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航空・鉄道事故調査委員会報告を読んで〜その2
京成実籾・踏切衝突事故
※この作品は「習志野原の掲示板」に掲載されたものを改稿したものです。
初出:2003年9月
2003年1月23日に京成線大久保−実籾間の踏切(東金御成街道)で発生した衝突・脱線事故について、
航空・鉄道事故調査委員会
から2003年7月15日付で
報告書
が出ています。
本件は単純な踏切事故のようでもありますが、軌道の損傷など復旧まで時間を要したことや、鉄道側から見て防ぎようの無い状態での発生など、重大な影響を及ぼしています。発生の可能性の割に被害が甚大という意味で、どう対応を取るのかを考えさせられる事件でした。
●事故の時系列
時刻 | |
19時28分 | 京成上野発芝山千代田行き普通1823列車が京成大久保駅を発車。 |
19時31分頃 | 現場踏切手前で踏切に向かう普通乗用車(ワゴン車)を認め、手前で停車し得ないと判断して非常制動を掛ける。 |
普通乗用車はそのまま踏切に侵入して1823列車と衝突。 | |
列車は1両目の全4軸が脱線して、147m走行して停止。 | |
事故による影響で高砂−佐倉で運転見合わせ。 | |
その後東中山−佐倉に不通区間は短縮。 | |
1月24日 | 始発からの不通区間は津田沼−佐倉に短縮 |
5時30分頃 | 不通区間は津田沼−八千代台に短縮 |
7時21分 | 上り線が全線開通 |
8時11分 | 下り線が全線開通し復旧 |
本件事故により普通乗用車の乗員2名が死亡。電車の運転士が軽傷、乗客22名も軽傷を負った。
●普通乗用車の走行状況
運転士によると踏切手前約30mで対向車線を逆走して踏切に向かう普通乗用車を認識。
当時踏切は渋滞しており、通常の走行車線(道路は片側1車線)を走って踏切に侵入することは物理的に不可能であり、通常の走行で踏切を見落とすというようなミスは考えられない異常な状態で踏切に侵入している。
●普通乗用車の認識時期と事故の回避可能性
線路は踏切直前まで左カーブとなっており、大久保方向から並行気味に並走してきた県道(船橋長沼線・東金御成街道)と交角40度で交差している。
そのため直前まで左下がりのカントが付いており、普通乗用車が進入してきた方向に当たる右前方は通常よりやや下向きの視線でカバーされる。また、対向車線を進行してきているということは、走行車線で踏切待ちをしていた車列の影に入るため、認識できるタイミングはかなり遅れるものと考える。
当時の状況は降雨、夜間であり、視認性は相当悪いと思われる反面、普通乗車が無灯火で侵入してこない限り、その前照灯の動きにより認識出来るため、上記の通りタイミング的には相当直前になるが、全くの不意打ちとはいえないと考える。
電車は約80kmで走行しており、約30m手前で認識したということは約1.4秒で衝突地点に至る。非常制動を掛けていることから若干遅れているだろうが、寸秒の差程度であろう。
手元の計算では非常制動の減速度で認識した時点から停止地点まで進行した場合、空走距離はほぼ無かったと考えられるため、運転士の操作に問題は無いと考える。
なおこの1.4秒から逆算すると、認識した時点での普通乗用車の位置は、時速50kmとして18m手前となり、ほとんど衝突の瞬間に気が付いたといえる。
●結論
この事故は、回避し得ない状況で発生したという意味では、逆走して踏切に侵入した普通乗用車の乗員(全員死亡)の異常な行動以外に責任を求め得ない。
しかし、そういう異常行動による事故の影響を見ると、夜19時半頃の事故でありながら、復旧まで半日以上を要し、夕ラッシュに加え、翌朝のラッシュ輸送にも支障するという多大な影響が出た。
復旧活動自体は、翌朝のラッシュ前にとりあえず東葉高速線での振替が可能な範囲に不通区間を短縮し、さらにラッシュの最中に復旧を果たしており、一歩間違えれば混乱を加速しかねない懸念はあるが、少しでもラッシュへの影響を小さくするべく努めたことは評価できる。
同様の事故としては2003年8月19日午後に京阪電鉄寝屋川市−香里園間で、踏切を下り特急電車が通過している最中に軽乗用車が突っ込み、軽乗用車は大破(乗員は死亡)、特急電車の4両目が脱線した事故がある。(詳細は航空・鉄道事故調査委員会から2004年4月30日付で
報告書
が出ている)
この事故でも16時半過ぎの事故で始発直前に復旧するなど影響が大きいばかりか、事故とほぼ同時に上り急行電車とすれ違い、かつ特急電車の停止地点の15m先で上記の上り急行電車に後続の準急電車が非常停止しており、脱線方向が複線線路の外側だったため衝突は免れたものの、もし内側に脱線していたら二重衝突事故になる危険性が大きかった。
発生形態によってはこのような重大な事故になるばかりか、二重衝突事故にもなりかねないことをどうやって防止するのか。それに対する指摘や検討が、よしんば「不可能」という結論であったとしても論点となった形跡が、京成事故の報告書のみならず京阪事故の報告書からも読み取れないことは、航空・鉄道事故調査委員会の「調査結果に基づき、航空事故及び鉄道事故の防止のため講ずべき施策について勧告あるいは建議をすること。」という趣旨に照らし合わせると、些か不満が残るところである。
以上
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