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駅そばの画一化から思うこと
統一された「彩り」をどう評価するか
※写真は2009年5月撮影
●突如現れたキャンペーン
旧聞に属する話で恐縮ですが、首都圏のJR駅にある「駅そば」の店頭に、この年始「年明けうどん」の「のぼり」がはためいていました。和風の麺類と言えばそばとうどんの二枚看板と言いながら、年末は「年越しそば」の独り舞台であり、遅れを取ったうどんが、年末がそばなら年始はうどんと売り出したようです。
これまで無かった光景だけに後で調べると、さぬきうどん振興協議会がうどんの香川県外での消費拡大を狙い、さぬきうどんのチェーン展開をしている「めりけんや」と業務提携をしているNREに持ちかけて今回の首都圏での一大キャンペーンになったようです。
売り出しのための苦しいこじつけだなと思いながらも、関西ローカルだったいわゆる「恵方巻」(節分の太巻き丸かぶり)のように、流通、宣伝業界の仕掛け次第であっという間に「日本の伝統」の顔をして定着するケースもあるだけに、駅での露出と言う絶大な宣伝効果と店舗数の多さが物を言うかもしれません。
さて、この「年明けうどん」のキャンペーンで改めて気がついたのですが、首都圏のJR駅の「駅そば」の大半がNREの「あじさい」系列と言うこと。残る店舗も「あずみ」「小竹林」とJR東日本系の子会社経営であり、NREもJR東日本の子会社ですから、常磐線沿線など一部の例を除き、「自社系列」に統一されているといえます。
だからこそさぬきうどん振興協議会が「めりけんや」からNREへの伝手を辿ったのも肯けるところです。
●駅そば「戦国時代」から「天下統一」まで
ひと昔前までは駅そばというと駅ごとに業者が違うのが当たり前、というかもっぱら駅弁業者の経営だったわけです。総武線沿線のように車販業者の経営の場合は路線単位で展開していましたが、総じて駅弁業者の経営で、今でも品川駅の常盤軒、千葉駅の万葉軒などに往時のスタイルが残ります。
もっとも、実は駅そばがある駅が今ほど多くなかったのです。これが増えた契機はまず国鉄末期の合理化の進行であり、大量の「余剰人員」を抱えることになった国鉄が雇用の確保のために新規事業に次々参入した際の一つが駅構内の飲食店、特に駅そばだったのです。
「人材活用センター」が各地に設けられ、鉄道事業に仕事が無くなった職員が簡単な職業訓練を受けて異業種に就くという国鉄末期の悲しい歴史の産物であり、浜松町駅や秋葉原駅にあった「ホームラーメン」や、船橋駅の「なのはなそば」もそうした店舗だったように記憶していますが、それにより駅そばが多くの駅に展開してきたのです。
こうした百花繚乱的な展開が現在の店舗網に至るきっかけとなったのはやはり「エキナカ」ビジネスの推進です。軌を一にして90年代からNREが各地の駅弁業者や車販業者を子会社化したり、構内営業をNREが資本参加した販売会社に移管させたことで、駅弁業者や車販業者が経営していた駅そばの経営主体がNREに統一されていったのです。というよりも、NREは従来は駅そばの経営主体ではなく、もっぱら構内食堂や車内販売の経営主体として駅そば(を経営する駅弁業者など)とは「ライバル」関係にあったのに、資本政策により駅そばを含む構内供食事業ビジネスを手中に収めたと言ったほうがいいかもしれません。
これにより首都圏の駅そばの多くが「あじさい」ブランドに統一されてきたわけですが、それぞれの個性があった駅そばを統一した「あじさい」が、「天下統一」に対する判官贔屓の声もあってか、当初は味もいまひとつという評価があったことは否めません。
さすがにNREもそれを気にしたようで、地域によっては別ブランドを立てたり、メニューに独自色を出すなどの改善が進んでいますが、今回のようなキャンペーンやメディアとのタイアップメニューなどの導入においては一斉の取り組みとなってしまうため、系列色はそれなりに残る、というか、大半の別ブランドは「あじさい」同様の「丼と麺、箸」の共通デザインを用いているので、一目で分かります。
ブランドは変われど共通デザイン |
●「多彩なメニュー」
かつての駅そばは「かけ」「天ぷら」「玉子」程度で、あとは「きつね」「わかめ」「山菜」があればメニューが豊富、と言うレベルでした。このあたりは駅構内と言う限られたスペースでは、麺をゆでる寸胴と麺つゆを作る寸胴くらいしか置けず、単純なトッピングレベルの種物を冷蔵庫にキープするくらいでした。
これがホーム上や階段裏と言った極めて限られたスペースの有効活用から「エキナカ」の一環としてそれなりの場所に店を構えるようになり、調理器具の進化も手伝ってかなりの調理が出来るようになったこともあり、種物のメニューも豊富になり、ご飯物の提供も多彩になるなど、街中のそば屋に比べても遜色がなくなってきました。
このようにかつての駅そばの侘しさと比べるとメニューも多彩だし、なによりもスペースが確保されたことで着席スペースも増えるなど良い事ずくめなんですが、その一方で言いようの無い物足りなさも感じるのです。
つまり、メニューは多彩ですが、選択肢となる集団は一緒なのです。「あじさい」系列による「統一」で、「あじさい」が提供する味・メニューしか選べなくなったことにより、多彩であると同時に「いつも同じ」という変わり映えのなさが目に付くようになるのです。
確かにメニューは多彩ですが、だからといって多彩な種物を食べ比べるよりは、好みの「定番」を食べる傾向にある中で、どこも同じチェーンと言うのはやはり物足りず、駅によって個性があった一昔前を懐かしむときも多々あります。
もちろん私鉄各社の駅そばは概ね「統一」されているから、ひとりJR東日本を問題視することは不当ですが、営業エリアが広いだけにそこでの「統一」はやはり目に付くのです。
●作られた「彩り」
商店における扱い品目の「彩り」、また、商店街などにおける店舗そのものの「彩り」という「個性」は買い物をするときの楽しみの一つです。
そういう意味で駅そばに限らず「エキナカ」にしても、駅の物販にそうした「彩り」を与えてきたことは否定できません。
しかし、その「彩り」も各地に同じような店舗が出来てくると、多彩であると同時に画一的であることが見えてくるのです。つまり、ブランドは多少変われど同じようなバスケットとなったテナントが並んでいては、印象は同じになってしまいます。
そしてその「個性」の由来も、その土地のものではなく、足許の流行をマーケティングした「売れ線」であり、「東京・XXで人気の△△がご当地初登場」といった類の店舗が並ぶさまは、その土地の個性とは違う個性であり、かえって没個性すら感じます。
こうした傾向は何も「エキナカ」に限った話ではなく、昨今各地の再開発などを通じて増えている大規模なオフィスビルの飲食店街などの物販にもいえる話であり、全国どのビルに行っても同じような、いや、同じテナントが入っていることが多いです。
つまり、結局はデベロッパーによる演出であり、デベロッパーによって概ね傾向が固定化されてしまうのです。
●利用者が育てる楽しみもあるのでは
もちろん利用者、消費者がそれを求めているのを否定できませんし、逆にそれが受け入れられているからこそ「エキナカ」やビルの店舗が賑わっているのです。
こうした既に流行っているお店、人気のお店をそろえて即戦力とするのもいいのでしょうが、一方で「明日の名店」を育てると言う意味ではどうでしょうか。
そう考えたとき、せっかく人の流動、集散が保証されているシーンにおいて、例え不便な場所であっても、黙っていてもお客が集まる「既存の名店」を並べるのではなく、その土地から「明日の名店、名物」が生まれるように、その土地の個性をぶつけると言うことも大事でしょう。
そうして育った「名店」であれば、流行り廃りではない愛着が備わるものですし、駅と言うその土地随一のランドマークにふさわしい内容といえます。
しかしながら現状はどうか、と考えると、即戦力主義であり、デベロッパー、つまり事業者の演出に拘った「彩り」の路線が強化されているようですし、それが昂じて利用者が支持する「地元の名店」に育った店舗と「対立」するようなケースまで出て来ているのを見ると、利用者不在とまでは言いませんが、いかがなものかと言う思いは禁じ得ません。
地下街の名店も... |
●そして駅そばの暖簾をくぐると
そういった小難しい話を考えながら品川駅の駅そばを食べてみました。
普段なら迷わず東海道線ホームの名物である常盤軒の「お好みそば」(ワカメやきざみ、天カス、ゴボウ天など具が入れ放題)なんですが、敢えて「あじさい」系列の「しながわそば」の暖簾をくぐったのです。
食券方式とはいえ着席スペースが多いです。これなら市中のそば屋と大差がなく、独自メニューの「しながわそば」は貝柱がたっぷりのかき揚げに海苔と、品川らしく江戸前を目と味で楽しむ一品です。
まあ江戸前なら貝柱ではなく小柱であり、かき揚げにしない小柱を使った種物は「あられそば」として江戸・化政期からあり、気の利いた市中のそば屋ならメニューに見ることが出来ますが、駅そばでそこまで求めるのも野暮と言うもの。味もまずまずで、駅そばとしてこれなら充分満足がいきます。
「品川と言えばお好みそば」という「個性」がある常盤軒に対し、「どこにでもある」という「あじさい」系列の持つ印象が、せっかくの個性を殺していないか。
チェーン店の財産ともいえる「安心感」とは裏腹の関係にはなりますが、食べ比べをしたくなるような「個性」を競うような展開もあってはいいのではと思います。
しながわそば。乙な一品でした |
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