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もう一つの神戸 知られざるコミバス計画
行政と既存事業者と住民の三すくみ
エル・アルコン 2008年2月1日
淡河本町北に停車中の三ノ宮−吉川線 |
神戸市北区淡河町。三木市(および三木市に併合された旧美嚢郡吉川町)との境に位置する神戸市の中でも最も田園風景が広がるエリアで、「コミュニティバス」を巡る問題が生じているようです。
「ミナト神戸」とは全く別の「もう一つの神戸」で何が起こっているのか、現地を見ながら考えて見ました。
※この作品は「交通総合フォーラム」とのシェアコンテンツです。
※写真は2007年9月撮影
2008年3月20日 補筆
●地域公共交通会議の紛糾
神戸といえば美しい六甲の山並みとミナト神戸の景観を思い浮かべますが、六甲山の向こう側にニュータウンが広がることもまた知られています。
トンネルや峠を越えて向かういわゆる裏六甲もまた神戸市のエリアですが、そこからさらに峠を越えたところにある「神戸市」があるのです。
神戸市北区淡河町。加古川水系の美嚢川から分かれた志染川、淡河川流域の人口3400人ほどの地域。新神戸トンネルなどを抜けた箕谷も加古川水系ですが、こちらは三木市の御坂で志染川から分かれた山田川流域で、まさに「山一つ越えた」位置関係です。
1958年に旧美嚢郡淡河村が神戸市に合併されて来年で50周年。神戸で最も田園風景が広がるエリアといっていい町です。
合併50周年 |
この淡河町に関して、2007年9月21日の神戸新聞(神戸東部版)に、淡河町で計画されているコミュニティバス計画に関する
地域公共交通会議
が開催されたという記事が掲載されていました。
淡河町のコミバス計画 事業者らは反発 地域公共交通会議 車を運転しない高齢者ら向けに、北区淡河町で計画されているコミュニティーバスについて、市は19日、中央区内でバスやタクシー事業者、専門家、住民代表ら15人による地域公共交通会議を開いた。「高齢化が進む過疎地には必要な交通手段」との市の説明に、タクシー事業者からは「タクシーを利用できる地域もある」などと反発が相次いだ。 計画は、淡河町の知的障害者施設の家族会で作る特定非営利活動法人が提案。施設のバスを活用し、低運賃で町内を周回する。実現には、市や県、バスやタクシー事業者、住民代表、専門家らで作る運営協議会での合意が求められる。 この日の会議は協議会の前段階に相当する。昨年10月施行の改正道路運送法に基づくもので、神戸市が設置した。 冒頭、市が同法人の計画を説明。計画の運行ルートと時間帯は、①淡河町内のバス停や連絡所を周回する(平日の昼間) ②神戸線鉄谷上駅から淡河町(平日の夜間) ③谷上駅から淡河町の福祉施設(日曜の昼間)の3つ。 市は運行補助金を出さない方針。 神姫バスや全国自動車交通労組が「バス利用が減るおそれがある」「谷上駅からはタクシーが利用できる」として、計画に否定的な見方を示し、時間内に結論は出なかった。市は「実現に向け、話し合いを続けたい」としている。 |
既存バス路線を持つ神姫バスと、箕谷駅や谷上駅を地盤とするタクシー会社がこの計画に反対しているそうですが、「地域」と「事業者」の対立はなぜ起きたのでしょうか。
●淡河を巡る交通
神戸市に属しながら、交通は神戸市併合以前の体系が基準になっています。
町内を通るバス路線は、三木営業所と三田駅、岡場駅を結ぶ神姫バスが古くからあり、これに2003年に開業した三木市吉川庁舎(旧吉川町役場)と三ノ宮を結ぶ同じく神姫バスの路線が十文字に交差する形態です。
三木−三田・岡場間は毎時1本ありますが、三ノ宮へは1日3本とささやかで、基本的には三木−三田・岡場間の路線を使うことになります。
ここは昔の「湯ノ山街道」に沿った県道を走っていますが、このルートは西国街道から三木を通り有馬温泉を結ぶ旧街道です。
湯ノ山街道淡河本陣跡 |
一方三ノ宮行きのバスが走るのはR428。中国道吉川ICから淡河で「湯ノ山街道」と交差し、箕谷で新神戸トンネル、阪高北神戸線に連絡した後、六甲山系を越えて神戸市内、JR神戸駅付近に至ります。
バスは旧吉川町域で美奈木台を通るなどR428の西側を走りますが、基本的にはR428を箕谷まで走り、新神戸トンネル経由で三ノ宮に至ります。
なお冬季は箕谷から淡河までの峠越えが凍結などの問題があるため、御坂を迂回するルートで走るため、所要時間が7分延びる冬ダイヤを採用するという特徴があります。
北区の北神出張所のある岡場へ行くのは午前中2時間おきに設定されたの3往復のみで、あとは三田行きです。そのため神戸市内などに行こうとすると、三ノ宮行きの1日3本のバスが合わなければ三木行きで恵比須か、三田行きで道場南口まで出て神戸電鉄に乗り換えとなります。
御坂で神姫バス同士で西脇急行に乗り換えることも可能ですが、現状のダイヤでは接続はあまり考慮されていないようです。
なお、淡河の中心から遠くないところには山陽道の淡河BSがあり、伊丹空港−姫路のリムジンが停車して伊丹空港との乗車を取り扱っています。また、阪急系の九州行き夜行高速バス3往復と、三ノ宮−岡山・倉敷の神姫バス1往復が停車しており、神姫バスは三ノ宮との利用も扱うのですが、かつて朝夕2往復利用が可能だったものが1往復に減少しており、利用の少なさが伺えます。
淡河バスストップ |
●淡河の取り組み
2003年までは三ノ宮行きすらなかったということは、公共交通を利用して神戸市内に出るときは必ず三木−三田・岡場間のバスを使うしかありませんでした。
御坂経由の西脇急行もかつては少なく(メインは第二神明玉津IC経由)、明後日の方向にある道場南口か恵比須に出て神戸電鉄乗り換えという非常に不便な状態でした。
三木や三田にある程度の商業集積があるため、日常の移動需要に関しては三木や三田でもいいのかもしれませんが、神戸市民として神戸都心へのアクセスが貧弱の一言に尽きるという状態は我慢がならなかったのか、長らく三ノ宮直通のバス路線開設を訴えてきたようです。
この努力は結局7年越しとなり、ようやく2003年に開業した三ノ宮行きは3往復とささやかで、開業当時は小型車両での運行と手探り状態だったようですが、最近では西脇急行などでお馴染みの急行車が運用についており、本数は増えませんが1本ごとの利用は定着したようです。
ただ、そうはいっても利用の絶対数は少ないようで、2006年度から県と市による路線維持補助が実施されているのが実情です。
淡河本町北バス停 |
また、2006年には町内にある施設がそれぞれ送迎用車両を所有・運行しているのに着目し、送迎などで使用しない時間帯に、施設の運転手や町内の二種免許所有者が町内巡回路線や、谷上駅までの便を運行する「ゾーンタクシー」計画を2008年4月実施を目指してたてました。
これは施設所有のクルマを施設の運転手や二種免許所有者が共有形態で運行する体制であり、ゾーンタクシーであると同時に一種のカーシェアリング(ただし運転手が自由に運行するわけではないところがカーシェアとは異なる)ともいえる形態で、かなり異色の計画です。
今回の計画は、施設運営のNPOが主体となった有償ボランティア輸送になっており、複数の施設が参加するとか、カーシェアリング的な要素は消えたようです。
●計画の骨子
淡河町内にあるNPOが主体となり、町内の社会福祉法人が所有する車両を用いての運行とあります。
平日日中は淡河町内を運行し、バス停や北区淡河連絡所への移動手段とする。
平日夜間は谷上駅から淡河町内への運行として、通勤通学者の帰宅支援とする。
休日日中は谷上駅と社会福祉施設との間の運行として、福祉施設面会者の送迎を行う。
利用可能なのは、登録を受けた淡河町民と、登録を受けた社会福祉施設の来訪者と、その同伴者として、一種の会員制バスといえます。
谷上駅に拘るのは神戸都心とのアクセス(北神急行経由)と、北区の中心街(鈴蘭台など)とのアクセスでしょう。
平日夜間の運行がユニークですが、1日3本の三ノ宮行きには平日だと淡河本町北7時08分発、三ノ宮7時44分着の通勤通学に使える便があるのに、帰りは三ノ宮18時発、淡河本町北18時35分着とやや早く、御坂乗り換えでも三ノ宮19時15分発の西脇急行(ただし御坂で23分待ち)、道場南口駅からは19時55分発とさらに早く、谷上で20時台もしくは21時頃の便を出すことで、安心して通勤通学ができる体制にすると見られます。
淡河本町の十字路(道の駅おうご) |
●対立とその根拠を見る
神姫バスは「既存路線でカバーできる」、タクシー会社は「タクシーで行ける」という主張で反対しているようです。
確かに淡河町内の移動に関しては神姫バスの主張にも一理あります。
淡河町内の集落は、僧尾地区を除いて基本的に三木−三田・岡場のバス路線が走る県道沿いにあるわけで、今回の「事業主体」となるNPOの社会福祉施設も「学園前」のバス停から程近いです。
バス路線は北区の淡河連絡所を通り、淡河町内では毎時1本が確保されているわけで、他地域のコミュニティバスと比較しても見劣りするものではありません。また運賃も、淡河本町と東側の大き目の集落である野瀬の間で310円(淡河連絡所−野瀬は250円)と、「100円バス」あたりと比べたら確かに高いですが、市内の神姫バスは神戸市の福祉乗車証も使えますし、あまり贅沢はいえません。
背後の山を越えてようやく箕谷 |
不採算路線も抱えた事業者に対し、採算性の良い路線にのみ参入、競争するイイトコドリを「クリームスキミング」「チェリーピッキング」といいますが、今回のそれはどちらかというと不採算区間のしかも谷間の区間であり、逆に神姫バスがこれ幸いと逃げ出す算段をはじめてもおかしくないんですが、とにかく反対に回っています。
谷上への路線に関しては競合しますが、神姫バスは箕谷インター入口にある小橋バス停に停車後、新神戸トンネルを通り三ノ宮まで直通しますから、谷上経由北神急行乗り換えとなる計画に対して、時間的、価格的優位性は揺るがないはずです。
また、そもそも1日3往復ですから、補完関係になることはあっても、食い合いとはいえないでしょうし、対神戸都心で三木−三田・岡場線を使うしかないというのもかなり大儀ですし、神鉄乗り換えはともかく、冬場は三ノ宮−吉川線が迂回するルートである、御坂における西脇急行との乗り継ぎルートが現状のダイヤではほとんど考慮されていない現状では、対神戸都心でバスの客を奪うと言う主張は無理があります。
一方、タクシー会社の主張はどうでしょうか。
そりゃどんなところでも「タクシーで行ける」と言えます。ちなみに谷上駅から淡河町内まで、町の西側にある県道とR428が交差する淡河本町まで12km程度、3500円程度です。野瀬など東側の集落に向かうと4000円台中盤と言う感じです。
これで片道ですから往復となると大変です。さらに淡河にタクシーの営業所はないはずで、淡河発になると吉川や谷上から呼ぶことになるので迎車料金も会社によってはかかります。
工場地帯の事業所相手の商売のように、企業持ちの用務客ならいざ知らず、住民や社会福祉施設への面会者相手に、往復で7000〜9000円を支払って当然のように考えたり、それで「交通手段がある」と考えるのはちょっと無理があります。
●三木や三田じゃダメなのか
確かに谷上、神戸都心へのアクセスは同じ神戸市内、北区内なのにお寒い限りです。
しかし、上述の通り三木や三田(岡場)へは毎時1本のバスが確保されているわけです。
三木も三田もそれなりの街で商業集積もありますから、そこへのバスが毎時1本あると言うのは悪くはないはずです。
一方、「神戸市北区」という住所を考えた時、三木市や三田市へのアクセスだけが充実していると言うのも「神戸市民」「北区民」として疎外感を感じることでしょう。
もちろん主たる交通手段はクルマですが、天下の神戸市が、よその市に出るしかないような交通事情にある地域をそのままにするというのもちょっとあんまりな気もします。
そうした感情的な話でバス路線が出来たら世話ないといわれそうですが、官公署へのアクセスと言う意味では確かに問題です。
淡河町にあるのは北区役所北神出張所淡河連絡所であり、住民票交付などの基本業務はここで扱っています。ここへのアクセスは神姫バスが毎時1本あるわけです。
淡河連絡所に停車中の三木行き |
しかし、その上部にある北区役所北神出張所ですが、これがあるのは藤原台、つまり神鉄岡場で、午前中に2時間おきに3往復の岡場行き以外は、三田行きで道場南口まで行って神鉄で戻るわけです。さらに北区役所は鈴蘭台ですから、三木行きで恵比須(エビス)、三田行きで道場南口まで行って神鉄と、大きく迂回します。神戸市役所(三宮)は言わずもがな。税務署も所管は兵庫税務署であり、所在は新開地です。(兵庫税務署は三田市も管轄にしており、その意味では三田市民も相当しんどいです)
これが谷上駅までの交通手段があればだいぶ様相は変わるわけで、北神出張所はともかく、北区役所や市役所本庁、税務署などへのアクセスは飛躍的に改善します。欲を言えば箕谷インター付近に停車して、市バス急行64系統にも接続できたら文句なしです。
●なぜ「有償ボランティア輸送」なのか
以上より、谷上へのアクセスに絞れば、少なくとも「公共交通機関」として他社を侵害するようなこともなく、「神戸市北区」の住民として、市や区の住民サービスへのアクセス確保と言う効果もあります。
一方で気になるのは計画の中途半端さです。
路線バスでもなく、なぜ有償ボランティア輸送なのか。交通不便地域への公共交通機関としては、神戸市には東灘区住吉台のくるくるバスという先例があるわけです。
住民主導でバス路線を開設したこの事例が淡河にも当てはめられないのか、と言うことは容易に想像がつく指摘ですが、くるくるバスの場合は同じ区内にみなと観光と言う意欲的な事業者があったことが大きいわけです。
一方淡河の場合、中小型バスを持つ事業者はそれこそ神姫バスであり、あとは隣の三木市吉川町に1社あるくらいです。反面、住民側、NPOは車両を所有しているわけで、事業者に運行業務を委託しての貸切乗合での運行という形態が考えられますが、町内巡回路線で競合する神姫バス、または市外の業者となると難しいでしょうし、実は貸切運行へは意外なハードルがあるのです。
通常であれば地域の足の確保となると自治体の出番であり、道路運送法21条による貸切乗合や、80条による自家用有償運行でしのぐ例が各地にあることは周知のとおりです。
しかし、ここで問題になるのがその自治体が「神戸市」と言う政令指定都市であるということ。既に交通局を持ち、震災復旧での多額の財政負担もあり、淡河だけを特別扱いできないという事情が垣間見えます。
高速バス用駐車場は閑散 |
一方で2006年の道路運送法改正で旧80条の自家用有償運行に関し、改正後の78条2項で過疎地、福祉目的の場合はNPOなどの登録団体にも認めるようになっており、今回の「有償ボランティア輸送」はこれに則ったものと言えます。
改正前であれば、自治体にやる気がなければ、4条による一般路線とするしかなく、そうなると免許や車両その他の必要条件具備において、NPOレベルでは到底手に負えないわけですし、自治体の支援が見込まれない場合は既存事業者も当然二の足を踏むわけで、とはいえ無償輸送となるとさすがにコスト的に手に負えないと、八方塞がりだったわけで、78条2項がブレイクスルーになったといえるのでしょう。
ただ、78条2項以下の規定を使うために、利用者が住民その他に限定されることになっており、使い勝手(収益性)と言う意味では悪くならざるを得ないのが悩ましいです。
なお、2006年の改正では21条による貸切乗合での運行は原則不可となっており、改正後の79条による運行(改正前の80条バスと同一効果)にするか、4条による一般路線にするしかなくなっています。
●既存路線の改良は無理なのか
前記の通り東西と南北方向に神姫バスの路線があります。これをベースにした路線バスの改良では対応できないのでしょうか。
対三宮ということになると、御坂乗り換えというのは現在の御坂のコンビニがあるだけの環境を考えるとここに拠点を設ける、いや、待合室などを設けると言うのもかなり思い切った投資ですし、御坂は三木市、淡河は神戸市という行政の壁もあります。
御坂バス停。手前にセブンイレブンが1軒 |
ただ、三ノ宮−淡河−吉川線を冬季ダイヤのように御坂経由で運行するという変更は十分検討の余地があるでしょう。
現在は小橋(箕谷)へ直行してますが、途中停留所が事実上無いわけで、7分の延長で御坂経由とし、淡河町西部のカバーをするという手はあります。箕谷では市バスの急行64系統の停留所に停車させて、少し歩いて谷上駅−しあわせの村の市バスに乗り継げるようにするといった対応をとれば、北区役所のある鈴蘭台へのアクセスが億劫ですが、それ以外の需要に関しては対応が相当取れるようになります。
また、三木−三田線を全便岡場駅に振り替えるという手もあります。これで北神出張所へのアクセスが確実になるし、岡場で神鉄に乗り換えればまだ手戻り感も薄まるわけで、こちらは淡河町東部からの対三宮で有効な手段となります。
三田行きを岡場行きに振り替えることで、同じ北区の八多町にとって、八多町の官公署である北区役所北神出張所八多連絡所を通るバスがなくなるという地域相互の相克がありますが、こちらはすでに市バスが岡場駅などをベースに藤原台に路線を持っており、一部を八多連絡所経由で三木−三田線ルートをカバーするといった対応にすればどうでしょうか。
もともと1時間ヘッドのバス路線があるだけに、それの活用をまず考えたいのですが、これまで事業者が運行スタイルを変えてこなかったあたり、そういう「正攻法」では百年河清というところだったのでしょうか。
●法の隙間にどう対応するか
地方のいわゆる交通不便地域の交通維持に関しては、補助体制の見直しから事業者の撤退が相次ぐ昨今、通常自治体が対応しているものです。そういうケースでは路線自体がなくなることから、自治体が比較的自由に住民サービスとしての交通を用意しているようです。
しかし、自治体が財政難、もしくは自治体が大きすぎてエリアごとのバランスが取れない(他エリアにも同じような対応を取ることが求められる)ようなケースの場合、自治体は身動きが取れない、自治体は対応しないと言う「消極的な平等」策に走るケースもあります。
淡河のケースは上記の通り行政(神戸市)が身動きが取りにくい事情があり、さらに既存事業者が路線を継続する以上、別途4条の一般路線での申請という道は、通常の審査でダブルトラッキングがまず認められない規模であり、かつ9条4項による地域公共交通会議に基づき新設するにしても、既存事業者が会議のメンバーとして反対することが必至なため、事実上閉ざされているわけです。
残るは78条2項による有償ボランティア輸送しかないが、こうなると利用者が限定されるといった使い勝手の悪さが出てくるというわけで、しかも地域公共交通会議のしばりもあるということで、21条や80条が使えなくなったことでデッドロックに乗り上げざるを得ないケースがこの淡河なのです。
淡河本町の町並み |
2006年の道路運送法改正は全体的にはこれまでのヌエ的、なし崩し的なコミバスを整理し、きちんと制度化するという意味では意義のある内容ですし、従来よりもハードルが下がった面もあります。
しかし、地域の問題で行政が味方につかないという想定が無かったのか、行政と「対立」するケースを認めないのか、自治体が消極的、調整能力に乏しいというようなケースになると、地域による21条準拠の貸切乗合という便法が封じられたことで、使える手法が極めて限定されることになります。
こうしたケースをどう「救済」するのかが、この問題の水平展開と言えます。
(本稿の道路運送法及び同法の2006年改正については名古屋大学大学院加藤博和准教授の「東海3県の路線バス情報のページ」を参考にしております。
参考URLは http://orient.genv.nagoya-u.ac.jp/kato/bus/index.htm)
●市域に取り込んだからには...
実は神戸市の市域はあまり広くなかったのですが、戦後、現在の垂水区、西区、北区の広範囲を合併して市域を広げてきました。
あまり知られていませんが、御影や岡本といった神戸有数の高級住宅街を抱える東灘区も、淡河に先立つことわずか8年、有馬温泉よりも遅い1950年に神戸市に編入されて成立した経緯があり、その延長線上で明石や三木、吉川のほうに進出していったのです。
「ミナト神戸」から峠2つを越えたエリアまでの合併に無理があったということは簡単ですが、合併したからには神戸市の一員として地域を遇する義務があることは言うまでもありません。
そう考えたとき、「神戸市」にあって「神戸」への交通を求めるという住民の願いがいかに切ないものか。市が全面的に対応できないにしても、せめて住民の発意に対しては調整その他のバックアップくらいはしてほしいものです。
そう、今回の計画がどうしても無理筋であるのなら、それが無理でなくなるようなプランニングをして、事業主体になることを厭わないとしている住民に提示すればいいのです。
箕谷への峠から淡河の街を望む |
【2008年3月20日 補筆】
3月15日の神戸新聞は、淡河のコミバス計画が合意に至ったことを報じました。
2回目の地域公共交通会議が14日に開催され、地元案が合意を得たとのことです。
しかし、その内容はというと、当初計画からは大きく後退したといわざるを得ません。
記事
によると、
昨年九月、同会議に出した案は、町内の周回だけでなく、神戸電鉄谷上駅などへの運行も含まれており、バスやタクシー会社が「路線競合の可能性がある」と反発、路線見直しを迫られていた。 そのため、バスの運行を町内のみに限定。一日三回ほど集合場所と神姫バス停留所を周回する「路線定期運行」と、地域のイベントが開かれる会場に送迎する「特定日運行」を提案し、了承された。 |
ということで、神姫バスやタクシー会社の権益を侵さない、というか、神姫バスのフィーダーに過ぎない運行になるようです。
これでは位置づけが大きく異なるわけです。もともと既存路線沿いに集落の多くがある中で、既存路線では不十分だからこその路線計画なのに、既存路線のフィーダーどまりでは、バスがより集落のそばにくるという程度のメリットしかありません。しかも町内に数個所設けた「集合場所」がベースですからこれも中途半端ですし、本数も既存路線が毎時1本レベルに対し、少なすぎる印象です。
(三ノ宮−吉川線接続ならまだマシですが)
一方でこの路線は、県内初の78条2項路線(過疎地有償運行)となる模様であり、兵庫県は2008年度から地域住民主導で運行する有料コミュニティバスの立ち上げ支援として1地域50万円までを補助する制度を新設しており、今回の計画はこれの適用を受ける模様です。
ただ、県と同格とされる政令市にありながら県の制度を活用するあたり、神戸市にありながら神戸市の支援を得られたかと言うと微妙な結果となったわけで、そういう意味ではモヤモヤとしたものを残した格好です。
いずれにしろ最大の難関であった地域公共交通会議をクリアしたのは確かであり、当初からは大きく後退したとはいえ、実現への大きなハードルは越えました。
今後は運行開始までの実務的な詰めが残っており、無事の運行開始を祈るとともに、地域によるこのバスが末永く続いてほしいものです。
このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください |