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阪神高速の「対距離料金制」導入案への批判
阪神高速、首都高速の「常軌を逸した」提案を斬る
エル・アルコン 2005年11月4日
阪神高速神戸線・生田川ランプ 所要時間表示のある西宮までも月見山までも値上げになる? |
※この作品は「交通総合フォーラム」とのシェアコンテンツです。
写真追加などによる改稿:2005年11月6日、11月23日
首都高速、阪神高速の両社は11月1日、ETCの普及及び利用を前提とし、2008年度を目処として現在のエリア別均一料金制度を改め、高速自動車国道などのように対距離制による料金に変更することにつき、その
考え方
を公表し、
意見の公募を開始
しました。
対距離制料金への移行については、道路関係四公団民営化に関する基本的枠組みにも謳われており、いずれは実施されることは既に分かっていましたが、今回、両事業者から発表された内容は、利用者や沿道住民のことなど微塵も考えない、数あわせにも等しい暴論と言う以外に適切な評価が思い浮かばない代物であり、修正よりも即時撤回をすべきと考えます。
以下、阪神高速を中心に「考え方」の内容を述べ、その後に問題点を指摘します。
●「考え方」の骨子
1.エリア別均一料金のため、1区間での利用と、エリア全域にわたる利用とで料金格差がなく、不公平なのを改める。
2.特に余裕のある末端部分における利用促進を図るため、短距離利用になりがちな末端部での割高感を解消する。
3.料金は利用者の平均距離と平均金額の均衡点を基準として、大都市近郊での高速自動車国道の賃率を採用し、足りない部分がターミナルチャージ(利用ごとに負担する固定部分)とする。
4.弾力的な割引料金の設定を行う。
●対距離制導入による効果
1.道路ネットワークの有効な活用。(距離が短い湾岸線ルートの利用促進など)
2.短距離利用者の一般道からの転移による環境改善。
阪神高速環状線(道頓堀付近) |
●料金の大幅値上げ
現在阪神高速は大阪市内を中心とする東線が700円、神戸市内を中心とする西線、関空方面を中心とする南線が500円となっています。
ETC利用を前提とすることで、出口ETCでの利用把握が可能になることから対距離制を導入するのですが、均一制に対し、対距離制では最大1700円とありますが、「考え方」にある290円+31円/kmで計算すると(24捨25入で50円単位)、最低で300円(1km)で、最大で1900円になるはずです。(11号池田線池田木部−4号湾岸線助松)
また、またがり利用ですと4号湾岸線のりんくうJCTから住吉浜−摩耶、柳原−神戸長田の2箇所で乗り継いで伊川谷JCTまでの78.3kmで2700円。現行が1700円ですからこれも負担感が大きいです。
そもそも利用者の平均利用距離と平均金額の均衡点を基準とする、という原則ですが、平均利用距離での利用金額と、平均金額での利用距離が一致しているかどうかと言う問題があります。もちろんまたがり利用による不公平感を無くすと言う意味では正しいのでしょうが、またがり利用の存在が平均金額をいたずらに押し上げていることは否めません。
また、後述するように一般道との役割分担や公害対策というような、社会全体の便益でバランスしている部分を全く考慮していない機械的な算出ですから、そうした社会的効果を一方的に損なうことが果たして「公平」なのかが問われます。
さらに、公平、あるべき姿と言う主張も、物価の上昇が景気回復の兆しがあるとはいえ限り無くゼロに近い状況で、最大で約2.5倍の値上げとなる時点で、物価政策のお手本となるべき公共料金の分野においては「公平」ではなく「不公平」であり、「あるべき」ではなく「あってはならない」ものです。
●誰もが値上げになる不思議
さらに、この料金が「平均」であれば、値下げになるケースがそれなりに出るはずです。
しかし、ありそうな利用を見るとどう考えても値上げです。考え方による計算と、今の料金を比較すると、東線で14km、西線、南線で7km、2区またがりで30km、3区またがりで46km以上は値上げになります。
この原則で阪神高速の区間表を見ると、大阪空港からだと値下げは梅田まで。環状線まで乗れません。そのほかも環状線内でほぼトントン、西名阪や阪和道に抜ける松原JCTへは環状線からでも値上げです。
西線区間は話にならず、名神西宮からだと特定区間を抜けた最初の魚崎でもう値上げ。三宮の生田川までで750円と250円の値上げです。さらに抜けて第二神明まで行くと、名神西宮から1050円と550円の値上げ。三宮の京橋からでも550円と50円上がります。
北神戸線はさらにひどく、西宮山口から伊川谷の全線で1350円と850円の値上げ。布施畑までも1100円ですし、箕谷を起点にすると藍那、しあわせの村、からと西以外は総て値上げです。
またがり利用にしても、阿波座から魚崎で1000円と200円の値下げですが、生田川でトントン、京橋は1250円と値上げで、環状線になると魚崎でトントン、摩耶から値上げでは、区間別に払う今の制度のほうがまだマシです。
南線にしても、りんくうJCTからだと岸和田北でもう値上げ。阿波座からだと岸和田南で値上げです。
これらを見ると、利用者の平均というのが信じられません。特に西線ユーザーはだれが得をするのかも疑わしい内容であり、民営化前に目論んだが、何を考えているのかと民営化推進委にたしなめられて見送った値上げを、どさくさにまぎれて実施される格好ともいえます。
生田川出口の出口ETC |
●賃率の問題
そもそも、一般有料道路の一種であり、道路規格は低く、最高速度も概ね60kmに抑えられている道路が、高速自動車国道と同じ料率にするという発想自体が間違っています。
さらにターミナルチャージが首都高の改訂の考え方での210円と比較しても80円高く、これが放射部〜環状線での値上げの原因でもあります(首都高では放射部〜環状線はトントンもしくは値下げのケースがかなりある)。これは平均金額を計算するとき、またがり利用が押し上げているため、事実上ターミナルチャージをダブルカウントしている格好になっていると見られます。
結局、総収入を確保し、短距離割引にこだわるため、その原資を負担する長距離利用に大きくしわがよっています。
さらに時間帯による割引もメニューに上がっていますが、特定の時間帯のユーザーがメリットを享受する反面、他のユーザーに更なるしわがよることを意味しており、結果的に公平どころか遠近間での不公平を拡大しています。
●短距離利用促進の問題
阪神高速の場合、エリア区境を中心に特定料金が既に設定されています。
これらの料金は東線境界−芦屋の200円など200〜300円程度であり、「考え方」での料率を当てはめるとターミナルチャージの290円の時点で値上げになってしまいます。
これでは短距離利用はかえって逃げます。よしんば他の区間で増えたとしても、短距離利用の需要が多い区間で逸走が発生したら意味がありません。
また、短距離で出入りする流動が増えることで、ランプにおける交通輻輳が多発して、高速内の流れが悪化する懸念があります。これは実際、加古川バイパスや名阪国道など無料の高規格道路で通行量が多い道路ではお馴染みの光景ですし、出入口自体が渋滞ポイントになるというのは、高速道路のSAやICでの合分流が渋滞の先頭になっていることが多いことからも容易に想像がつきます。。
●道路の有効活用の問題
特に長距離利用でしゃれにならない大幅値上げになることから、通過流動の忌避が発生します。
都心回避の環状道路の整備が遅れている首都高の場合、環七などの一般道への流入が懸念されますが、阪神高速の場合も、西宮や豊中、池田〜松原で名神・中国道から近畿道と言うルートに逃げるクルマが増えそうです。
このとき、流入される側の道路に余裕があればまだしも、近畿道のように摂津付近での渋滞が常態化しているようなケースでは、本来分担し合うべき流動を押し付ける格好になるという本末転倒の事態が発生します。
また、もともと料金を徴収していない一般道への流入を考えると事態は深刻です。特に環状の高速自動車国道がない首都高はその影響が深刻です。短距離利用が高速を使うから一般道路が空くと「考え方」では謳いますが、利用の骨格を成す通過流動や長距離利用においては料金の裁定が広がることから、明らかに流入してくるわけで、どう考えても一般道の負荷が上昇します。
西線区間で名神と第二神明、中国道と第二神明というような通過路線としての機能が期待されているものの利用を抑制しかねませんし、松原線経由のコストが上がることで、東名、名神の広域的なバイパスとなる名阪〜伊勢湾岸道ルートの利用も抑制される懸念があります。
このように高速道路のネットワーク性を損なう方向に働く可能性が高く、阪神高速にとどまらない広域的な影響が懸念されます。
阪神高速神戸線(阿波座手前の急カーブ) |
●環境効果の問題
一般道への流入が顕在化した場合、信号によるゴーストップの存在が不可避ゆえ、同じ通行量であっても高速よりも一般道のほうが排気ガスなどの公害は増大します。
特に神戸線、湾岸線関係として、R43やR2への流入が懸念されるところですが、沿道は西淀川、尼崎の両公害訴訟で阪神高速やR43が公害の原因として争われていただけに、R43の交通量増大に直結することは問題です。
阪神高速は両訴訟で被告側に立ち、交通量減少の推進などを内容とした
和解を原告側と結んでおり
、それを実践すべく、国や自治体、またあおぞら財団などのNPOと連携して対策を進めているはずですが、今回の措置は、和解条項に違背するとも言える事態であり、決着したはずの両公害訴訟がにわかに予断を許さない状況になる懸念があります。
また、距離が短い湾岸線シフトを「考え方」では提案していますが、住吉浜〜摩耶・京橋の乗り継ぎ、また、神戸中心街を目的地とする場合、住吉浜から先は一般道を経由するケースが多いわけで、神戸市東灘区西部、灘区、中央区東部一帯の幹線道路や一部生活道路の交通量をいたずらに増やしかねません。事実、湾岸線シフトの社会実験を行った2001〜2002年冬、シフトが目標に達しなかったにもかかわらず、このエリアの一般道路の交通量は期間中激増しており、ひいては環境の悪化も充分懸念されるところです。
このほか、10月から社会実験として、ETC利用車に限り、「公約」でもある値下げとして、土日及び平日のオフピークに恒久分としての5%に上乗せする形で最大合計20%の割引を実施しています。これによる利用促進を国道2号線や43号で訴えていますが、ベースの通行料金が値上げされてしまっては、利用促進どころか逸走すら懸念されるわけで、社会実験の効果を活かさない方向が確定している中で税金を投入するというのは、税金の無駄遣いともいえます。
国道2号線に掲出された社会実験の告知 |
●料金にメリハリをつけるには
短距離利用と長距離利用との不均衡の存在は否定しませんし、何らかの救済は必要でしょう。その過程で、割安感が確かにある通り抜け利用を中心に値上げになることは甘受すべきことだと考えます。
しかし、現行の2倍半というような激変は、例え当座は激変緩和措置が取られたとしても、本則がある限り、遅かれ早かれ2倍半に向かっていくことは確かです。
また、完全に対距離制にした場合、首都高速のように都心環状線経由と中央環状線経由が選択できたり、阪神高速のように神戸線と湾岸線を選択できるケースの取り扱いが問題になります。
これまで都心環状線の渋滞回避のため中央環状線経由を推奨してきたのが、都心環状線経由のほうが距離が短いので安いと言うようなことが起こり得ます。実際、これはシフト先が短いケースですが、上記のように阪神高速湾岸線経由を「距離が短い」と言う理由で推奨しており、本来値段による利用偏倚が生じてバイパス効果を損ねることが無いようにすべきものが、全く逆に働きかねません。
こうした問題を考えると、ゾーン制による格差が現実的なところでしょう。
放射線、環状線、放射〜環状〜放射、西線は生田川−京橋をコアにして両方面のゾーン、というように区分して、東線なら特定200円、放射のみ500円、環状〜放射が700円、放射〜環状〜放射が1000円というようなゆるやかな格差でいいと思います。
阪神高速湾岸線(南芦屋浜ランプ) |
●即時撤回を求める理由
以上のように、まさに絵に描いたような「百害あって一利なし」というしかない「考え方」です。
この変更で、利用が増えなければ総収入に変化がないという建前(平均を取ると言うことはそういう意味です)での料金設定と言うことは、誰もが損をすれば得をするというはずですが、実際には一部の特定ユーザーだけが得をして、大多数のユーザーは損をする構図であり、公平性がありません。
このあたりは、マイレージなどの割引制度の構築時に、広く浅くの割引を、特定時間帯、特定車種(金額ボーダーが一緒の場合、大型有利)に偏重させた事と共通しているようにも見えます。
この割引の再構築を通じて、阪神高速、首都高速は前割よりも割引率が実質的に悪いマイレージよりも低い割引しか提供しなかったばかりか、今回大幅な値上げを提示したことは、公と言う箍の外れた独占企業の弊害と言うものを天下に知らしめた感があります。
言い換えれば、公共・公益企業の料金改定の姿としては極めて適切さを欠いたものと言えます。
俗に「冗談でも言っていい事と悪いことがある」と言いますが、今回の「考え方」はまさにそれでしょう。
さらに、それに対する意見聴取にしても、発表当日を含めてわずか2週間(11月14日17時締め切り)で終わらせるという短さでは、広くユーザーの声を聞く姿勢すら疑わしく、かつ意見聴取のフォームには、値上げそれ自体に関する質問項目に見えても、参照する「考え方」のページを見ると、結局初めに結論ありきでの対策や、対応をどう評価しますかと言う問いかけに過ぎないとしか思えず、意見聴取の結果が反映されるとは到底思えません。
以上より、利用者不在で、最大2倍半という深刻なレベルの値上げである「考え方」は即時撤回するべきだと考えます。
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