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首都高速、阪神高速の距離制料金を見る
紆余曲折の末、遂に実施に至る


1月1日スタート(本牧ふ頭)

首都高速、阪神高速の距離制料金が遂に2012年1月1日から導入されます。
この問題については、これまで発表されてきたプランが値上げ、それも半端でない大幅値上げを伴うことから、厳しく批判してきましたが、今回の「確定案」はどうでしょうか。

その意味では過去の提案に比べてかなり考えられた制度になっていることは確かであり、新制度発足当初は「値上げ」になるケースもそう大幅でないことがほとんどと言えるため、反対の声は目立っていません。
しかし、民営化で値下げになるという公約も事実上反故になったわけで、さらには値上げ、値下げの実施も地域的偏重が目立つなど、利用者の居住地、本拠によってはかなりの濃淡がでてくる結果となっています。

1月から実施の新制度の特徴と問題点を論じて見ましょう。


※写真は2008年5月、2010年7月、2011年4月、5月、11月、12月撮影


●見逃していた決定
2011年11月に入り、各メディアが決定事項として報じた首都高速、阪神高速の距離制導入。確か景気対策として凍結されていたはずであり、震災の影響もありお蔵入りとばかり思っていただけに、2月後の2012年1月からの実施という報道は不意打ちの感がありました。
※阪高は京都線を除く。京都線における制度変更はない。

これだけのニュース、道路局や首都高、阪高会社がきちんとリリースしているかと思うとさにあらずで、しかしメディアの飛ばしにしては内容が揃っているうえに具体的過ぎます。
いったい何が、そしてどういう内容なんだ、と思ううちにようやく気がついたのです。

2011年2月16日に国土交通省は「高速道路の当面の新たな料金割引について」という文書をリリースしていました。ここにしっかり書いてあったのです。今回の距離制の骨子が。
しかしこのリリースはいわゆる「1000円高速」を拡大した「2000円高速」の部分があまりにも目立っており、もっぱらその内容だけが一人歩きしていました。

私も当時このリリースを見たはずですが、やはり「2000円高速」への改組にだけ目が行っていたようで、2月20日に「理念なき『無料化社会実験』の継続」と題した記事をアップしています。
お恥ずかしいことに、当該記事はなかなかアップできていなかった無料化実験の総括がメインで、「2000円高速」は刺身のツマ程度と、一体リリースのどこを見てるんだ、という感じでした。

まあおそらく見てたんでしょう。しかし、まずNEXCO各社に関しての論をアップした後、非常に多忙な毎日だったわけで、3月に入ると出張の連続でそのまま出張先で震災を迎えるという状態で、吹っ飛んでしまったようです。

のっけから私事というか言い訳で恐縮ですが、そういう状況で今回のリリースを迎えたのです。

●かつては極悪な案だった
2007年9月に両社が発表した距離制料金案については、拙記事でも批判しましたが、2008年度からの導入予定だったものがリーマンショックによる景気のクラッシュで凍結されたのです。

当時の案は上限料金こそ設定されていましたが首都高東京区間と阪高阪神東線で1200円と値上げ幅が大きく、かつ首都高で東京、神奈川、埼玉の、阪高で東、西、南の料金区界を温存したため、ターミナルチャージ(初乗り)を二重三重に払った挙句にそれぞれの区界内も大幅値上げと、論外の極みでした。

距離制料金導入時の「毛ばり」である値下げのほうも渋く、400円どまり(埼玉区間は300円)と、値上げ側がMAX500円の値上げに対し、値下げが300円という不均衡では利用者も納得しません。
さらにこうした距離別の料金が適用されるのはETC車のみで、現金車は上限料金適用とあっては、いかに1割程度の少数派であってもいかがなものかという値上げになります。

それでもリーマンショックがなければ強行するつもりだったのかもしれませんが、ユーザーのみならず運送業者などの業界団体、沿線自治体の批判も強く、値上げに必要な沿線自治体議会の承認が取れる見通しはなかったわけで、リーマンショックは延期させられた恨み節というよりも、体よく矛を収められたきっかけとも言えそうです。

●かなり穏当な値上げ案
その時の反発を考えたのでしょう。2月16日発表の距離制料金案はかなり穏当な内容でした。
まず前回案で絶大なブーイングを浴びた料金区界が撤廃され、現行料金区界をまたいでも距離を通算して計算するルールとなりました。

上限料金も900円と、首都高東京区間と阪高阪神東線で現行比200円の値上げとなり、上げ幅のMAXは阪高阪神西線の北神戸線が絡む区間で現行の500円から900円となる区間となっています。
現金車の上限料金均一は不変ですが、首都高東京区間などでは200円の値上げにとどまっており、さらには料金区界の撤廃で値下げの恩恵も受けられるということで、前回のような激しい批判は聞こえてきません。

またベースとなる首都高東京区間と阪高阪神東線の基本的な考え方として、放射区間から環状線までは現状維持となるような割引制度がETC車限定ですが導入されており、距離を稼ぐ通り抜け利用だけが値上げになるため、不満を相当抑えた格好になっています。

さらに遠距離利用のうち料金区界を跨ぐ利用は大幅な割引になるため、賛否相半ばと言うか、賛成の声のほうが強くなる傾向すら見られました。

遂に実施(空港中央)


●それなりに考えた対応
料金区界が撤廃されることで、料金の徴収パターンが変わります。ETC車はフリーフローセンサーで把握するから既設料金所の有無は関係ないのですが、現金車が厄介です。
つまり、それぞれの料金圏での支払が不要になるため、料金区界通過後に現れる本線料金所もまた不要になるはずですが、一部ランプからの利用は本線料金所での徴収を前提に料金所が設置されていません。(大井本線、平和島本線で徴収することを前提にした空港中央、羽田、空港西といったパターン)

ですから本線料金所を廃止するとそういったランプから乗ると「ただ乗り」になってしまいます。
もちろんこの対策は打ってあるわけですが、それは何と本線料金所の温存でした。
昔あった高速道路の「検札」じゃないですが、現金車のお相伴の格好でETCレーンを通過するのです。

ETC車は既に支払ったか、入口料金所のないランプからのクルマで徴収対象かを機械が判定してくれますが、現金車はどうするか、というと、最初に料金を支払った料金所でもらう領収書が「通行券」を兼ねるのです。

これにはQRコードが印刷されており、二度目以降に現れる料金所でこの領収書を提示することで、支払済であるかどうかを確認するのです。流動によっては2回提示することになりますが、ベタだが確実な方法といえます。
なお二度目以降に現れる料金所は本線料金所だけとは限らず、本線料金所手前の出口料金所も含まれますから注意が必要です。

なお、料金区界の先にある本線料金所で、入口料金所のないランプからの流入を考慮する必要のない浮島本線料金所に限っては、こうした措置は行わず、車両は通過してよいことになっています。

浮島本線

一方で阪高特有の乗継制度についてはそのままですが、せっかく領収書が通行券を兼ねるというのに、これで乗継券も兼ねることにはならず、別途従来通り乗継券をもらう必要があります。

ただしややこしいことに神戸地区で唯一残った湾岸線−神戸線の乗継の場合(住吉浜・六甲アイランド北−摩耶・京橋)、入口、本線料金所で乗継券を配布していた東行きは領収書兼通行証となる通行券が乗継券になり、乗継券を別途発行しません。ところが西行きは出口ブースで乗継券を発行するため、大阪地区と同じ扱いになりますが、往復で取扱が異なることから混乱が多発しそうです。
(さらに言えば魚崎浜からの西行きは入口料金所での発行のため東行きと同じ扱いのはずですが、サイトではどちらになるかの説明がない)

●しかし落とし穴も
ただし今回の改訂には当然落とし穴もあります。
実は並行して導入された各種の割引は本則ではなく期間限定なのです。本則のみになると放射区間から環状部まで700円で済まないケースも出てきます。

さらには特定区間の廃止。特定区間には2種類あって、料金区界に接続した短距離区間と、放射路線の末端がありますが、前者は料金区界の撤廃で存在意義がなくなるので廃止も理解できますが、後者は単なる値上げです。

さすがに救済措置が設けられましたが、ETC車限定というのは現行の末端部での特定区間もETC車限定のケースがあるわけで、一概に批判は出来ませんが、その内容は渋くなっています。
ただし合わせ技で現行水準並みにしようとはしており、会社間乗継割引と称して、NEXCOの高速道路、有料道路に連続走行した場合、所定の短距離区間が100円引きとなることで、近距離の割高感を払拭しようとしています。

また、放射路線では、現金車を対象に、その入口から入って最遠の距離が上限料金の距離に達しない場合、最遠の距離の料金にするというルールも導入されましたが、さすがにこれは当然でしょう。走れない距離の料金を取ったらやらずぼったくりです。

さらに、これまで土休日(首都高は休日のみ)に実施されていたETC車2割引や、深夜割引、阪高では湾岸線連続走行割引などの既存割引が、環境ロードプライシング割引を除いて全廃となります。
そのため、700円で変わらず、と思いきや、実は560円から700円への値上げになりますし、都心通り抜けだと560円から900円と1.6倍の値上げです。
料金区界を跨ぐ利用でも、首都高の東京区間と神奈川区間の連続走行の場合、本則だと1300円が900円と大幅値下げですが、休日は1040円が900円と13%の値下げに過ぎず、意外な結果になります。

また阪高は2012年4月1日から京都線を除いてETCマイレージの新規ポイント付与を停止し、事実上マイレージから脱退します。還元額走行は今後も可能ですが、その理由が「より利用しやすく分かりやすい割引制度を目指して、割引制度全般について見直しを行っております」とあるわけで、今回の距離制料金導入をどうも「割引」と捉えているのでしょうか。
※1回の利用で100円あたり3ポイントの基本ポイントは京都線のみで計算だが、利用金額に比例する加算ポイントの土台となる月間利用金額は従来通り阪高全体の利用で計算し、そのポイントを全体に占める京都線の利用額で按分するため、阪高阪神区間の利用がマイレージに全く影響しないわけではない。

マイレージに加盟していない首都高も独自の「お得意様割引」を廃止するため、両高速における一般利用者向けの多頻度割引は消滅します。こうした細かい「値上げ」とあわせると、値下げ効果はかなり限定的になります。

●分かりづらさはてんこ盛り
朝三暮四の諺じゃないですが、複雑に制度を改訂することで一見お得に見えて、実はさっぱりであり、事業者が収益を上げていたということもあるのでしょうか。

少なくとも各種割引のようにルールが細かすぎてわかりにくいのでは、取り敢えず走ってみないと判らないわけで、損しているのでは、というモヤモヤ感を利用者に与えます。

ぱっと見では理解できない「分かりづらい」ものというと、例えば、

◆放射道路端末区間割引は実は2種類あり、放射側の路線から都心環状線内までが現行の700円を上限にするルールと、放射側の最末端に近い特定ランプ(JCT、分界点)から18km超の区間において、100円ないし200円割り引かれるルールがある。
後者は、例えば千鳥町から入り、18km超30km以下の利用において100円引きとなるもの。都心環状線を超えて外苑が100円引きとか、都心が全く絡まない中央環状線扇大橋や三郷線八潮でも対象になる。

◆中央環状線迂回利用割引は、放射路線相互で、中央環状線を経由して、都心環状線経由よりも遠くなる区間でしか適用されない。ただし放射路線に湾岸線横浜方面は入らない。(3、4、5、S5、S2、S1、6のC2以遠、Bの葛西以東の相互間でC2を経由し、C1経由より距離が長くなる場合)

◆羽田空港割引は、東側からだと空港中央より空港西のほうが近いという0.8kmのおまけが大半だが、神奈川方面からだと湾岸環八、空港中央よりも羽田のほうが近いという大幅なおまけになる。(大師−羽田:1.5km、浮島−空港中央4.3km。横羽線経由大師<湾岸線経由浮島という箇所だと効き代がかなり大きい)

◆現金客用に、入口から行ける最遠が900円に達しない料金所から利用に関しては、その最遠までの料金に割り引くが、錦糸町の上り出口料金所では適用がない。(下り入口は対象。上下とも走れる区間は一緒)

◆KK線経由が料金計算経路になるのは八重洲、常盤橋利用時のみ。その場合KK線区間は距離に算入せず。

というような複雑で、かつちょっと変な部分を含んでいますが、それを完全に理解できる人が一体どれくらいいるんでしょうね。

●今回の問題点
まず基本的に値下げにならないエリアが出ていることでしょう。

阪高阪神西線、南線は現行料金が500円です。距離制の最も安いレートが500円ですから、会社間乗継割引を考慮しなければ、スタートが現状維持であとは上がるだけという状態です。
さすがにそれで各種割引も整理というわけには行かないと悟ったのか、西線内では500円となる6kmを超えても100円引きとすることで、12kmまで現行通りの500円、それ以上も600円に乗継割引を利かせれば現状維持としていますが、北神戸線を中心に値上げ区間が増えますし、値下げには縁遠いです。

特定区間の廃止も厄介で、阪高ではかなりの区間を残したんですが、もっとも使われていると思われる武庫川・名神西宮・西宮−芦屋の特定区間(200円)を廃止しました。
阪神東線との料金区界であり、料金区界が撤廃されれば意味が無い、と思うでしょうが、ここの利用の多くが阪神東線ではなく名神に入るのです。

つまり、特定区間だけ利用していたわけで、これが廃止となることで、現行の200円が現金900円、ETC400円(乗継割引込み)となるのです。

同様の問題が南線との料金区界でも発生しており、料金区界となる助松JCTを挟んで存在する高石特定の200円、泉大津特定の150円が廃止になることで、堺泉北道路からの連続走行において名神西宮−芦屋と同様の大幅値上げが発生します。
しかもここには乗継割引の設定が無いことからETC車は500円となります。

芦屋の出口料金所(2008年の集中工事時)

この乗継割引も曲者で、直接NEXCOの高速道路、有料道路に入ると適用になりますが、その間に無料区間があると適用外になるのです。
端的にいえば、狩場線の狩場から横浜横須賀道路への乗り継ぎで、横須賀方面は適用になりますが、新保土ヶ谷方面は適用になりません。これは保土ヶ谷バイパスとの連続走行が対象外ということですが、どう見ても自動車専用道の連続走行である横浜新道との間では適用がありません。

一方で京葉道路の市川−篠崎・谷河内間は無料ですが適用がありますし、第二神明の伊川谷−玉津も同じく無料ですが適用があるようです。阪和道の松原JCT−松原も実は400円の料金設定がありますが(均一区間は500円)、無人のお布施箱がおいてあるだけで事実上料金徴収をしていませんが、これも適用です。

距離の計算にも問題があります。
本来両方向の出入りが出来るべきところ、用地などの関係でハーフランプになっていたり、一方通行になるようなケースも均一料金だったからこそ許されたわけで、区間距離に応じて料金が変わるとなると、事業者の都合で大回りをして距離を費やすことは即利用者の支出増になるからです。

この点は首都高が優れており、最短での計算を明言しています。もちろん都心を迂回する中央環状線経由の割引もありますが、計算上は最短で、それに係る割引判定を経路上のフリーフローセンサーで判断するようです。
ちょっと鷹揚なのはハーフランプとの行き来で、大回りしないといけない区間は律儀に大回りで計算しているのは当然として、片方だけ可能なルートがある場合、その料金で往復とも使えることになっています。

典型例が臨海副都心ランプで、ここから入って東京都心方向は大井連絡線経由で、その逆は横羽線→大黒線→湾岸線が最短となりますが、大井連絡線経由で計算されています。
なお1周利用に対する料金設定や、中央環状線経由割引の設定などを見ると、相当箇所に経路把握目的のセンサーが設置されているようです。ただし迂回時は最短で計算と言うルールと、折り返し利用に対する料金設定が最短距離での単純加算であることを見ると、一筆書きであるといった細かい条件はないようです。

一方の阪高は問題で、一方通行の環状線経由は往復の平均距離としています。環状線内発着が実際の走行距離なのに、通過は平均というのも厄介で、池田線→守口線の場合、環状線通過はわずかなのに、逆方向で最短となる東船場〜西船場経由の距離との平均となるわけで、この加算で6kmの刻みを超えたら目も当てられません。

実際の走行距離としても、一方通行で作って勝手に大回りをさせて料金はがっぽりかよ、という話になるわけで、ここは首都高同様、可能な走行方向があればその最短で両方向の料金とするべきです。

阪高環状線


●先例はあった
フリーフローセンサーに依存した走行区間把握については、距離制導入をにらんだ首都高、阪高におけるこれまでの社会実験でも実施されてきましたが、それが本番運用となるためにはまだハードルが多いと感じたものです。

しかし2011年3月開通の名二環(東名阪均一区間)において採用された料金体系はまさに今回の基本コンセプトと一緒であり、従来の均一区間における距離制導入の先例といえます。
その名二環の料金体系ですが、それまで東名阪道の均一区間として存在していた高針JCT−名古屋西JCTにつき、高針JCT−名古屋南JCTまで開通したのに伴い、これまで普通車で500円だったものが、30km超は600円と2段階になったのです。

ここは単純な1路線ですから、現金車も入口料金所から30km以上走れる料金所は600円、それ以外は500円としており、30km以上走れる料金所から現金車が30km以内を走行した場合には損をしますが、まあ100円であり、あまり問題視はされていませんが、これにより現金車は上限看做し徴収という先例になったといえます。

名二環(上社南)

一方で別のやり方も模索していたようで、2010年3月全線開通の第二京阪においては、枚方東(厳密には京田辺本線)までの既存区間は対距離制だったのに、新規開通区間は均一制となり、さらに料金区界が存在するため、全線で3つのグループになっていました。

ところが均一区間BとCの境界である交野南には本線料金所を置かず、ETC車はフリーフローセンサーで判定し、現金車は料金徴収方法の組み合わせで対応し、対応しきれない区間は入口証明券を発行して対応していました。
(下り線は京田辺側のB区間は入口料金所、門真側のC区間は出口料金所とし、それぞれの区間内走行は料金所を1回通過、またがり利用は2回通過することでそれぞれの料金を支払う。上り線は総て出口料金所で、B区間の入口で入口証明券を発行し、それがないとB、C2区間分、あるとB区間分のみの支払。下り線のように門真に本線料金所を置けばC区間を入口料金所にすることで下り線と同じになったのだが...)

第二京阪(第二京阪門真)

これだと料金区界を温存した対応も出来そうですが、料金所が入口しかない、出口しかないという首都高、阪高においては適用は困難でしょうか。
なお、入口証明券を使って別体系の料金を徴収しているケースとしては、京葉道路の下り船橋本線料金所があり、料金所手前の船橋ICからの車両に証明券を発行し、本来200円の料金を100円にしています。

●問題はこれだけではない
というか、深刻な問題が残っています。
この手の料金制度は複雑化すればするほど制度の「穴」を突いた「抜け道」「裏技」が出てくるわけです。ETCの通勤割引や深夜割引を「活用」するための100km以内のICでの乗り直しなどはその際たる例ですが、被災地支援の制度でもそれが活用と言うか悪用されていたことは記憶に新しいところです。

このように制度のバグを突いた「裏技」ならまだしも、今回の新制度は「不正」が横行する可能性が高いのです。
本来不正の具体的手法を開示することは憚られますが、不正の横行による不利益を防止するために敢えて書くことで事業者による対策を促しましょう。

まず想定されるのが領収書が通行券を兼ねることによる不正です。
基本的に出口料金所がない首都高や阪高では通行券は回収されません。とはいえ入口料金所は既発行の通行券では通過できませんから無問題、と言いたいところですが、料金区界付近に存在する入口料金所のないランプの存在が問題になるのです。

同じクルマが「途中下車」するケースと、通行券を交換するケースの2つが考えられますが、どう対応するのか。かつて高速道路の上下共有型のSA(東名富士川、東名浜名湖)で通行券を交換する不正が横行し、その対策で豊橋に検札所が設けられた歴史もあるわけで、「単独犯」だけでなく「仲間ぐるみ」、果ては「会社ぐるみ」も考えられるだけにどうするのか。

特に問題になるランプが羽田周辺に集中していることから、不正は出来るがそこに行くのが大変、というのではなく、目的意識を持った利用者による不正というケースが出てくる可能性が高く、一歩間違えたらザルのような料金徴収となりかねません。
通行券は時間制限があるとはいえ、特に羽田近辺だと短時間の利用でも目的を果たせる可能性が高いのです。

なおETC車の場合は、首都高のサイトでの説明で、みなとみらい→臨海副都心の走行で、多摩川トンネル通過後のフリーフローセンサーに把握されない場合は料金を2度徴収するとあり、どうやら料金区界での「乗り直し」が可能なランプ間で、ここを通過しないと連続走行にならない箇所にセンサーが設けられ、ここの通過を記録したもののみ1回の走行と看做すようです。(湾岸線は多摩川トンネルとあるが、横羽線は羽田ランプ間、埼玉大宮線は美女木JCT間か)ですから乗り直しはできない可能性が高いです。

●料金把握の確実性と周知の問題
首都高会社側は各種の割引制度適用判断があるので、ETCカードの抜き差しをしないように訴えていますが、NEXCO側のマイレージと使い分けると言った顧客ニーズもあるわけで、特に他社線直通や起終点でのフリーフローセンサーの位置情報を正確に開示すべきでしょう。

現在は突然現れる「ここから首都高」の看板に併設されていることも多いですが、それを見て挿入して作動が開始するタイミングを考慮した位置に設置することが望ましいですが、いまさら無理であれば、「Xkm先、本線ETCセンサーあり」「XXXm先、入口(出口)ETCセンサーあり」と言う案内看板が必要です。

同様の問題は阪高でも起こりますが、こちらも17号西大阪線とR43の高架道路とか、12号守口線とR1の高架道路とか、3号神戸線と第二神明のように分界点が素人目にはわかりにくいケースも多く、ETCカードの未挿入などによるトラブル(特に慌てて挿入しようとして減速するといったケース)も懸念されます。

フリーフローセンサー(生田川)

また、気がかりなのはフリーフローセンサーが反応しなかったといったトラブル。これで料金を掠め取られてしまってはたまりませんが、やられたかも?と思ってもアピールのしようがないのです。
トラブル時にはお客様センターへ申し出てください、とありますが、カード会社から請求が来て過重徴収に気がついても、時間が経った段階での申請に答えてもらえるのか、

いちばん多そうなのは入口料金所のない箇所でフリーフローセンサーに把握されず、本線料金所に至った場合や、旧料金区界出のセンサーに把握されなかったケースです。
いったん最高額を徴収し、あとでお客様センターへ、ということですが、それこそ数百円なら面倒くさい、という「債権放棄」を期待しているのでは、と邪推したくもなります。

●これが限界か
今回割を食ったのは阪高の阪神西線区間でしょう。現状料金=新料金の最低水準では良くて現状維持ですから値上げ以外の何物でもありません。阪神南線区間や首都高の神奈川、埼玉と違い、エリア内で完結する流動が多いとみられるだけに、料金区界の撤廃という「値下げの目玉」が不発に終わる利用者も多いですし。

ただ事業者側の立場で見れば、民営化議論をしていた当時から、阪高は北神戸線、神戸山手線の延伸、開通があり、首都高も中央環状線の延伸がありました。
建設コストの正しい転嫁という意味ではその段階で値上げがあってもおかしくないですし、実際当時の両公団は値上げを申請する意思を見せたのですが、「民営化すれば高速道路が値下げされる」と毛ばりを振りかざしていた当時の民営化推進委が反対し、値上げはお蔵入りになった経緯があります。

そういう意味では収支構造が不均衡な状態が継続しているわけで、民間企業として健全な経営基盤を築くのであれば、若干の値上げを織り込むことは必要悪といえます。
そもそも民営化が俎上に上った段階の「基本的枠組」で首都高、阪高は距離制料金を導入することを前提にしていましたから予定の行動でしたが、その当初から見れば今回の新制度はかなり「穏当」なものといえます。

私自身この問題は折に触れ批判してきましたが、一方で、ゾーン制程度の段階的な料金は落としどころとして認識していました。
そういう意味では今回の制度は、ほぼ放射区間、放射〜環状、放射相互の3段階になり、放射〜環状までは現状維持以下という水準ですから、妥当な水準とも言えるわけですし、これ以上の距離比例は無理でしょう。

ただ、この程度であれば、全線100円値上げで料金区界撤廃、全線均一としても収益面ではあまり変わらないとも言えるわけで、複雑な割に利用者も事業者も誰も得をしないのかもしれません。

箱崎JCT


●影響はどうなる
様々な問題はありますが、では実際に実施される新年以降はどうなるのでしょうか。

まず既に懸念されているのが保土ヶ谷バイパスの交通量激増です。
現在でも千葉方面から東名へのアクセスに混み合う都心を避けて空いている湾岸線から狩場線を経て保土ヶ谷バイパス経由で横浜町田ICというルートをとる人は多いですが、今回の改訂で用賀も狩場も同じ料金となれば、保土ヶ谷バイパスが無料なので、目的地から横浜町田ICと東京ICの料金差だけ狩場経由がお得になります。(御殿場や沼津で600円の差、名古屋でも450円の差)

保土ヶ谷バイパスは横浜町田IC直結路が出来てかなり混雑が緩和されましたが、これでもとの木阿弥の可能性があります。ただうまく行けば用賀付近から3号線の混雑軽減とセットになって一長一短かもしれませんが。

阪高ではやはり芦屋−名神西宮の流動が総崩れになる懸念。R43の負荷が相当高くなりそうです。
あとは大阪都心と第二神明間の料金が現状の1200円から900円になることから、姫路以遠への流動が阪高経由になることで、阪高に加えて第二神明、加古川バイパスなどのバイパス群の負荷が高まる懸念があります。

このあたりは尼崎や西淀川の公害訴訟とも絡む話になりますが、値上げを嫌ってR43などに降りてくるクルマの増大に、通り抜けが安くなることで山陽道などから阪高神戸線に移行してくるクルマの増大と、沿線の環境負荷が高まることは指摘すべき事象でしょう。

並行する一般道への移行については、各種割引(ただし暫定対策だが)もあり、1つ手前で降りれば節約、という局面は少ないようです。それでもR357やR122など比較的流れる並行道路への移行は出てくるでしょう。

逆にプラスの効果としては、まず埼玉区間の利用増加とR17進大宮バイパスの負荷軽減への期待があります。また神奈川区間絡みでは大師橋と大師河原交差点あたりの産業道路の負荷軽減もあるでしょう。
これは羽田や大師(特定区間)までで降りていた流動が横羽線まで乗り進むと見るからです。

湾岸線千鳥町


●間もなくスタートだが
間もなく1月1日0時からスタートする新制度、今回確実に得をするのは神奈川方面でしょう。
料金区界撤廃で浮島、羽田以遠への走行が安くなりますし、上記の羽田空港割引も神奈川側からの利用においてメリットが際立ちます。
首都高、阪高を通じてこれだけのメリットを受けるエリアはありません。

このあたりは千葉県側にいて、今回多くのケースで値上げになるが故の僻みかもしれませんが、これまでが均一制の恩恵をフルに受けてきただろと言われそうですが、だとしてもこれまでは公平に放射区間の末端なら受けてきたメリットが、今回は特定のエリアに出来するのでは、やはり穏やかならぬ感情を抱きたくもなります。

基本的には穏当な制度という評価をすべき内容であり、千葉方面でも神奈川方面への行き来では料金区界撤廃の恩恵を受けるので、今回の新制度はまあ素直に受け入れることにつき吝かでない内容です。(神戸時代だと芦屋−名神西宮の値上げは我慢ならなかったでしょうが)
世論も概ね同様の評価なのか、自治体や業界団体も含めて大仰な反対論は聞こえてきません。

そう、これまでの紆余曲折を鑑みると、この程度の制度に収まった事は歓迎すべきことかもしれません。
あとは不正などの問題が利用者に不公平感を感じさせないように解決することでしょうか。間違っても正当な利用者の利便性を落とす形で不正対策をしました、ということが無いことを祈りたいです。










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