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「ツアーバス」を考える
事業者本位の規制論では利用者の支持は回復できない
「規制緩和」の流れに乗って急成長した「ツアーバス」ですが、その事業形態が路線バスのそれとほとんど同一でありながら、路線事業者が受ける規制がないことから、その部分がハンデとなる路線事業者との軋轢が深刻化しています。
そして新規参入業者、いわゆる新免業者の労務管理、安全衛生面での問題がクローズアップされるなか、ツアーバスへの規制論が強まっています。
路線バス事業者や有識者、またいわゆる「社会派」諸氏など愛好家に到るまでが揃ってツアーバス批判をする一方で、利用者の支持はツアーバスにあるわけで、「サービス業」においてサービスの提供側と受け手の意識がここまで違うのも珍しい話といえます。
今般、国土交通省がこうしたツアーバス業者のあり方について中間報告を発表しましたが、この問題は単なる規制で解決するのか。過去の経緯も含めて考えて見ましょう。
●行政評価としての勧告と対応としての検討会
2011年6月に国土交通省自動車局は「バス事業のあり方検討会」の中間報告を公表しました。
これは2010年9月10日の総務省行政評価局による「貸切バスの安全確保対策に関する行政評価・監視結果に基づく勧告」が元になっての検討です。
当該勧告の骨子は、
1.貸切バス事業については、多数の法令違反があり、安全運行への悪影響が懸念
2.貸切バスの安全運行は、貸切バス事業者の責務。一方、貸切バス事業者からは、届出運賃を下回る契約運賃や運転者の労働時間等を無視した旅行計画が旅行業者から一方的に提示されるなどの苦情あり
3.この行政評価局調査は、貸切バスの安全運行及び利用者保護に資する観点から、貸切バス事業者における安全確保対策の実施状況、貸切バス事業者と旅行業者等との運送契約の締結状況及び地方運輸局における貸切バス事業者に対する指導・監督の実施状況を調査
4.調査結果に基づき、
(1) 貸切バス事業における安全確保対策の徹底
(2) 収受運賃の実態把握及び公示運賃の検証
(3) 旅行業者への指導・監督の強化
(4) 貸切バス事業者に対する監査の効果的かつ効率的な実施
を平成22年9月10日、総務大臣から国土交通大臣に勧告
であり、貸切バス事業者における法令違反、安全への疑義を指摘しており、貸切バス業界そのものの体質を批判するとともに、監督官庁である国土交通省の「甘い監督」もまた批判しています。
ではそれを受けた今回の検討会の設置とその中間報告はどうでしょうか。
目的らしき項目として、行政評価局の勧告と近年の乗合バス・貸切バスをめぐる諸状況を踏まえ、バス事業規制の見直しの方向性などを中心に、今後のバス事業のあり方について検討を行うとあります。
そして高速路線バス、ツアーバスの両者の特長を取り込みつつ、各種課題を解決し、公平な競争条件の下でのより安全で利便性の高い高速バスサービスを実現することが求められていると、高速バス全体の向上を謳っています。
ロータリーエアサービスの便 (オリオンツアーと勘違いしていました、お詫びして訂正します) |
●バイアスとその強化
こうした監督官庁とその監察人による指摘ですが、確かに昨今指摘されている問題を抽出しており、「悪しき業界慣行」の排除と言う意味では期待できるところです。
しかし、結論から言うと、そうした「崇高な理念」が「路線バス業界保護」に矮小化されているのが今回の流れに見えてしまうのです。
なぜそうした結論にいきなり辿り着くかと言うと、貸切バス業界の問題を抽出した段階で、早くも見え隠れするのですが、あの勧告で再三指摘されている問題点につき、貸切バス業者に確かに問題は多いのですが、ではそれが路線バス業界も含めた立ち位置ではどうかという視点が全く無いのです。
すなわち、「バス業界」全体の問題なのか、「貸切バス業界」、それも「新免業者」特有の問題なのか。そこの検証がありません。
「貸切バス業界」の問題について勧告したのだからあれでいい、と言うのは事実ですが、それを持って路線バス業界との比較や、「あり方」を論じる材料と言うには弱いのです。
さらに勧告を受けての取り組みを見るとその思いが強くなります。
「貸切バス業界」の問題が「バス事業のあり方」になり、「問題の多い貸切バス業界」による「路線もどき」の営業を規制する、と言う結論がまずありきになっているのです。
厳しい言い方をすれば、この「対応」は「貸切バス業界」の問題解決には直結しません。労務管理、安全衛生の問題をどう解決するかなのに、それを理由に「路線バス業界」を守ることに集約された格好です。
●はじまりは北海道
とはいえ路線バスもどきのツアーバスが乱立する現状が好ましいかと言うと、好ましくないことは確かです。今回の中間報告にあるように、「高速バス」と言うカテゴリーで利用者に対峙することで、サービスで競い、安全その他の条件においては一定の水準をクリアしているという安心感を提供できることは利用者の視点から見ても重要でしょう。
ツアーバスの路線化については大きな流れとして過去2回ありました。
まず第1回目は1980年代中盤で、季節波動が激しい北海道の貸切業者の経営安定化対策として広まった路線バス同様のツアーバスがありました。
当初は路線バスの無い長距離路線が中心で、かつ運輸局側が主導したという話もありますが、路線バスがある札幌−留萌間でのツアーバスの運行開始による軋轢を機に、当時の道路運送法24条の2による貸切免許による乗合運送の特別許可による「路線バス」として再出発しています。
この時期のツアーバスについて、24条の2による許可取得後ではありますが、1986年夏に北都交通の「オーロラ号」(函館−札幌)への乗車経験があります。
中山峠経由で全区間下道という時代でしたが、札幌での乗り場が駅やバスターミナルに入れないため、すみれホテル前となっており、地図を片手にホテルを探し、狭いロビーで受付して乗車を待った記憶があります。
ちなみに函館の降車もホテルニューオーテなんですが、ここは朝市、駅にも近く不便は感じませんでしたが、路線バスには無い豪華さが売りのはずが、一般貸切車の続行便にあたってしまい、私の中では大いに評価を下げた記憶があります。
また当時の路線を見ると、現在とは逆で、ツアーバスが先鞭をつけた路線に路線バスが参入しており、1980年代後半のダブルトラッキング、トリプルトラッキングの解禁もあわせて、貸切バス業者の「ドル箱」を路線バス業者が侵食してきたような見方も可能です。
●最悪の規制緩和
そして第2回目。これが今日のツアーバス形態による都市間高速バスを決定的にしたといえるケースです。
2001年の道路運送法改正で、高速バスへの参入規制が大幅に緩和され、貸切バス事業者などによる新規路線が誕生しました。
しかしそうした路線は、新しい需要を開拓するべく全くの新規路線とはいかず、需要の多い既存路線バスのドル箱路線への後付け参入であることがほとんどでした。
一方でこの時の規制緩和は、高速バスのほか航空業界もそうだったのですが、大手事業者による寡占体制が運賃の高止まりを招き、利用者の利益を損なっているという状態を打破する効果が目論まれており、競争事業者としての参入が期待されたといえます。
ところがこうした新規参入業者による競争路線化において、その先達ともいえる米国のように、既存事業者に対す公正な競争を促すための規制を課さなかったため、体力のある既存事業者と相対的に体力の小さい新規参入者が資本を全力投入するガチンコ勝負をするという、およそ競争とはいえない「虐殺」と言っても差し支えない事態だったのです。
その典型例が東北地方で繰り広げられた「競争」です。
新規参入者に対し、地域の最大手や、地方全体の最大手企業が全力で潰しにかかったこの「競争」、
最終的に新規参入者が撤退を余儀なくされたばかりか経営破綻に追い込まれるという結末は、規制緩和という謳い文句が実に危険なものであるということを天下に知らしめたといえます。
さらに価格競争力を持って参入し、規制緩和の目的に適う状態を演出したはずが、無制限一本勝負による退場後3年で新規参入前の水準に事実上戻るなど、競争による独占成立の弊害と言える現実は、規制による自然独占の排除と言う規制の効果を図らずも裏付けました。
またバス業界ではないですが、航空業界においても同様の事態となり、こちらは露骨に競合時間帯の便だけ値下げして公取から警告が出る結果になりましたが、あまり「露骨」でなければお咎め無しにしてしまったため、スカイマーク1社を除き新規参入業者は事実上敗北し、大手の事実上の系列となっています。
このように、特に大手側の運賃規制を取らないことによる消耗戦の放置は、既存業者以上の大資本が「異業種参入」でもしない限り、新規参入が事実上不可能であると認識させる効果がありました。
●「新高速バス」はどうか
今回の中間報告では、「素行の良い」ツアーバスに路線免許を与えて路線バス化させるとともに、路線事業者も含めてツアーバスの強みである柔軟な配車等の運用を認めることにしています。
しかし、今回の「3回目」は、ツアーバスへの新規参入を事実上禁止し、既存大手ツアーバスは「新高速バス」として安泰、さらには路線バス事業者にはツアーバス並みの機動力を与えるという、飴と鞭というか、露骨ともいえる「規制」、いや、「優遇」に見えます。
最大手のウィラーバス |
そもそも今回の「新高速バス」に取り立てられるであろう会社は、ツアーバスの大手です。
有力な町人に苗字帯刀を許して士分に取り立てる代わりに、普通の町人が士分に成りあがる道を断つ、そんな感じでしょうか。
航空業界におけるスカイマークのように2001年の「なんちゃって規制緩和」を生き抜いてきたのではなく、あくまで路線バスの範囲外で成長してきた業者です。
今回の「規制」にも耐えられるだけの体力も、あくまでツアーバスとして築いてきたわけであり、今後はツアーバスの営業が事実上禁止されるとしたら、「4回目」はよほどの異業種参入が無い限りありえないわけで、事実上都市間輸送と言うマーケットを既存業者で独占することを、大手ツアーバスを抱き込んで実現させるものといったら言い過ぎでしょうか。
さらに言えば、「2回目」の際に事実上の参入規制というか、ハンディキャップとして機能した部分への手当てが出来ていないのも気になります。
すなわち、停留所の問題であり、路線免許を取ることで占有許可が得られるという謳い文句の反面、路線免許を取得してもマトモな位置に停留所が設置できなかったことで大きなハンデとなり、新規参入者が苦戦という結果が過去に存在したのです。
それが上記の東北地方での事例ですが、独禁法違反の裁定は下りませんでしたが、公取による指導が出たくらいですから、「業界慣習」が新規参入者に相当厳しかったと推測されます。
ちなみに、この時経営破綻は免れたが路線バス事業から撤退した業者が、路線から手を引いて東北地方で最有力なツアーバス事業者になっているのは、まさにその時の教訓を糧にしているのかもしれません。
こうした部分への手当てが無いままでは、ツアーバスからの転進どころか、路線免許を取得しての新規参入すら成算は得られません。
「なんちゃって規制緩和」の「教訓」なのか... |
●業界保護ではないのか
こうした相克については、いかに需要が多い区間であっても、闇雲な参入は不毛な消耗戦となり、事業者の体力を損なうと言う批判が強いです。特に最近ではドル箱路線により地方の生活路線を維持しているという主張があちこちからなされているように、一般路線バス、ミニマムアクセスの維持の問題としてこの問題を捉える向きが多いです。
確かにそれは一理ありますが、一方で利用者のメリットはどうなのか。都市間を移動する人に対し、事実上生活路線維持の寄付を強請することが容認できるものなのか。また、本当にドル箱の独占を容認したら生活路線は維持されるのか、という疑義もあるわけです。
特に生活路線の維持に関しては、路線バス側が漫然と営業しているケースもあるわけで、ちょっとの距離なのに青天井で上がり続ける運賃など、これで生活に使うのは酷だとしか言いようの無いケースや、一部の大手路線バス業者のように、生活路線からさっさと撤退し、高速バスに経営資源を集中しているケースはどうなのか、という問題もあるのです。
一般路線から撤退したJR東海バス(春日井) |
なお、この顕著な例と言えるJRバスの一般路線撤退については別の問題もあります。
国鉄再建の際、当時の自動車部の路線を継承・継続する前提で収支を合算してJR各社の債務継承額が決まっているのですが、その前提となる一般路線から撤退するのであれば、その分の「マイナスの収支」が改善するわけです。
本来「不採算」を織り込んでいる路線であり、そこからの撤退はよほどの事情変更が無い限り、債務継承額の増額とセットにしないと、国民負担を増加するための「篭脱け」になります。
まあそれは余談としても、こうした部分を総合的に差配するのが行政、監督官庁なんですが、既得権益の保護に軸足があるように見えることは否めませんし、その傾向が色濃く出たのが今回の中間報告という見方も出来ます。
●路線バスとの比較
行政評価局の勧告はあくまで「貸切バス業界」の「悪しき業界慣行」が対象であり、そこに相対評価は見られません。
しかし、この結果をもって貸切バス、特にいわゆる新免業者はコンプライアンス意識が低く、危険だと言うことは可能でも、だから路線バスが安全だと言う結論に到るのは早計といえます。
そもそも路線バス業界においては勧告で指摘されたような事象が有意に少ない、と言うことが確実にいえるのでしょうか。
例えば高速道路での運転が原因での責任死亡事故はツアーバス固有のものかと言うとそうではありません。ツアーバスを批判する人は2007年に起きた中国道吹田でのスキーバスの事故を取り上げますが、画に描いたような家族経営の零細企業による悲劇とはいえ、犠牲者は乗客ではなく添乗員だったのに対し、2005年に磐越道で起きた鉄道系バス会社の運転操作ミスによる横転事故は乗客が3人死亡するという大事故でした。
対歩行者の死亡事故では一般路線バスも含めてですが年に3件、うち2件は3日の間に起こした大手路線バス会社もありましたし、名神高速での「メガライナー」炎上事故や、中央道での飲酒運転+物損事故など、路線バスによる重大事故も過去にはあるわけです。
重大事故ばかりでなく、勧告で出ている道交法違反の数々にしても、では首都圏や関西圏のターミナル周辺の路上でハザードは点けているとはいえ、路上駐車をして時間待ちをしている路線バスはお咎め無しなのか。
占有面積や大きさを勘案して、乗用車による駐車と比べ物にならない危険性がある行為であり、ツアーバスの路上扱いを咎めるのであれば、路線バスのこうした行為もまた「コンプライアンス」の問題として批判の対象となります。
一方で新免業者はともかく、貸切専業の事業者は、それこそその昔は「快適な観光バス」として路線バス会社よりも評価が高かったわけですし、新免業者も含めて、どうもイメージだけで相対評価のレッテルを貼っていないか、という疑念が消えませんし、特にいわゆる「社会派」諸氏など愛好家のなかには、貸切業界に対して失礼としか言いようの無い評価も散見されるのは気になるところです。
また新免業者の評価でよく見られる「運転手の質」についても路線バスとの有意な差はあるのかどうか。上記のような飲酒運転+物損事故のほか、先日も北陸道で脇見運転で追突事故を起こした鉄道系の夜行高速バスがありましたし、このあたりは、路線バス業者の実態とクロスチェックをしない限り、相対評価は出来ませんし、それを欠いて相対評価をするのは、単なる「贔屓」と言えます。
●利用者はなぜツアーバスを選ぶのか
そもそも路線バス事業者や有識者、またいわゆる「社会派」諸氏や「バスオタ」諸氏が揃ってツアーバス批判をするなかで、どうしてツアーバスの人気が衰えないのでしょうか。
決まった停留所を持たない、決済が面倒と言うようなハンデがあるうえに、「危険」といわれているのにそれでも選ぶと言うのはよほど命知らずか、価格が総てと言う人ばかりということになりますが、現実には価格ではなく若干高くても快適さを選ぶ人が少なくないわけです。
そしてリピーターがいるということは、一度乗ってこりごり、というケースが少ないわけで、ならば「安全を削ってコスト優先」というツアーバス繁盛の前提が崩れてくることになります。
つまり、路線バスのサービスが悪すぎる。リスクとメリットを考えても、路線バスを選べない、という評価に尽きるわけです。
また、「プロ」が喧伝する安全性についても、利用者から見たら「五十歩百歩」に過ぎないのかもしれません。このあたりは航空業界におけるスカイマーク批判と相通じるものがあるわけで、実は大手であっても運航トラブルはあるし、スカイマークが危険性を感じるほど有意にトラブルが多いというわけでは無いという現実を利用者が感じているのと同様に、ツアーバスの安全性についても、路線バスと比較して有意に危険と認めていないのでしょう。冷静に考えれば、運転と言う面では、大型二種免許は取得しているわけで、一定の技量はあるのですから。
●そして問題は先送り
最大の問題は、行政評価局の勧告に対する結果がこの中間報告では必ずしも得られないであろうと言うことです。
つまり、新免業者を中心とする貸切バス業界の問題をどう解決するか、という問いかけに対し、ツアーバスの規制という回答を打ち出したわけですが、勧告を読めば分かるように、新免業者を含めて貸切バス業界の問題の多くは、監督官庁による管理監督が出来ていないことが原因なのです。
国交省がルール通り業者に立ち入り調査を行い、ルールの遵守を確認し、周知徹底を図っていれば、「お上の目が光る」ということでそれなりに無茶は減るはずでした。
ところが実態はザル同然で、守ったほうが馬鹿を見るような現実では、誰もルールを守らなくなるのは当然です。
さらに言えば、こうした「コンプライアンス違反」の中には、実体にあっていない規制の存在が原因と言うものもあるわけです。
例えば営業区域の問題。全面的な開放には問題があるにしろ、都道府県をまたぐ営業を原則認めないというのが実態に合っているのか。特に勧告で指摘されている事例を見ると、空港送迎の行程で、空港が変更になったためにエリアから出たというケースがあるわけで、じゃあそういう時は送迎できませんとか、他社に行って下さい、というのが「正常」なんでしょうか。
また、四国の業者で、自社営業区域の空港では路線の関係で集客が限定されるため、区域外の関西での影響をした例や、神奈川の業者がTDL−関西の営業をするケースなど、ある程度広域での営業を認めることに合理性が無いとは言えないケースもあるわけで、これはコンプライアンス違反ではありますが、規制のほうに問題があるといえるケースであり、監督官庁の対応が実は求められるケースです。
このように、問題の多くが手当てされていないように見えるのです。
●あるべき姿は
そもそもツアーバスという「ヌエ」的な業態がここまで広まったのは、路線バスへの新規参入に対する規制と、「なんちゃって規制緩和」に見るような公平な競争が担保されていない状態が放置されていたことです。
上記の東北での競争で公取が指導した事象に、バスプールの使用について、既存事業者の同意を求めたことがありますが、それなんかはその典型でしょう。
このあたり、路線だけ自由化しても肝心なところで既得権益を守ることで、事実上骨抜きになってしまうわけで、監督官庁の詰めの甘さというか、本音が垣間見えるわけです。
この問題は航空業界も同様で、新規参入会社がターミナルビルでボーディングブリッジが使えずバス連絡になる、遠いゲートを割り当てられるというようなケースが今でも続いているわけで、既存事業者がその「既得権益」を新規参入会社に対するアドバンテージとしているのを見ると、自由化の要諦は路線ではなく乗り場とも言えます。
羽田で北の外れの乗り場があてがわれたスカイマーク |
ちなみに駅前のバス乗り場などは、近年では行政の補助による整備が専らであり、公共交通の使用に対して公共が公費で整備している以上、その差配は公平であることが求められます。
しかしながら未だに「閑散としているバス乗り場を尻目に駅に入れない新規路線」は山のようにあるわけで、公費で既存事業者の営利活動を有利にする設備を整備する結果になっているのは、本来あってはならないことです。
乗り場の整備、差配は道路の占有に関することでもあり、公共主体に実施する反面、車庫や営業施設の整備を行い、法令を遵守し、特に労働コストを犠牲にした不当廉売に走らないようにルールを決定することで安全面を担保したうえで、ツアーバスを規制し、路線バス免許による運行以外を認めないと言うことが妥当な結論と考えています。
貸切バス業者でも、ルールを守れば公平に路線バス参入の機会が得られるのであれば、ツアーバスという「抜け道」は不要ですし、それによって「バス業界」という大きなカテゴリーで個別の会社を評価することが可能になります。
●余談・利用者としての経験から
ツアーバスに対する批判に対し、利用者の支持がツアーバスに集まる現状。それはただ安いから、ではありません。
初めはそれこそ「安かろう悪かろう」を地で行くような存在でしたが、今は路線バスよりもサービスに工夫が凝らされている半面、お値段は路線バスの廉価タイプよりも高いケースも多いわけです。
「お値打ち」というのも「安さ」ではありますが、絶対値としての安さと言う意味では安くは無い、グレードの高いコースがツアーバスでも人気なのはなぜか。そこにあるのは安全も含めたトータルでのコストパフォーマンスによる優劣なのです。
しかもそうしたツアーバスを利用して、「案外良かった」という評価が多いわけで、「普通の人々」は、我々のような「オタク」に属する層だと、高速バスというジャンルと別のジャンルに見ているツアーバスを選択することに抵抗が無いだけに、良い物は良い、悪い物は悪い、という評価で取捨選択されているのです。
そういう意味では先日家人が利用したケースは、路線バスを選択したことをまさに後悔したケースであり、こうした積み重ねこそが現在の状況に繋がっているのです。
とある地方都市に夜行高速バスで向かう必要が生じたのですが、ネットで調べてもツアーバスの選択肢も少なく、路線バスも選択肢に入れていました。最終的に路線バスを選択したのですが、ネットでの予約が安いとあり、私がちょうどそのネット予約サービスの会員になっているので、そちらで予約したのです。
ところがネット予約では性別まで入力して(つまり私以外の分を予約するケースが想定される)、決済もカード決済だけなので私のカード(まあ亭主のカードで家計の決済をするのは普通ですよね)なんですが、乗車時に決済時に使ったカードを持参するように、と予約後の画面で出たのです。
それは不可能事であり、そんな制約があるとは書いていません。バス会社のほうに電話をして話をして、ようやくカード持参はなしで決着したのですが、ツアーバスに比べてなんとも不便だね、というのが感想です。
ただ、決済の問題はツアーバスのほうがカード縛りが不便と言うこともあるだけに、一概には言えませんが、この路線バスに関してはかなりな不便を感じたことは事実です。
話はそれだけにとどまらず、予約時に性別を入力したのに、決済者(=私)の性別になるので隣席が男になります、と言われてまたひと悶着。ネット予約は一体なんなんだと言う話ですが、「分かりました、女性が乗車されますね」と確認したはずなのに当日乗車すると見事に隣が男性と、独立3列シートだから良かったものの、案内になっていない対応に帰宅後家人はおかんむりでした。
バス自体、ツアーバスと比べて相当落ちる、というか、4列車でも今時のツアーバスはもっと小奇麗だとの事。知人が子連れで何度か乗ってるツアーバスの話を聞くだけに、それとの格差に愕然とし、もうこの路線は二度と使わないとまで言い切ったのです。
厳密には私ではなく家人の経験、また知人の経験ではありますが、こうしたツアーバスとのサービス格差が明白になっているなか、今回の中間報告のような路線バス業界保護と取られても仕方が無いような「規制」をしたらどうなるでしょうか。利用者に提供されるサービスレベルによっては、高速バスというマーケットそのものがシュリンクしてしまう危険性があります。
そう、利用者は路線バスを選ぶとは限りません。ライバル交通機関に逃げたり、旅行の中止を選択するほうが多いでしょう。そもそも現在のマーケット自体が、高速バスのサービスの比較優位性により新規需要として開拓されてきたものです。
その比較優位性が損なわれたとき、転移してきた需要は元に戻るでしょうし、新規に発生した需要は消滅するのです。
交通の世界でも数多と見られてきた「逃げ水」のような現象が、また繰り返されるのでしょうか。
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