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対距離制導入の社会実験はじまる
阪神高速の実験内容に見る不条理



エル・アルコン  2006年12月28日


首都高・両国ジャンクション


※この作品は「交通総合フォーラム」とのシェアコンテンツです。



首都高速、阪神高速が2008年度から導入を計画している対距離制料金について、その試行という位置づけで、ETC車限定の短距離利用の割引実験が2006年12月3日から(阪神高速は12月2日から)年度内いっぱいを期限として始まりました。

●首都高の概要
首都高速の実験は、各放射区間の末端部での利用(5号池袋線、6号三郷線、S1川口線は中央環状線とのJCT以遠から終点まで、3号渋谷線、4号新宿線は都心環状線とのJCT以遠から終点まで)、およびB湾岸線の葛西〜東関道、K5狩場線のみなとみらい、新山下−狩場となっており、既に設定されている特定料金区間を除いて終日一律100円引き(K5は50円引き)となっています。また、S2埼玉新都心線、S5大宮線全線では日曜祝日に限っての実施で、既存の特定料金区間を除き300〜340円の特定料金となります。
なお、S2とS5を除き、現行の土日や平日オフピーク割引との重複適用になります。(割引後料金から100円もしくは50円引き)

今回は距離制料金の実験といいながら、都心環状線や中央環状線、また1号羽田線、2号目黒線、6号向島線、9号深川線と、狩場線を除く神奈川区間の適用が無く、現行の特定区間の拡大と、埼玉区間のてこ入れのようにも見えます。

●阪神高速の概要
一方の阪神高速の実験は、土日限定という時点で首都高に大きく後れを取っていますが、さらに阪神西線(神戸エリア)は適用除外というのですから渋い印象です。割引は7km未満30%、15km未満20%の割引で、それ以上は現行の10%割引となるということで、7km未満で首都高並み、それ以外は首都高以下とお値打ち間も今ひとつです。

余談ですが、平日深夜とオフピーク、また土日の割引について、首都高は平日深夜と日曜祝日が20%、平日オフピークが10%で、それ以外が3%割引なのに対し、阪神高速は平日深夜とオフピークが10%(西線の深夜は5%)、土日が20%(西線が10%)で、それ以外が3%割引と、阪神高速は土曜の割引が大きいのは嬉しいですが、平日深夜が渋く、西線はただでさえ大半の割引率が半分に加え、3号神戸線と31号神戸山手線の乗り継ぎは適用外と、メリットが低いです。

今回の距離制実験も、短距離を割り引くかわりに土日の20%割引が10%割引に縮小になっており(特定区間は20%引き(西線は10%)のまま)、「遠距離値上げ」の社会実験も早手回しに実施するようです。

●環状線の扱いに見る不条理
さて、阪神高速では西線を除く全線での実施となりますが、そうなると気になるのは環状線の扱いです。環状線は時計回りの一方通行ですから、環状線が絡む利用では往復の経路が違うケースがほとんどです。

今回、阪神高速が定めたルールは、環状線発着は実際の距離で計算し、環状線通過は往復の平均距離で計算するとしています。(11号池田線−環状線−12号守口線は、往路は環状線堂島経由だが、復路は本町経由になる)

このやり方、一見公平そうにみえますが、建設、運用上の都合で遠回りを強いられているのに、遠回りで計算させられるのですから、実は不公平です。特に池田線や守口線と神戸線、大阪港線の間は、神戸線や大阪港線の側から来ると、環状線北行きに入れないため、なんばを回る環状線1周近い大迂回になるのですが、平均距離はそれを忠実にトレースしています。

また、別に帰りに大回りするわけでもなく、最短距離側を通過するだけなのに、平均距離を適用というのも変な話です。

このあたり、運用の都合で迂回する列車に関しては最短距離で計算するというJRの規則を見習うべきであり、環状線通過や環状線発着に関しては最短距離で計算すべきです。
※例:成田エクスプレスは、東京駅を経由し、かつ横浜方面との併結を行う都合上、新宿、池袋方面行きが東京、品川を迂回するが、運賃、料金は両国、四ツ谷経由で計算している。

●距離制料金に対する懸念
環状線通過に代表されるように、ルートに忠実に計算するという原則となると、まさに1kmにこだわるドライバーが続出するものと思われます。
そうなると、環境問題や渋滞問題から迂回を要請したいようなケースであっても、遠回りになることから選択されない、ということが懸念されます。

また、今回の社会実験でも見送られた阪神西線の問題、神戸山手線開通時に値上げしようとして、当時の民営化推進委員会の反対で流れた経緯を考えると、「割り引かない」ことで実質値上げの効果を得ようとしていると推測せざるを得ないわけで、ただでさえ長距離利用は値上げになるのに、値下げ幅も圧縮と、踏んだり蹴ったりといえます。

首都高の実験が、利用されにくい末端部の利用促進と、渋滞する環状線手前での流出促進という戦略が見えるのに対し、阪神高速のそれは単純に距離制を導入したに過ぎず、どの区間の利用を増やし、どの区間で減少させるというような戦略がありません。

今回の両社の実験を見て思うのは、単純な距離制よりも、特定区間の拡大というイメージで料金を設定する方向性を示したほうが、利用者の利便性向上につながることもあり、とるべき道かと思います。

北神戸線・しあわせの村ランプ




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