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「ICカード相互利用」に見る温度差



※写真は2013年3月撮影


JRグループや東急東横線関係などのダイヤ改正が16日にありましたが、その1週間後。23日に交通系ICカードの相互利用、単純に言えば共通化がスタートしました。

相互利用の共通フォーマットポスター

前にブログでこの全国共通化のニュースについて書いた際に、静岡地区の扱いを誤認しており、共通化対象なのに共通化対象でないとしてしまい、読者の皆様にご迷惑をおかけしました。言い訳がましいですが、全面共通化と部分共通化、さらには同じカードのエリアでも事業者によっては共通化を見送るとか、どのカードがどこで使えるのか、というよりどこが使えないのか、一筋縄ではいかない状況がそうした間違いの元ともいえるわけで、地雷のようなリスクを感じています。

この共通化ですが、各陣営によっての温度差と言うか、対照的ともいえる扱いに驚かされます。端的に言えば関東と関西、それもPitapa陣営の「独走」というか「走らなさ過ぎ」の状態が際立つのです。
次いで中京圏のmanaca陣営があおなみ線とゆとりーとラインの不参加(と磁気SFのトランパス時代は使えたリニモは今回も不参加)と言う決して小さくない影響がありますが、Pitapa陣営に比べると可愛い物です。

Pitapa陣営の場合、山陽電鉄、神戸電鉄、能勢電鉄という共通化各社とノーラッチで行ける会社や、神戸新交通のような空港アクセスを担う鉄道事業者の不参加だけでも大きいのに(なお、プレスリリースでは明記されていなかった神戸高速は使えます)、バス事業者が大阪市、水間鉄道、しずてつジャストライン以外は総て不可という事実上バスは不参加といえる状況には、お家の事情はあるにしろ、独自色を出しすぎです。

阪急・阪神の告知ポスターにある山電、神鉄、能勢電が対象外の告知

関西のバスの不参加は影響が小さくないわけで、特に問題なのが阪急バス。一部を除きスルッとKANSAIカードも昨年9月限りで使えなくなっているため、Pitapaか阪急バス、阪急田園バス、阪神バスでしか使えないhanica以外は現金払いと言う時代が大きく逆行した状態で、それが23日以降も続くのです。(スルKAN2day、3dayは提示で使用可能)

こうした状況では全国共通化を高らかに宣伝できないと考えたのか、ポスターや中吊りの掲出も非常に限定的、抑制的であり、その反面、Pitapa独自の宣伝は継続して展開されているのを見ると、全国共通化に対する消極性と言うか、歓迎していない様子がはっきり見て取れます。

いちおうPitapaの宣伝もあるが

このあたり、関西人の気質と言えばさにあらずで、関西圏のICカード陣営のもう一方の雄であるICOCA陣営は首都圏ほどじゃないですが宣伝しているわけです。

ICOCAは積極的

そうなると、明らかにPitapa陣営が共通化を歓迎していないと言う結論になるわけです。
もちろんクレカ連動のポストペイ方式というPitapaは今回共通化する他のICカードと仕組みが違うわけで、本来のPitapa機能と並行して搭載しているプリペイド機能を使い、チャージ(オートチャージ機能もある)しないと共通利用はできないというややこしさも一因でしょう。

阪急・阪神独自の宣伝はこんなもん

そもそもクレカ所有が必須と敷居が高かったPitapaの普及は、Suicaなどのプリペイド型ICカードに比べてスピードが遅いです。
他のプリペイド型ICカードが交通利用と電子マネーに特化したカードを基本に、各社のハウスカードと一体化したカードのラインナップが「2階部分」として存在するのに対し、Pitapaにおいてはその2階部分を基本として展開し、1階部分のベーシックタイプの展開が疎かだった面は否めません。

ベーシックタイプも与信判断がいちおう必要になるため、審査落ちにあったといった評判が広まったこともあり、500円のデポジット込み2000円でその場で手に入るプリペイド型の利便性とは比較になりません。しかもハウスカードとの一体化(もしくは2枚使い)の場合、オートチャージ機能の導入で都度チャージする手間から解放されますし、記名式カードの存在はポイント等の紐付けも可能とあって、Pitapaのメリットが打ち出しにくくなっています。

こうした情勢の象徴とも言える事態が、近鉄と京阪のICOCA陣営への参加でしょう。クレカ連携のステージでもPitapa紐付けとICOCA紐付けの2タイプとなったのです。

ポストペイタイプのPitapaは、月締めなどの期間対応で、その利用結果に応じた割引が可能になります。このあたりはETCと一緒で、あとから割引条件を当てはめて対応できるわけで、ETCの各種割引のように多彩なメニューの提供が可能です。
そういう意味ではポストペイならではのメニューをどこまで提供できるかが普及の鍵でしたが、大阪市交通局のマイスタイルが、区間に関わらず1ヶ月締めてみての利用頻度で定期券同等の割引を提供する、というポストペイならではのメニューを提示したことで盛り返しているのが唯一というか例外的存在といえるわけで、隣接する各社が大阪市との連絡定期でマイスタイルが使えると宣伝している状況は、その苦境をよく表しています。

Pitapaの迷走という意味では、スルッとKANSAIからの移行時にバスの社局の大どころが参加しなかったのがケチの付け始めといえます。京都市営バス、京都バスの不参加は京都地区の普及に致命的ダメージといえますし、近鉄バス、南海バス、和歌山バスといった一定のエリアを確保している会社の不参加も痛いです。

一方で奈良交通と神姫バスが傘下の子会社ともども参加したのは、奈良県や兵庫県における普及にはプラスに働きましたが、今回の全国共通化においては上記3社局以外はずべて見送りとなったのです。

首都圏においてはPASMO導入でバスの利用が伸びたという話もあるというのに(運賃捕捉漏れや不正が減少しただけと言う声もあるが)、関西圏ではそのビッグチャンスに背を向けている事業者ばかりと言うのが気になるのです。
目的地まで駅前からバス、でも行ける、と言うときに、手持ちのICカードで乗れる、というのと現地独自のカードか現金です、というのではハードルが確かに違います。

Suica、Pasmoは積極的に

このあたりは各社局の台所事情も無視できないのは事実であり、磁気SFカードだとそれぞれの社局での販売もあったのが、ICカードになりチャージが前提になると、チャージしやすい鉄道駅でチャージするとか、オートチャージに走りがちです。そのため、各社局にとっては自社の磁気SFカードを販売して前受金が入金していたのが、他社チャージもしくはオートチャージとなり、交通利用の段階でもキャッシュとしては未収入金となるため、資金負担が発生するのです。

設備改造、導入の負担に加え、かつては「日銭が入る商売」の代表だった交通業界が、一種の掛売りが主流になると、利用が急激に伸びることが見込めないのに、資金負担が必要になるという踏んだり蹴ったりの状態になります。

こういう「裏事情」を考えると、阪急バスのようにPitapaはともかくとして、自社専用のICカードか現金に限定してしまうのも、自社の資金確保という意味では理に叶う訳ですし、磁気SFやPitapaのように株式会社スルッとKANSAI経由で精算していたのが、さらにスルッとKANSAIと全国のICカード発行体会社との精算がワンクッション加わることによる資金負担の増加(掛売りの期間が延びる)と言うデメリットを前にすると、背に腹は変えられないと不参加を決める会社が出てくるのでしょう。

日本中に出かけられることで自社でのチャージが増える期待も高く、スケールメリットを享受できる首都圏組と、利用そのものを伸ばすことが急務で、他地域からの呼び込みに資すると考える地方組の狭間で、関西や中京圏は、利用そのものをガツガツ増やす必要は無いが、他地域からの利用が増えることで資金効率が悪くなるという共通化によるデメリットが目に付きます。

「全国制覇」も視野に...

そして他地域のICカードに対する優位性が見出せないことで、さらに自社発行のICカード離れすら考えられる状況も考えられることが、全国共通化への極端な温度差となって現れていると思います。



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