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高速道路の新しい社会実験について
割引の拡充は利用者心理を読んだ好企画だが



2007年6月8日、道路局は 「高速道路ネットワークの更なる有効活用に向けた料金社会実験の実施について」 を発表しました。

内容は、
1.「都市部の深刻な渋滞の解消に向けた社会実験」として、首都高速、阪神高速の対距離制料金導入を踏まえた利用距離に応じて料金を変えること及び、環状道路利用の促進による都心通り抜け流動の抑制のために圏央道、アクアラインの割引。
2.「地域の活性化支援(地域が抱える慢性的な渋滞の解消等)に向けた社会実験」として、国道に並行する高速道路の利用促進を目的とした時間帯料金割引の導入及び、大都市近郊の特定の休日渋滞ポイントでの渋滞緩和を目的とした時間帯料金割引。
3.「物流の効率化(物流コストの引き下げ)に向けた社会実験」として国道の渋滞緩和や環境改善を目的とした深夜割引の時間帯拡大。
の3本から成り立っています。

これらの社会実験は、6月24日から逐次実施されることになっています。

●具体的な内容と評価
都市部の対策として、まずは阪神高速関係の対策が6月24日から実施されます。
現在東線、南線で実施している近距離割引を西線にも拡充します。まあ遅きに失したという皮肉も言いたくなりますが、やらないよりはマシでしょう。
また、新神戸トンネルと北神戸線を連続走行する場合(神戸線との乗継利用に限定されない)、150円の割引となり、新神戸トンネルの通行料金が450円相当になります。
これは六甲トンネル(200円。日中及び深夜は100円)に比べると便利だが割高感があった新神戸トンネルの利用が利用しやすくなる効果が見込めます。

ただ、相変わらず神戸長田線経由の乗り継ぎへの適用はなく、今回新神戸トンネル経由への誘導が計られたことを鑑みると、せっかく巨費を投じて建設されている神戸長田線を活用する意思があるのかどうかが疑わしいわけです。

また環状道路への誘導としては、7月開業に八王子JCT−あきる野間が完成して中央道〜関越道がつながる圏央道において、首都高4号線経由と圏央道経由の間で圏央道経由にインセンティブが働くように割引を行うそうです。
同じく首都高湾岸線や京葉道路経由とアクアライン経由で、アクア経由にインセンティブが働くような割引を行うようで、いずれも今後詳細を詰めて夏ごろの実施を行うそうです。
このあたりは具体的な対策の発表待ちですが、シフトを促すのであれば、本来都心通過が便利であってもシフトを考えるような相当大胆な割引が必要でしょう。

地域の対策としては、国道並行区間の時間帯割引については詳細を詰めて夏ごろの実施を行うそうです。
また、東名大和トンネル、中央道小仏トンネル、関越道花園IC、中国道宝塚IC付近での休日午後上りの渋滞を解消するため、時間帯、区間を限定して夜半の時間帯を割り引くことで流動のシフトを計るそうで、6月24日から実施されます。

流入ICを限定して、レジャーのクルマをシフトさせることを目的としているわけで、着眼点はいいと思います。ただ、サンデードライバーを対象とした施策において遅い時間帯へのシフトをするというのは、安全面で疑義があります。

物流対策としては、東名、東名阪、名神の到着流動において、深夜割引の時間帯を前倒し実施(23時から適用)することにより、大都市圏の早朝夜間割引(100kmまで)の適用外の区間を一般道に逃げるクルマや、料金所手前やSAで割引時間を待つクルマの解消を狙っています。
これは6月24日から実施するとともに、夏ごろからは22時台の到着は2割引とさらに拡充されます。

こちらは逆に無理して深夜帯(0時〜4時)の利用にシフトしているケース、特に疲れての帰り車への対策としては、早めの帰宅を促す効果があるため、安全面から見ても歓迎すべき施策です。
ただ、東名阪の時間帯については、亀山で流出して名阪国道を使うケースを考えると、名阪経由で関西圏到着時に効果があるような時間帯の設定が望ましかったです。

また、現在深夜割引などの時間帯割引がない本四高速において、特に「地上区間」が長い神戸淡路鳴門道でめだつ「橋だけ利用」をシフトさせるための対策を夏ごろから実施するそうです。
こちらは「見劣り」する割引内容がようやく他社並みになるということで、遅きに失した点は否めないが、やらぬよりはマシです。

●現状を見た対応だが
今回の社会実験は、利用者心理をよく見ている感もあり、かなり研究した印象を受けます。
反面、既存の制度がもたらした「歪み」の補正と言う面もあるわけで、単純な割引幅の拡大ではなく、時間帯や区間で対応した足下の割引の無理が露呈したとも言えます。

料金によるコントロールは想像以上に効いているようで、トラックの深夜割引待ちの行列もそうですし、都市部から100km未満のICにおける「乗り直し」の普及も目立ちます。
後者は一般道からのシフトを狙っているだけに「100km未満」を強調して利用を促進しており、ICによっては「XXまで97km」というようにそこからの100km未満のICを強調して利用を促していますが、一方で無用な流出、再流入も多発しており、ランプ部でのUターンなど事故につながりかねない問題も生じています。

また、盆暮れGW恒例の渋滞の時間帯が深夜帯に明らかに増えています。
これは言うまでもなく深夜割引適用へのインセンティブであり、これがいわゆるサンデードライバークラスのクルマでも深夜走行を選択するようになっていることは、ただでさえ危険な深夜帯の走行を促すと言う面では問題です。

こうした問題への対応や効果も望める今回の社会実験でどう是正されるかが興味深いです。

●割引への渇望
今回の社会実験の資料にある平成18年7月実施の内閣府アンケート「道路に関する世論調査」では、現在の料金水準に対し、51.8%の人が値下げすべきと回答しています。
一方、適正と考える人は8%、道路整備、管理のためにはやむをえない水準は21.3%であり、安いと考える人はいませんでした。

今回の社会実験の資料でも、「更なる料金引き下げを求める声」とあり、「国民からの要望が強い高速道路料金の引き下げが必要」と結ばれていることから、国としても料金値下げをまず考えているようです。

そういう今回の社会実験にも色濃く出ていた「国の姿勢」と、大幅な値上げが不可避な首都高、阪高の対距離制料金の原案はどう折り合いをつけるのか。
もはや来年度に迫った平成20年度の実施を各所で謳っていますが、まだその結論が見えません。




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