戸川区上空に向かうコースに変針します。

このとき北日本便との交差が発生するのが千葉ニュータウンエリアであり、まさに降って沸いたような騒音被害に印西市や白井市でも問題になっています。
北日本便ならまだしも、なぜ西日本からの飛行機まで飛んでくるのか。理解に苦しむし説明に詰まる話です。

さらに言うならば、計器誘導の都合と言いながら、あくまで便数を捌くために必要な手段のようで、実際、再国際化までの南風荒天時に現行の様な大迂回ルートを飛んだ記憶がないですし、到着便が増える夕方から上空に機影が現れることも多いだけに、天候による対応とは信じがたい面があります。

またこれは余談の域かもしれませんが、千葉ニュータウンエリアでの交差についてはどちらも低空であり、高度差があまりないように見えます。空港周辺での交差は伊丹や羽田でもありますが、離陸と着陸の交差であり、高度差はかなりありますが、こちらは着陸同士ということもあって高度差が余りつかないのかもしれませんが、真下にすれ違う機影を見たときには焦るレベルです。

●受益者も迷惑
こうした変更でも利用者はメリットを感じているはず、だからある程度の受忍は必要、と言う意見もあります。しかし、それなりに利用している側から見ると、今回の変更は利用する側にとってもデメリットが大きいです。

結局大迂回をさせられるということは所要時間の増加につながるわけで、道中の飛行で調整しているとはいえ、10分から20分程度の遅れになるケースが格段に増えています。
特に高空を飛行中の飛行経路変更であれば少々の変化で差は出ませんが、ファイナルアプローチでの変更は速度が遅いだけに影響が大きいです。

772なんかは気温や速度が出て来るのですが、先日木更津からA滑走路北行き着陸と言う最短コースでも、房総半島にかかるあたりでは時速500km程度と、ゼロ戦以下のスピードでしたし、半島上空では400km程度にまで落ちており、大戦中の旧式の艦攻並みにまで落ちています。
この速度で大多喜→茂原→R16→旧沼南町と回りこんだ日にはそりゃ大幅に遅れます。

しかもただでさえ遠いD滑走路や、B滑走路も国際線ターミナルの裏側まで走りこむのですから、そこから1タミ、2タミまでとなるとタキシングの時間も馬鹿になりません。

特に夜半の到着ラッシュの状況が悪化したことで、地上交通機関への連絡が狂わされるため、帰宅時間が大幅に伸びるといった弊害もあるわけです。

さらに国際線が割り込んできたことで、朝晩の国内線は時間帯を不便な側に移動させられたケースも目立つわけで(ANAの神戸便や沖縄便)、利用者にとっては何もいいことが無いという人も少なくありません。

●再国際化そのものの必要性
羽田再拡張自体は高まる国内線需要を捌くためという意味があり、羽田の代替はほかに務まらないだけに、必要不可欠なものといえます。

しかし、その事業で生み出された発着枠をなぜ国際線に割り当てないといけないのか。
地方都市と東京の輸送力増強には代替がありませんが、それを袖にしてまで成田で現状対応できている国際線を振り替えてくるということには疑問も不満もあります。

まさか国内線の羽田枠を飢餓状態にして航空行政による差配の「エサ」にしようとするような話ではないでしょうが、地方の期待を裏切り、千葉県の上空に迷惑を持ち込むだけの理由は見出せません。

繰り返しになりますが、中途半端な就航しかない羽田に「東京」向けの国際線を分散させることの弊害は大きいのです。これまで成立していた成田をハブにした欧米−アジア圏を成立させるだけの需要もまた中途半端に分散させられるのです。

成田にも悪影響

ビジネス需要が羽田に移行すると、成田便の採算性が下がる。それによる減便が成田ハブを不可能にして、さらに減便となる。ならば仁川のほうが採算性がいい、となりかねません。
羽田のほうが都心に近くて便利、という部分でも、そもそも負担能力の高いビジネス客であれば、成田−日暮里36分で何が悪いのか。羽田国際線−品川の13分、浜松町の14分との差はいかほどなのか。

騒音問題以外にも問題が見え隠れする羽田の再国際化であり、2013年度のターミナルビル増築による便数の1.5倍への増便は、こうした問題を拡大するだけはないでしょうか。

●メリットは自分達で、デメリットは対岸に
要は自宅や会社からタクシーやハイヤー、社用車で送迎される層くらいでしょう。公共交通と違い、車は距離に比例して純粋に所要時間に差が出ますから。
そしてその太宗を占める「社旗をはためかせて乗り付ける」メディアが「不便」に感じるから、「成田は不便」とネガキャンに走り、自分たちさえ良ければ対岸の千葉県がどうなっても構わないのです。

羽田が便利なら、デメリットも公平に負担すべきです。
A、C滑走路の北行き離陸で左旋回して大田区や川崎市上空を飛ぶとか、着陸もB、D滑走路に北行き着陸し、大田区や川崎市、横浜市で千葉市や木更津市、船橋市や浦安市並みの騒音を負担すべきです。
このあたりは騒音を負担していながら、かつての廃港運動から存続に切り替えた伊丹空港周辺自治体と大違いでしょう。

左の着陸機、右の離陸機が輻輳する
(京成津田沼付近)

少なくとも千葉県に想像以上、事前の説明(発生が3%程度とか、陸上では十分に高度を確保すると言っているが、どう見てもウソ)を反故にするような騒音被害が発生している以上、それを再拡張・再国際化以前の水準に落とすべく努力すべきですし、それが出来ないのなら、減便して騒音を減らすべきでしょう。現在の航路は天候よりも便数の問題が大きいだけに、減便することで以前の水準に落とせるはずですから。幸か不幸か、国内線に関しては以前のほうが「便利」だったですし。

こういうと、都内城南や神奈川県は「横田空域」が、というのがいつもの言い訳ですが、横田空域は既に一部返還されて、北行き離陸後左旋回して城南地域を南下する航路や、城南地域から都心を北上し、南風荒天時の着陸コースに入る航路の設定があります。
ではなぜ使わないかというと、大田区など東京側の反対運動に「だけ」配慮しているからであり、それで経済効果だけは集中というのは筋が通りません。

また、横田空域の問題は確かに残っていますが、それでも羽田の便数を増やしたい、国際線を増やしたいのであれば、千葉県側に迷惑をかけずに増便できるように、横田空域の返還交渉をまずすべきでしょう。
現状を見ると、だいたい、どこまでまじめに交渉しているのか、と言いたくなります。横田空域の存在が、自分達の上空を飛ばすことができないんです、とうってつけの言い訳になる現状を見ると、そうした疑念すら起こるのです。

上にも書いた通り、2013年には国際線ターミナルの増築による国際線の増便(現状比1.5倍)が行なわれる予定ですが、現状の不公平な被害の分担を温存しての増便は到底容認できないと言えます。

千葉市中心部から東京湾上に出る機影




交通論の部屋に戻る


Straphangers' Eyeに戻る


このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください