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ETRとETCを比較する
ETCを巡る諸問題を考える



エル・アルコン  2005年10月19日


浜田道大朝IC


※この作品は「交通総合フォーラム」とのシェアコンテンツです。


ETCの利用率が50%を超えました。2001年11月末の全国展開から4年近くでの達成を早いと見るか遅いと見るかは取りようですが、普及のスピードに影響したのは車載機の価格や大仰なシステムと言う指摘が常にありました。
特に米国の同種のシステムを引き合いに出す批判は多かったですが、一方で日本の料金体系を始めとするシステムと同じベースなのかと言う疑問もありました。

そうは言っても国際比較というのが無意味と言うわけではありません。お互いのシステムの相違点を踏まえて比較すれば、ETCシステムの問題点というものも見えてくるはずです。
その国際比較をするにあたり、日本のETCシステムとの比較を考えた時、一番比較しやすいシステムとして、 カナダの高速道路「407 ETR」(EXPRESS TOLL ROUTE) で導入されているシステムを見てみましょう。

●ETRとは
オンタリオ州トロント市内北郊を東西に走る全長108kmの高速道路で、1997年6月に区間開通し、その後延伸を繰り返し、2001年8月に現状の路線になっています。往復6車線で将来は往復10車線への拡幅対応が可能と言う規格。途中6つの幹線高速道路と交差し、40ヶ所を超えるインターチェンジを持っています。
規模的には大トロント圏のバイパスという色彩が強い道路ですが、この道路が有名になったのは、道路用地は公共が取得していますが、建設から運営まで民間に99年契約で委託する一種のPFI事業と言うこと。そして有人での料金徴収を廃し、ETCのような車載機を利用した決済、もしくは非搭載車はビデオ写真撮影により後で請求と言う、料金授受を完全に自動化し、かつその場での授受行為を廃止したところにあります。(5トン以上の車両は車載機搭載が法で義務付けられている)

このETR、2005年1月にテレビ朝日系の「報道ステーション」でETC批判のタネとして取り上げられていたのでご記憶の方も多いかと思いますが、確かに日本のETCと対比が可能なシステムであり、かつ、良く出来たシステムでもあります。
しかし、ETRが成立するにはさまざまな条件があるわけで、それを無視して単純比較することは出来ないのも事実です。

●ETRシステムの要諦
◇料金体系
取り外し可能なポータブル型の車載機(Transponder)をETRからリースすることからはじまります。
リース料は月額2ドルもしくは年額21ドル(1カナダドル=95円程度なので便宜上100円とする。なお以後金額は普通車のものを指す)と、年間2100円でリースされることになりますが、セットアップなどの諸費用はかかりません。
これに通行料金が1kmあたり0.1495ドルかかりますが、土日と平日日中と深夜(入場時基準)は0.141ドルに値下げされます。
つまり、対キロ制の料金体系で曜日・時間帯割引があると言う日本の料金体系と同タイプであり、アメリカによくある区間別均一制というわけではありません。

なお、車載機を付けずに通行した場合、1回利用ごとに3.45ドルのチャージ(ビデオ撮影料という名目)がかかりますが、通行料と比較するとかなり高額に設定されています。

◇車載機
車載機はルームミラーに取りつけることが推奨されておりますが、その大きさは取り外し可能とは言えそう小さくないようで、手のひらサイズというかタバコの箱程度と言うか、それなりの大きさであり、初期のETC車載機はともかく、現在主流の分離型がセンサー部分だけ視界に入ることと比較するとかなり目立つようです。(ETC車載機自体もETRの車載機より薄いのが主流です)

◇料金所
料金所というものは無く、各出入口に受信機とカメラが付いたゲートが設置されています。
公式サイトの写真を見た印象としては、日本のETCレーンよりも大仰で、いわゆるオービスやNシステムから過積載取締機に近い迫力を感じます。
なお、Q&Aにゲートが速度取り締まりに使われないかと言う疑問があり、それを否定しているように、100kmの速度規制以外の規制は無いようであり、日本で言う本線上のフリーフロー型ゲート(首都高湾岸線に大型車ロードプライシング用に設置されているのが代表例)に近い構造のようであり、ゲートでは20km制限とか徐行と言うような規制はありません。

◇料金決済
リース料、通行料は月締めで請求されます。
一言でいえば利用明細書付き請求書であり、日本のETCのように、本年12月20日限りで新規積み増しを停止する前払割引を除いて、利用ごとにクレジットカード会社に請求することはありませんし、個別の利用内容を確認出来ます。
なお、請求書発行から郵送期間を考慮して37日以内に決済されないと、遅延金利が発生します。

●ETR特有の事情
これだけを見ると、ETCっていったい...と言いたくなります。
しかし、ETRがここまで洗練されたやり方が可能になっているのには当然裏があるわけです。

◇単純な路線
支線や環状部もない一本棒の路線であり、計算がやさしい。

◇法律によるバックアップ
「高速407号線法」という法律が存在し、法に基づく料金の徴収や追徴が可能になっています。
特に料金を逃れたり支払期限を守らなかったりした場合、ナンバープレートの差し押さえというような強制措置が取られることで、料金徴収の実効性が担保されているため、完全無人化、自動化が可能になっていることは無視出来ません。

◇決済手段のお国柄
月締めの請求書払いの決済はクレジットカードや支払承諾による引落が推奨されています。もちろん、振り込みや持参でも決済は出来るようです。
北米ではもともと小切手による決済が一般的で、日本のように口座から即時引落というのはありません。クレジットカード決済も明細書付き請求書が来て小切手もしくは支払承諾となるわけで、その意味でこの手のポストペイが馴染んでいるお国柄なのです。

●ETCが参考に出来る部分、出来ない部分
◇料金体系
通行料については高速道路に対する日加の基本的な考えの差があるので比較は出来ませんが、割引や優遇と言う面では日本の制度が単純に劣っているとか渋いとかは言えません。逆にさらに木目細かいメニューになっているとも言えます。

車載機の価格に付いては、初期の本体価格、工賃、セットアップ料で安くても4万円弱と言う時代と比較すると話になりませんが、現在の車載機の相場を考えると、ETRの年間2100円のリース料も数年使うことを考えたら言うほどのアドバンテージは無いと言えますが、こういうリース制度の導入というのはもっと進めて良いでしょう。リースは基本タイプで、分離型や多機能型は販売と言うようにすれば棲み分けも可能です。

◇車載機
クルマに固定された車載機にクレジットカードであるETCカードを挿入して、と言う手間から見たら、車載機自体は大きくとも、取り外しが出来るETRシステムは簡単に見えます。
もちろん、フロントガラス周りのインテリアと言う意味では、分離型のETC車載機のほうが実は優れているだけに、一長一短かもしれません。

ETRの落とし穴として指摘出来るのは、料金等の徴収を管理するツールである車載機は運転者に帰属する反面、ナンバープレートはクルマに帰属すると言うことです。
クルマの所有者以外が運転していた時、何かしらの事情で「ビデオ料金」の徴収になってしまったとき、その請求は運転者ではなく所有者に回ってしまいます。
実際、この手のトラブルを考慮して、ETRのサイトではくどいほどレンタカーでの利用時において、運転者の車載機を使っても、後から所有者であるレンタカー会社から請求が来る可能性があることを指摘しています。

◇料金所
フリーフロー型になるETRでの信頼性(車載機情報を確認できず、「ビデオ料金」になる率)が不明なので何とも言えませんが、信頼度が高い、確実であれば、今のETCがもともと40kmの速度制限を課し、かつ料金授受員の不正横断を追認しての「徐行」規制は無意味かつ論外になります。

ETCの利用率がさらに上がり、当初の目論見通り首都高や阪高をETC専用にした場合、その料金授受はフリーフロー型のゲートを導入して、一般的なオン/オフランプでの速度規制以外の制限は無くなるはずであり、ETRスタイルへの変換が必須です。
なお、現状のフリーフロー型のゲートで信頼性が確保できれば、ETRよりもスマートな料金所になりそうです。(カメラをつけると結構大袈裟になるが、まだ小さそう)

◇料金決済
ポストペイが「特殊」な経済風土であり、クレジットカード取引や当座取引が出来ない層というのを最大限考慮する前提では、全面的なETCへの移行が難しいのも事実です。
デポジット制や、プリペイド型など「特殊仕様」を開発しないといけないというのはETRに比べて不利な要素でしょう。

請求の形式に関しては、月締めの利用明細書付き請求というのは見習ってほしいものです。前払割引以外では、料金所での決済ごとにクレジットカード会社の明細が1行増え、都度請求と言うのは煩雑に過ぎます。何らかのトラブルによる調整の対応も考えると、せめて月締めにして、明細を紙ベースでは有料、ネットの画面では無料で提供することが必要です。

◇法律の問題
道路公団等が民営化されたわけですが、料金徴収と言う面では法律によるバックアップは公団時代からあまり実効性が無かったことは事実で、強行突破車や不払い宣言での踏み倒しなどの債権を満足に回収すら出来ていません。

その点でETRがナンバープレートをベースに、車両を管理する公的部門と連携してナンバーの差し押さえや更新拒否と言うような強制措置が取れると言うことは、運営側にとってはベストですが、一方で「民間企業」にそこまでの強制力を与え得るのか、という問題もあります。
(カナダの場合は「高速407号線法」が成立したことでクリアしているが、こうした法律のバックアップが無いと取れない措置である)
また強制力は抑えても、ナンバープレート読み取りと連動と言うことは、現在のNシステムを料金授受い活用した格好になりますが、こうしたナンバー読み取りに対して「プライバシーの侵害」「監視社会の到来」と批判する声が上がり、マスコミも一部賛同している日本の社会風土では実現は難しいかと思います。

●おわりに
正直言ってETRのシステムは理想でしょう。
フリーフロー型の管理で料金はポストペイ。特例法によるバックアップもあると、ハード、ソフト、そして制度がしっかりと噛み合っています。

これに対してETCが見劣りするのは確かですが、それはあくまでトータルバランスであって、上記のニュースショーのように一部の機能やシステムだけを取り上げて批判することは全く失当です。
もし日本で散見されるETRをベースにしたETC批判に答えるとしたら、例えば道路事業者に強制力を持たせるとか、ナンバープレートをベースにした管理の強化とか、クレジットカードか当座取引が出来ない、もしくは保証金が積めないユーザーは対象外にする、とか、実際にETRのシステムに近づけるために必須の条件を満たす必要がありますが、そうなったらそうなったで矛盾そのものと言える批判に走ることは火を見るより明らかです。実際、足下の批判ではそういう日本では「陰の面」となる部分に言及している批判者はほとんど見ません。

ベストの形態は見えています。しかし、日本の事情を考慮するとどうしても出来ない部分がある。
そこを認識して、ベターな制度に向けて進める材料として、国際比較を行いたいものです。





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