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ICカード化=値上げでいいのか

さらに顕在化する定性的なメリットと定量的なデメリット



エル・アルコン  2007年12月5日




鉄道におけるICカード化は主要都市圏での導入が決定しており、今後は各エリアをまたぐ都市間輸送への導入という段階です。
この分野では航空が一日の長があり、全日空では今年度中に紙の航空券を廃止することを決定し、世界的にもIATAが2008年中の廃止を打ち出しています。
鉄道も負けじと、2008年春にJR東海、西日本、東日本がICカード乗車券の共通利用と同時に「エクスプレス予約」にICカードを導入し、チケットレススタイルでの乗車サービスを始めることになっています。
この「エクスプレス予約」のIC化、思わぬ落とし穴があることが判ってきました。



※この作品は「交通総合フォーラム」とのシェアコンテンツです。

※写真は2006年6月撮影


●予兆は東日本から
今夏の発表では、ICカード乗車券機能付きエクスプレスICカード(もしくはモバイルSuica)の場合、そのまま在来線区間も従前のICカード機能で乗車できるのはもちろん、エクスプレスICカードと既存のSuicaなどの併用もできるというのを売りにしていましたが、特定市内駅制度をどうするのかが不明でした。
特定市内駅制度は言うまでもない制度ですが、201km以上(東京山手線内発着は101km以上)の乗車券の場合、山手線内を含めて全国12の特定市内駅発着の場合は、その中心駅から距離を計算するものです。

つまり、市内駅であれば実際の乗車距離にかかわらずどの駅でも中心駅からの計算となるため、運賃は同じになります。そのため、特に既存のICカードと併用した場合、各市内駅発着の場合はアプローチの市内駅相互の利用は0円清算になるのか、また、市外への乗車の場合、どういう減算になるのか(大阪市内→津田沼といった乗車の場合)、という問題がありました。

そうした中、12月3日にJR東日本が発表した 「モバイルSuica特急券」 のサービスは、この疑問に対し、非常に単純な回答を用意していることを明らかにしました。

これはJR東日本の各新幹線におけるエクスプレス予約のような商品ですが、モバイルSuica利用が前提となっています。
通常の自由席よりも安く、繁忙期制限もないのは歓迎ですが、あくまで新幹線停車駅相互の特急券、乗車券をセットにした商品とあり、新幹線停車駅と実際の乗降駅との乗車券は打ち切り計算で別途購入になるのです。

特定市内駅制度の適用はないことが明記されているばかりか、そうでなくても新幹線停車駅周辺の本来なら同一運賃だった駅へも打ち切り計算となります。
東京駅(≠東京都区内)からだと、長野、山形で260円、仙台、新潟で360円自由席よりも安く指定席に乗れるわけで、新幹線回数券よりも仙台で150円、新潟で100円安いのはうれしいサービスですが、前後の通算がないことを考えると割高といえます。

●エクスプレス予約もか
12月4日の朝日新聞(大阪)夕刊は、 「新幹線、IC乗車券で割高に 在来線カードと連動せず」 と題して、来春東海道新幹線で導入されるエクスプレスICカードは特定市内駅制度を適用しないことを伝えました。

記事では上記の「モバイルSuica特急券」にも言及しており、エクスプレスICカードと同じとしていることから、たとえば特定市内駅になっていない小田原でSuica、静岡でTOICA、米原でICOCAと併用すると打ち切り計算になると予想されます。

従来通り受取機で紙ベースの乗車券類と引き換えることで従前のサービスは受けられるとありますが、朝晩を中心に受取機も混雑する中、それがいやなら前後で数百円の持ち出しを強いるのはいかがなものでしょうか。
JR東日本の各新幹線と違い、こちらは基本的に市内駅制度を利用して在来線で最終目的地にアプローチするケースが多いわけです。特に新横浜や新大阪は市内駅制度がないと話になりません。

朝日の記事では東京都区内−大阪市内のエクスプレス予約を13200円としており、これは新幹線回数券20の13240円とほぼ同じ、さらに新幹線回数券20は関西地区での金券屋実勢は13100円であり、モバイルSuica特急券のようにまがいなりにも回数券よりも安いとも言い切れないように、ただでさえ高いのに年会費がかかり、しかも前後は別払いとなると実質値上げです。

(来春のサービス開始対象エリアではないが)
新神戸駅に並ぶJR東海、西日本両社の受取機


●システムの問題というのなら
今回の「問題」ですが、朝日の記事によるとシステム的に対応が困難というのが理由だそうです。
エクスプレスICカードと前後のICカードの組み合わせをどう判断してどう減算するのか。確かに困難というより事実上不可能でしょう。芦屋→津田沼というような乗車の場合、エクスプレスICカードが大阪市内→東京都区内を計上したとして、乗車券の差額を前後のICカードにどう配賦するかを考えると、これは無理でしょう。

できないのなら商品化すべきではないという他の業界なら当たり前の結論が取れないというのも不思議な世界ですが、ならばその不合理、不利益を最小限にするような救済策が必要です。

一案を示すと、西日暮里接続の通過連絡を適用しない代わりに導入された100円引きの制度、これを導入すればかなり傷みは減るのです。
連絡改札でタッチした場合、前後の区間で使用したICカードからは100円引きで計算し、エクスプレスICカードも100円引きで計算するのです。打ち切り計算で割高になるのは初乗りで東京、大阪周辺で130円と120円の合計250円。実際には300円も超えるケースも多いですから、合計300円を割り引くことでおおむね釣り合います。東京−大阪だと関係3社が100円づつ負担するまさに三方一両損で乗客への影響を最小限にとどめる、それくらいの配慮がほしいものです。

さらに問題点を提起すれば、連絡改札のシステムを理由にするのであれば、これまで可能だった連絡改札を通過して在来線エリアに入り、在来線改札から出場する(東京駅だと丸の内方面への利用でよく使われる)方法が出来るのかどうか。エクスプレスICカードだけで在来線エリアには入れないでしょうし、併用したICカードが同一駅下車ということで0円清算になるのかどうか。大回りの自由通路経由を強いられるというのでは話になりません。

(来春のサービス開始対象エリアではないが)
新神戸駅における市内駅での乗降可の案内


●「実質値上げ」の不条理
もちろん特定市内駅制度への批判もあることは承知しています。実際の乗車距離と異なる計算となり、ケースによっては「その先の」中心駅までの計算となる不合理まであるからです。
常備券方式だった昔の遺産であり、端末で簡単に計算できる現在は制度そのものを廃止して実乗車区間で計算すべきという声もあるわけです。

しかし、都市高速道路の距離制料金と同じで、それが理論上は妥当であっても、制度変更が実質値上げであるという事実は残るわけです。
「値上げ」をするに足る根拠を示さないで値上げに踏み切るというのは利用者、消費者として安易に受け入れるべき性格のものではありません。

今回は受取機で紙ベースの乗車券を発券すれば影響はないとしていますが、交通業界全体で紙ベースの乗車券をなくす方向にある中、いつまでも残るでしょうか。これに類する話としては、JR東日本がSuicaグリーン車システムを導入した際、紙ベースのグリーン券は残したものの、購入箇所などに大きな制約を課した前例もあるわけで、同様に受取機自体の設置が限定されて結局紙ベースでの購入には大きな手間がかかるようになる懸念があります。

そして航空と激しく競合している東京−大阪間において、ありがちな区間で500円レベルの値上げというのがどう影響するか。近年の航空の伸長が燃料費高騰による値上げにより鉄道の逆襲モードに入った感があり、実際シェアも再び鉄道が戻してきていますが、1月から羽田−伊丹の特定便割引(前日まで購入)を再値下げするなど航空が再反撃に出る中での「値上げ」は微妙な影響を及ぼしそうです。
鉄道が航空に対して優位性を主張してきた中には前後のアクセスにかかる交通費の問題があったわけですが、今回打ち切り計算となることは、せっかく特定市内駅制度で形成していたアドバンテージをみすみす捨てることになるのです。





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