このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください






Suica定期の思わぬ罠




定期券の更新というと、会社勤めの人にはお馴染みの年に2回のイベントですが、今春がその期限に当たっている人は消費増税も絡んで大変だった人も多いでしょう。私も定期更新をしたのですが、思わぬトラブルに巻き込まれました。そしてそれが発生すると非常に厄介なのに、満足な周知がないことに気づいたのです。



●駆け込み購入の奔流の中で
4月からの消費増税で鉄道運賃も上がりますが、定期券については影響が大きいので3月中の購入を志す人が多いようで、鉄道会社側も新規購入を今回に限り継続と同じく14日前から発売するなど対応に追われています。
とはいえ通学定期の場合は通学証明書の問題もあり、4月またぎでの発行が出来ないとか、通勤定期の場合も通勤交通費の支給は給与と同時に振り込みなので民間だと概ね25日となるので、前広に、とはなかなか言い難いものがあります。

幸か不幸か私の場合も定期券の期限がこの時期になっており、やはり3月中に購入しないと損、というか制度上今回の切り替え分の支給は値上げ前の金額になるので、3月中購入が必須であり、給与振り込みを待って駅に行きました。
まあカードで買えば、ということもありますし、ビューカードなんかはそれを見越した新規キャンペーンをしてますが、所詮は「超短期の借金」ですから現金で購入です。

●トラブル発生
私の場合はJR東日本と新京成の連絡定期ですが、全国共通化の前はJR各社との相互利用などのメリットで勝っていたSuica定期にしています。なのでJR駅での更新ですが、そこでトラブルが発生したのです。

といっても消費増税などには関係がない話です。みどりの窓口はただでさえ混むので、操作も簡単で早い券売機で買おうとしたところ、定期券本券を何回挿入してもエラーになるのです。
通常なら定期券本券を挿入し、内容を確認してタッチして札束を挿入すればオシマイ、という手軽な操作なんですが、これは面妖です。

何回やっても、機械を変えてもダメです。
仕方なくみどりの窓口に行くと、幸い空いていたのですが、「丁寧な応対」のつもりなんでしょうが、ああでもないこうでもないと傍目にはおしゃべりのような感じで応対しているので時間がかかります。

ようやく自分の番になり、機械が受け付けないので発券替えも、と依頼したのですが、マルスも受け付けないのです。

●驚くべき対応
元券が読み取り不能のようで、まず効力停止しての発券となります、と言われたのですが、それに続く説明に仰天です。

定期券本券を預かり、翌日渡す、とのことです。
何それ、と言う話です。会社最寄りの駅での話ですから、今日の帰りと明日の行きはどうなるのか。当然のクレームをしたところ、では有人通路をお通り頂くことで対応できます、と言われましたが、新京成はどうなるの、と問うとはっきりしません。
いわんや新京成の「無人駅」だとどうなるんでしょうか、という扱いですが、結局新規定期を発売し、読み取れない定期を期限まで使うと言う妥協案が提示されました。

そう、まさに数分前に改札を普段通りに通過した定期券なのです。2週間前に最後のチャージをしていますし、1週間前には定期区間外の乗車でチャージ部分からの引き落としもしています。ちなみにその直後駅の券売機にその定期を挿入したらチャージのメニューが出てきましたし、最終的には払い戻すその日まで改札の通過もSuicaグリーン券としての利用も電子マネーとしての利用も出来たのです。
だのに定期券の更新だけが急に出来なくなったうえに、1日預かりとは何事でしょうか。

後で調べると1日預かりは再発行のルール通りのようですが、紛失でもない「使えているカード」の異常で、定期券区間の別途払いをする謂れもありません。

●常識的な発想との齟齬
どうも本券裏面の17桁の番号がかすれており、読み取れなくなったことが原因のようです。
JR東日本のサイトではこの番号の読み取りが重要とは明示しておらず、唯一再発行の説明で、17桁の番号が判明しないと一切の取り扱いをしない旨書いてありますが、本来は利用者に真っ先に告知しないといけない重要情報です。

確かに17桁番号はおろかほとんど見えなかったが

つまり、紛失してもSuica定期やMySuicaは大丈夫、という謳い文句を大々的に宣伝しながら、その条件として17桁の番号が読めること、という大前提があるわけです。というか、あらゆる取り扱いの根底に17桁の番号読み取りがあるのです。

ならば読めなくなったのだからお前が悪い、という頭の悪い擁護論が湧いてきそうですが、磁気に注意とか、他のICカードと重ねるな、と言うような注意はしても、所持者の財産権に直接関係する部分の告知が事実上ないのはどうなのか。

そもそもICカードの要諦は電子データの読み取りであり、券面の目視は関係ないはずです。だから改札口では使えて、有人改札にある読み取り機で券面情報をチャージ金額も含めて正確に取得できるのですが、それで再発行の手続きに進めないのか。

券面もかすれ果て...

だいたい、券面がかすれても使用に問題はないのです。文字が読めなくなったら交換してください、という条件は課されていません。ハウスカード一体型のIC定期はいわゆる「券面」がカードの裏面に回りますし、モバイルSuicaに至っては見た目は携帯やスマホですから、電子データの読み取りにしたことで、「券面」という概念がなくなったと思うのが普通です。

●クリティカルポイントが見えない
「券面」の表示は効力に関係ない。電子データは生きている。という前提で使用されるICカードですが、問題なのは17桁の番号が読めなくなる、というようなクリティカルポイントが利用者から見えないことです。

読めなくなって、さらに券売機などを通す利用ではじめて分かるのです。
新規発行から更新、チャージとあらゆる局面が券売機で事足りますから、駅員など会社側から「このカードはそろそろ危ないですよ」という注意喚起を得る機会もありません。

クレカの場合は数年に1度の更新でカードそのものが新しくなりますから「カードの寿命」を意識する必要はありませんが、交通ICカードの場合は、それこそそれまでの磁気カードと違い、リライトすることで何度も使えるエコなカード、と繰り返しの長期使用を前提に、いや、宣伝してきたわけです。
その通りにして後生大事に使うとある日突然大惨事、というのでは騙し討ちでしょう。

●あるべき取り扱い
券面の物理的(光学的?)読み取りが鍵になるのであれば、おそらくICに書かれた電子データの読み取りはその時点で生きているでしょう。もしくは電子データが先に逝ってしまった場合には、券面の読み取りは可能なはずです。

駅にはその両方の読み取り手段があるのですから、どちらかの不具合が発生した時点で交換の形で再発行が出来るようにすべきです。今回のケースでも、ICには17桁の番号が記憶されているわけで、それを更新したICカードにトランスファーするデータ書き込みはすぐにできるはずです。(新旧同じ番号で、旧券を駅で回収し、バウチャーとともに一定期間保存するルールにすれば不正等の事故もないでしょう)

当然裏面の券面に注意を促す周知は絶対に必要ですし、定期券の場合は数年に一度は更新時に新券にする、という対応も有効です。おそらくカードには物理的な発行年月日情報があるはずから、それをキーにして3年で更新(6ヶ月定期なら6回目の更新時に新券になる)するといった対応です。

あるいは最長で1週間までの磁気定期を発行して対応する。つまり、発行替えに1日かかるのであれば、預り証を兼ねて同区間の磁気定期を発行し、新しい定期券と引き換えに回収するのです。チャージやバス特、グリーン車利用が面倒ですし、損をする局面も出てきますが、定期券部分の別途払いという基本的な部分での二重払いだけは避けられます。

●異常時対応を軽視した商品設計
結局こういうことでしょう。
以前批判した振替輸送の件もそうですが、異常時の取り扱いが「異常」なのです。
利便性を強調しても、いったん異常が発生した場合の取り扱いがグタグタでは心象は最悪ですし、異常時対応、万が一を想定しない、詰めない商品設計で済むのなら苦労はいりません。

便利なんだから少々の不便は、少々の損は、と平気で言う人も少なくないですが、制度や取り決めを考える場合、トラブルが起きたらどうするのか、どうなるのかをきちんと考えるのが社会人としての常識でしょう。

損という意味では、今回は先日付の新規定期(新券)と、いつ電子データも逝ってしまうか分からない(と駅員に脅された)有効期限が数日残った定期券(旧券)を重複保有することになりましたが、旧券にはチャージが残っています。
さらには新券の発行と言うことでデポジットも取られました。

駅員はチャージを使い切って旧券のデポジットを払い戻してください、とこれは親切なアドバイスでしたが、上手に使わないと1円単位のチャージがデポジットから差し引かれます。
幸いこうした使い残しリスクが嫌で、10円単位でしか使用していませんでしたが(4月以降は交通利用も1円単位になるので曲者ですが)、上手に使い切らないといけないというのも不便です。まあ物販で不足分を現金精算すればいいわけで、最終的には駅のコンビニで不足分を現金精算して使い切りました。

いずれにしても、利用者の責任でないトラブルのツケが利用者に回りかねない制度設計は早急に改めるべきでしょう。今回の件でも、裏面の券面がかすれることがクリティカルポイントと説明せず、逆に何度でもリライトして使えると宣伝している以上、そこを事業者の免責とされても困ります。

●現場の名誉と残る問題点
とんだトラブルに巻き込まれた感じでしたが、現場の方は「よくあるケース」なのかスムーズでした。
最初に「1日預かり」を提案された時にはさすがに顔色が変わりましたが、新規を購入して旧券を使い切り後に払い戻し、という妥協案を提示してくれたのは良い事です。特にチャージ部分の使いきりに気を配るように言及してくれたのは乗客目線であり、残額が払戻手数料と相殺される「おかしなルール」(チャージの残額範囲内で徴収されるというある意味いい加減なルール)による弊害を回避するように促してくれています。

後日の払い戻しの際も、淡々と用紙に記入して手続きをしてすぐ500円が返って来ましたが、定期券が読めないので何か厄介なことになるかと思っていただけに肩透かしです。もっとも、払い戻しの際の情報読み取りはICデータのリーダーを使っており、余計に定期券部分のみ光学読み取りを要するのは理解できない話です。

ちなみに私の前のお客も定期券購入(継続)だったのですが、券面が薄くなっていたようで発行替えを勧めており、これも無用なトラブルを避けるという意味でも良い対応です。もっとも、17桁の番号が変わる事を告げられ、ポイント倶楽部などの登録に影響しますと言われた際に、会社一括購入で番号を登録しているので是非が分からないので出直します、というやり取りが聞こえてきました。

発行替えで本券の番号が変わるのは、既に17桁番号を付与されたカードを払い出すシステムが原因ですが、17桁番号を事業者、顧客ともにキーにしているのに、引き継がれないというのも、個人に紐が付いたカードのシステムとしては「異例」なんですが、これももっと周知すべき話と言えます。










交通論の部屋に戻る


Straphangers' Eyeに戻る

このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください