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阪神電車、ダイヤ改正の明暗


改正で消えた下り準急(御影)


2006年10月28日に実施された阪神電車のダイヤ改正、阪急阪神ホールディングス発足後最初となった今回の改正は、乗り入れる神戸高速、山陽電車との関係で阪急電鉄も合わせてのダイヤ改正になりました。
JRが西ノ宮(来春から西宮)−芦屋間に来春開業するさくら夙川が、阪急の夙川、阪神の香櫨園に至近ということもあり、JR対策として、阪急が夙川に特急、通勤特急の全列車を停車させるとともに、阪神が香櫨園に平日朝上りに設定されている区間特急を停車させることとなりましたが、経営統合した両社が、阪神間で優位に立つJRに対し、先手を打って挟撃する格好になりました。

スピード、本数と常にリードしてきたJRに対し、防戦一方の感があった私鉄にとって、久々に積極攻勢とも言える改正というわけで、関西のマスコミが大きく取り上げています。
確かにマスコミで喧伝された「日のあたる部分」は華々しいですが、今回の阪神電車の改正は、手放しで喜べない「陰の部分」もまた過去に例の無いレベルで発生しているのです。

ダイヤ改正の「日のあたる部分」だけでなく、マスコミに出て来ない改正の「陰の部分」とはどのようなものか、述べていきましょう。


※特記なき写真は2006年10月および11月撮影


●改正の骨子
8月3日に発表されたダイヤ改正。午前ラッシュ時および深夜時間帯を中心に更なる利便性の向上を図り、と景気よく出てきました。
朝は甲子園始発の梅田行き区間急行の設定、区間特急の香櫨園停車、下り直通特急の甲子園停車、下り急行の大石停車、上り準急の打出停車と、増発や新規停車が目を惹きますし、深夜も最終の特急の繰り下げなど、期待が持てる内容に見えました。

新設された区間急行の表示(甲子園)

しかし、よく見るとその影響というか帳尻合わせの部分が見えてきます。
区間急行の増発に伴い、これまで運転されていた尼崎→梅田の普通が取り止め。また香櫨園も区間特急停車の代償としてか準急が通過になっています。深夜も特急が拡充される反面、急行は全て特急になりました。

そしてもっとも目を惹いたのは、下り準急の甲子園以西の運転取り止めです。
実はこれはリリースの本文には一切出て来ず、別紙「ご参考」にさりげなく出て来るだけですが、これこそが今回の改正の「陰の部分」の元凶とも言える部分なのです。

●準急の役割
阪神の準急と言うと、これまで梅田方から淀川、大物、久寿川、打出、(下り)芦屋、青木、住吉しか通過駅がなく、下りの芦屋と青木以外は4連しか停車できない駅だったため、普通専用車で加減速に優れたジェットカーの車両不足を補うために急行車で運転される「6連の普通」という位置づけに近かったです。(今回打出に準急が停車するようになったのは、ホーム延長が完成したから)

一時期いわゆる「R車」で運転された準急(魚崎)
(2006年6月撮影)

阪神の朝ラッシュ時は、山陽電車とのパターン整合や、ジェットカーの編成数などの事情から、14分ヘッドと、日中の10分、夕夜間の12分ヘッドと比べてパターンが開き、実質的な有効列車の本数が少ないのがネックです。そのため主要駅では複数種別を停車させて有効列車を増やす一方で、どの駅にも停めては優等にならないので、停車パターンを違えた「千鳥停車」により速達性を担保しているのも特徴です。

優等列車の停車でカバーできない小駅において、14分ヘッドの穴を埋めるために設定されていたのが尼崎→梅田の普通であり、準急だったのです。実際、上り準急は西宮から東では普通と同じ所要時間、区間によっては普通よりも遅かったほどです。

(梅田への所要時間)

  西宮  甲子園 尼崎  
 改正前改正後改正前改正後改正前改正後
準急42分43分31分32分19分20分
普通40分39分35分34分17分*18分

※尼崎始発の普通。神戸方面からの普通は19分


改正後の様子を少し見てみましたが、上り準急は区間急行の設定で少なくとも尼崎以西ではこれまで以上に存在意義が怪しく座席定員割れの状態であり、ピーク後の武庫川女子大の学生輸送(これは半端でなく多い)が唯一の存在意義といえる感じです。

朝でも空席が目立つ準急(尼崎)

なお、本来的な意味の「千鳥停車」が最後に残っていたのが下りの西宮→御影で、6連停車が可能な駅を続行する急行と互い違いに停車していました。すなわち下の時刻表の通り、準急が香櫨園、深江、魚崎と停車して、急行が芦屋、青木と停車していたのですが、このために主要駅である芦屋に下り準急が停まらなかったのです。

(改正前朝ラッシュ時下り)

 西宮香櫨打出芦屋深江青木魚崎住吉御影  石屋新在大石  西灘岩屋春日三宮終着
  
普通741742744746748750752753755755757758800807808809811813高速神戸
準急747749752755757804806807809810811812814816東須磨
急行750754757800800804808(止)
直特754757801803803810山陽姫路


準急は御影まで急行と千鳥停車で進行したあと、御影で急行とさらに後続の直通特急と緩急接続をするため退避し、各駅に停車して山陽電車の東須磨まで走っていました。
つまり、御影での緩急結合対応ならびに、御影〜高速神戸で14分に2本の普通を走らせる効果を準急は担っていました。そしてその準急がなくなったのです。

急行と緩急接続する準急(御影)


●電車が半減の衝撃
さて、その時間帯の普通はどういう運用だったのでしょう。
上の時刻表の通り、西宮で退避したあと、通常なら緩急接続をする御影をすぐに発車し、退避施設のある大石で、御影で準急と緩急接続した急行、直通特急を通過退避していました。

そのため御影以西の対三宮においては、改正前後とも御影からは急行に乗るしかないのですが、それでも香櫨園、深江、魚崎では準急の前を走っていた普通に乗るしかないので、数分早く出ないといけなくなりました。

退避せずに出発する下り普通(御影)

問題は石屋川以西の駅に関係する利用者です。
停車していた本数が半減です。石屋川と新在家は、ダブル退避になる普通よりも準急を好んで使っていたでしょうが、西灘、春日野道は悲惨です。大石は急行が停まるので差し引きゼロですが、岩屋は2/3に減りました。実は三宮も2/3になるところ、急行と普通の一部を東須磨行きにして被害を最小限にしています。
また、御影以東でも今津、香櫨園、深江が半減、魚崎が2/3になってしまいました。

(改正後の朝ラッシュ時下り)

 西宮香櫨打出芦屋深江青木魚崎住吉御影  石屋新在大石  西灘岩屋春日三宮終着
  
普通742744745747749751752754755805807808810810811813814816高速神戸
急行749752755759759802802804807(止)
直特755759802804804811山陽姫路


朝ラッシュの本数が半減というのは悲惨な話です。今回列車が半減したと言うのは下りだけではなく、上りも尼崎→梅田の普通廃止による淀川、大物両駅もそうですし、千船、姫島、杭瀬の各駅も2/3に減りました。また、阪急との経営統合で脚光を浴びる両社の乗換駅である今津が下り半減と言うのも利便性という意味では大きな悪化です。
都市圏の通勤鉄道で電車の本数がここまで大規模に減少した例は前代未聞では無いでしょうか。

(新在家発朝ラッシュ時下りの推移)

 改正前改正後
437#,48+37#,48+
512,28,4911,29,47
607,20,31,44,52*,5805,19,29,42,56
704*,11,17*,25,29,39*,44,53*,5810,26*,40,54*
807*,12,21*,35,4908,22*,36,50
903,17,30,34,45,5604,18,32,45,57
1007,17,27,37,47,5707,17,27,37,47,57

黒字は普通(無印は高速神戸行き、#は元町、+は新開地、*は東須磨行き。下線は大石退避)
緑字は準急(*は東須磨行き)

斜字は石屋川始発

※準急の時間帯に普通がスライドしてこれまでの普通が消えている。前後の時間帯よりもピークのはずの7、8時台の本数が少ない。
なお、改正前にあった大石始発6:27、6:42の準急東須磨行きも消えている。

●いつもの時間に着かない電車
御影で緩急接続をしていた準急が廃止となると、代替が必要です。
ではどうしたかというと、これまで大石まで逃げて通過退避していた普通が、御影で長時間停車するようになったのです。
実は改正前もピーク直後の時間帯に準急が御影止まり(石屋川車庫入庫)になると、普通が長時間停車して接続しており、それがピーク時にも広がった格好です。

言ってみれば、普通は御影までは従来のスジに乗り、御影からは改正前の準急のスジに乗り替わるのです。御影ですぐの発車が10分停車になってしまったことで、これまで普通に乗って石屋川、新在家、大石まで利用していた人は、上の時刻表にあるように、同じ電車に乗っていても到着が10分遅くなってしまったのです。また西灘、春日野道、西元町に行く際も、3分ないし4分遅くなっています。

かつては準急も停車していた...(新在家)

そもそも御影以西で準急に乗るのであれば、あとの準急乗り通しか、御影で接続する急行、直通特急で間に合うのでそもそも普通には乗ってません。
朝の通勤時、10分繰り下がっても間に合うような余裕を持って通勤している人はそういませんから、多くの人が14分前の普通に乗るか、10分程度前の急行に乗るしかなくなったのです。

準急の廃止も、御影まで先着することで、魚崎まで乗車して六甲アイランドに向かっていた主に学生層が直撃を受けました。6分ほど後の到着になる直通特急では間に合わないと見たのか、先発の普通にシフトするしかなくなりました。こうなると香櫨園で5分、深江で3分の早起きです。

地方の学校であれば、ダイヤ改正にあわせて始業時間に融通を利かせることもあるのでしょうが、都市部の学校や事業所ではそうはいきません。特にこのエリアに多い事業所の従業員への影響は相当なもので、10分ないし14分の早出を強いられる事への不満は大きいです。

●知らしむべからず...
メリットを強調した改正の告知が駅や電車を埋めるなか、徐々に「準急廃止」が知られてきました。バラ色の告知でこのまま改正ダイヤを貼り出したら騒動になりかねないとでも見たのか、改正の2週間ほど前にポケット時刻表を配布しだしたタイミングで、神戸市内の各駅に「神戸・三宮方面に平日 朝7〜8時台にご利用のお客さまへ」と題した特製の告知が掲出されました。

特製の告示(青木)

しかし、「準急の運転を取り止め、普通に統一します」と準急が格下げととられかねない表現ですし、そもそも準急が行っていた御影での緩急接続や御影から東須磨までの先着を「普通の利便性の改善」と謳うなど、肝心なところをストレートに伝えていません。

ただ、各駅全電車の発車時刻が書いてあるため、自分の乗っていた電車の変化がわかることから、新在家までの利用者あたりでは「10分遅くなる」ということが徐々に広まってきましたが、それでも「直撃弾」を食う利用者の中でもまだバラ色の部分しか知らない人が多かったです。

さらに旧ダイヤ最後の週に入り、さらにストレートな告知が出てきました。
「準急(東須磨行き)の運転は取り止めになります」と、岩屋、春日野道、三宮に出たのを皮切りに、前日までに御影までの各駅の要所要所に出ていました。

取り止めになります...(三宮)


●改正後の様子
まず変わったのは、御影を越えて乗る人の顔ぶれが変わったこと。今までの人は前の電車に乗り、新しく来た人は準急や後の普通からのシフトでしょう。

6連の準急がなくなり、両数的には半減どころか6割減となった影響ですが、御影発車時点で立客がちらほらの準急はさておき、普通は座席が空いていたため、立客が増えたものの何とかと言う感じです。
ただ、石屋川、新在家でかなり乗っているので、春日野道あたりまで進むとかなり厳しいと予想される乗り具合であることは確かです。

特徴的なのは、改正後最初の週に対し、次の週に入ると徐々に御影乗り通しの乗客が減少したこと。急行からの乗り換えだと、普通はさらに直通特急退避のため5分以上停車していますが、当初は急行から来ても座れないとか、住吉側から乗ってきても座れないと言った状態でしたが、今は御影停車中は空席が見えます。
これが1パターン繰上げのアヤか、逸走なのかは不明ですが、最初の数日使ってみて、10分繰り下げだと間に合わないと判断した人が多かったことは確かです。

区間特急到着(香櫨園)

下りが悲惨な目にあった反面、上りは余力があるのも事実です。神戸市内では普通も準急も相変わらずガラガラです。鳴り物入りで登場した区間急行については、「ゆったり通勤」を売りに出来るほどの乗り具合です。もっとも、区間特急の香櫨園停車はホームを埋めて待つ乗客を見ると効果大と判断すべきですし、直通特急や区間特急よりも厳しい混雑であった急行の武庫川−尼崎間の混雑も、区間急行設定で区間急行→直通特急の先着パターンが追加されたことから、緩和されており、その意味ではマイナス面ばかりではないのですが、神戸市内でのマイナスとの格差にはやるせないものを感じます。

区間急行でゆったり通勤(尼崎)


●運用の疑問
上りの優等列車が減っていない、甲子園以東では増えていると言う状況で、下り甲子園以西の優等が減少しています。電車は行けば戻ってくるはずですから、下りに回送が多く出て来たことになります。

また、ジェットカー不足ゆえの準急と言う側面があるのに、下り準急廃止で東須磨までの列車が減少することから、一部の普通が高速神戸から東須磨まで延長されています。
さらに、ラッシュ後の10分ヘッドへの移り替わりの時間帯に設定されている西宮9時20分始発の普通があるのですが、これに充当するジェットカーが9時頃まで石屋川車庫にいるのです。
こういう部分を見ても、神戸口で電車を半減させていながら、と言う不満が募ります。

ただ、評価できる点もあるわけで、ジェットカーを東須磨に送り込む運用数を確保するためなのか、これまで日中の10分ヘッドへの移り変わりをかねて西宮で12分停車していたピーク直後の普通3本が、無退避で出発し、尼崎までで所要時間を10分以上短縮しています。これは14分ヘッドで12分も停車させるのなら時間を微修正して退避せずに1パターン前につなげることで、1運用浮かす効果があるわけです。
これを見ると、同様に12分停車となっている御影も同様にすれば、浮かすことは可能であり、石屋川で寝ている編成とあわせて、神戸口で区間運転を実施できるはずです。

※普通がそのまま出ることによる御影での緩急接続の問題ですが、現在普通到着の2分後に発着する急行は次の青木で区間特急、直通特急を退避するため、新在家などから梅田に急ぐ客は急行に乗り青木で区間特急、もしくは御影で7分後に発着する直通特急まで待つことになる。普通がそのまま西宮まで逃げた場合、区間特急へはそのまま普通に乗って青木、直通特急はそのまま御影で待つだけであり、影響はない。御影で急行、直通特急から普通に乗り換える場合も、退避中の電車に乗れないだけで、普通の御影発車は変わらないのであり、準急も含めて4本退避の12分停車と言うのは無意味な退避に近い。

(改正後の朝ラッシュ時上り)

三宮春日岩屋西灘大石新在石屋御影  住吉魚崎青木  深江芦屋打出香櫨西宮
普通740742744745746748750751803804806808808810812813815817
急行744747750753753756803806810
区特749758758801804
直特752758758800804807
準急      800802802804807809811813

※準急は石屋川始発。


●深夜帯
急行が特急になったわけですが、急行は魚崎に停車しないと言うデメリットもあり、速達化という意味では前向きに見えます。
しかし、緩急接続ポイントが、夜半までの西宮と御影から、尼崎と御影になることから、深江や青木あたりでの利用者は尼崎からえんえんと各駅停車と言うあまり面白くない状況です。
特に青木は急行停車駅だっただけに、落差が激しく、夜半は逆に急行として魚崎に特別停車するとか、いっそ西宮からは4連駅の住吉以外は各駅に停車というような対策でよかったのではと考えます。

これも消えた最終の上り急行(御影)


●今回の改正は
今回の改正は経営統合前から準備されていたと思われますので、JRと同時に阪急とも並走する神戸市内で阪急に塩を送るとような意味は無いでしょう。

しかし、今回の改正は阪神間から神戸市内での利用者にとって、本数の減少による利便性の低下や、時間の変更による利用列車の変更など、デメリットが大きすぎます。
六甲山系が海に迫る狭い地形でJR、阪急との競合が激しい西宮以西での利便性の低下は、阪神の「自爆」ともいえる反面、競合他社との距離が広がる甲子園以東での「改善」や据え置きは目立つわけで、対応が逆ではないかと言いたくなります。

そしてマスコミ向け宣伝で大幅な利便性向上が謳われる香櫨園ですら、朝の下りは半減ですから、本当に便利になるのかと言うと疑問です。対梅田でも朝こそ区間特急に乗れますが、帰りは深夜になると普通へは尼崎乗り換えなのです。

朝の便利さを訴えるが...(香櫨園)

また、これまで香櫨園の朝上りは準急、普通の順で停車していたので、準急→区間特急(甲子園乗り換え)と普通→直通特急(西宮乗り換え)の2パターンあったのが、普通、区間特急の順で停車するようになったため、普通に乗って西宮で直通特急に乗り換えるにしても、次のそれは普通の後に香櫨園に停車する区間特急の通過待ちをした後になるため、事実上使えず、乗車チャンスが減っています。
これは新規に準急が停車した打出も類似で、準急に乗っても普通に乗っても梅田へは区間特急に乗り換え(準急からは甲子園、普通からは香櫨園)となるため、ここは普通のみ停車だっただけにさすがに乗車チャンスの減少にはなっていませんが、準急停車でチャンスは増えませんでした。

「姫路ライナー」(三宮)野球開催日の特別版(梅田)
(2005年9月撮影)

趣味的には区間急行の登場(復活)や、普通東須磨行きの登場によるジェットカー運用区間の西進、さらに石屋川出庫運用の青木始発快急が夕方前に新設など、見てる分には目先が変わって楽しい面もあるでしょう。もっとも、趣味的にも、1997年の運転開始以来、直通特急に付いていた「姫路ライナー」「大阪ライナー」の副標が改正を機に廃止され、甲子園でのタイガースの試合日の虎マーク入りの特別版もあわせて消えており、その意味では趣味的にも寂しい差があります。

ましてや使う側、特に神戸市内での移動に使っている側としては、「改悪」以外の何者でもない改正でした。

最終日の最終「大阪ライナー」(魚崎)
(2006年10月27日撮影)







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