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高速道路給油所の上限価格制度「見直し」
エル・アルコン 2006年9月1日
※この作品は「交通総合フォーラム」とのシェアコンテンツです。
2007年5月1日 補筆
原油相場のとまらぬ高騰を受けて、ガソリンの価格の上昇が止まりません。
こうした中、
8月29日付の読売大阪
は、「高速道 安いガソリン見直します…西日本高速会長」として、西日本高速道路がSA等での給油所の販売価格の決定方法を見直す方針を明らかにしたと伝えました。
●高速道路でのガソリン価格決定のメカニズム
高速道路のガソリン価格は、閉鎖的空間であり競争原理が働かず、かつ利用者が選択できない環境にあることを理由に、全国一律(除く沖縄)の価格を採用しています。具体的には、前月第3週もしくは第4週の全国平均価格を基準に、翌月の上限価格を設定しており、「上限価格」と言いながら、これを割り込む設定はまず見られず、事実上上限価格=公定価格となっています。
そのため、ガソリンの販売価格がスタンド間競争などの影響で安い大都市近郊を中心に、高速道路での価格は過去総じて市中を上回っていました。また前月下旬の平均ですから、価格上昇局面では実勢価格よりも安くなるとはいえ、昨今の急騰までの価格変動による差異よりも、高速道路と市中の価格差のほうが大きいため結局は市中での販売価格が安いため、これが「高速の給油所は高い」という評判になっていました。
●まさかの逆転現象が発生したわけ
ところが今回の急騰は5円、7円と言う規模での値上げになっており、こうなると市中の実勢価格のほうが高くなってきました。特に8月は元売各社が7円前後の大幅値上げに踏み切った影響もあり、7月の上昇幅が1円程度だった高速道路の値上げが1円にとどまったことを受けて、全国的な逆転現象が発生しました。(全国平均:136円→143円、高速道路:136円→137円)
特に今回の急騰は、大都市近郊の安売り競争の休戦という副産物を招いており、埼玉や群馬などにおける販売価格の全国平均との乖離幅が急速に縮まっており、高速道路との逆転現象をより鮮明にしています。
このため各地の高速道路では、「安い」ガソリンを求めて給油所の長い行列が出来ており、メディアも早速取り上げるなど社会現象になっている感じです。
ただ、この「逆転現象」も今後常に同じ幅で上昇しない限り1ヶ月限りの命で、9月の市中の上昇幅が1円前後になる反面、高速道路の上限価格は市中に1ヶ月遅れて7円高の144円となるため、逆転現象は収斂に向かうと予想されます。
●なぜ見直しなのか
今回の見直し発言、当然7円の逆ザヤに音を上げたということは火を見るより明らかです。
高速道路での給油量は8月に入り激増し、
東日本高速道路管内では前年同月比81.3%増
になっています。
市中価格と上限価格の差異は何らかの形で高速道路会社とガソリンスタンドとの間で精算されているはずで、市中より安い時期に給油量が増えると、高い時期に回収する以上の負担を強いられると予想されます。
とはいえ利用者から見ると、こうしたルールは高い時もあれば安い時もあることが前提になっており、高い時だけ高速道路側有利のルールにして、安くなると高速道路側不利の部分を見直しでは不公平にもほどがある話です。
●見直すのなら
ガソリン販売価格の高速道路と市中の価格差は、決定方法による1ヶ月のズレだけでなく、地域差による差異があります。
先に挙げた群馬や埼玉といった安値で有名なエリアに対し、運送コストがかかる地方のみならず、東京や大阪の都心部ではガソリンスタンドの地代負担もあってか概ね高めですし、大都市近郊でも神戸市やその周辺では昔から高値で有名です。
高速道路においては、こうした地域差を考慮せずに給油所を配置しており、また、夜間閉鎖や統廃合などでどうしても給油せざるを得ないエリアと言うものが存在します。
こうしたエリアがたまさか高値安定であったり、こうした需要を見込んで強気の設定をするのを防止している効果が上限価格制度にはあるのですが、高値安定の地域はどちらかと言うと少なく、かつ地方に限定される傾向にあり、利用者が多い幹線区間においては総じて高速道路のほうが高い傾向にありました。
ゆえに、利用者の多くは遠距離逓減を放棄し、ターミナルチャージを再度払わない限り、高速道路でその場所での市中よりも高いガソリンを購入するしかなかったのです。
そう考えると、価格決定の時期のズレによる価格差は中長期的には収斂するため、最終的には高速道路の損益はそれぞれの時期の給油量の差異の範囲に限定されますし、決定時期をフレキシブルにしても本質的な変化はありません。しかし一方で市中水準との価格差は常に高速道路が享受する格好になったままであり、改訂するのであれば、市中水準との地域差を縮小し、かつ給油所配置のあやによる全国平均以上の高値掴みを防止するための上限制度の併用というような、利用者にとって納得がいく改訂をすべきでしょう。
●理由がお粗末
それにしても価格上昇、下降時の乖離を縮小するという理由にしておけばまだわかるのに、今回主張してきた理由にはあいた口が塞がりません。
「給油客が増えた影響でサービスエリアが込み合い、ゆっくり休憩できないといった弊害も出ている」
確かにエリア内の通路にまではみ出して駐車が困難になっているケースもありますが、基本的には給油客はクルマに乗って給油所の行列に並んでいるだけです。そして給油所の利用台数は確かに激増していますが、いうまでもなく高速道路自体の利用台数が同様に増えているわけではないので、ゆっくり休憩できない、というのは当てはまりません。
もともと先にあげたように神戸市周辺などの市中価格が高い影響で、高速道路で給油しておこうという動きは前々から見られた行動で、山陽道の龍野西や三木といったSAの上り線では、首都圏の上りSAではあまり見られない給油所渋滞がよく見られていますが、それと休憩施設の混雑はリンクしているようには見えません。
だいたい、西日本高速道路が、「ゆっくり休憩すること」を考えているのであれば、
SAの商業化を進めて集客力を高める
、つまり中日本高速道路の東名高速海老名SAに代表されるような、商業施設は豊富で利用も桁外れに多いのに、休憩施設が満足にない、「サービスエリアが込み合い」という状態に仕向ける施策を推進することはありえないのですが、現実はオープンスペースの削減を伴いかねない
商業施設の増設を急速に進める
ことを発表しており、そもそも矛盾しています。
このような状況を見ると、高い時もあれば安い時もあるという市場原理に従った価格決定というよりも、単にガソリンの逆ザヤは嫌だという自分本位の改訂にしか見えません。
今回ターゲットになっている上限価格制度は、まさにこうした売り手市場の価格決定を防止するための制度なのです。
【2007年5月1日 補筆】
ゴールデンウィークを間近に控えた4月下旬、石油元売り各社が5月からの出荷価格を大幅に引き上げると発表しました。
各メディアもこのことを大きく報じていましたが、そうなると値上げが爬行する高速道路のSAが繁盛、と思いきや、いつの間にか高速道路各社は手を打っていました。
なんと3月17日から、
改訂を週1度土曜日に行う
としていました。
このあたり、早くフォローしろよとお叱りを受けるのは覚悟の上ですが、ノーケアでした。
確かに毎週指標は発表されていますから、指標をベースに上限価格を決めると言う面では齟齬はありません。
とはいえ昨年来の高騰局面から徐々に下がりきったところまでは月例ベースで、反転上昇局面に毎週改訂へ変更と言うのは、消費者としてはなんともいえない感情を抱かざるを得ません。
ここのところの価格推移が、急騰してしばらく高止まりしてから、徐々に下げていくと言うだけに、毎週改訂による指標への追随性の向上は、上げ局面でミスマッチを改訂する効果が大きい反面、下げ局面では月例ベースでも大きなミスマッチが発生していないことから、売り手側に有利に働くことになります。
だいたい、原価が上昇して足下の売値ではカバーできない時は無理繰りでも上げますが、原価が下がって利幅が膨らみすぎたからと言っても、手厚くなった利幅を生かして販売量を増やそうと安値攻勢をかけるGSが出てきてようやく下がるわけで、即座に下がった試しがありません。
商売だから仕方がないとは言え、構造的に消費者不利になる懸念がある「改訂」の実施に当たっての周知はどの程度だったのでしょうか。実際、原則の変更でありながら、4月中旬に高速道路を利用した際にそのような告知は目にする機会がなかったわけです。上記の通りノーケアだったわけで、報道はされていたようですが、目にした記憶がなかったのも事実です。
まあ、そこまで言っては言いがかりになってしまいかねません。原則は改訂頻度を高めることで市中価格との乖離が減って消費者の利益になるということななのでしょう。ならばもっと大々的に宣伝して良い話ですが...
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