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振替輸送を巡る東西の温度差

債務不履行の「免責」を許容すべきか



エル・アルコン  2007年4月16日




※この作品は「交通総合フォーラム」とのシェアコンテンツです。
※2007年5月30日 写真追加


3月18日にサービスを開始したPASMOや、先輩格のSuicaに共通する問題点として、振替乗車が出来ないことを以前指摘しました。

磁気SFカード時代は、パスネットが振替可能、イオカードが振替不可と分かれていたのが、ICカード化、そして共通化に伴い、先にイオカード同様振替不可と規定したSuicaに合わせた格好です。これにより、首都圏の鉄道においては、定期券及び磁気券以外の乗車券での振替輸送は事実上消滅した格好になりました。

この取り扱いですが、磁気SFで振替不可としたのはイオカードのみで、パスネットをはじめ、関西のJスルーカード、スルッとKANSAI、名古屋のトランパスと主だった磁気SFは振替可能だったため、イオカード、Suicaの扱いが際立っていたのですが、JR東海のToica、そして今回のPASMOと振替不可のICカードが導入されたことで、一気に形勢が逆転した格好です。

首都圏での告知
下段でICは対象外と明記

この件については各社とも注意を促しており、特に首都圏ではSuica、PASMO両陣営の各駅にポスターを掲出しています。
とはいえいくら周知されても、「投げ出される」駅までの運賃を払い、別途乗車になる路線を別途購入というのは多くのケースで高くつくわけで、割り切れないものがあります。
例えば、日暮里から勝田台に向かう時、京成津田沼で以遠不通となり振替になると、日暮里−勝田台520円のところ、日暮里−京成津田沼の420円、京成津田沼−北習志野の160円、北習志野−東葉勝田台の420円の都合1000円となり480円の持ち出しですし、品川から市川に向かう際に新橋から振り替えると、品川−市川の380円のところ、品川−新橋の150円、新橋−押上の210円、押上−市川真間の250円の都合610円となり、230円の持ち出しになるわけです。

こうなると、特にICカードの場合は振替輸送の取り扱いが技術的に出来ないのでは、と思うところですが、ここに来てJR西日本の主要駅に掲出された「『振替輸送』をご存知ですか?」というポスターは、ICカードゆえ振替輸送が出来ないということはないことを示しました。

振替輸送の案内(六甲道)

JR西日本の取り扱いでは、磁気SFのJスルーカードに加え、ICカードでも振替輸送の取り扱いをする旨が明記されました。振替輸送時の出場、精算方法についても明記されており、改札口でICカード使用証明書を受け取ることで、振替乗車及び入場記録の処理を後日にJR西日本の駅で行えるようになっているわけです。(後日の処理は磁気SFも同じ)

さらに、そこに明記されているのは、振替可能なICカードとして、ICOCAのほかに、Pitapa、そしてSuicaと、共通利用が出来るICカードが列挙されており、JR東日本や首都圏の私鉄では振替の対象にならないSuicaでも、JR西日本では振替対象になるのです。
面白いのは、モバイルSuicaのみ対象外ということです。これは察するに、振替処理を行うときの確認が有人改札では出来ないといった技術的問題が想定されますが、そうした事情が推察できるのであれば止むなしと諦める事についても納得がいくものです。

各社のSF機能付きICカードでも振替は可能です

今回のJR西日本の振替輸送についての告示は、Suicaであっても振替輸送が技術的に不可能ではないことを示しました。そして後発で振替を不可にしたToicaやPASMOも同じでしょう。
つまり、「出来ない」のではなく「やらない」だけなのです。

実は関西での振替輸送は、振替乗車票を発行するのは当事者の事業者ではなく、振替先の事業者と言う違いがあります。
このため振替先の事業者は当事者の事業者が振替対象と認定した旅客に振替乗車票を渡せばいいわけです。ですから当事者の事業者が「ICカード使用証明書」を発行することで、問題はなくなるのです。さらに入口と出口での振替実績を把握できるわけで、精算も容易になっています。
首都圏とは正反対と言う問題はありますが、磁気SFカード、さらにはICカードでの運用において従来の方法では不都合であるとしても、関西のやり方でなら可能であると言う実績があるわけで、ならば振替輸送の取り扱い方法を関西流にする、と言うような対応が本筋のはずでしょう。

それなのに関東流に固執して振替輸送を事実上取り扱わないと言うわけですが、振替輸送が発生するのは、気象災害のような不可抗力だけではなく、設備の不具合といった事業者側に起責事由があるケースも少なくなく、本来なら少なくともそういう事由での振替輸送、つまり、事業者による「債務不履行」そのものを免責することは、モラルハザードを発生させかねないわけです。

技術的にどうあっても不可能であっても、本来そういう顧客への責任問題を解決しない状態でサービスを導入することは、他の業界であればあまり考えにくいものですし、「便利になるが、いざという時の保証がない」ということは金融商品のようにリスク説明を十二分にする必要すらあるわけです。もっとも、昨今の首都圏での掲示は、消費者契約におけるリスク説明を敷衍しているものでしょうが。

ましてや技術的に可能、実際に同じカードで取り扱っている例がある以上、振替輸送の取り扱いをしないことにつき、「事業者側の都合」以上の理由が見出せません。事務処理が煩瑣になる、改札口の処理が膨大になる、という理由が出てくるのでしょうが、少なくとも「手間」を理由に免責されることが許容されるかどうか。これも他の業界であれば考えられないことです。

運輸業界では2006年2月にスカイマークが運航中止時などの振替などの救済を一切廃止して話題を呼びましたが、1年後の2007年2月に自社事由による場合には救済するように改められました。
もともと昔から、有責時の免責について、一部免責であってもその程度が著しいと不公正として免責約款を否定した判例があるうえに、昨今の消費者保護の法理を鑑みれば、モラルハザードに属しかねない免責については容認しない流れにあること、さらには他業界においてはこの「免責」のようなリスクがある場合には、そのリスクを十二分に契約時に個別周知する義務を負わせる流れにあるのです。

そうした流れで今回、乗車券のICカード化に伴う振替輸送の廃止という「完全な免責」がどのような意味を持つのかを考えてみれば、東西で違う取り扱いを単純に地域や事業者による違いとは割り切れないと思います。






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