このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください






直通運転の居住性を考える
直通需要を掘り起こす際に必要なソフト面の対応


ここ山陽姫路から阪神梅田まで90分強です


このところ仕事で姫路をはじめとする播州エリアに出向く機会が増えました。
現地でのアクセスでは仕事の都合や現地の回り順もあって山陽電車を使う機会も多いのですが、最近関西でも私鉄の直通運転が増えてきたことによる乗車時間の長時間化に対する居住性を改めて意識するようになりました。



※写真は2008年〜2011年に撮影


●直通特急を利用して
神戸地区から東播エリアと言えば、神戸高速区間の鈍足ぶりもあってJR神戸線がまず選択肢に上がりますが、目的地が山陽電車沿線ということもあるわけで、山陽電車を利用する機会も出てきます。

しかも数ヶ所をはしごすることもあるわけで、ならばと便利な「1day」などの企画券を使う機会も多くなり、そうなると明石以東も新快速に乗り換えずに山電で乗り通すこともしばしばなんですが、明石を境にした特急の韋駄天振りと鈍足ぶりのコントラストに苦しめられています。

厳密には西舞子付近がそのターニングポイントであり、以西は新快速に追いすがるくらいの俊足なんですが、以東は普通にも軽く抜かれるような鈍足です。三宮から姫路だと所要時間での中間地点が明石になるという信じられない状況が、神明間で必ず新快速に抜かれると言う情けない事態を呼んでいます。

もっぱら使うのは直通特急ですが、改めて乗り通しで利用するとその居住性次第で疲れが全然違うと感じます。先日は時間はあるし羽田で買った通年販売・飛び飛び2日有効のスルKAN2dayがあったので、梅田から姫路まで乗りとおすと言う酔狂なことをしましたが、さすがに三宮−須磨間各駅の黄色直特はいやなので赤直特を狙ったところ、やってきたのが阪神車。しかも赤とクリームのツートンカラーの在来車です。

酔狂な域の乗り通しだが居住性は(阪神三宮)

これも試練と姫路まで通し乗車しましたが、まさに「直通」ならぬ「超苦痛」特急であり、座席が改良されていたのが唯一の救いとはいえ、相当疲れました。
クロスシートの山陽車との居住性の違いは明白であり、特に三宮までは立客が出たのですが、そのあと空くと言う予想が外れ、ロングシートの中間部に座ったのですが、入れ替わりながら両隣が埋まった状態が大塩まで続くという大誤算も加わったことによる「超苦痛」で、新快速に対して約30分の所要時間差に加え居住性も劣るといういいところが無い状態です。

●居住性を再認識する
そういう意味では阪神車の居住性がいま一つであり、なんば線経由近鉄直通の主力である1000系の直特でも東播地区から三宮まで乗り通すと、最新型というのにどうも座り心地がしっくり来ません。

阪神最新鋭の1000系車内

クロスシートならいいかと言うと、8000系の改造車や9300系のクロスシートも褒めるような出来ではなく、山陽車の一部にある後ろ向きの固定クロスのほうが座り心地がいいと感じることもしばしばです。

山陽5000系の転換クロスシート

もともと長くて30分程度の乗車がメインの阪神ですから、座席の居住性に対する「こだわり」が薄かったのかもしれませんが、1998年の直通特急運転開始以降、休日などは山陽車の狙い乗車がよく見られたわけで、それがあっての9300系の導入や8000系の一部クロスシート改造につながるなど、それでもいい意味での刺激になっていたようです。

阪神9300系の転換クロスシート

こうしたクロスシート礼賛を書くと、たちまちヲタだ何だという批判を浴びるわけですが、ラッシュ時に山陽車運用が遅延の常習犯であるとか、積み残しの常習犯であるということもありません。ロングシートの阪神車でも遅れるときは遅れますから。

そして現実に梅田や姫路で折り返しの際、全座席が選べる状態で乗客はまずクロスシートから埋めていくという状況があるのに、クロスシートは支持されていない、と批判を受けるのは、実際に利用している実感と乖離しているものを感じます。

もちろん阪神線内での利用が三宮−御影とか、甲子園−梅田といった短距離利用がメインになってしまっていることが、乗り降りしにくいクロスシートへの批判になっていることもあります。実際に2003年5月に女性専用車導入と合わせてクロスシート導入の是非についてアンケートを取っていましたが、9300系の導入がストップし、8000系リニューアル車のクロスシートが中間4両から2両に減ったのもその結果と推測できます。

しかしこのアンケート、阪神電車の各駅で実施というところがミソであり、また、平日のラッシュ時の配布、そして当時の利用形態をベースに考えたら、区間利用者が多いこと、また、ピーク時乗車の乗客層に偏重しているわけで、その母集団の結果であることに留意する必要があります。

1+2シートで通勤対応の山陽5030系

こうした声を両立させようと通勤対応を考慮した1+2シートの山陽電車の一部車両は、座席定員をかなり減らしたことで不評という事実もあるわけで、通勤との兼ね合いは確かに難しいです。
そういう意味ではライバルの新快速があれだけの乗客集中に遭いながらも、転換クロスシートで捌いている姿勢は、ラッシュにある程度のしわ寄せをしてでも日中や土休日でのサービス水準を維持すると言う思想であり、ヲタ向けというような安っぽい批判で走らせているといったレベルではないものを感じます。

新快速は最新の225系でも転換クロスシート


●「直通需要」を見る
そもそも現状を追認して直通特急での乗り通しなどごく少数だ、としてしまうのであれば直通特急の設定自体の否定になります。

さらに山陽電車への直通に加え、なんば線経由近鉄奈良線への直通がはじまって、長距離、長時間を乗り通す需要が生まれています。阪神の利用者数も明らかになんば線直通をセールスポイントにして増えている中、それを育てて定着させていくうえで、居住性の重視と言うものを阪神線内の尺度だけで考えてはいけないということが、山陽電車との直通開始時よりも問われていると思います。

近鉄LC車(ロングシートモード)

ちなみに直通特急における直通需要ですが、一時期は確かに低迷していた感じでしたが、東播エリアの大規模事業所における「エコ通勤」の流れが定着する中で、神戸市内と東播地区に事業所があることから、家は神戸市内で勤務先は東播というケースもあることから、こういった企業の寮・社宅が多い垂水区をベースにした需要のみならず、阪神線内から通うケースも出ています。

こうしたケースでは明石以東をJRにするほうが速く、かつ安いので、企業によっては明石乗り換え(阪神線内からの通勤でも三ノ宮−明石をJR利用と指定するケースもある)を指定していますが、並行区間での乗り換えはさすがに酷であり、山陽電車での乗り通しを容認するケースもありますが、やはり本数、スピードその他総合的な判断でJR志向は高いです。

また企業によっては事業所からの送迎を山陽電車だけでなくJR駅まで行うケースも多く、せっかくのエコ通勤を取り込めていないとか、JR駅とのアクセスが改善されたことで明石以西での利用すらしなくなったというケースもあるやに聞いているだけに、こういった状況で、最後の砦の居住性も劣るとなっては選択するインセンティブが全く無いわけです。

●居住性を重視する事業者もある
社会派諸氏はとかくクロスシートを否定したがりますが、クロスシートへの支持については、三宮で近鉄LC車がクロスモードで来た時にもはっきり出るわけですし(まず車端のロングから埋まっていくシーンを見たことが無いですね)、近鉄も当初はロングモードで乗り入れると明言していたのが、土休日はクロスモードに変更になっていることからも乗客の志向が伺えます。

LC車のクロスシートモード(車内全景写真が無いです)

また、京阪電車が京阪特急の居住性を前面に押し出した宣伝を打ってでると、クロスシートとはいえやや窮屈な9300系に統一された阪急は、定期運用から退役した6300系にあっと驚く改造を施した「京とれいん」を運行したわけです。

京阪特急の快適性を訴える広告(大阪市営地下鉄内)

「京とれいん」には先日試乗しましたが、特に町家ムードを演出した中間2両の畳敷きボックスシート車には、始発の梅田駅では早い時間から狙い乗車の列が長く伸びており、こうした「サービス」への関心と支持が非常に高いことを示しています。

京とれいんの畳敷きボックスシート車

こうした「サービス合戦」はライバルあってのことであり、同時に鉄道自体の分担率の低迷もあって、クルマから奪還するためにも欠かせない対応です。

2扉の6300系を置き換えた阪急の9300系

しかし直接のライバルがおらず、クルマも渋滞がネックになって使いづらい首都圏の場合、湘南新宿ラインという直通運転による長距離乗客の増加に対し、快適に移動したければグリーン車へどうぞ、という「殿様商売」が成立しているわけですが、それが顧客満足度を本当に高めているかは疑問です。

首都圏では向かい合わせに座りたければ...

なんば線開業による近鉄との直通が「阪神一人勝ち」の状態を生み出しているのも、ミナミ、さらには近鉄線への直通と言う展開が支持されての話であり、ライバル不在の状況ゆえ首都圏タイプの居住性にあまりお金を掛けない対応が成立するのかもしれませんが、西宮以西ではまだまだ余裕がある快急の様子を見ると、まだまだ需要拡大の余地はあるわけです。
そして直通開始と平城遷都記念で盛り上がった需要をどう維持し、拡大していくかと言う課題に対し、電車の居住性はやはり一つのキーワードになりますが、現状の1000系や9000系がそれに応えているのか、そしてアピールできるのかを見守っていくことになります。

三宮から奈良まで80〜90分

そういう意味でも、「老舗」の直通運転である直通特急においても、運用側の都合を優先させた5分間の時間調整としての黄色直特の三宮−須磨間各駅停車は利用者の評価を大いに下げていますが、それがどうしても不可避であるならば、せめて何か目立つメリットを打ち出してもらいたいものであり、その大前提として、居住性の問題はまずクリアしてほしいものです。

●そして利用者の視点として
1種類の車両で通勤輸送から行楽輸送までこなさざるを得ない大都市近郊私鉄でそれぞれに使い分ける車両を求めるのは酷かもしれません。
しかしだからと言って通勤輸送だけに偏重した思想でいいのかどうか。それをヲタの戯言だと切って捨てるのは簡単ですが、「快適でない」移動手段を容認し、あまつさえ「脱マイカー」といった感じで推奨、誘導することが利用者の受け入れるところなのか。

地下鉄など通勤時対応が総ての都市内輸送と違い、都市間輸送や行楽輸送も担う近郊鉄道においては、通勤に対応できる範囲で、最大限の快適を追求していかないと、利用者から移動手段として見放されると言う想定を常にする必要があります。
狭い空間でも快適さを最大限に引き出そうとしているクルマの進化に対し、鉄道をみるとあまりにも思考停止の度合いが目立つのです。

同じ公共交通でも中長距離のみならず短距離近郊区間にまで進出した快適な高速バスの進化が利用者の心を捉えているのに、なぜ鉄道に関してはそうしたブレイクスルーが無いのか。
逸走が無い通勤輸送で収益が盤石という「独占」がなせる技かもしれませんが、そうだとしたらあまりにも淋しい話ですし、「電車での移動」に心をときめかせる可能性も少なくなるわけで、こうしたこともまた「鉄道離れ」の深度化につながります。

鉄道の分担率が下がっている中、今回指摘した阪神、山陽にしても通勤時のダイヤパターンを見ると相当な減便になっているわけです。
詰め込めば減便も可能、だから、という面もありますが、通勤輸送においてもそれだけの逸走が生じているわけです。いわんや日中はどうなのか。それを打開しようとする取り組みが直通運転であり、必然的に長時間の乗車となるからには、やはり居住性がポイントになるという連鎖を、プラス方向にどうやって持ち込むのか。快適性を問うことがヲタの戯言といった矮小化された議論ではないことは確かです。







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