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「不採算路線」と客観的基準
撤退や保証の根拠に見る不明朗な部分





●「不採算」路線からの撤退
深刻な経営状況にあるJALについては、当面の資金繰り支援のための政府保証付融資や、企業再生支援機構の活用を柱とする、事実上国が支援救済をする方向でまとまるようです。

その再建計画の柱の一つが国内線、国際線49路線からの撤退です。
撤退、つまり路線廃止の対象とした理由はいうまでもなく「不採算」ですが、ではなぜこの路線が、と言うときに、「不採算」と言うある意味普遍的に過ぎる定性的な理由以上のものが見いだせないのも事実です。

2009年10月23日付の朝日新聞は1面で「国内空路7割『赤字』」とする記事を掲載しました。
航空各社は路線別の損益状況を発表していないのですが、記事では「航空業界では「60%が損益分岐点」ともいわれる。」として、09年4〜8月の平均搭乗率が60%を切る路線を「赤字」と判断しています。

各社は路線別の搭乗率を発表しており、路線の収支を考える上での唯一ともいえる客観的なデータですが、一方で搭乗率=採算性とは必ずしもならないことは記事も述べており、航空会社の言う「不採算」の客観的根拠が必ずしも明瞭でないことには変わりありません。

●「不採算」路線の搭乗率を見ると
特に今回問題なのは、搭乗率を基準とした場合、「不採算」を理由とした撤退計画が根本的に矛盾するということです。
JALが撤退を表明している静岡、神戸の両空港がその典型ですが、開港ご祝儀が入っているとはいえ、静岡発着の2路線の搭乗率を見ると、新千歳線は全路線2位の86.5%、福岡線も「70%の搭乗率保証」を基準にして見がちですが、61.2%は全体の40位と、全151路線での位置づけと言う意味では「不採算」を搭乗率だけで説明することは不可能です。

また神戸空港も神戸市がまとめた9月の平均搭乗率が2006年2月の開港以来最高の83%(新千歳線89.7%、羽田線81.3%、那覇線77.0%、石垣線74.5%)となっており、朝日の記事でも石垣線が8位、新千歳線が27位、羽田線が31位、那覇線が42位で総て60%超であり、路線の廃止、拠点の廃止の両方で考えても、搭乗率で説明するのであれば、航空会社が求める数字はいったいどのレベルなのかを説明する必要があるでしょう。

いやいや、搭乗率=採算性ではない、というのでしょうが、そうなると今度は静岡空港や、ANAが能登空港で実施しているような「搭乗率保証」制度の根幹が揺るいでくるのです。
「不採算」路線への就航を渋る航空会社が、「しからば」と重い腰を上げたのが搭乗率保証ということは、搭乗率が採算性を測る尺度と公式に認めているわけです。搭乗率が目標に達しなければ自治体は「ペナルティ」を航空会社に支払うのですが、搭乗率の多寡が採算とは必ずしも関係ないというのであれば、事実上「意味のない」数値保証を取り交わし、あまつさえ支払いを行うことは、税金の支出として適切性を欠くだけではなく、契約の当事者としての航空会社もまた、「実は無意味な数字を意味があるように見せかけて金銭の授受を約した」という指摘が可能です。

●客観的基準の必要性
交通機関における不採算を理由とした路線廃止というと、旧国鉄時代の「特定地方交通線」の廃止が唯一かつ大規模な実施例となりますが、その際と比較しても今回の基準は不明朗の誹りは免れません。
旧国鉄の赤字ローカル線廃止の際は、少なくない例外事項はありましたが、基本的には旅客輸送密度4000人を基準としており、例外事項も「ピーク時乗客が一方向1時間1000人以上」とか「1人平均乗車キロ30km以上の場合は輸送密度1000人以上」というように、定量的な基準を大前提にしていたわけです。
また旧国鉄時代には毎年各線別の営業収支を発表しており、路線の採算性に対する客観的判断材料が提供されていました。

それと比較しても今回のJAL再建における路線廃止の選別基準に合理性があるのでしょうか。
旧国鉄の時は路線名の設定やネットワーク性を考えると路線を廃止することに少なからぬ問題があるケースが多々ありましたが、それでも客観的基準を優先して存廃を決めたわけで、それはそれで不明朗さは排除されていたわけです。
一方のJALはどうでしょうか。旧国鉄のケースでいえば、輸送密度8000人であっても「不採算」として廃止対象とする傍らで、3000人程度でも存続させているわけで、その理由は「不採算」の一言で何らの客観的基準も理由も示していない、というところなのです。

もちろん「私企業」ですから経営判断に委ねられる部分が大きいのですが、「非常事態」として路線廃止、空港からの撤退を迫るだけでなく、さらに公的支援を受けるからには、その経営状態を相当レベルまで開示する義務があります。
路線別収支状況を開示して、その路線を廃止する合理的理由を示さない限り、公的支援を受けて維持する路線の選定過程としては不適切と言うべきです。

●搭乗率は絶対か
そしてそもそもの話として、路線の状況を搭乗率だけで判断することが妥当なのかどうか。
政権交代とJALの経営危機のなかで、「無駄な地方空港」がやり玉に挙がっていますが、そもそも地方空港を建設することで得られる、期待される効果は何でしょうか。その地方・地域との移動需要の創出、産業の導入といった地域振興がまずありきではないでしょうか。そうした目的を差し置いて、航空会社の収益に寄与するため自治体が空港を整備する、ということは本末転倒の話です。

「本来の目的」を考えたとき、その達成度合いを空港に就航する路線の「搭乗率」だけで判断することが妥当かどうか。
もちろんガラガラでいいというわけではありませんが、上記の静岡空港の搭乗率保証を巡る議論でもありましたが、機材の小型化による見かけの搭乗率向上による結果を絶対視して「評価」すべきかどうなのか。

例えば神戸空港の場合、神戸市によるとJALの羽田線は9月の搭乗率が81.3%と出ていますが、同線はこの11月から767から738にダウンサイジングされます。
単純計算で767の定員の81.3%は738の定員よりも多いわけで、搭乗率は向上しても実数としての搭乗者数が減少する可能性が強いですが、空港整備の本来の目的から見た場合、ダウンサイジングまでして搭乗率を維持・向上させることが果たして正しい施策なのか。
そもそも09年9月の搭乗率は過去最高でしたが、実数は落ちています。これは春先に実施された不採算路線の整理により、搭乗率は好転しましたが、こうした路線は搭乗率は悪くとも実数は稼いでいたわけで、便が無くなれば実数は落ちるわけです。
そして神戸市にとっての「空港効果」を考えたとき、実数が下がることは望ましいことなのかと言うと、搭乗者数の「未達」が批判されるように、実数の確保もまた重要なのです。

航空会社だけの事情を考えれば、大幹線であってもエンブラエルやボンバルディア、大きくても738といった機材を効率的に飛ばせば連日全便満員御礼でしょうが、 航空行政としてそれは望ましい事態なのか。
「無駄な地方空港」の議論にまで飛び火する状況の中、地方空港の整備目的とその評価について明確な基準を持たないままに、営業面による評価に偏重した搭乗率で判断を続けることが本当に正しいのか。そのシンボルが今回のJALの路線整理と言えるのです。


















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