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ETC前払割引の廃止と言う名の値上げ
ETCを巡る諸問題を考える



エル・アルコン  2005年9月23日


広島道広島西風新都IC


※この作品は「交通総合フォーラム」とのシェアコンテンツです。


JHなどは2005年9月16日、12月20日をもってETC前払割引(前割)の新規受付及び積み増しを終了すると発表しました。
「ETCマイレージサービスをはじめ新たなETC割引を導入したことに伴い」という理由になっていない理由での突然の通知は、10月1日から民営化されるとは思えない高飛車な対応です。
特に、偽造問題がその根底にあるとはいえ、プレミアム付きのハイウェイカードが、5万円、3万円の高額券が2004年2月末で通用停止(発売は2003年2月末で中止)、さらに2006年3月末で全面通用停止(発売中止は2005年9月15日)となった際、ユーザーに対してハイカの残高を前割残高に付け替え、今後はETC前割で同等の割引になると説明してきただけに、まさに「舌の根も乾かぬうち」の終了はユーザー不在どころかだまし討ちのような措置です。

JHなどが謳う「新たなETC割引」も、後述するような実質の割引率の低下と言うような問題以前の問題として、地方公社管轄道路など現在前割で利用できる総ての道路での適用がないわけで、二輪車のようにそもそもETCが使えない問題は別としても、ハイカは使えるがETCが使えない(広島都市高速など)道路が存在する中で、ETCが代替になるとしてハイカ廃止を進めてきたうえに、さらにその対象を絞ると言うのでは話になりません。
また、現在名古屋高速が前払割引ユーザー限定の割引制度(各月利用代金の5.8%を翌月の残高に積み増し)を行っていますが、新たな割引制度の導入までと言う前提とはいえ、その新制度は未発表です。

そもそも「四公団」全部が「マイレージ」に移行するのではなく、首都高のみマイレージに参加していません。そのため最大でも8%にしかならない「お得意様割引」(頻度割引)が最大の割引になる(ETC全車が対象となる割引はベースの料金値下げであり、ハイカもしくはETC前払により他車比で享受していた割引の代替とはなりえない)など、とうてい「新たなETC割引を導入したことに伴い」最大13.8%の割引を廃止できる代物ではありません。
このように、スタート時点ですらサービス内容に大幅な差(地方公社のように「ゼロ」すらある)がある状態での見切り発車という問題まで存在するわけで、このままで前割の事実上の廃止を強行することは到底容認できないものです。


●割引制度の迷走

さて、各論に入る前にハイカ、ETCに関する割引制度についておさらいしてみましょう。

【ハイカの推移】
1987年11月:常磐道でハイカ試験運用開始
1990年:全国展開:券種は3000円(3000円)、5000円(5250円)、10000円(10500円)、30000円(32500円)
1995年:50000円(58000円)追加
2003年2月末:30000円、50000円発売停止
2004年2月末:30000円、50000円通用停止
2005年9月15日:全券種発売停止
2006年3月31日:全券種通用停止

【ETCの推移】
2000年4月:東関道、京葉道など千葉地区で試験運用開始
2001年3月:千葉地区で一般運用開始
2001年11月:全国展開 期間限定割引スタート(受付は2002年6月まで。通用は2004年6月まで)
2002年7月:前払割引スタート
2004年11月:JH深夜割引
2005年1月:JH早朝夜間、通勤割引
2005年4月:マイレージスタート(6月に本四、10月に阪高も参加)
2005年12月:前払割引新規停止

【料金改訂、回数券の推移】
1994年5月:首都高東京線値上げ
1995年4月:高速道路値上げ
1999年1月:阪神高速阪神東線、西線値上げ
2002年7月:首都高神奈川線値上げ
2005年1月:首都高、阪高回数券発売停止
2005年3月:道路公団回数券発売停止
2005年7月:首都高、阪高回数券通用停止
2005年8月:道路公団回数券通用停止


ハイカは約15年程度の命で、割引制度の整理と言われればそれまでですが、その間の値上げに対するガス抜きと言う側面は無視出来ませんし、前割はハイカ廃止の受け皿のみならず、長年利用され、基幹的な割引として存在してきた回数券の廃止に伴い、回数券代替の割引として位置付けられたことを考えると、単純に割引制度の整理というのではなく、実勢料金の値上げとして捉えるのが妥当と言えます。
特に回数券廃止、ハイカ廃止からの「値上げ」への性急な流れは、公共料金に属する料金の価格決定として相応しいかも疑問です。

さらにETCの割引制度に限定して見ると、もはや朝令暮改の世界とも言えるわけです。もちろんETC普及のための「毛ばり」という色合いが濃いのは否定しませんが、それでもここまでコロコロ変わるとETCに対する信頼自体を損ねます。
特に期間限定割引、前払割引と2、3年でチャラになっているのを見ると、「マイレージよ、お前もか」とならないとは言いきれません。

西名阪道松原TB


●前割廃止は「値上げ」である

おそらくマイレージとJHの深夜割引などの割引で実質の負担は軽減されていると言うつもりなんでしょうが、前割は総ての時間帯、区間で適用される「1階部分」であり、JHの深夜割引や、首都高速、阪神高速の曜日、時間帯による割引は時間帯や区間による「2階建て部分」の割引が別途存在するわけで「2階部分」を拡充したから「1階部分」は不要と言う論理は成り立ちません。この時点で「1階」にしか用が無いユーザーにとっては値上げになります。
もちろん首都高、阪高の割引は平日ピーク時を除く時間帯に適用されるので、前割だけだった割引ベースの料金を総てのETC利用者に展開したともいえますが、阪高の説明を見ると、阪高が謳う20%や10%の割引のうち、恒久的対策は5%だけで、残りは来春までの社会実験であり、実質の割引率は5%に過ぎません。
首都高の説明にはその旨は書かれてませんが、曜日、時間帯による割引区分と割引率がほぼ同一で、実施主体に社会実験協議会が入っていることもあり、同一の類のスキームであると推定出来ます。
こうなると、前割、回数券の割引率と比較になりますが、遠く及ばないものになります。

さて、マイレージや「お得意様割引」と称する頻度割引ですが、前割や回数券制度と決定的に違うこととして有効期限の存在が挙げられます。
マイレージは最大で2年度(4月〜3月の年度単位で積算。ポイントは翌年度末で失効)、頻度割引は1ヶ月単位で利用回数を計算するため、これらの期間内に所定の回数を利用しない場合は、前割の払い込みや回数券の購入で受けられていた割引率に遠く及ばない結果になります。
また、マイレージのポイント還元や頻度割引での還元で走行する場合は、マイレージのポイント積算や頻度割引の回数カウントの対象外になるため、実質的な対象期間は名目上の期間よりさらに短くなります。
(マイレージのポイント還元の消費に3ヶ月掛かると、そこから最大で21ヶ月しか積算期間が無い。頻度割引の場合、ひと月の所定の走行回数(金額)を還元分以外で達成する必要がある)
このように、ポイント積算や回数のカウントのハードルが高くなっています。

そして周知の話ですが、マイレージのポイント付与や還元率が前割より低いということがあります。
JHの高速自動車国道、本四の各路線でようやく前割と同等であり、JHの一般有料道路はその半額です。もちろん前割やハイカにこうした区分は無かったですし、高速自動車国道と連続走行できるのに、建設時の経緯などで一般有料道路扱いになっている区間(伊勢湾岸道の名港トリトン区間など)でも機械的に半分と言うのはひどい話です。
端から割引率で同等もしくは半分では勝負にならないので、来春まで2倍で計算するサービスをしていますが、来春以降は前割より悪い条件になります。
そして阪高の場合は独自のポイント付与と還元率になっており、利用金額の積算に関わらず100円あたりで3ポイント、100ポイント溜まったら100円で還元と、3%固定の還元ですから、曜日、時間帯による割引と合わせても遠く及びません。

最後に、事業者によってマイレージが使えないとか、別の割引制度が無いケースがあることは指摘しましたが、マイレージ自体の問題として、ポイントの積算がJH、本四、阪高の事業者ごとと言うことが挙げられます。
これで10月以降「東日本」「中日本」「西日本」の3社に分割されるJHが各社別積算といったら暴動ものですが、さすがに「現時点では」そこまでのことはしないようです。
とはいえ、ポイントの通算が出来ないと言うことは、JH、本四で4万円ずつ8万円使っても7.5%の還元にしかならないわけで(30000円コースと10000万円コースの荷重平均)、JHだけで5万円使って16%の還元を受けることを考えると納得がいかないものがあります。
このあたりは古くからのユーザーであれば、「期間限定割引」がJH、首都高、阪高の3公団それぞれで50000円の利用まで20%、合計30000円を割り引くと言いながら、公団によって利用頻度に差があることから、すぐ使い切る公団、時間が掛かった公団、使い残した公団と出て、多くは3万円満額の還元に届かなかったことを思い出すでしょう。


●割引の現実

前割時代と比較すると、JHの高速道路及び本四道路の場合、2年間に54000円以上利用してはじめて前割と同等の割引になります。
具体的には最初の2年間で50000円利用+4000円分ポイント還元利用。次の2年間で4000円分ポイント還元利用+50000円利用、そのまた次の2年間で50000円利用+4000円分ポイント還元利用の繰り返しになります。
これを下回ると、5年目で還元を受けるポイントが少なくなります。(5〜6年目の有償利用が増えるので7年目のポイント還元は元に戻る可能性がある)
さらにJHの一般有料道路の場合は前割と同等になるには2年間に104000円の利用が必要になります。

一方阪神高速は50000円の利用で1500円分のポイント還元にしかならず、基本の5%割引を加算しても4000円です。利用頻度に応じた加算がありますが、月あたり10000円超の利用で10000円を超える部分に100円あたり3ポイント加算(35000円超は5ポイント、70000円超は10ポイント)とこれも渋く、月50000円(700円区間で72回/月)というヘビーユーザーでもマイレージ部分だけで3000円、5%割引込みでも7000円にしかなりません。

首都高はもっと深刻で、利用頻度割引により月あたり5000円以上10000円未満で1%、以下30000円まで2%、50000円まで4%、70000円まで6%、70000円以上は8%(総ての利用金額が対象になる)の割引になるだけです。このため、月50000円の利用で6%(5万円「以上」のため)の割引にとどまり、阪高と同レベルですし、それ以下の部分においては頻度割引が無くても3%還元が確定している阪高よりも不利になっています。

このように限られた条件下ではじめて前割と同等になるに過ぎないのが今回の「新たなETC割引を導入」の実態です。


●その他の問題

前割の場合、ETCプラザで総ての対象道路での利用を時系列に沿って参照できます。
別途利用証明を出すサービスもありますが、概ねこのレベルで充分証憑足りうるものであり、利便性の高いサービスです。
ところが前割が廃止になると、マイレージグループは履歴は追えますが、事業者単位での把握になり、首都高や地方公社のようにマイレージに参加していない場合はETC利用照会サービスを使わざるを得なくなります。
この利用照会サービスの使い勝手の悪さは特筆ものであり、1利用単位で照会番号が変わるという構造では、例えば神戸市公社の六甲トンネルから六甲北有料経由で神戸三田までの利用で3回、往復分だと6回も利用証明書発行→利用明細照会となるわけで、使い物になりません。

また、前割は各利用者がカード会社との決済をするのは前払金の積み立てのときだけですが、前割の廃止に伴い毎月実施することになります。利用者はまだいいんですが、カード会社は利用のつど与信を立てることになるわけで、与信や債権債務の管理、利用明細の増加と言う面で、金額ベースでの扱い高は増えないのに、件数ベースではものすごい規模の取り扱い数になるわけで、システム対応などへの影響も懸念されます。
この件については前割導入以前に戻るだけと言う指摘もできますが、前割導入当時、ETCの登録が35万台強、1日の利用台数が17万台程度であり、現在は「四公団」だけで830万台、1日あたり370万台と、利用ベースでは20倍に増えており、処理量の差は桁違いです。
簡単に言えば、月あたりで合計1億超のデータが皆さんの利用明細に上乗せされることになります。

東京湾アクアライン木更津金田TB

今回の前割の廃止という制度の改悪について、まともに報じたメディアは皆無です。逆に「新たなETC割引を導入」を報じたケースはあるだけに、記者の勉強不足なのか、それとも何か為にする意図があるのか、いずれにしてもハイカ廃止、回数券廃止に続く実質値上げの総仕上げとも言える今回の措置に対する批評どころか報道すらないということには大いに非を鳴らしたいです。
特に、民営化推進委が提言を提出した後、猪瀬直樹委員が「高速料金の1割値下げを公約させた」と自慢げに語っていたにもかかわらず、特定の時間帯の特定のユーザーに3割ないし5割の割引は与えたものの、ベース部分については割り引かないばかりか、総てのユーザーが享受できた既存の各種割引を廃止することで逆に1割以上の値上げを実行したことは厳然たる事実です。

最近、橋梁談合事件に力を得て公団幹部の追及に舌鋒鋭く迫り、JHの近藤総裁に辞任を迫っている猪瀬委員ですが、ユーザーとしては、まず猪瀬委員が「公約破り」の責任を取って国民に詫びることが先決と言えます。推進委は民営化会社の発足と同時に自動解散しますが、頬被りしてそのまま逃げることは断じて許されない、国民に対する背信であることを自覚すべきです。
うがった見方をすれば、値下げが値上げになった不始末から国民の目をそらすために猪瀬委員が精力的に談合問題の追求をしているとも思えるくらいです。

代替とされるマイレージにしても、2年度でポイントが消滅するという事態が最初に訪れるのは2007年3月末であり、そこまで一巡して初めて評価が定まる、というか欠陥に気づくのでしょうが、現時点ではまだこの使い勝手の悪さを実感するに至っていないようです。
当初のポイント2倍キャンペーンにしても、この期間はポイント還元をせずにポイントを貯めまくる(還元ポイントでの利用にはポイントが付かない)という智恵が流布しているのですが、キャンペーン期間の終期が当初の9月末から2006年3月末まで急遽延期されました。
このとき、還元モードに入るつもりだったユーザーが慌てて貯め込みモードに戻ると言うような混乱も聞こえてきましたが、今後この手のキャンペーンを実施するとき、突然言われても還元モードでの利用中のため対応ができなかったと臍をかむユーザーが多数出ることも予想されるわけです。悪意を持った予想をすれば、2年度が過ぎて強制還元モードに入った年度初めにありがた迷惑なキャンペーンを打つこともありえるわけです。

このように欠点の多いマイレージでも、12月20日までに積み増した前割残高が消えた時点で移行せざるを得ないというのが、独占企業を前にしたユーザーの弱さを現しています。
民営化を目前にして行われたこの改悪、まもなくスタートを切る民営化各社のユーザーへの姿勢を暗示したもので無いことを祈りたいです。





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