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京都四条 トランジットモール実験を見る

大規模な規制だけが話題になった空虚な実験



エル・アルコン  2007年11月21日



社会実験区間の模型(河原町)



2007年10月12日から14日まで、京都の都心部を東西に走る四条通。この四条通で、バス、タクシー以外の車両を締め出し、かつ車線を減少して歩道を拡幅すると言う大規模なトランジットモールの社会実験が行われました。
この様子を見て来ましたが、いろいろ考えさせられる社会実験でした。


※この作品は「交通総合フォーラム」とのシェアコンテンツです。

※写真は2007年10月撮影


●社会実験の開始
2003年6月にスタートした「歩くまち・京都」交通まちづくりプラン。
このプランの一環として、京都市と地元住民、商店街などでつくる「歩いて楽しいまちなか戦略推進協議会」により、2007年10月12日の夕刻17時から20時まで、続く13日と14日の正午から20時までの間、四条通でトランジットモールの社会実験が行われました。
四条通のうち、河原町通から烏丸通までの区間をバス、タクシーのみ走行出来る専用区間にし、またこの区間を含む木屋町通から烏丸通の区間では片側2車線の車線を1車線減らして歩道を拡幅することにより、擬似トランジットモールを演出しました。

京都市内での大規模な交通社会実験は、2007年1月24日の今出川通でのLRT導入実験以来となりますが、今出川での実験はLRT推進派からは高い評価を得たものの、沿線住民や自動車交通側の支持を得られたとは言いがたい結果であり、今回の四条通の実験はその汚名返上も兼ねる大一番と言えます。

今回の社会実験は、四条通の交通規制のほか、それと交差する南北方向の8本の通りについても車両通行規制が敷かれたことが特徴です。この車両通行規制、二輪車どころか自転車も含むとあり、まさに規制区域内では「歩くまち」となるわけです。
環境面を前面に押し出すのであれば規制対象にならないはずの自転車まで締め出しての実験がどうなったのか。10月13日の夜、規制が解除される20時までの2時間弱ですが、現地を見てきました。

トランジットモールの宣伝


●四条通を歩く
地下鉄で四条駅に降り立ち、地上に出るとそこは四条烏丸の交差点。ここから西側が規制区域です。
規制区域に入れないことで四条通の東行きが四条烏丸を先頭に渋滞しているのでは、と思ったのですが、意外とスムーズに流れています。

四条烏丸西側

交差点には警察による規制線が敷かれ、電光モニターによる案内と、警官による誘導で規制しています。

全交通を規制するのではなく、バスとタクシーだけは通れるため、バスやタクシーに続いて入ろうとするクルマだけを規制する必要があり、誘導する側もかなり丁寧に誘導しています。
交差点周辺に警察が出張ったことで違法駐車等がなく、かつ右左折もきちんと誘導してくれるので、交通はかなりスムーズに流れている感じがします。

四条烏丸交差点。正面が規制区間

ここから河原町通に向けてトランジットモール区間を歩いて見ます。
西行き車線側(南側)を歩きましたが、交差点手前では車線確保のため歩道拡幅は無く、かつバス停があるため、歩道拡幅はしばらくして始まります。

歩道拡幅区間

車道を規制し、歩道を拡幅しているのはクリーム色の円筒形の「柱」と仕切りになる棒状の板で、ともすれば派手なカラーコーンになりがちなこうした仕切りもかなりデザイン的には考えられているようです。

シンプルだがデザイン処理された仕切り

もともと車道と歩道の間にある装飾つきの柵を結ぶ綱を外して車道に出られるようになっていますが、ここに当然ですが段差があることや、柵自体は撤去できないため、車道側に出るのはちょっと億劫です。そのせいか車道側を歩く人は少ないようです。

綱は外したが仕切りは残る

ただ歩道拡幅に焦点が当たりがちですが、交差する道路も規制されたことで、各道路との交差点において歩行者信号による足止めが無くなった事でストレスを感じることなく歩けるのは見逃しがちなポイントでしょう。

●裏道の規制は
四条通だけを歩いていても代わり映えがしないので、横道に入ってみます。
蛸薬師通から綾小路通までの間、この8本の横道も同様の規制が敷かれていますが、四条通と違い灯りも少ない通りは人通りも少ないです。
横道ではさっそく自転車に乗っている人もいますが、警備員に下車するように注意されており、すわトラブルかと思ったりもしましたが、概ね従って規制区域との境界まで押していました。

沿道には四条通の商業施設の提携駐車場をはじめ、そこそこ駐車場がありますが、規制されてしまうと商売になりません。中には自転車の規制に備えた駐輪場として社会実験に参加している駐車場もありました。

駐車場改め駐輪場

蛸薬師通まで上がると規制の看板が道路中央に立ち、警備員が陣取っています。
ここからはクルマも自転車も通れますが、東西方向の蛸薬師通は河原町通に抜けられないためクルマは通っていません。
一方で東洞院通の三条通以南のように普段裏道となっている区間では抜けられなくなったことで大渋滞となっていたようで、普段の流動次第で明暗を分けています。

規制区間の入口には...

さて、自転車の規制とは大胆な、と思ったのですが、京都でも有数の繁華街である寺町通や新京極通、また今回の社会実験の舞台となった四条通はもともと自転車の通行が規制されていました。つまり、大胆な規制と見えて、普段の規制の延長線だったわけで、これは報道に出て来ない部分でもあり、それを踏まえると規制への評価も変わってきます。

もともと自転車通行止

さて、新京極通を経て四条通に戻り、今度は東行き車線側(北側)を歩きます。
こちらも思ったほど車道に拡幅された部分を歩く人はいません。ほどなく四条河原町の交差点ですが、交差点付近の歩道は従来のままということもあり、横断歩道を渡ろうとする人が常に滞留していることもあり歩きづらいです。

交差点の隅切りも兼ねて角は円弧状になっているのですが、肝心な横断歩道が交差点の端部からややセットバックされた位置についているため、四条通を真っ直ぐ進む人でもいったん河原町通方向に曲がってから改めて横断歩道のほうへ曲がると言う動線になってしまうのも混雑の一因でしょう。
円弧状になっている箇所も信号待ちの人を溜めるスペースのはずが、変に花壇などを置いてスペースを殺しているのも交差点回りの機能を殺いでいます。

四条河原町。正面が規制区間


●対象外の区間は
トランジットモールは河原町通までですが、車線規制は木屋町通まで続きます。
さらに四条大橋を渡り、祇園、白川の方まで歩いて見ました。
祇園方面から四条河原町交差点に向かう方向は四条烏丸交差点と違い渋滞していました。もっとも、歩行者の数もこちらが圧倒的に多く、四条大橋の上や四条京阪前の交差点付近は歩きづらいことこの上ありません。

四条京阪前では京阪電車の出入口の位置が悪く、歩道の有効幅員を狭めているんですが、さらにそこにストリートミュージシャンが演奏中と、川端通方向へははっきり言って通れない状況でした。すぐそばには警備員がいるのですが、何も言うでもない様子で、一体何をしてるのでしょう。
祇園界隈でも、歩行者がただでさえ多いのに、人気の和菓子屋が歩道を半ば占拠して営業中で、その行列をかわして進むのに一苦労でした。
「歩くまち」「歩いて楽しい」というのであれば、まずストレス無く歩ける環境作りは最小限の義務でしょう。

駐輪場への誘導


●撤収作業前後
社会実験は20時までの実施ですが、19時半を回ると掲出物の撤去を皮切りに撤収作業が始まりました。四条河原町の高島屋前にあるデッキを除けば、車道に設置されたコーンを撤去すれば元通りになるのですが、作業車が四条河原町から入り、作業員やボランティアが人海戦術でコーンなどを解体し、作業車に積み込むとあっという間に元通りになりました。

撤収作業が進む

20時を回ると規制解除。
件のデッキ部分は車線規制の扱いで、あとの部分は普段と同じように4車線道路になりましたが、あっという間に客待ちのタクシーや路駐のクルマが片側車線を占めてしまい、結局有効幅員は片側1車線のままというオチです。

普段通りに戻った四条通


●何が目的なのか
今回の社会実験、まず疑問に思うのは、この区間を「トランジットモール」として何がやりたいのか、ということです。

実はこの区間、別に沿道が楽しい、というわけではありません。
四条通という意味では四条河原町以東の祇園方面のほうが沿道も楽しいですし、どちらかというと交差する寺町通などで楽しむために、阪急や地下鉄の駅にアクセスするときに通るだけという性格です。ゆえに歩きづらいと言う苦情も多かったことは確かですから、今回の歩道拡幅については理に適っています。
ただ、四条通の地下には阪急線の上に地下通路があるわけで、歩行者の混雑緩和というのであればその通路を誘導・活用すればいいだけですが。

ほんのわずかなデッキ部分

一般車両の締め出しにしても、実は日頃からの混雑の原因は一般車両もさることながら、バスやタクシーがこの区間に集中することが大きく、通り抜け車両は元からこの区間には近寄っていません。そういう下地があるところに社会実験の告知は周知されていましたから、3日程度なら、と敬遠したのが今回大きな混乱が見られなかった真相でしょう。

実はその前の週末の同じような時間帯にもこのエリアを訪れているのですが、四条通西行きの四条河原町を先頭とした渋滞はもっと激しく、利用したタクシーは四条通経由のほうが明らかに近いのに川端通から御池通に迂回していました。

迂回を訴える看板(四条京阪前)


●構造の問題
車線を削減して歩道を拡幅する、というアイデア、良さそうに見えますが実運用を考えるとかなり問題が目立ちました。

まずバス停の確保。四条通沿道にターミナルが無く、路上停留所が事実上のターミナルになっているため、多数の系統が輻輳して発着します。
車線が片側1車線ですから、停留所のバスベイがないとたちまち塞栓状態になるわけで、実際四条烏丸、四条寺町、四条河原町の停留所に関してはある程度集約して歩道拡幅部を削減したバスベイを設置していました。

ところが歩道拡幅との兼ね合いもあり、バスベイが十分に取れていないため、バスが団子運転になると本線上で待つようになり、後続が動けなくなっていました。特に東行き車線は今回の社会実験に合わせて100円循環バスを増発しており、道路容量を減らしたのにバスの本数を増やしているのですから何をかいわんやです。

一方歩道の側も、バス停部分で拡幅部が消えるため、再び段差を越えてもとの歩道に戻るしかないわけで、こうなると拡幅部に降りるのも億劫になります。
このように、バスも歩行者も両方にとって中途半端になっていました。

規制区間の中央付近

さらに問題なのがタクシーです。
タクシーはこの区間を走れますが、乗降スペースが全く考慮されていませんでした。
両方向とも車列がつながっているため、反対車線に出て客扱い中のタクシーを交わす事は困難です。特に中央線部分には道路鋲が埋めてあるので出づらいですし。

もう少し歩道を狭めて、タクシーが客扱いしていてもタクシーならそれを交わせる位になっていればまだ違ったのでしょうが、余裕が無いためタクシーが止まるたびに身動きが取れなくなります。

●今回の社会実験をどう評価するか
はっきり言えば今出川の社会実験に続いて「二連敗」でしょう。
LRT以外のトランジットモールは無理だ、意味が無いという類の軌道系至上主義は論外としても、公共交通シフトを図るはずなのにバスやタクシーへも負荷が高まったのは問題です。

社会実験当日の模様は各紙が報じましたが、終了後の検証記事はあまり見当たらないのも「結果」を物語っているようです。数少ない検証記事の1つ、2007年11月2日付大阪朝日夕刊1面は「歩く街、古都模索」「快適性と商売板挟み」と、四条繁栄会商店街振興組合の調査で歩行者の支持が88%に達したという紹介と同時に、商業活動や市民生活への影響を指摘しています。
記事では今出川のLRT社会実験にも言及しており、LRT推進派の紹介とともに、1月の社会実験では住民や商業者の反対が賛成を上回ったことを指摘しています。

また、今回は期間限定なのでクルマの側が自粛のような形で対応した面がありますが、恒常化するとなるとどうでしょうか。四条通のこの区間が通れないとなると、御池通か五条通に迂回する必要があるわけです。
四条通は市内を完全に通過する流動に無縁ではありますが、市内相互の移動においては重要な通りです。京の街は碁盤の目、と言われますが、自動車が満足に通り抜けられる道路は思ったほどないのです。

四条河原町東側の誘導標識

よしんば導入するにしても、既存の規制をそれに即して変更する必要もあるわけです。
端的に言うと、四条河原町交差点において河原町通北行きは右折禁止ですが、社会実験時もその規制は温存されていました。
その先の河原町三条は混雑ポイントとして有名ですが、通常なら四条烏丸方面に逃げられたのに、社会実験中はそちらは規制、右折禁止だから川端通方面へは逃げられずで、河原町三条へ突っ込むしかないのは問題です。

路駐やタクシーの客待ち、自転車対策、さらには歩道での営業行為その他と、別にトランジットモールを導入しなくてもやり方次第で解決できるわけで、目的と手段に必ずしも必然性が見られませんし、四条通という「まちなか」の賑わい対策として考えても、肝心なモール区間で何か仕掛けがあるようにも見えませんし、バスやタクシーすら走りづらいのであれば、公共交通利用すら敬遠しかねません。

今回の社会実験では、トランジットモールはLRTや百歩譲ってもバスの専売特許といわんばかりに、タクシーをモール区間に入れるようにしたことに批判が出ていましたが、そうなると集約されたバス停から目的地まで場合によっては数百メートル歩くわけです。

「歩くまち」「歩いて楽しい」というテーマは耳あたりがいいのですが、一方でそれは歩くことが苦にならない層、つまり健常者の視点です。そもそもバスの混雑が厳しく、満員通過が多く乗るのも難しい状況の改善が進まない中で、公共交通利用を推進するのも滑稽なのに、どうしようもないので歩いてください、というニュアンスすら感じます。

交差する通りの案内はあるが通れず

ですから今回は一律に規制されていた裏通りに何箇所かタクシーでアクセスできるようにするなどの対策が無いと、健常者以外はアクセスしづらくなります。
このあたりは那覇市のトランジットモール(トランジットマイル)の対策が参考になるわけで、バス路線すら国際通りから原則迂回させるかわりに、何箇所かで一般交通を含めて交差できるようにすることで、モールへのアクセス性も確保してます。

あちらを立てればこちらが立たず、となるのは仕方が無いにしても、今回の社会実験はどっちも立たない面が大きすぎました。
これはそもそもの計画に無理があるとしか言いようがありません。

そしてうたかたの夢に終わるのか...






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