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暮れは故郷に帰れない
景気対策を出し惜しむ政策の迷走




●突然の発表
2009年10月26日、国交省道路局が「年末年始の高速道路料金の割引について」と題したプレスリリースを発表しました。
「1000円高速」のスタートから7ヶ月、大型連休、旧盆帰省、そして今年特有のシルバーウィークと超多客期での経験を積んできて、いよいよ大トリの年末の帰省ラッシュというところでしたが、ここでなんと年内は適用がないといういきなりの方針変更が入ったのです。

その内容は年末年始のいわゆる「1000円高速」の適用につき、事実上年内の適用を見送るというものでした。
そもそも現行の高速道路利便増進計画では、年末年始における上限1000円等の休日割引が適用される日を、年内は土日である12月26日、27日とし、年始は土日祝日となる1月1〜3日の5日間としていました。

これを、これまでの渋滞状況や年末年始の交通実績等も勘案して計画を見直した結果、年末については、渋滞の大きなピークがなく交通が分散傾向である半面、物流交通を担う大型車交通の稼働率は高い状況であること。また年始については、毎年度1月2日、3日に渋滞が発生していることから、年末は交通の集中が発生しないよう、26、27日への「1000円高速」の適用はせず、平日割引を適用する。年始は2日、3日の交通を分散し、渋滞を抑制するため、1月4日、5日にも休日割引を拡充するというものです。

●帰省への影響
要は年内の適用が無くなったということで、一般的な帰省パターンであれば往復とも「1000円高速」の恩恵を受けることが無くなったわけです。

年末のボーナスはこの40年来で最悪の落ち込みとなるという調査結果が出ている中、「景気刺激」「生活対策」という観点で見た場合、その目的の実現を大きく妨げる「逆コース」であり、旧盆帰省時には「巣ごもり」志向の層を巣から引き出した効果が全く期待できないばかりか、逆に今年は帰省を諦めるか、という「巣ごもり」を奨励するマイナスのインセンティブになることが予想されます。

もともと帰省の移動コストがかさむ地方出身者の場合、毎年の帰省など夢のまた夢と言うケースも多いのですが、それが「1000円高速」のおかげで久々に実現というケースもあるでしょうに、今回の決定はでは年末は帰れるかな、と思っていた層の期待を打ち砕く効果も懸念されます。

後で述べるように仕事納めの前に休みを取りづらい傾向はありますが、逆に今年は「1000円高速」があるからとこの週末に帰省をするべく調整を考えている人もいるでしょう。2ヶ月前の段階でのこの発表は十分な期間を取ったと思われるかもしれませんが、案外と「何をいまさら」という事態を招いている可能性もあります。
いずれにしても「予定が狂った」ということは非常に心証が悪いのです。

●不可解な理由
そもそも今回の決定に至る理由も不可解です。
年内は分散気味なのに、この土日に集中するのを防ぐ、ということですが、そもそも26日、27日はいわゆる「仕事納め」「御用納め」の前です。一般事業法人や官公署は28日が最終営業日であり、金融機関などは30日が最終営業日です。年内の帰省ラッシュが分散傾向と言うのはこの業態による最終営業日の分散によるところが大きいのです。

では「1000円高速」だから最終営業日前に集中するのか。
これは今年の旧盆帰省で実証済みですが、旧盆期間の前週の木曜金曜に「1000円高速」を前倒し実施しましたが、続く土日も含めて目立った集中は無かったのです。

今回はここを逃したら「1000円高速」はないわけで、それだけは異なる条件ですが、だとしても有給休暇を取得してまで前倒しで年末休暇に入れる人がどのくらいいるのか。社休日以外はなかなか休みが取れないということは旧盆帰省のときの「空振り」が実証済みです。
逆に29日以降に発生する「二段階の」帰省ラッシュをさらに分散させるというプラスの効果のほうが期待できるのですが、なぜこういう結論になるのか。

物流への影響と言う意味でも、では8月の旧盆前週の「影響」はどうだったのか。
よしんば年内はやはり荷動きが活発ですし、それによる恩恵も受けているということも勘案するとしても、物流への配慮で26日と27日を諦めるのなら、年内の平日に「振り替え」実施を考えてもいいはずです。

ちなみに年始の「拡大」ですが、4日も休暇と言うケースが最近増えている半面、年始は取引先への挨拶回りや社内の年始行事など、第1営業日にはなかなか休みが取りづらいものです。そう考えると、4日の適用はともかく、5日は効果を出せるか少々疑問です。

●「振り替え」をなぜしない
今回の発表に添付された資料を見ると、ますます不可解です。
過去データによる普通車の交通量を見ると、26日と27日(要は仕事納めの前の土日?)は大晦日や1月6日よりも少ないわけです。
この状態で「1000円高速」に釣られて変更してくる普通車がどのくらいあるのか。渋滞回数が倍に増えるという見通しですが、上記のようにそこまで移行するのか極めて不透明です。

一方で渋滞回数は29日以降のいわゆる帰省ラッシュのピークと同等なだけに、業務流動による渋滞が最ピークでもあり、そういう意味ではこれ以上の負荷は避けたい気持ちも分かりますが、だからといって年内は無し、と言うのは乱暴です。

だいたい、年始は2日3日への集中を回避するという触れ込みですが、渋滞回数自体は4日や5日はもともと少なくないわけで、ならば年内も大型車への影響を避けて、かつ帰省ラッシュのピークを分散させるように「振り替え」実施を行うということでもいいはずです。

具体的には28日と31日に実施することです。
金融機関の仕事納め後の移動が31日になりますが、全体感で見ると31日の交通量は少なく、大型車も27日をピークに一本調子で減少しています。
これにより29日と30日の集中が回避できるばかりか、需要喚起もできるわけで、「景気刺激」「生活対策」という本来の目的にも叶う対応です。

●理由は見え隠れするが
年始は拡大までするのに年内はかたくなに適用を回避する。
いろいろ理由はつけてはいますが、結局考えられるのは「国が出し惜しみを始めた」ということになるでしょう。

おりしも10月25日に藤井財務相は2010年度予算の概算要求で国土交通省が盛り込んだ高速道路無料化の試行経費6000億円について「実験で何千億円もいるのか」と述べて今後の査定で大幅に削減する意向を表明しましたが、高速道路に対する財務相の対応と今回の発表が無関係であるかどうか。

政権与党となった民主党のマニフェストの完全実施をするには財源が全く足りないというのは周知の事実ですが、だからと言ってマニフェストの撤回は出来ないため、「マニフェストの実施と引き換えに」と言う感じでネットで国民負担は変わらないという姑息な手段で糊塗しようとする傾向がこのところ露骨です。
今回の発表もその一環としてみれば得心の行くものであり、前政権が決めた「中途半端な」割引よりも無料化のために財源をかき集めるという趣旨でしょうか。

しかし、そもそも「景気刺激」「生活対策」として実効を上げている政策です。さらに言えば景気の二番底と言うか底割れが必至ともいえる状況で、補正予算執行停止でかき集めた3兆円を景気対策の二次補正に使わざるを得ない可能性が高まっているという洒落になってない事態の中で、マイナス効果が必至となる対応を取るのは、政策に整合性が無いというか、国民の生活など二の次という感を強くします。









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