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「西神自動車道」はなぜ空いているのか
影の薄い「メインルート」を見る


エル・アルコン  2008年1月30日

計画中はこのように呼ばれていたことも(道の駅山崎)



※この作品は「交通総合フォーラム」とのシェアコンテンツです。


世界最長の吊橋である明石海峡大橋。淡路島を縦断し四国徳島に抜ける淡路側のルートに対し、その本州側のアプローチ区間はけっこう複雑です。
明石海峡大橋を含む本四高速管轄部分の総称が「神戸淡路鳴門自動車道」であり、そのルートは明石海峡大橋から垂水JCT、布施畑ICを経て神戸西ICまで続き、その先山陽自動車道と名前を改め、山陽自動車道本線と三木JCTで合流していることから、三木JCTまでの区間が「メインアプローチ」ということでしょうか。

しかし、地図で見るとなぜ三木JCTから神戸西ICまでの1区間が山陽自動車道としてNEXCO西日本管轄なのか。瀬戸中央自動車道(瀬戸大橋)も山陽道の倉敷JCTから分かれて早島ICまでの1区間だけ山陽道に属しており(坂出側も坂出JCTから坂出ICまでの1区間だけ高松自動車道に属している)、旧道路公団管轄はJCTが各自動車道の起終点になっているのに、公団(会社)をまたぐケースはIC単位になるという内規でもあるのでしょうか。

そうした「枝線」である三木JCT−神戸西ICの区間。「メインアプローチ」にしては影が薄く、利用もイマイチですが、西神自動車道というあまり馴染みのない名前もあるのです。

●「西神自動車道」
神戸西ICまでの区間に加え、神戸淡路鳴門道の「陸上区間」(神戸西IC−垂水JCT)も含めてこう呼ばれることがあるようですが、公式な案内には一切でてきません。
では俗称かというとさにあらずで、 阪神国道事務所 によると、三木JCT−垂水JCTの別名として公式に定義しています。

実際にはそのうち神戸西IC−垂水JCTが阪神国道工事事務所の直轄事業として施工され、本四公団に移管されたことから、神戸西ICを挟んで当時の道路公団と本四公団に分かれ、北側は山陽道、南側は神戸淡路鳴門道と分かれて、民営化後はNEXCO西日本と本四高速のそれぞれの管轄になっています。

まもなく三木JCT


●明石海峡大橋本州側アプローチの複雑
重要航路である明石海峡の航路を支障しないため、また、中央径間長1991mの世界最長の吊橋を成立させるため、海面高82mを確保したことから、本州側、淡路側ともに橋の端部の標高が高いです。道なりに進んで丘の上に淡路ICを設けた淡路側と異なり、本州側は開発が進んでいることもあり、舞子駅上部で陸上に入ると、そのまま背後の丘陵を全長3200mあまりの舞子トンネルでくぐることになります。

そのため海岸を走るR2などとのアプローチは一切なく、さらに高丸付近で交差する第二神明道路とのアプローチもなく、かなり内陸に入った地点に垂水JCTを設けました。
そのため既存の道路網との接続が苦しく、そのまま「西神道」を直進するルートのほか、第二神明との接続を目的とした道路が用意されましたが、これが垂水JCTから西側姫路方面は第二神明道路北線、東側神戸方面は阪神高速5号湾岸線と分かれています。

神戸方面は阪神高速で、名谷JCTで第二神明と会社も変わるのですが、阪神高速はこの区間の料金を徴収しておらず、第二神明だけの料金で利用できます。姫路方面も永井谷JCTで阪神高速7号北神戸線に合流し、次の伊川谷JCTで第二神明にもどりますが、こちらもこの区間だけの利用の場合、阪神高速の料金は徴収されません。
とはいえ事業者や道路名称がコロコロ替わり、かつ垂水JCT経由で従来の第二神明をバイパスする利用も可能なため、路線網が頭に入っていない限り混乱を招く感じです。

さらに北神戸線の箕谷、西宮山口方面は第二神明北線経由ではなく(永井谷JCTは伊川谷方面のハーフJCT)、「西神道」を1区間布施畑ICまで進み、北神戸線に入ることになりますが、2つの本線が鋭角に交わる(明石海峡大橋−阪高湾岸線方面は鋭角に戻る格好)複雑なJCTはランプ路がトグロを巻いており、回るうちに正面に現れる料金所に入り間違うととんでもない方向に行ってしまうだけに、不案内な人にとっては難所です。

そして淡路島に向かう場合、まだ海も見えない内陸部が最終JCTとなるため、「西神道」から来るとJCT手前に(本線のため料金所がない)「注意!! この分岐、過ぎたら次は 淡路島」、また、各線から神戸淡路鳴門道に入る料金所のうえに、「注意!! 次の出口は淡路島」という表示があるのがユニークです。

次は淡路島...


●利用の太宗は
関西圏から淡路島、四国へ向かう流動がメインです。
となると、まず一大拠点である神戸市、そして関西の中心である大阪への流動がメインとなります。

垂水JCTまでいったん引っ込むものの、そこからのルートは名谷JCTから第二神明、阪神高速3号神戸線というのが素直な選択であり、実際の流動も多くがそれに乗った格好です。
一方第二神明北線経由だと、北線にある長坂ICはともかく、実質次の出口は第二神明玉津ICというわけで、「明石」海峡大橋といいながら、明石市の中心街にアプローチするのも大回りです。

では残る「西神道」はどうなのか。
布施畑から北神戸線、また三木JCTまで進み山陽道という流動であり、山陽道は神戸JCTで中国道に合流しますから、中国池田IC方面から大阪市内、また中部関東方面へのアプローチルートになるわけで、広域流動を担う本四道路の「メインアプローチ」と擬するに足るものです。

●しかし実際は
しかし「西神道」の実態はどうかというと、空いてるわけです。
2005年交通センサスの数字だと三木JCT−神戸西IC間の平日24時間で8183台。三木JCTを挟む山陽道「本線」の1/4以下です。これは岡山道クラスであり、4車線の堂々たる高速道路が泣きますが、それより少ない米子道が対面通行で捌き切れず4車線化が進んでいるだけに、数字だけでは語れませんが、特に渋滞の声を聞かない4車線の山陽道「本線」区間の半分どころか1/4では、「現状での」スペックが非常に過剰であるという批判は免れ得ないでしょう。

実際、この区間を利用すると土日ではありますがいつ走っても空いており、前後にクルマを見ないこともしばしばであり、どうしてこのルートが、という疑問を禁じ得ません。
上記の阪神国道事務所のサイトによると、明石海峡大橋のアクセス機能もさることながら、神戸市西部における南北方向の道路整備の遅れへの対応という面があるわけで、ローカルの高規格道を幹線に組み込む形で具現化した格好であり、そのあたりの無理が出たのでしょうか。

垂水から見た明石海峡大橋


●なぜ利用されないか
垂水JCTをベースにしてみると、神戸市内はもちろん、大阪市内に関しても三木JCT経由は相当な大回りです。一方で阪高神戸線ルートは、阪高5号湾岸線に乗り継いで大阪南部に向かうケースはさておき、都市高速に西宮ICで終わる名神高速からの通過流動を第二神明につなぐ広域流動まで担っており、渋滞が慢性化するとともに、尼崎市内では公害問題が顕著で、訴訟の和解条件として交通量の削減を図ることになっています。

そういう事情も汲んでの「西神道」ルートですが、なかなか転移しません。高速バスも京都系統が利用する程度です。(名古屋や東京系統はもちろん利用する)
その理由を考えた時、まず第一に挙がるのが、山陽道からつながる中国道の渋滞。宝塚東、宝塚西トンネルを先頭とする渋滞は関西随一であり、トップシーズンの休日午後はその渋滞は20km以上伸びることも珍しくありません。

逆に神戸線ルートは、ETC車の増加でこれまで恒常的に発生していた第二神明須磨本線料金所の渋滞がほぼ消滅したこともあり、深江付近を先頭とする10km超の渋滞はありますが、名神に入ると渋滞はほぼないこともあり、宝塚トンネルのことを考えたらかえって早いくらいです。
大回りして阪高よりひどい渋滞にはまるのでは利用されないのも頷けます。

さらに、明石海峡大橋へのアプローチだけでなく、神戸市内から山陽道(姫路、岡山方面)へのアプローチとしても期待できる道ですが、こちらは第二神明から加古川バイパス、姫路バイパス、太子龍野バイパス、姫路西バイパスなどを使い、第二神明以外は無料の自動車専用道路のみで山陽道山陽姫路西ICに至れることもあり、第二神明須磨料金所を出ると、あとは100円しかかからないバイパス経由に対し、西神道経由は勝負以前の問題です。

また、山陽道を使うにしても、神戸市東部、阪神間からは、六甲トンネル、六甲北有料道路経由で神戸北ICに出るルートもあり、新神戸トンネルから北神戸線経由で六甲北有料道路にもつながることから、以前の恒常的な渋滞はほぼ解消したとはいえ、交通量が多い第二神明須磨本線料金所を敢えて使わないクルマも多いです。

垂水JCT


●今は雌伏のときか
とはいえ広域流動にとってこのルートを推す理由があるわけです。
民営化の議論の中で、「建設抑制」の政治決着のシンボルのようになった第二名神(新名神)の高槻JCT(仮称)−神戸JCT区間。吹田から宝塚を完全にパスして山陽道に直結するこのルートが完成すれば、積年の恨みとも言える宝塚トンネルの渋滞から解放されるはずでした。

新名神の各区間でも利用者からは非常に要望が高かった区間が「凍結」されたことは大きな失望感を呼びましたが、これが出来ていれば、広域流動はもちろん、大阪府からの流動も「渋滞知らずの」山陽道〜「西神道」経由にかなり転移が見込まれることはいうまでもないでしょう。いや、新名神が完成したことで出来上がる高速道路ネットワークとして見れば、ここがメインアプローチになることは必然ともいえます。

今はお茶を挽いている「西神道」も、新名神の計画とセットで考えたら、「メインアプローチ」にふさわしい位置関係であることが分かるのです。そう考えたら、この位置にこの道路というのは決して無用でも無駄でもないといえます。
その本来はその機能を十二分に発揮するはずの高速道路ですが、妙な政治決着が慢性渋滞区間の改善のみならず殺しているのです。

●なんとかするとしたら
とはいえ「凍結」の解除を待つというのはあまりにも知恵がない話です。

ではどうしたら良いか。対大阪では宝塚トンネル問題がある限り誘導の実は上がるとは思えません。ただ、神戸線などのアドバンテージを支えている理由のひとつが阪高の均一料金であり、距離別料金制度に移行した時点でそのアドバンテージがかなり縮小する可能性はありますが、高いほうへ収斂する形での裁定への期待は利用者として受け入れられないものであり、距離別料金による値上げは縮小する反面、「西神道」ルートを「値下げ」することである程度の効果を挙げる方向を促すべきでしょう。

一方で神戸方面から姫路以西という流動に関しては改善の余地があると見ます。
時間を最優先する高速バスを見ると、神戸から山陽道を行くバスの多くは手近なICから山陽道に入っており、第二神明経由で通行料金を浮かすということはしていません。
速さという点では絶対的なアドバンテージを持っていながら、なかなか使われないルートを活性化するには、やはり料金政策でしょう。

現在宝塚トンネル対策で実施されている宝塚IC以東の主要ICと中国、山陽、舞鶴若狭道との社会実験割引のような感じで、神戸西、布施畑、垂水から龍野以西の利用に関して割り引くことで、誘導転移を図ってはどうでしょうか。それにより混雑が激しい加古川バイパスなどの緩和を図るという名分もたちます。

また、神戸西ICがNEXCO西日本と本四高速の境界になっているため、垂水や布施畑からの利用は本四とNEXCOのターミナルチャージをそれぞれ払う格好となり割高であるばかりか、マイレージの積算も別計算となり、料金面での魅力に大きく欠けるのです。
このあたり、思い切ってまたがり利用の場合は垂水を計算上の両社境界にするといった対応が望ましいです。
(ただし明石海峡大橋方面から布施畑経由で北神戸線に入るルートは神戸線の渋滞回避ルートとしてそれなりに使われているので、明石海峡大橋からは従来通り神戸西を境界にしたほうがいい)

●ところが...
せっかくの「西神道」を活用するのではなく、さらに殺そうとする動きがあるわけです。
先に垂水JCTへのアプローチ道路のうち、神戸市街方面は阪高5号湾岸線と書きましたが、実は名谷JCTでの第二神明への合流地点から先、須磨の海岸へ出て、和田岬から長大橋でポートアイランド、六甲アイランドと渡り、現在終点の六甲アイランド北につながる計画があります。

長らく凍結されていたこの計画、六甲アイランド北−駒ヶ林間は都市計画決定へ向けてのアセス手続きが始まり、いよいよ進捗する気配ですが、湾岸線が垂水JCTまで全通した場合、6車線の高速道路が大阪市内からつながるわけです。
現在は孤立した感のある湾岸線ですが、現在事業中の淀川左岸線、大和川線と組み合わせると第二京阪や西名阪道とのネットワークとして機能することになるわけで、そうなると「西神道」経由はいかに新名神が完成したとしても京都方面やそれ以遠の広域流動以外の利用に対するアピールに欠けることになります。

●実は狭い後背地
神戸淡路鳴門道経由で四国というルートは、四国4県への高速バスの大半がこのルートを利用していることもあり、瀬戸大橋ルートにかわる四国へのメインアプローチとなっています。
ところが、広域流動で考えた時、通行料に着目すると、神戸淡路鳴門道ルートは必ずしも有利でないと言う事実もあるのです。

複数ルートが選択できる場合、迂回ルートが最短ルートの距離の2倍を超えない前提で、最短ルートで計算するというルールがNEXCO各社にありますが、本四高速を挟む連続走行の場合は、NEXCOのみの最短ルートで計算し、それに実際に通った本四高速の区間を加算するという特例があるのです。

この時、多くのケースでは神戸淡路鳴門道を通ろうが瀬戸中央道を通ろうが、本四高速の区間が神戸西IC−鳴門ICと長い神戸淡路鳴門道ルートでNEXCO区間は計算されますから、本四高速の区間が短い瀬戸中央道(瀬戸大橋)ルートが割安になるのです。(ただし両ルートが選択できるIC相互間に限る。ハーフICは不可)

料金ばかりか、高松自動車道は高松市以東で対面通行区間を残しており、両ルートが合流するまでは4車線以上を確保している瀬戸大橋ルートの方が走行環境が優れているわけで、神戸淡路鳴門道が明らかに優位なのは実は淡路島と徳島県だけということも可能で、これらのエリアは関西圏との結びつきが強いということを考えると、広域流動に頼る「西神道」の志向は「西神道」の機能が完全になったとしても実は限定的なのかもしれません。

明石海峡大橋


●「無計画な」計画のツケ
神戸市のいわゆる裏六甲とされる北区や西区のエリアを見ると、「西神道」をはじめとする高規格道が縦横無尽に通っていることが分かります。
その事業主体を見ると、NEXCO西日本であったり、本四高速であったり、阪神高速であったり、神戸市であったりとバラバラであり、あるものは連携し、またあるものは競合するように走る姿は、ネットワークというよりも「過剰」という言葉すら思い浮かぶような様相です。

「西神道」を垂水方面から来ると、布施畑で交差する北神戸線、三木JCTで接続する山陽道ともに大阪方面に向かいますが、どちらも宝塚トンネル手前で中国道に合流するのです。
それぞれ経由地は違うとはいえ、人口集積も少ないエリアに2本の高規格道はなんとも無駄でしょう。
山陽道と北神戸線を適切に配置していれば、例えば山陽道を三木東ICから東、箕谷付近に向かわせ、北神戸線ルートを辿って西宮北IC付近で中国道と交差していれば、箕谷以西の北神戸線を垂水JCT経由で第二神明に接続していれば、山陽道、「西神道」、北神戸線、第二神明北線の相当区間を建設することなく、現在のネットワークの能力を担保出来ていたでしょう。

それぞれの計画には固有の理由があるとはいえ、全体感で見るとその理由が重複した格好になり、無駄が発生した。そういう状況がうかがえる現状であり、各公団、自治体を横断した計画の無さが今日の状況を呼んだといっても過言ではないでしょう。

●最適な処方箋は
以上、「西神道」を見てきましたが、「なぜ作った」と言うことが主因に近いとはいえ、すでにある以上、そしてその存在を前提としてネットワークが成立してしまっている以上、「廃道」は出来ませんし、それを責めても詮無い話です。

どうすれば活きるか、という点については新名神次第ですが、理屈や数字の世界では無く政治の道具になっている以上その道のりは遠く、かつ新名神が完成してもその効果が限定的になるかもしれないだけに、過度の期待は出来ません。
また重大な「ライバル」になる湾岸線も、本四連絡は枝葉末節であり、神戸線の混雑緩和など、環境対策としての政策的要請によるところが大きいわけで、名谷JCT、垂水JCTまで開通して神戸線の完全なるバイパスになる以上、建設をやめるわけにはいきません。

そういう意味では、新名神開通後は瀬戸大橋ルートとの最適な共存を図れるレベルでの誘導を主に料金面から誘導することで、当初期待された機能を発揮させることを目論むとともに、そこに至るまでは第二神明などのバイパス群からの転移を図るべく、料金政策を行うことが、苦しいながらも最適な処方箋でしょう。



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