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バスという交通モードの高度化を考える〜その3
大阪市営バス・なぜか評価されない完成形


大正橋にて


※写真は2005年9月および2006年3月撮影


第3回目は大阪市営バスです。
大阪市営バスというと、交通システムというよりは労務問題で話題というか批判の対象となっていることで有名であり、バスの高度化事例で取り上げることなど思い及ばないかと思います。
しかし、実際には決して派手ではないが高度であることは確かで、かつ大量輸送からコミュニティ輸送までトータルでのシステムを確立しているという全国的に見ても数少ない、もっと注目されていい事業者といえます。

先発と次発を表示する時刻表(大阪駅前)


●大阪市営バスの基本システム
現在の形になるまでには紆余曲折があったことも確かです。
1974年から東住吉区を皮切りに順次導入された「幹線」「支線」システムにより、これまでの乗り切り制から、幹線系統と支線系統(ゾーンバス)の組み合わせによる乗り継ぎ制がスタートしました。
ただ、元は直通していたのを集約した格好での乗り継ぎ制度であり、一部の系統は幹線とゾーンを直通する「特」系統として直通サービスを残しましたが、これを幹線と支線区間を通して利用すると、乗り継ぎを実行したと看做されて別のゾーンバスに乗り継げないというような分かりにくさもありました。
結局、2002年1月に元の系統にはこだわらないバスの乗り継ぎ制度が発足したことでこの制度は廃止されました。

現在のシステムは、2002年1月からのシステムであり、バス同士の乗り継ぎを1回に限り認めるというものです。
乗り継ぎ時間は降車から次の降車まで90分以内(大阪市営バスは後払い)で、最初の降車時に乗り継ぎ券をとるというスタイルです。それまでのゾーンバス乗り継ぎシステムを拡大、普遍化したもので、ターミナルを挟んで反対方向への乗り継ぎや、筋から通りへの乗り継ぎなど、使い勝手が向上しています。

大阪市営バス車内

このときは乗り継ぎ停留所を厳格に指定しており、指定停留所以外では乗り継ぎ券が出なかったのですが、やがて少々離れていても指定されるようになった末に、2005年12月に指定停留所の制度自体が廃止になり、90分以内に2乗車目が完了すればOKというシンプルなものになっています。

ちなみに地下鉄、ニューとラムとの乗り継ぎ割引は1979年に始まっており、乗り継ぎ停留所の指定も地下鉄駅の最寄停留所を厳格に決めがたいことから駅周辺の広い範囲で指定されるようになっていましたが、これも2005年12月に指定停留所の制度が廃止になっています。
こうした乗り継ぎに制度に対応するべく、バスの料金箱は均一運賃制の割には複雑で、地下鉄乗り継ぎの際には乗り継ぎボタンを押して1区連絡の連絡券を取るという仕掛けになっていますし、バス同士の連絡は料金箱とは別にある整理券発行機のような乗り継ぎ券発行機から乗り継ぎ券を受け取ることになっています。
また地下鉄のほうでも、駅の精算機でバス連絡券を発行できるようになっておりますし、2005年12月からはSFカード利用時には自動的に乗り継ぎ運賃で精算されるなど(これまでは一部のパターンしかサポートされなかった)、乗り継ぎ利用のサポートとしてはほぼ完璧です。

地下鉄乗り継ぎも発行できる料金箱
ステップ脇にあるのがバス乗り継ぎ券発行機
バス乗り継ぎ券も発売できる地下鉄の券売機

こうした機能を持つということは機械が複雑になるということではありますが、機械自体はSFカードに対応(今後はICカードにも対応)してかつ紙幣両替も可能な割にはシンプルな域であり、利用者が使いこなせるかどうかの問題はともかくとして、バス車内での料金面での対応という意味ではかなり多彩なメニューをこなせる実例といえます。

またバス停の設備もバス停の頭部の点滅を組み合わせた接近表示や、ターミナルでの先発、次発表示による時刻表など、バスロケーションシステムの活用という意味でも充実しているのが特徴です。

接近表示が点灯中(東船町)


●都市「新」バスという別扱い無用の実力派・大正通
1988年に都市新バスシステムとして整備されたのが大正通のバスです。整備区間は地下鉄桜川から鶴町4丁目までの区間ですが、このうち環状線大正駅最寄りの大正橋から、大正通が鶴町方面に右折する大運橋通までの区間がその真骨頂とも言える区間になっています。

都市新バスというと、路線ごと高度化整備を施すこともあって、他のバス路線とは一線を画した「特殊な」系統というイメージを持ちます。その第1号である東京都営バスの新橋駅−渋谷駅がとそれに続く路線がその典型ですが、系統を「都XX」というように独自の系統にしたり、車両をハイグレード化して路線に愛称をつけるなど差別化を図る事業者が多いのですが、この大正通の系統は、少なくとも接客面では都市新バスとしての差別化を明確にしていません。

バス停の接近表示(平尾)

ここの改良は、バス停のハイグレード化(屋根や側面の蔽い、接近及び次発案内など)、バスレーンの整備、テラス式バス停と意欲的ではありますが、いかんせん事実上のターミナルである大正橋バス停がバスターミナルではなく路上停留所であり、これが都市新バスとは思えません。
走ってくるバスも、大阪ドーム千代崎を基点にする系統のほか、なんば、上本町六丁目、大阪駅、野田阪神とさまざまなところからやって来て、行先も鶴町四丁目と西船町に分かれており、よくあるバス路線という感じです。

大正橋のバス停。路上に都合5つの乗り場が並ぶ大正橋バス停から出る急行バス

ここの特徴はなんと言ってもその運行体制です。もともと大正区内の幹線交通路であり、地下鉄長堀鶴見緑地線の延長計画があるくらいの流動がある区間であり、輸送量は相当なものですが、大正区から都心への流動のほか、大正区の先端付近にある工業地帯への通勤輸送への対応があるため、朝夕のラッシュを中心に両方向への太い流動が発生しています。

大正区南端の工業地帯を通るバス通り(東船町)

そのため、平日のラッシュ時には大正橋−大運橋通で通過運転を行う「急行」系統が設定されており、さらに輸送力を確保するため、定員が減少するノンステ、リフト付き車は急行系統に導入しないという徹底した輸送力主義を採っています。

急行バスの表示(大正橋−大運橋通間)
停車するのは大正区役所と中央中学校のみ

ちなみにこの区間、大運橋通から大正橋方向の便数を見ますと、朝7時台が普通30本、急行26本、8時台は普通30本、急行14本、夕方17時台が普通22本、急行25本、18時台は普通20本、急行18本の設定があり、交差点での信号待ちの時間を考えると、1回の青信号で2〜4台が団子になって進行するダイヤになっています。

団子運転で大正橋に向かう(三軒家)

こうした超過密運転をサポートするのがバスレーンで、片側3車線の大正通には両方向1車線の専用レーンが設定されていますが、その指定時間がなんと朝5時から深夜1時までの20時間に達しています。これは鶴町4丁目発が5時台、鶴町4丁目着が0時台まである路線の実情に合わせていますが、朝夕のラッシュ時だけでない全運行時間帯の設定に、この区間のバスの密度を感じます。

「5時から1時まで」専用レーン

とはいえバスレーンがあっても路駐が邪魔をして、という懸念が先に立ちますが、この区間、路駐の存在をある程度織り込んでいるのも特徴です。バスレーンの外側(歩道側)に停車帯を設定し、バス停付近ではその停車帯が減少する格好でバス停が張り出す、いわゆる「テラス式バス停」になっているため、路駐車両の収容とバスレーンの支障防止の一石二鳥となっています。
また平日は大正橋付近には整理員を出して一般車によるバスレーン支障を防止しており、こうした努力もバスレーンの実効性を高めています。

テラス式バス停(大運橋通)
前後の欠き取りになっているのが路側の停車帯
バスレーンを守る整理員(大正橋)

この大正通でこれだけのバスレーンを擁した都市新バスシステムが成立するのも、千本松大橋や新木津川大橋、なみはや大橋が完成する前は大正区自体が袋小路だったこともあり、道路の規模の割りに交通量が少なめだったということが理由の一つに挙げられます。
大正通自体、かつては市電が走っており、いま地下鉄の延伸計画があるくらいですから、軌道系交通の整備を控えた区間ともいえます。
地下鉄の延伸はともかくとして、かつてのように軌道系交通を導入する余地は確かにあります。少なくとも大運橋通から大正橋までは紛れのない一本道にほとんどの系統が集中しており、大量輸送を得意とする軌道系交通にもっとも適した区間です。

片側3車線の大正通(大運橋通)

しかし、かつてのように軌道で代替できるか、となると、実は現在のバス輸送のほうに軍配が上がるといわざるを得ません。
上記の通り1分に1台、1回の青信号で4台が団子運転という密度での運行を置き換えるとなると、2両、もしくは3両の連接車を導入したとしても、1回の青信号に1編成、場合によっては2編成の電車を通さないと捌ききれません。
大運橋通や大正区役所前、大正橋といった主要停留所での乗降を考えたら、広電の比ではない団子運転の懸念すらあります。

普通便(バスレーン)を追い抜く急行便(中央車線)

ではバスはどうやって捌いているかというと、実はバスレーンでない車線も使って「複々線」運転をしているのです。
急行系統はバスレーンの内側を走り、バスレーンで客扱いする普通便を追い越します。また拠点停留所では客扱い中のバスを追い越す形で前方のスペースにつけて客扱いするなど、軌道に縛られない運行が可能なバスの本領を発揮しています。
軌道系でここまでしようとすると、地下鉄のように輸送力を大型化するか、複々線化するしかないわけで、いかに片側3車線+路側帯の大正通とはいえ、複々線の軌道を確保するわけには行きませんし、頻繁運転する電車の乗客を電停から歩道にどう誘導するか、これも大きな課題です。

そういう意味では、大正通のバスは路面での軌道系交通よりも能力が高いといえるわけで、大量輸送に対するバスの限界というものが実は普通鉄道とLRTなどの中間に位置するといえます。

●ネットワークに組み込まれたコミュニティバス・赤バス
2000年5月に試験的に運行が始まったコミュニティバス「赤バス」は、2002年1月から各区で本格展開が始まりました。
この赤バス、料金は100円と一般路線の半額で、線用の小型車両を用いて独自塗装と独自の愛称と、全国各地の数多のコミュニティバスと同じように見えますが、決定的な違いとして、大阪市営バスのネットワークに組み込まれているということがあります。

赤バスの停留所

試験運行時には前払い、乗り継ぎ制度無しと独自性が強かった赤バスですが、本格運行時に一般路線バスと同じやり方に改められました。これによりバス同士の乗り継ぎやバスと地下鉄の乗り継ぎも可能になっています。ただし、乗り継ぎで利用する時には一般路線バス同様200円の運賃が基本になっており、赤バス同士の乗り継ぎや赤バスと地下鉄のみの乗り継ぎは割引や通算の制度はありません。
もちろん路線自体は他の一般路線と違い、完結した循環系統や往復系統ですが、地下鉄から一般路線バス、そして赤バスと乗り継ぎ利用を考慮した運賃制度により、幹から枝へ、さらに毛細血管へ、と市営交通のネットワークを活用できるシステムになっていることは大きなメリットです。

料金箱周りは一般車と同じ

他の地域で見られるコミュニティバスは、運行受託者が地域のバス会社であっても、運行委託者が自治体であるという理由でバス会社の他路線とのカードや回数券類の共用ができないというような、ネットワーク性を書くような取り扱いが目立つことを考えると格段の違いです。
このことは、市営モンロー主義として長らく批判の対象でもあった市内交通の市営による独占ということが、福祉政策としての補助主体と運行主体が同じ大阪市に帰属することでメリットとして働いたといえるわけで、都市交通の事業主体のあり方を考えるうえで、学ぶべき点が多いところといえます。

細い通りをやって来る...

あと赤バスの運行上の特徴としては、車庫や駅ターミナルを起終点としていないケースの存在でしょう。
朝から晩まで地域を回り、どこか節目のバス停で運行を終了して車庫に回送すると言うケースが多く、乗務員の交代も交通量の少ない道路にある途中停留所で実施(交代乗務員はクルマや自転車で車庫と行き来)しています。

路上で乗務員交代中...

赤バスに問題点を見つけるとしたら、一般路線バスでもっとも小さい(狭隘区間に入れる)車両との落差が激しすぎることでしょう。
10人程度の座席定員しかなく、立席利用が可能とはいえ一般型に比べて立席の居住性が著しく悪いことから、輸送量は望めない系統の設定に限定されてしまいます。

赤バス車内

一方で道路事情は悪いが需要は確実にあるというスタイルのコミュニティ路線の設定が昨今のトレンドともなっており、赤バスではこうした路線の掘り起しが不可能なだけに、今後はこうした中間層の需要への対応をどうするかが課題です。
そしてそういう路線をカバーできた時、都市交通のあらゆるニーズに応えた一元事業者としてのモデルになるといえましょう。

色と形、そして料金をデフォルメしたバス停






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