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ETCの「危険性」と「対応」について
「煽り」だけの報道ではなく、将来を見据えた「指摘」を



エル・アルコン  2006年7月9日


フリーフロー型による出口ETC(北神戸線・有馬口)


※この作品は「交通総合フォーラム」とのシェアコンテンツです。



7月8日の産経新聞大阪夕刊 は、「阪神高速でETC事故多発 昨年度1万2000件 」と題して、高速道路でのETCレーンでの事故が多発していると報じました。
かねてからETCレーンでの「危険性」を指摘する声は根強く、今回の記事はそうした懸念を裏づけした形になったようにも見えます。

一方でETCの普及は順調に推移しており、道路局の速報によると2006年6月29日までの1週間で、全国平均で61.4%、記事が指摘する阪神高速の利用率は62.1%と、利用車両の2/3に迫る勢いとなっています。
この普及を背景に、阪神高速と首都高速は、もはや再来年と迫った2008年度からETC利用の義務化を本格検討しています。この義務化は、先に大幅値上げになるとして批判している対距離制料金への変更とセットになることは明白なため、手放しで受け入れるわけにもいかないのですが、そういう施策が現実のものになるくらいETCが定着したといえます。

そういう状況で、こういう記事が出てきたのはなぜでしょうか。
もともと危険性を孕んでいるものが明るみになった、というように見えますが、ETCの急速な普及は事故の数も当然押し上げますし、料金所通過全体に占める比率も重要です。そして事故の中身を見ると、ETCというシステムに帰結するようなものではないことが見て取れます。
事故の大半がETCカードの期限切れや未挿入であり、死亡事故は料金所職員の作業標準および通達違反の横断が原因です。もちろん通信異常のようなシステムエラーもあるわけで、そういうエラーを限りなくゼロにする必要はありますが、大半が利用者および事業者の「ミス」というわけです。

不注意による事故をどう防止するか、というのはシステムで捕捉しても最後は単純なヒューマンエラーの世界になるだけに、100%の対応は難しいです。とはいえレーン直前で未挿入や期限切れといったミスを捕捉するのは可能なはずです。実際、ETCレーンでは、料金所通過「後」にもう一度交信しているわけで、それを「前」にも行うことは不可能ではないはずです。

とりわけ問題なのが料金所職員による横断で、既に何人もの方が亡くなって、かつ、道路局長の通達が各社に出て、各社が対応しているという前提において未だに発生するということには、亡くなった方には気の毒ではあるのですが、「プロ」が職場でルール違反を犯して自分のみならずドライバーまで危険に晒し、責任を負わせていることに憤りすら感じます。
斯様な「ルール違反」に対して正当な利用者に徐行を義務付けるやり方は、あたかも高速道路の本線で、「道交法違反」である逆行車が出てくることがあるから、徐行もしくは一般道と同じ速度で走りましょう、というが如しと言えます。

***
こういう事故を受けて必ず出てくるのが、ETCレーンでの徐行や、果ては一時停止すべきという意見です。
しかし、そもそも「停止」を前提にしていた料金所でのノンストップという効果を目的の一つにしていたETCシステムにおいて、止めるという事を前提にすることは、システムそのものの存在意義を大いに損なうことになります。

2008年度からの実施を目標にする阪神高速、首都高速におけるETC義務化は、すべての料金所がノンストップ通過になることを意味します。つまり、エラーやミスがない前提であれば、料金所施設を持たないフリーフロー型のシステムになるのです。
すでに大型車の迂回用に首都高速湾岸線ではフリーフロー型のETCが作動していますし、阪神高速ではすべての出口に出口ETCを設置済みで、出口での割引金額減算用に(入口で正規料金を徴収して、出口で割引金額を払い戻す)作動させています。
特に阪神高速では乗り継ぎ用にこの出口ETCを利用してますし、出口ETCの中にはそのまま他社の高速道路に直結している本線上で作動させているものもあります。(松原線→西名阪道、神戸線→第二神明)
入口料金所にしても、起点から若干進んで本線料金所を設けるケースが多く(池田線池田木部→大阪空港本線TB、北神戸線伊川谷→前開本線TBなど)、フリーフロー型の入口ETCが作動しています。

現在は乗り継ぎや割引の払い戻し程度の利用ですが、将来的に対距離料金になったときはどうでしょうか。料金所というものがない状態で、まさか出口ETCのある場所では本線上なのに徐行せよ、ということはないでしょう。
つまり、そもそも論として、高速道路の出入りで停止どころか徐行(制限速度の違いによる「減速」は当然ありうる)するというこれまでの常識がなくなるのです。

そういう状況下において現在の事故の大半を占める「ミス」をどう対応するのか。また、強行突破などの悪意の利用者をどう弾くか。そういう「次」を見据えた対策こそが必要なのであり、「いつ大惨事が起きてもおかしくない」と現状の延長線で考えていては、現状の対策も将来の対策も前に進みません。

そうした対応として、入口料金所だけは「関門」にするという対策は考えられますが、出口はどうしようもありません。上記の松原JCTではつながる西名阪道や阪和道の料金所で対応できますが、守口線の守口終点は本線がそのまま国道1号線に、西大阪線の安治川終点は本線がそのまま国道43号線につながっており、止めようがありません。

こういう箇所での挿入忘れはどう扱うのか。有無を言わさず最大料金を徴収するとなると、通信エラーはどう扱うのか。事後に修正するとしても、ミスとエラーの区別はまず付きません。また鉄道のICカードのように出口記録がないと次回は使えないというのはそれこそ事故の多発が必至であり(通信エラーに気付かなかったら、次回の入口で止められるまで気が付かない)、対応は出来ません。

また、この手の単純ミスの抑止として、カード未挿入や期限切れカードの使用につき法令で罰則を規定することも有効でしょう。さらには悪意の突破者に対しての罰則も強化することが考えられます。そういう法体系の整備、またカナダのETRシステムのようにビデオカメラ撮影などによる追跡調査の実施を併用することで、その場での抑止から、「オービス」のように事後の摘発に転換することで、不慮の停止による事故そのものを排除する考え方もあります。

ETCシステムは既に2/3近い利用者に普及しています。そうした中で、いたずらに危険性を煽っても仕方がありません。そして近い将来に必ず発生すると思われる問題点をどう克服するか、ということを提言するべきであり、今の報道姿勢は、ETC導入初期に「低い利用率」を論ってきたのと同じスタンスに見えるのです。








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