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高速道路の標識を考える

国際標識の設置を機に考える共通性の意義


おなじみの光景を演出する共通デザイン(中国道・佐用JCT)

「アジアハイウェイ道路網」の統一標識を設置するという情報が道路局や該当する社局から先日発表がありました。日本にも国際ハイウェイの一部があるというのを始めて知った人も多いかと思いますが、日本から南回りでアジアを横断する2万キロの路線、14ヶ国を通るとあって、統一標識が厳格に定められて、それに従った標識の設置もまた義務付けられています。
このように道路の標識における「共通性」というのは非常に重要視されているのですが、一方でそうした規格化が進んでいると思われがちな我が国において、最近統一性を失わせる方向にある動きが目に付くのです。




※写真は2009年4月、11月、2010年4月、5月、7月撮影
※2010年10月7日 補筆


●アジアハイウェイ構想
島国日本にいると普段は意識することが少ない国際間の交通。その中でも道路交通において、「国際路線」日本を通っているということを知っている人はかなり少ないでしょう。
今回2010年6月22日に国交省道路局や高速道路会社のサイトでリリースされた「アジアハイウェイ道路網に関する政府間協定に基づく標識の設置について」という記事、よく見ると、実はアジアの戦後史を紐解くような経緯を持つ遠大な計画の具現化なのです。

そもそも1959年に国連極東経済委員会で、アジア諸国をハイウェイによって有機的に結び、国内および国際間の経済・文化の交流や友好親善を図り、アジア諸国全体における平和的発展の促進を目的として、提唱され取組が始められましたのが事の発端です。

当時は冷戦の真っ只中、中国大陸、朝鮮半島、インドシナ半島と東西両陣営間で交流どころか戦火を交えているような時代であり、西側諸国を中心に道路網が計画されていました。確かシンガポールからマレー半島、また当時の南ベトナムからインドシナ半島のルートがタイで合わさり、アジア大陸南岸沿いにインド、イランへ向かうルートだったように記憶しています。

やがて中国大陸、インドシナ半島では共産側による統一が確定し、冷戦が終了し、朝鮮半島も南北朝鮮が国連に加盟しました。東西間の対立も昔語りになったことで、東側諸国も本構想に参加し、2003年には、32ヶ国55路線、約14万kmの「アジアハイウェイ道路網に関する政府間協定」が採択されています。

●アジアハイウェイ1号線
2005年に上記協定が発効したことを受け、アジア各国でその実現に向けた取組が行われており、我が国も協定に従い、同構想に積極的に参加しており、その中のひとつに今回の標識の設置があるのです。

日本を通るのはその中の栄えある「1号線」であり、東京からアジア大陸を南回りに、日本、韓国、北朝鮮、中国、ベトナム、カンボジア、タイ、ミャンマー、バングラデシュ、インド、パキスタン、アフガニスタン、イラン、トルコの14ヶ国を経てヨーロッパ大陸に到り、欧州のブルガリア国境までの約2万kmの起点となっています。

さらに詳しく見ると、日本国内のルートは日本橋に近い首都高都心環状線の江戸橋ランプを起点とし、都心環状線内回り、3号渋谷線、東名高速、名神高速、中国道、山陽道、中国道、関門橋、九州道を経て福岡ICに到り、福岡高速の東浜ランプまでの行程。ここからは海路韓国・釜山に到りますが、伊勢湾岸道〜新名神高速のルートで無いとか、現在フェリーは下関からしか出ていないので(福岡からは旅客高速船のみ)航路接続は下関ICでの扱いとしているなど、やや詰めが甘いです。

【2010年10月7日 補筆】
読者の方からご指摘があり、調べたところ、博多港からカメリアラインのフェリーが釜山まで就航しており、自動車でのルートも成立しますので、お詫びして訂正します。
(ただし「航送」としては乗用車および自動二輪のみで往復利用に限定)

江戸橋ランプ付近にある統一標識


●標識の設置
このルートが「アジアハイウェイ1号線」の別名を持つこととなり、沿線に統一標識が立つことになったのです。
とはいえ普段は無縁ともいえるこの路線名、国道の二重指定区間のように到る所に立てても混乱するだけなので、設置場所はかなり限定されています。

結局日本国内で18箇所、実際には上下線でほぼ同じ場所になるので、9箇所といえます。起終点に上下2箇所ずつ、その他は路線名が変わる7箇所(用賀/東名東京、小牧、吹田JCT、神戸JCT、山口JCT、下関、福岡)の前後に1箇所ずつ都合14箇所の合計18箇所です。

「アジアハイウェイ」の略称として「AH1」と書かれた標識は、サイズ、色、形状が決められており(大きさのみ状況に応じて縮小可能)、ブルガリア国境までの2万kmのどこでも同じデザインの標識がみられることになりますし、旧ソ連、フィリピン、インドネシアなども含むアジア全域を縦横に走る別の路線においては、番号こそ別ですがそのほかは同じデザインの統一標識が設置されることになります。

●統一標識の重要性
このように、「アジアハイウェイ道路網に関する政府間協定」加盟の32ヶ国というひとつの集団においては、「アジアハイウェイ」はこのサイン、という認識が共有化されているのです。

現実には国境を越えてドライブとか、トラック輸送というのはアジア諸国では稀でしょうから、それがどうしたと言うことが大半でしょうし、欧州のような交流が日常化されればまた変わってくるのでしょうが、それがいつの日になるかは分かりません。

とはいえアジアのどこに行ってもこの標識はこれである、という統一性は便利な話であり、所変われば流儀も変わる、というのは旅の醍醐味ではありますが、不案内と言うデメリット、いや、リスクを軽減することは重要です。

そうした統一標識の前提として、「国ごと標識が違うので」というデメリットがあるのは言うまでもありません。
しかし、国ごとに違っても、通常は国単位では統一されているものであり、それすら叶わないと言う国は、まだインフラ整備が不十分、という評価を受けるわけです。


●国内での不一致
ところが我が国日本はそうした状況とは無縁、と思いきや、ここ最近、道路標識のデザインから統一性が失われる方向にあるのが気になります。

実は標識のデザインが統一されてきたのはそんなに古い話ではないのです。
いわゆる「青看」に対して「白看」と呼ばれる標識に代表される旧デザインの標識の存在を始め、全国津々浦々に設置された標識には時代の変化に伴う改正により、新旧のデザインが混在しています。
国道、主要道及び県道を示すいわゆる「おにぎり」「ヘキサ」にしても、特に「ヘキサ」については道路番号が表示されずに路線名だけというものもあったわけで、基本的な標識すら統一されてませんでした。

番号こそ入っているが路線名中心の旧デザイン番号中心の現行デザイン

ところがようやく旧デザインの標識が淘汰されるなどして統一がほぼ完了してきたところに、よりによって道路網の根幹をなす高速道路における不一致が目立つのです。
これまで高速道路と主な一般有料道路は道路公団が一元管理していたので標識類も統一性がありました。都市高速は首都高など各地の公団、公社が管理してきましたが、道路公団のそれに準じた首都高のデザインを踏襲する格好だったため、結果としてですが統一性が保たれていたのです。

こうなったのはやはり道路関係4公団の分割・民営化であり、新会社発足と言うことで独自性を必要以上に追求したこともあるのでしょう。会社単位での差異が目立ちます。

同様に分割・民営化された旧国鉄においても駅名標などのデザインは各社でそれぞれオリジナリティを競うようになっているので、高速道路各社のオリジナリティも問題ではない、と思うかもしれませんが、ある意味受動的に利用する存在である鉄道に対し、高速道路は自分が運転して積極的に利用する存在であり、その標識類(サイン類)は運転者が自分で理解しやすいスタイルであることが求められます。

そう考えると、所変われば、というのは必要以上に運転者に負荷を掛けるものであり、誤解や判断ミスが事故に直結する危険性もあることから、統一性の維持は重要です。

しかもそうやって統一性に疑義が出てくる反面、これは昔から言われている話ですが、高速道路に関しては路線番号がありません。30年ほど前に試験的にナンバリングの実験を行い、六角形(「ヘキサ」と違い、上下に頂点が来るもの)の標識に路線番号を入れ、補助標識として「高速国道」としたものが一部の高速道路に設置されましたが、結局沙汰止みになっており、今日まで高速道路に限っては路線名とそのローマ字標記のみという状態が続いています。ただ、現行の六角形にも見えなくもないデザインは、当時の試験表示の名残かもしれません。

路線名のみの高速道(自専道)標識
(鳥取道・佐用本線TB)


●不一致の例(カラーリング)
では、ごく最近増えてきた不統一の事例とはどういうものでしょうか。

まずはカラーリングの問題です。
自動車専用道路は緑、一般道は青という使い分けの大前提があり、注意喚起関係は交通標識同様黄色を使っています。ETC関係(スマートICなど)は紫色を使うと言うのもほぼ定着しています。

スマートICの表示(関越道・長岡南越路IC)

こうしたカラーリングを関係ない案内看板に使うことは無いのですが、歴史の浅いETCの紫色は沿道の施設案内に使われているケースもあり、これは今後直していきたいものです。
紫色については定義にブレもあるようで、新直轄においてスマートIC的なPA直結の出入口として設置されたケースでの使用例もあることから(鳥取道用瀬PA出入口)、スマートICが紫色と考えている節もあり、「紫の定義」をもう一度良く考えてほしいです。

新直轄は無料なのでETC専用ではないが
(鳥取道・用瀬PA/IC)

色の不統一として最近目に付くのがキロポストです。
あまり使わないようで、事故や落下物情報、現在地の把握などで何気に使う情報ですが、高速道路のそれは緑色のはずです。

NEXCO中日本の10km単位のキロポスト(新名神)

ところがNEXCO中日本では色こそ緑色ですが、10kmごとの節目には会社のシンボルマークを配した独自デザインのものへの変更が進んでいます。長年、キロポストはこの形、というインプットがあるだけに一瞬面食らいます。
また、緑色を使わないケースもあり、NEXCO東日本の北関東道はデザインこそ同じですが色が紫色です。
まあ色が違うからどうなんだ、と言う話ですが、統一性の維持と言う意識が希薄になれば一事が万事でそのうち、と言う話になりかねません。

紫色のキロポスト(北関東道)


●不統一の例(デザイン)
さらに困ったケースは首都高です。
標識類のデザインを変更した、とサイトで告知したように、かなり大胆に変えています。

まず最大の問題は、路線番号を示すサインの形態変更です。
首都高で採用し、阪神高速、名古屋高速など都市高速の路線番号は盾形というのが定着していたのに、都心環状、中央環状の2線については盾形ではなく円形にしたのです。

これは「常識」の部分を勝手に変えるものであり、一事業者が勝手にやっていいものではありません。
国道の「おにぎり」が路線によっては「菱形」に変わります、というようなものです。

もちろん盾形はともかく、上下線や内回り、外回りを示す「△」や→の補助記号はぱっと見何を意味するのか分からないわけで、そうした部分を分かりやすくするのなら分かりますが、基本的な部分に突然手をつけるのは困ります。

もうひとつ妙なデザインを採用しており、首都高に接続する各高速道路と一般有料道路につき、これまでは「東名」「常磐道」といった路線名だけの表示だったのを、まっすぐ伸びる道路と交差するオーバークロスをデザインしたサインを添えるようになりました。

円形表示と「NEXCOの道路」を示す新デザイン
(9号線・箱崎JCT)

まあ定着すれば慣れるのかもしれませんが、これまで全くなかったサインであり、ぱっと見「大」の字にも見えるそれは、一瞬何を示しているのか?この高速で何かあるのか?と惑わせるに十分です。

首都高会社によると、NEXCOの道路を示したと言いますが、それが通用するためには、当のNEXCO3社を含めてNEXCO管理の道路にはこのサインを用いる、と言う全国共通ルールが必要ですが、先の「盾形→円形」の変更と同様、全国共通での採用ではなく、いきなり単独での採用としたため、統一性を失わせる方向に働きました。

●勝手な変更は(方面表示)
首都高の場合、こうした変更が統一デザインなのに1社専断で実施されたことが問題です。
他への影響を十分考慮していないわけで、アジアハイウェイの一部となるように、まがいなりにも道路ネットワークの一員である、という自覚が足りないともいえます。

そういう観点で考えると、首都高の場合、影響が小さくない変更を急速に進めているのが気になります。

そのひとつが標識の地名の変更。
方面や出口、分岐を示す標識もデザインがかなり変わっており、英文標記は大きめになりましたが、肝心な和文の大きさが小さい、と言うか英文とのバランスが悪く見づらくなっており、日本の高速道路なのに日本語での視認性が低下という笑えない事態です。

旧デザイン。上の新デザインに比べて漢字が見やすい

さらにその変更の際に、表示していた方面の目標地名をも変更しているのです。
確かにこれまでの「安行」「小松川」といった首都高としての出口を示すやり方よりも、「東北道」「京葉道路」というように大多数のクルマが目指す方向を示したほうが親切ですからこれは歓迎すべき施策です。

しかし、こうした標識はIT化が進んだ今日、カーナビの情報にも取り込まれているのです。

ナビは「銀座方面」と読み上げ(湾岸線・葛西JCT)

つまり、標識の表示が変わると、カーナビが示す情報との齟齬が発生します。湾岸線で目の前の標識が「横浜方面」とあるのに、カーナビは旧の「空港中央方面」と音声付きで案内するといったケースが多発しているのです。

バージョンは空港中央・銀座方面新バージョンは横浜・箱崎方面

こうした利用者側の状況を考慮したうえでの変更なのか、また、そういう齟齬が発生することを注意喚起しているのか。変更に伴う齟齬は止むを得ませんが、それによる混乱を最小限にする努力が必要です。

●勝手な変更(路線名)
もうひとつ重大な変更が周知も無く実施されている例として、路線名の「変更」があります。

山手トンネルが大橋JCTまで開通した際、大橋JCT内での方面表示に「東名」「都環」と出ていたのを見て激しい違和感を感じましたが、ここに限らず、都心環状線について「都環」という略称を全面的に採用したようです。

「都環」の円形表示(環状線・一ノ橋JCT)

これまで「盾形」に「環・C1」とあった表示も「円形」に「都環・C1」に変わりましたが、そもそも都心環状線を「都環」と省略するケースにお目にかかったことは無かっただけに、デザインから路線名までの変更は戸惑います。

「都心環状」だと長ったらしいからか、と思いきや、これまで「中環」だった中央環状線は、「中央環状」と表示されるようになっており、それなりに定着していた中環をお蔵入りにして、わざわざ4文字の正式名を使うのに、都心環状は今まで使う人がいないに等しいような略称を使うと言う、理解しがたい、不案内極まる状況です。

中央環状線は盾形時代は「中環」だったものが円形表示になったら「中央環状」に

これと同時に放射各線上の方面表示においてこれまで都心環状は「銀座」「霞ヶ関」と線上の主要ランプを示していましたが、これが「都心環状」になりました。
だったら余計に「都環」ではなく「都心環状」にすべきなんですが。

霞ヶ関や銀座から「都心環状(Circle)」へ

余談ですが、環状線の話題が出たついでに、日本人には気付きにくい「不統一」もあるわけで、首都高、阪神高速、名古屋高速にそれぞれある「環状線」ですが、英文標記では3社3様なのです。

首都高は「Circle」、阪神高速は「Loop」、そして名古屋高速は「Ring」です。
「輪」の大きさによって名称が違うとでも言うのでしょうか。少なくとも一方通行でロータリー状に使われるということでは阪高も名高速も一緒であり、英文標記が分かれる理由にはなりません。

名古屋高速は「Ring」(伊勢湾岸道・名古屋南JCT)阪神高速は「Loop」(13号東大阪線)

このあたりの不統一も修正しないと、それこそ国際統一標識を採用する国の主たる都市圏とは思えません。

●統一性はユニバーサルデザインである
えっと思うかもしれませんが、定義を忠実になぞると結局ここに行き着きます。
「アジアハイウェイ」のように国際統一デザインであればベストですが、なかなかそこまでは行けません。

とはいえ国内での統一性の維持は決して不可能ではないでしょう。
日本国内の道路交通において、この色は何を示し、この形態はどれを示す、という定義が確定していれば、道路を利用する際に惑う要素が確実に減少します。

そこに独自色が入る余地は少ないです。誰が見ても安心して利用できる、という大前提において、地域や事業者ごとに違う標識というのはありえません。

これは道路だけの話ではなく、公共交通全体に共通する話です。
公共交通においてはピクトグラムの採用など、分かりやすさと標準化が図られていますが、利用の局面においては「誰が見ても安心して利用できる」という大前提が担保されているとはいえない部分があります。

そこを克服するキーワードはやはり統一性であり、それは表示からルールまであらゆる場面で考慮すべきものですが、現状は未だし、というか、独自色のほうが強く、それどころか独自性のほうが重んじられている面すらあります。

バリアフリーなどハード面での対応と同時に、こうした表示や案内などのソフト面での「バリアフリー」を図ることで、誰もが利用しやすい(公共)交通を実現する。それはまさにユニバーサルデザインのひとつの完成形といえるでしょう。







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