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バスという交通モードの高度化を考える〜その7
「マイタウン・ダイレクト」の挑戦


外堀通りで並ぶ長沼原町発と新浦安行き


※写真は2009年4月、5月、6月撮影


第7回目は首都・東京における通勤高速バスの新しい試みを取り上げます。

「あなたの街から都心へ一直線。」
京成バスが提案した新しいバスの姿として誕生した「マイタウン・ダイレクトバス」は、これまで不可能とされてきたジャンルを開拓できるか非常に興味ある路線です。
第1弾の開業から3ヶ月、第2弾の開業からは1ヶ月が過ぎ、この新サービスはどのような実態になっているのか。いろいろなシーンでの利用形態を通じて見えてきたことをご紹介しましょう。


●はじまりはこのプレスリリース

新しい輸送形態へのチャレンジ(マイタウン・ダイレクトバス)

〜私(あなた)の街から都心へ一直線〜

千葉県内・総武線等の沿線には大規模住宅地(ニュータウン・団地・マンション群)がありますが、これらの住宅地にお住まいの方は、現在「最寄り駅までのバス利用+快速電車」などのパターンで1時間程度の往来を余儀なくされております。

今から40年前に一度、当時の建設省から通勤高速バス構想が打ち出されたものの、高速道路等(京葉道路程度)の未整備状況から、先送りとなった経緯がありました。
時代は変わり、今や京葉道路、湾岸道路、首都高の整備も大きく進み、これらを組み合わせることにより、郊外住宅地から都心へダイレクトに結ぶ、高速バス路線開設が充分可能となりました。

このため、当社では長年「バス+電車」で都心へアクセスされているお客様に対し、乗り換えやお立ち頂いたままでの移動パターンに、いつか、何か新しい輸送スタイルが提供できないものかと考えて参りました。
このたび「マイタウン・ダイレクトバス」という輸送手段を新たに提供することで、デラックスな車両(座席定員制、トイレ、AED、無線等装備)で座ったまま、乗り換えなしで移動できるという『安くて、便利で、快適なバス』の提供を目指して参ります。


2009年3月27日、京成バスが発表したこのプレスリリースは衝撃的でした。

大都市圏における通勤高速バスの運行。政令市、いや、いわゆる六大都市においても名古屋や神戸での実績があるなど、全国的に見れば珍しくも無い手法です。
東京で、いや、京成バス自身もアクアライン経由で木更津、君津など中距離における高速バスを既に運行しており、ここまで大上段になるようなものでも無いように見えます。

しかし、これまで首都圏で成立してきたのはあくまで「近郊区間」の外縁からの流動を対象としたものであり、いわゆる「国電区間」において競合するケースにおいては、過去にいくつかチャレンジャーがいたものの、事実上全滅状態に追い込まれています。

そうした中、日本の「通勤電車」の総代ともいえる「五方面」の一角であり、日本有数の重通勤路線である総武線に真っ向から挑もうとする「マイタウン・ダイレクト」の登場はまさに意外感を持って捉えられたのです。

新浦安線の宣伝



●「前史」への驚き
マイタウン・ダイレクトバスは2009年3月に新浦安地区−東京駅八重洲口−秋葉原駅、5月に千葉北IC周辺地区−東京駅八重洲口−潮見駅の順で開業しました。

前者は京葉線、後者は総武線との競合関係にあり、特に後者は上記のリリースのターゲットそのものといえますが、稲毛などへの路線バスと快速電車という通勤スタイルが当たり前、というかそれ以外考えられないような状況において、驚きの設定といえます。

リリースにあるように40年越しの話というと、1972年の総武快速線開通以前の話であり、京葉道路もその1969年にようやく穴川まで開通しましたが(当時はそのまま一般道路になって道なりに高品交差点につながっていた)、首都高7号線の開通が1971年ですから、篠崎から西側は一般国道しかない時代です。

首都高が開通しても混雑が激しく、江戸橋JCTの上り線には長年信号機があって環状線京橋方面への流入を抑制していたわけで、そんな時代に建設省がこのような構想を抱いていたということにも驚きを隠せません。
もっとも、その頃を境に消えていった各地、特に茨城、埼玉方面にあった一般道経由の「急行バス」(もっぱら東武系。房総方面には京成系の路線もあった)の変形として考えていたのかもしれません。

千葉北線の宣伝



●通勤高速バス不毛の地
各地では近年すっかり定着した通勤高速バスですが、こと首都圏に関しては「不毛地帯」といわざるを得ません。
特に稠密に発達した鉄道網、それに対して「三環状」の整備すら全うできていない貧弱な高規格道路網というコントラストが、鉄道一辺倒の状況を生んだといえます。

かろうじて終電終了後の足として設定された深夜急行バスが各方面に運行されているのが目に付くだけであり、その変形として平和交通による稲毛、検見川地区から東京駅への早朝特急バスがある程度です。

とはいえ通勤バスを高速道路経由にして速達化するという発想がなかったわけではなく、古くは都バスと東急バスの一部系統(東京駅−等々力など)を首都高経由にしていましたが、1987年に東98系統の高速経由便(東98乙)が廃止されたことで消滅しました。
これは霞ヶ関ランプと渋谷や目黒ランプまでの間での速達化であり、近郊との速達という意味ではやや性格を異にしています。

次に出てきたのは2000年に開業した東京−吉川−松伏線。東京近郊に位置しながら路線バスと東武線という手段しかなく、都心へは乗り換えを何度も繰り返す松伏町を主たるターゲットにした路線です。ところが思ったほど客足が伸びず、経路変更を行うとともに、三郷団地や吉川市への依存度が高まり、この時点で武蔵野線との競合路線になりましたが、2005年にホームライナー的な平日夜間の下り便を除いて全廃となっています。

2001年には東京−柏の葉−江戸川台線も登場し、JR駅から私鉄やバスに乗り換える江戸川台や柏の葉地区をターゲットにするという、マイタウン・ダイレクトのコンセプトと同じといえる路線も出来ましたが、2005年のつくばエクスプレス(TX)開業で主たるターゲットの柏の葉地区がTX駅の徒歩圏になってしまい、翌2006年に全廃となり、東京からの通勤高速バスは失敗の歴史を刻んだ格好になっています。

このあたりはやはり鉄道に対しては直接勝ち目が無いということが大きく、上記の江戸川台線をはじめ、これまでドル箱的存在だった東京−つくばセンター線や守谷地区、水海道方面の路線はTX開業で大打撃を受けており、全廃こそ免れましたが大幅な減便を余儀なくされています。

新浦安線のバス停



●そしてマイタウン・ダイレクト
あらためて「口上」を見るとなかなか刺激的です。

「最寄り駅までのバス利用+快速電車」などのパターンで1時間程度の往来を余儀なくされております。

乗り換えやお立ち頂いたままでの移動パターンに、いつか、何か新しい輸送スタイルが提供できないものかと考えて参りました。

駅からのバス移動のサービス主体は何を隠そう京成バスです。
これまでのサービスの提供主体でもあったわけで、あまり堂々とされてもいかがなものか、という思いもありますが、「画期的な」サービスを提供するという心意気は感じます。

路線の性格は江戸川台線と似ています。そして沿線に鉄道新線が出来て需要が総崩れになるというリスクもありません。バスというものにとって不可避の問題点である定時性も、従来パターンにおける鉄道駅までの道路事情と、高速道路の道路事情との比較であり、一方的な不利になることはありません。
強いて言えばこれまで鉄道駅まで輸送していた京成バスの一般路線の収益が減少することになりますが、より実入りのいい都心までの運賃を確保できることでカバーできます。

この手のスタイルは、2004年に神戸の垂水区から三宮への高速バスを設定した山陽電鉄が先駆者とも言えるわけです。垂水区内の住宅街はJR・山陽の垂水駅、舞子駅(舞子公園駅)や地下鉄の学園都市駅への山陽バス、神戸市バスの金城湯池だったわけですが、そこに三宮直通の高速バスを設定したのです。

もともと第二神明道路が沿線にあり、阪神高速経由で三宮に至るのですが、途中の須磨本線料金所が渋滞のメッカとあって信頼性が低かったのが、ETCの普及や北神戸線、神戸山手線などの迂回ルートの整備に伴い定時性が確保できるようになったことが開通を後押ししたと考えられますし、自社の一般系統との競合も、高速系統のほうが1人当たりの収入が多いというメリットがあるうえに、垂水からの山陽電車が対JRで競争力がなく、当初は垂水区内にあるバス車庫と三宮との間での回送便を兼ねたような印象があったものが、いまではこれが本業といえる盛況です。

マイタウン・ダイレクトの性格はこの「三宮垂水線」に近いといえます。

千葉北線のバス停



●新浦安地区への第1弾概要
それでは各路線を見てみましょう。
まずは第1弾、新浦安地区への路線です。

秋葉原駅東口交通広場を起点に、東京駅八重洲口前(2番乗り場)を経て、首都高宝町ランプ(東京行きは呉服橋ランプ)から江戸橋、箱崎、辰巳を経て湾岸線浦安ランプへ。富岡地区の要といえるリブレ京成に停車後、高洲地区を経てシンボルロードに至り、日の出地区先端の住宅街をカバーしてパームアンドファウンテンホテルが終点。
ここはパームテラスホテルとファウンテンテラスホテルに挟まれたシンボルロードの先端。もっとも交差点を挟んで海側にロータリー状の終点があり、一般バスは総合公園のバス停を設けていますが、TDRのパートナーホテルである同ホテルへのアクセスを前面に押し出したほうがいいという判断でしょう。

総合公園から見たシンボルロード
正面が新浦安方面。手前両脇が両ホテ

TDRといえばこの路線は、昼過ぎまでの下り、夕方前からの上り便はリブレ京成を通らず、弁天第二からTDL、TDSを経由するのが特徴です。これによりややもすると片輸送になりがちな通勤路線において、送り込みに当たる便の集客を見込むことで収益を下支えすることが出来ますが、どうもTDRでの利用は伸び悩んでいるようです。
なお、TDR経由便は下りが葛西、上りが舞浜のランプを利用し、さらに下りは降車の申し出が無い場合はTDLを通過することがあります。

3月の設定から間もない時期は、平日夜のライナー的利用が望める時間帯でも数人の乗客とか、土曜夜の下り便に客が見えないとか、先行きに大いなる懸念を抱かせましたが、その後は平日を中心に利用が定着しているようで、足下の課題は日中や休日の利用促進とのことです。(千葉日報の記事から)

八重洲口での新浦安行き

なお、「新浦安地区」として宣伝していますが、登場当時に配られたビラには「新町地区にお住まいの皆様、お待たせしました」とあるように、地元では「新町地区」というようです。


●新浦安線を見る
このように曜日や時間帯によって性格・ターゲットが異なるのが千葉北線も含めたマイタウン・ダイレクトの特徴です。さらに開業からしばらく経った段階での定着振りもまた気になるところです。そのため日を替え時間を替え、そして敢えて開業から時間を少し置いて、何度か乗ってみました。

そうして乗り比べてみると、やはり平日の通勤利用は多いです。30人前後の乗車を確保しており、補助席込みで50人程度の定員を考えるともう少し伸びてもいいのでしょうが、乗ってる分にはこのくらいが快適さの限界ともいえます。

東京行きはTDRのパートナーホテルを起点とし、そこから片側2車線のシンボルロードをベイパーク、ベイモール、シンボルロードパークシティと、いかにも今時風の名前を持つ高層マンション群を進みます。
そういえばこのシンボルロード沿いのマリナイーストなどの高層マンション群は近年人気が集中し、「マリナーゼ」の異名をとる奥様族でも有名です。

ただここはまっすぐ進めば新浦安駅を経て東西線の浦安駅入口につながっており、11系統の東京ベイシティ交通の一般路線が走っています。新浦安駅までは140円、10分足らずの距離であり、いかに京葉線東京駅が「遠京」で、バスはダイレクトアクセスとはいえ、競争力という意味では弱いようで、バス停に並ぶ客も多くは新浦安駅行きに吸い込まれますし、高速バスも朝夕であってもこのエリアからの利用は数人レベルです。

東京ベイシティ交通の拠点でもある新浦安駅

マイタウン・ダイレクトのメインターゲットはシンボルロードを左折してからでしょう。明海、海園の街、潮音の街と進むルートはこれまで一般路線が通らなかったルート。南北に新浦安駅とを結ぶ一般路線と直行する道路はこれまで路線バスの設定を必要としなかった通りです。

そしてこの路線の象徴といえるのが高洲地区。まだ未開発地帯が広がる中にそびえる総戸数733戸の大規模マンション「プラウド新浦安」を取り巻くように走りますが、そのL字型になっている1つのマンション(厳密には数棟の結合体)に2つのバス停があるのです。舞浜駅に向かう別の一般路線はさらに1つを設けて、都合バス停3つ分という巨大マンションはマイタウン・ダイレクトのお得意様でもあり、ここでの利用が目立ちます。
なるほどと思ったのは、夜の下りでは自分の部屋に近い入口に近いバス停を選ぶようですが、朝の上りは始発寄りのほうで乗ってくること。より良い席を狙うのでしょうが、そのうち満員お断りリスクへの対応になるかもしれません。

プラウド新浦安。右手奥にL字型の1辺が続く

鉄鋼通りの東外れの南北道路に入り、リブレ京成を通りR357から湾岸線に入るのですが、片輸送回避の集客という意味では鉄鋼通りに停留所を設けてはどうでしょうか。一次、二次問屋や加工メーカーが並ぶこのエリア、大手メーカーや商社などとの業務流動もあるでしょうし、なによりも新浦安駅、舞浜駅からも微妙に離れていますから、妙味があると思います。

さて首都高に入ると気になるのが定時性ですが、平日朝の試乗が後述の通り7分延だったほかはもっぱら定時かやや早着とあって突発的な事故渋滞でもない限りは心配は要らないといっていいでしょう。

そして平日朝ですが、平日の8時にパームアンドファウンテンを出た便に乗ったのですが、渋滞は竹橋を先頭にした4km程度のもの。湾岸線から9号線まで順調で、福住の先から詰まりましたが、ノロノロ運転で箱崎を抜けたのは8時34分。江戸橋から呉服橋に出て8時39分に高速を降りれば終点は間近。呉服橋を降りてから外堀通りへの合流、さらに外堀通りから八重洲通りの2番乗り場に取り回すのに手間取ったほうが印象に残るほどで、福住からの渋滞は平均的であり、それで7分延の8時42分着ですからかなり正確なダイヤ設定といっていいのかもしれません。

パームアンドファウンテンホテルバス停から出発

京成系の東京駅八重洲口前は外堀通りと八重洲通りがT字型に交わるところに3箇所のバス停を設けていますが、発着とも同じバス停になるので発着が重なるとバスベイが空くのを待ったりして大変です。
乗降を分離するか、2台分のバスベイを確保してもらうなどといった対応が望まれます。
バス停前はかつてはみずほ銀行だったのが今はパーティルームなどの飲食店に。バス待ちの客が店外にたむろする雰囲気が批判されていましたが、銚子行き、東金行きなどの方面別に行列を仕分けたり、新設の3番乗り場も含めて乗客の多い時間帯には案内人が駐在することで整然としたバス待ちにする努力が見えます。
一方お店のほうも通り側に椅子を出すなどしており、後述する3番乗り場のようにバス乗客を「お客」にすることでwin-winの関係を築こうとしているのかもしれません。

八重洲で大半が降車しますが、バスは秋葉原が終点です。昭和通り経由で進みますが、アンダーパスを一切使わず、かつ江戸通りとの交差点などが混むようで、意外と時間を食います。平日朝の試乗の際に乗り通しましたが、所定の15分は時間通りの所要となりましたが、遅い印象です。ただ、秋葉原発は総じて余裕があるようで、八重洲口に若干の早着気味というケースが多いようです。

秋葉原駅東口に到着

大半は八重洲口とはいえ、それでも利用は少ないなりにあるのが特徴で、特に下り線は山手線などからの乗り継ぎであれば時間が合えば秋葉原から乗ってしまうのでしょうか。
同様にアクアライン経由や東関道方面への高速バスは浜松町からの乗車がけっこうありますが、こちらは総じて利用が多いこともあり、満席リスク対応や、より良い席を狙うと言った目的意識が見えます。

休日日中の下り便でも10人弱とか、平日朝の下り便ですら数人が乗っているのを見ると、第1弾はそこそこ定着した感じです。
今後はTDR経由が集客にあまり寄与しないのであれば、思い切って見切って、富岡地区でもう少し集客するというほうがいいかもしれませんが、TDR経由便に試乗した際には弁天第二の利用もあったわけで、悩ましいところです。

秋葉原駅頭での宣伝



●千葉北地区への第2弾概要
そして第2弾、千葉北IC周辺地域への路線です。

長沼、草野地区と言っても千葉市民でもなかなか知らないマイナーなエリアのため、一番知名度がある?IC名を借りた格好です。
新浦安線が秋葉原発着なのでこちらも、と思いきや、木更津や君津への路線と同じように潮見駅(といっても裏手の操車場)発着になっています。

3番乗り場から発車

東京駅八重洲口はこの路線が嚆矢となった3番乗り場。ほとんど呉服橋の第一鉄鋼ビル向かい側のバス停はまだ屋根もない完全なる路上停留所。6月開業の大網、茂原、白子線が使うようになったのでそのうち屋根もできるのでしょうか。東京駅からは少し歩くので、ランドマーク代わりも兼ねて「お買い物は八重洲地下街、お食事は楽市が便利です」としてますが、その「楽市」はバス停前の居酒屋です。数軒先にコンビニがあるのでこれは便利ですがやはり遠く、かつ駅との行き来がやや不案内で、到着便で東京駅の位置を聞く人もしばしばです。

3番乗り場付近から見た東京駅方面
中央に見える第二鉄鋼ビルの奥が八重洲北口

首都高宝町ランプ(東京行きは呉服橋ランプ)から江戸橋、箱崎、辰巳を経て湾岸線に入り、東関道千葉北ICへ。ここから終点の長沼原町(ながぬまはらちょう)は実は南東方向でほど近いのですが、まずIC北西に回り込み、いきいきプラザ入口へ。花見川消防署を経て県道船橋長沼線(東金御成街道)に入り、長沼交差点を右折してR16に入りますが、実は長沼交差点まで千葉北ICからR16をただ南下すること800mしかないわけで、どうせR16に入るのならなぜ直行しないのかとぱっと見思います。

R16に入ると長沼営業所のある草野車庫、すぐ南のSC最寄りのワンズモールに停まり、公団あやめ台団地への分岐を目前にして山王町方面に左に戻る格好で左折します。大きなマンション群であるヴィルフォーレ稲毛に停車して終点の長沼原町はさっき長沼交差点まで走ってきた県道の延長線である浜野四街道長沼線との交差点近くです。長沼交差点から1.2km程度ですから、同じようなところをぐるぐる回っている印象で、実際バスは長沼原町から長沼交差点経由で草野車庫に入庫しています。

草野車庫停車中の東京行き

稲毛から京成バスに乗ってと言う「マイタウン・ダイレクト」の謳い文句そのままの住宅地と言うと、稲毛駅発の路線で見るとあやめ台団地、京成団地、ファミールハイツ、さつきが丘団地、こてはし台団地と並んでおり、この路線がターゲットとするエリアはどちらかというとマイナーな印象です。というか、メジャーな団地路線をなぜ避けたのか、という疑問すら起こります。

このあたりはまず小手調べということかも知れませんが、この路線がカバーする、というかご指名のターゲットであるヴィルフォーレ稲毛の需要が馬鹿にならないことがそもそもの稲毛駅との路線の段階でもあるわけで、そういう意味では新浦安線の高洲地区のプラウド新浦安と同じく、決め打ちのターゲットを設定していると言う意味では興味深い路線設定です。

なお、いきいきプラザ経由の「謎」ですが、犢橋(こてはし)地区への配慮というには人口希薄地域であり、いきいきプラザは花見川区の老人福祉施設で高速バス利用にはまず結びつきません。
バス停付近に空き地がまとまっていることから、将来的にP&R対応設備の整備があるのかもしれません。実際、草野車庫では15台限定とは言いながら京成バスの用地を使ったP&Rを実施していますし。

草野車庫でのP&Rの案内



●千葉北線を見る
こちらも開業直後及び1ヶ月近く経っての段階で何回か乗ってみました。
平日の通勤利用が多いのは新浦安線と同じで、30人前後の利用は確保していますが、予備知識がなかっただけに「有名どころ」の団地でないエリアでこんなに利用があるとは、というのが率直な印象です。

千葉北線を待つ行列

休日のお出かけ需要も昼頃の便に試乗した時には20人近くと意外なほどありましたが、いかんせんTDRのような逆方向の利用を担保する仕組みがないため、ラッシュ方向の逆向きの便は空気輸送となっています。ただ、開業間もない時期の平日日中の長沼原町行きに、2、3人とはいえ(マニアではなさそうな)乗客がいたあたり、沿線の関心はかなり強いのでしょうか。

逆方向の需要という意味では、終点の長沼原町の脇に住友重機械の工場があり、その東側、山王町や六方町を含めて周辺は工場が多い内陸の工業団地になっています。大手企業系の工場が多く、そうなると出張需要も見込まれるので、便によっては山王町方面に向かわせても面白いかも知れません。

長沼原町バス停。右手は住友重機械の工場

こちらも定時性が心配されますが、東関道から湾岸線まではほぼ順調。9号線から箱崎を経て呉服橋までは新浦安線と同条件であり、長沼原町7時30分の便に試乗した際には、福住から渋滞という「通常通り」の混み具合ながら東京駅八重洲口には7分早着の8時33分着と、信頼性はかなり高いです。
そのためか、路線バス車内でのこの路線の宣伝には「遅れはほとんど無し」というキャッチコピーまで出ています。

「遅れはほとんど無し」

ただ、定時性という意味では実は別のネックがあるわけで、まず潮見駅から東京駅までの区間で遅れるようで、八重洲3番の到着はギリギリか2、3分の遅れとなることが多いです。秋葉原ならまだ目的地たり得ますが、潮見ではそうもいかないのか、潮見を使う乗客はほとんど見たことがありません。

また東京行きは草野車庫→長沼交差点→長沼原町の回送に手間取るようで、2回の試乗とも始発から遅延しており、平日朝で2分(それで八重洲は7分早着)、休日昼に至っては10分延というのはいただけません。
またあれこれ思惑があっての長沼交差点から千葉北ICの取り回しですが、長沼原町行きは長沼交差点での右折で平均2回は信号を待ちますし、東京行きは最後の千葉北署前の交差点でR16に右折するところでこれも2回は待つと、右折を増やした弊害がてきめんに出ています。

難所の長沼交差点を右折してR16へ

ただし道路事情に関してはこの路線特有の話として、稲毛駅に出る一般路線バスも渋滞に苦しんでいるわけで、特にR16のあやめ台入口から京葉道穴川ICを経て穴川十字路までの混雑はかなり厳しいです。
高速バスがあやめ台に寄れば集客ができるのにそのわずかな区間の南下をしないのも、R16の渋滞が懸念される(特に北行きは長沼原町から来てR16に入る交差点が先頭でいつも混む)からと推測できます。

現在穴川十字路から先、R14から海浜大通りまで抜ける「新港横戸町線」が建設中ですが、これの開通はかえって穴川十字路の負荷を高める危険性もあるだけに、稲毛駅に向かう路線の方に厳しい結果が出そうです。

新港横戸町線の建設現場

東京行きに長沼原町から乗ってみましたが、上述の通り事業所が周辺に多いだけあって、稲毛駅発の山王町行き路線バスは7時台に入るとかなり混んでいます。反対方向の稲毛駅行きも混んでますが、その大半がヴィルフォーレからの乗車。5〜8分ヘッドの発車ですが、20人は乗りこむ感じで、R16に出る頃にはすでに立客がいっぱいで、総武快速線の混雑と合わせて「ゆったり座れる」の謳い文句が生きてきます。

R16はこてはし台団地からの便、また草野車庫始発であやめ台団地経由の便もありますが、どれも穴川十字路の段階では満員です。昔はここから小仲台(千葉女子高)経由だけだったのですが、山王町への便となる長沼原線は上記の新港横戸町線の側道が供用されているのを使い、稲毛区役所経由の別ルートで稲毛駅に至りますが、この路線だけで別ルートを成立できるだけのフリークェンシー(日中平日毎時4本、土日3本)を維持できる需要があり、かつ深夜バスも充実と、実はマイナーに見えて相当な実力路線のようで、だからこそのマイタウンダイレクトなのかもしれません。

休日お昼前の長沼原線を待つ行列(稲毛駅)

その長沼原線を支えるヴィルフォーレ稲毛は1992年竣工と言うからかなりの古株ですが総戸数660戸とあって相当なものです。試乗した便もヴィルフォーレで実に20人の乗車。到着時、一般バスと高速バス両方に20人ほどの行列というのは壮観ですが、だからポールを分離しているのだと気がつきました。

ヴィルフォーレ稲毛バス停
一般路線(手前)と高速(後方)に分離

その先R16への右折合流は十字路で、稲毛方面から来る際にはここが渋滞の先頭になることが多いのですが、正面がジョイフル本田の入り口となっており、ここも含めてたいがいのロードサイド店が開店前の朝ラッシュ時は対向車がいないので簡単に右折できます。
ワンズモール、草野車庫と数人ずつ乗車して車内は30人を超えました。草野車庫では職員が数人見に来てましたが、東京8時40分着のラッシュピークのこの便、状況によっては続行便を仕立てるのかもしれません。車庫には高速車の姿が見えましたし。

そして犢橋地区を回り込んでいきいきプラザ入口の乗車はこの朝は1人。しかし休日の上りで7人とか、平日夜下りで5人降車とか、なんでここでこの利用、としか言いようがない数字を残しているのです。
見ていると隣のコンビ人の駐車場に大半が向かっており、どうもこの駐車場を使ったキスアンドライドのようで、そうなると根強い噂のあるバス停両脇の空き地を整備というのもあるのかもしれません。

いきいきプラザ入口バス停周辺は未利用地

高速に入るとあとは順調。この日は7分早着だったのは既に述べた通りです。


●「マイタウン・ダイレクト」はどう育つか
今回のマイタウン・ダイレクトに賭ける京成の意気込みは相当なものがあります。
ただ、鉄道+バスの「不便さ」を解消すると言うコンセプトですから、鉄道だけと真っ向勝負というものではないです。
そのためバス乗り継ぎとのトータルでの競争力を主張しているわけで、千葉北線の場合は車内モニターで比較広告を打っており、草野車庫起点での比較において、総武線利用は稲毛の乗り換えに加え、東京駅に「地下ホーム」と付記する念の入れようです。(ただし「八重洲口3番乗り場」もたいがいだが...)

一般路線バスにも宣伝(草野車庫)

そういう意味では三郷や吉川をメインターゲットにしたものの、武蔵野線と競合した吉川・松伏線や、メインの柏の葉がTXの徒歩駅勢圏内になってしまった江戸川台線とは一線を画する存在となるわけで、実は初めての試み、となるのかもしれません。

さらに今回の2路線に共通することとして、特定の大規模マンションをターゲットにしていると言うこと。
輸送単位が小さいというバスの特性を逆手にとって、極めてミクロな集客で基礎票を固めようとしています。もっとも、最近ではこうした大規模マンションの建設に合わせて新路線を整備するケースも多いわけで、京成バスでも習志野市に建設された1453世帯という大規模マンション「ユトリシア」に既存系統ではありますが折り返し便を設定しましたし、長沼原線沿線においてもヴィルフォーレ稲毛のすぐ南(稲毛寄り)に建設された278世帯のマンション「ザ・クイーンズガーデン」に6月29日から専用系統を運行します。

ヴィルフォーレ稲毛(後方のマンション群)

ちなみにこの系統は朝上りだけですが、R16に出る前のオーツパークを出ると小仲台経由で稲毛駅までノンストップの急行便の設定など意欲的です。対象となるマンションはヴィルフォーレより小さいのにこの優遇は、と思いますが、朝は常に「頭ハネ」の状態になる草野小学校入口バス停利用者に配慮したのでしょうし、なによりも敷地内に折り返し場を確保したことと、ヴィルフォーレからも使えると言うことで、長沼原線全体のサービスアップになると言うことでしょう。

そして今回の2路線とも、そのうち利用者が増えてくると対象エリアを分割したり、別ルートを設定すると言った次の展開含みに見える面があります。新浦安線は京葉線に対する競争力がないと言ったシンボルロード沿線にしても、高洲地区などと分割してR357からダイレクトにシンボルロードに来れば時間的に競争力が増しますし、千葉北線はそれこそあやめ台や京成団地といった団地系統の新設も考えられます。

ただ、通勤利用が増えれば増えるほど増発対応を強いられることになり、引いては非効率な逆方向輸送も増えることになります。
そういう意味では新浦安線は鉄鋼通り、千葉北線は工業団地への出張・外回り需要を取り込むことで効率化を図りたいです。うまく組み合わせると、通勤上りと事業所下り、事業所上りと通勤下りと組めるでしょう。

また気になるのが、通勤輸送はまずまずだが、日中のお出かけ需要がもう一つということ。実は渋滞への件もあって通勤需要よりも日中のお出かけ需要、特に新浦安線は「マリナーゼ」がターゲットと予測していたのですが、蓋を開けてみると全く逆になった格好です。日中需要は新浦安や稲毛で事足りると言うことかも知れませんが。

気合いの入った宣伝(草野車庫)

今回の試みで特徴的なのは、京成グループが総武線沿線のフィーダー輸送の大半を握っているということでしょう。さらには都心への輸送においては残念ながらシェアを確保できておらず、フィーダーの収益<マイタウン・ダイレクトの収益という単純な図式になることです。
これは周知という意味でプラスに働いており、千葉北線の場合、転移を促したい一般路線バスの車内外にマイタウン・ダイレクトの宣伝をすることで、利用者の意識にマイタウン・ダイレクトがすんなり入る仕組みになっていますし、「いつものバス」の行先がちょっと変わる、という感覚でしょう。

意欲的なこの「マイタウン・ダイレクト」、まずは無難なスタートを切ったようです。
今後の展開はまだ不明ですが、通勤高速バスのスタンダードになれるのか、今後が注目されます。

長沼原町バス停に入着する東京行き






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