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「共通カード」が共通でなくなる日





カード式乗車券のIC化が急速に進んでいる中、一世を風靡した磁気カード式乗車券の発売停止、そして通用停止も急速に進んでいます。

1枚のカードで繰り返し使えてエコという時流に乗った宣伝もあり、また各社のハウスカードとの連携が商機とあって、これを機に顧客を囲い込めば大きいこともあり、各社局も力が入っています。

しかし、首都圏の場合、2008年3月のパスネットのSFカードとしての通用停止に続き(一部は翌年まで通用)、この7月をもってバス共通カードの通用停止という節目を迎えたのですが、その取り扱いを見ると、いささか首を傾げたくなるような扱いが気になりました。

そしてそこからこうしたプリペイドカードなどの現金等価物における問題点も見えてくるのです。

●ICカードへの移行なのに
2010年7月31日のバス共通カード通用停止に伴い、バス停や車内に払い戻し方法が掲示されています。
料金箱で使うしかないカードであり、パスネットと違い券売機で購入できるといったことも無いだけに、通用停止の翌日から全く使えなくなるので、この案内は重要ですが、一読して驚きました。

まず驚いたのはバス共通カードの場合、パスネットのときと違い、パスモへの移し替えが出来ないということ。このご時勢にいつもニコニコ現金払いというのにも驚きますが、同様にICカードPASPYへの移行を理由に発売が停止され、来春の通用停止が予定されている広島の共通バスカードではPASPYに移行可能というといった取り扱いを見ると、なんでまた、という印象です。

特にICカードへの囲い込みを考えたら、基本はICカードへの付け替えとするのが定石なんですが。

●プレミアムが消える
ICカードへの移し替えは出来た広島PASPYですが、バス共通カード同様、払い戻し、移し替えの時にはプレミアム分を割り引かれます。
(1100円券で500円残がある場合は、500×1000÷1100=454で、10円単位四捨五入で450円払い戻し)

プレミアムは利用に応じて付与されるポイントと違い、購入時に確定している権利のはずなのに、あっさり消されてしまいました。
どさくさにまぎれて無利子融資に切り替えられてしまった感じです。

このあたりはハイウェイカードにつき、ETCへの付け替えについてはプレミアムも引き継がれていることと対照的です。

●なんとも面倒くさい手続き
広島の共通バスカードもそうですが、共通カードなのに払い戻しは券面記載の発行各社局で行うということ。
これはなんとも面倒で、パスネットが加盟各社局で実施していることと比べると非常に不便です。後述する取り扱いと合わせて、事業者の都合でいきなり無価値化された挙句に、払い戻しのハードルを上げて死蔵化を狙っているのでは勘ぐるしかない対応です。

バスの場合、相互乗り入れの路線で車内で購入とか、ターミナルにたまたまある券売機で購入とか、駅の売店で購入したという場合に、普段の生活圏と違うエリアの会社のカードになることがあります。
またたまの旅行や外回りでいつもと違うバス会社を利用し、地元でも使えるからとカードを購入するケースもあるわけです。

そうした行動を担保するのも、カードが共通で使えるというメリットなんですが、それが通用停止となった瞬間にこのメリットも消え去るのです。

それこそ1100円券が1枚丸々残っていても、その社局の営業所の営業時間内に行くとなったら、時間もお金もかかるわけで、かなり二の足を踏む事態です。

そういう意味では周知期間も大切であり、今回のバス共通カードは2009年10月の発表後、発売停止が3月、通用停止が7月というわけで、これを長いと見るか短いと見るべきか。(奈良交通なんかは半年でしたが)
盆暮れ、大型連休の帰省や旅行で使うためだけの所持というケースを考えると、丸1年くらいは期間を見てほしかったです。

●払い戻したその後は
これもバス系のカードに共通する対応なんですが、払い戻し(付け替え)完了後のバスカードは回収されます。

まあ鉄道系のカードと違い絵柄で釣るケースが少なく、基本カードでの発行が大半だったとはいえ、東京都交通局のように記念カードを結構出した社局もありますし、広島の場合は観光記念という感じで独自デザイン(呉市交通局=大和ミュージアムなど)のケースも多く、そうした記念やコレクションで所有されているカードは、この回収ルールの前には死蔵されることを余儀なくされます。

パスネットも一部社局では回収とありますが、券売機でPASMOに付け替えれば返却されたのにバス系は回収というのは、プレミアムの扱い云々という言い訳があるのでしょうか、確かに鉄道系でもパスネット以前に発行されていたプレミアム付きのプリペイドカードは回収すると言う会社もありますから。
しかしあれほどしち面倒くさい手続き、それも社局によっては個人情報をきっちり書かせての手続きを要求しているのですから、あとは残高0円のパンチを空けてしまえば良い話であり、これも死蔵を狙っているとしか言いようが無い対応です。

●ICカードなら大丈夫なのか
磁気SFカードからの切り替えで発生したこうした問題は、ICカードでは克服されるのでしょうか。

非接触型(実務上はタッチ1秒の接触を推奨)ICカードがさらに進化するケースが出てくるかにかかっていますし、1枚のカードを繰り返し使うので、残高があるカードが多く発生することも少ないでしょう。

一方で冒頭に述べたように、ハウスカード戦略による囲い込みにより、利用者は磁気SFカード時代よりも強固に社局ひも付きの状態になっています。
利用者がその一生をその社局沿線で終えないことも多々ある中、カードは共通だからと所持し続けたとき、今回のような事態が起こらない保障はありません。

とはいえPASMOの場合は払い戻しは発行社局に関わらず、加盟各社局でとり行うので、エリアをまたいだ転居以外ではこうした事態は発生せず、そういう意味ではバス利用におけるリスクは大幅に軽減されました。

ですからデポジットと合わせてもたかだか1000円程度の話ですし、エリアを越えての転居に加えて、あるかどうかも分からない将来の仮定の話に怯えるほうが精神衛生上もよくないといわれそうですが、そうした問題点があり、その前哨戦となるような事態が現実に発生したことは記憶にとどめるべきでしょう。

●ICカード共通化が問題を複雑に
悪いことに、ICカードの共通範囲が各陣営とその社局によって微妙に違うため、遠隔地発行のICカードを所持するほうが便利なケースもあるのですが、将来の「通用停止」時にそのSF残高やデポジットを事実上棒に振ることになる懸念があります。

実は子供用ICカードではこの通用停止の問題が常に発生しているのですが、東西で共通だからと「こどもICOCA」と「子供用My Suica」を引っ越してもそれぞれ違うエリアで使ってたりすると、子供が小学校を卒業した際に泡を食うケースも出てきます。(有効期限が卒業の年の3月31日までだが、払い戻しや大人用への切り替えをそれまでにするということに気がつきにくい)

共通化については、JRグループは共通で、各エリアの私鉄陣営とそれぞれ共通化という認識だったのが、福岡エリアとの共通化、また来年度の中京圏との共通化において、Suicaが先方エリアの私鉄でも使えるようになり、福岡はJR(SUGOCAエリア)でもSuica以外との共通化はしていないという、Suica一歩リードの状態になっています。

そうなると、生活圏、行動圏の関係で、九州圏や中京圏、またそれこそ関西圏においても日常利用においてはSuicaを所持することがいちばん便利なケースが出てくるのですが、カードの通用停止、また、Suicaでもかつて1回あったカードの切り替え(電子マネー対応への切り替えがありましたね)といった事態が発生したとき、思わぬ手間が発生しますし、生活の変化によってはもはや首都圏に行く機会も少ない、となって事実上死蔵となることもありえます。

●共通カードなら最後まで共通であれ
同じ効力ながら各社が発行しているものにビール券や全国百貨店商品券があります。
ビール券はそうした問題は起きていませんが、商品券の場合、発行体の破綻などで通用停止になるケースがあり、発行体を意識して購入、使用することが定着していますが(金券屋でも発行体によって価格が異なる)、今回は社局が破綻したわけでもなく、利用者(所有者、権利者)の権利を奪う合理的な理由はありません。

まあいわば発行体が示し合わせて価値を切り下げたようなものであり、債務不履行すら疑われるのですが、こういうケースで利用者が権利意識をきちんと持っているケースは少なく、なし崩し的に受容されています。

プレミアムの問題もありますが、何をおいても払い戻しもしくは付け替えを発行社局に限定するということは問題です。
共通を謳ったカードが最後の最後に地雷炸裂、というのでは話になりません。
ここまで示し合わせて通用停止等を決めるのであれば、払い戻し等も共通でやるべきでしょう。都合のいいところだけ<<共通>>というのがあのカードの趣旨だったのでしょうか。

●現金等価物のリスクを認識するいい機会
今春大手家電量販店が清算し、ポイントが消滅するのではないか、という問題が発生しました。
最終的には親会社で継承しましたが、それなりに便利不便が発生しています。
このように、現金同様に使えたはずのポイントなどの現金等価物には、発行体サイドの事情というリスクがあるのです。

近世以前は中央政府が通貨の発行権を独占しておらず、諸藩や中世以前はそれこそ商人などが通貨を勝手に発行していたわけですが、そうした藩札や私鋳銭は銀や金に対する価値が低かったように、使用する側がリスクを織り込んで取り引きをしていました。

しかしそれは前近代的な話であり、通貨は国家の信用というリスク因子はあるものの、国内では価値に紛れはありません。

それがポイントサービス、マイレージから電子マネーというように、現金同様に市中で利用可能なサービスが普及したことにより、あたかも中世の私鋳銭が復活したような状態になったともいえます。
基本的には同額の現金による「購入」(チャージ)であり、発行体が引当金を積むことでデフォルトリスクは少ないのですが、それでも国家が発行する通貨とは厳然たる違いがあります。

ポイントサービスの見直し、加盟店の増減のみならず、今回のようなサービス切り替えにおける減価といったリスクは通貨にはないというか、「新円切り替え」のような異常事態に近いリスクといえます。
そういう事態が発行体の一存で発生する、ということを目の当たりにしたことで、現金等価物の性格やリスクというものを今一度考えるいい機会だと思います。




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