このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください |
第3回全国幹線旅客純流動調査の分析
※この作品は「【検証】近未来交通地図」に掲載されたものを補筆、改稿したものです。
初出:2003年9月
これまでいろいろな場所で語られてきた議論で問題になる東阪間の鉄道と航空のシェアですが、おそらく総括的にまとめている唯一の公的データと思われる、
「全国幹線旅客純流動調査」
のデータを簡単にまとめてみましたので、ご紹介します。
2000年度に実施された第3回の調査結果ですが、データ自体は既存の航空、鉄道、道路の調査に、バス、旅客船及びフェリーの調査を行い調整・総合したものです。なお、航空と道路が1999年度、その他が2000年度と昨今の傾向を計るにはややデータが古いことを申し添えます。
●前提となるデータ
生活圏のメッシュで拾った流動データ。実際に調査した秋季1日データを元に補正した年間データを使っている(元資料では年間と秋季1日の両方がある)。
また、複数の交通機関を利用した場合については主たる交通機関を採択(元資料では主機関のみのデータと両方カウントの2種類がある)。
今回、全国の生活圏相互間のデータから抽出したのは下記の通りとなります。
1 | 首都圏、関西圏の広域相互間 |
2 | いわゆる大都市近郊に属すると思われる相互間 |
3 | 首都圏、関西圏の政令指定都市相互間 |
4 | 東京23区と大阪市の間 |
5 | 京都エリアを除く大都市近郊相互間 |
6 | 東京都(島嶼を除く)と大阪府の間 |
エリアとしては4が一番狭く、次に6になります。
以降、3では4に「浦和」「千葉」「横浜」「川崎」「京都」「神戸」を加え、
2では「川越」「船橋」「多摩」「相模原」「宇治」「堺」「東大阪」「豊中」「尼崎」を加え、
1では「土浦」「安房・君津」「成田」「小田原」「滋賀南部」「亀岡」「京都南部」「播磨」「淡路」「奈良」「和歌山」を加えています。
なお、5で除いているのは2から「京都」「宇治」になります(括弧内は元データの生活圏区分)。
●集計(なお端数の関係で合計欄は各欄の合計と一致しない)
凡例 | 航空 | 鉄道 | 船舶 | バス | 自動車 | 合計 |
1 | 5,637 | 28,403 | 17 | 271 | 0 | 34,331 |
2 | 4,773 | 22,808 | 5 | 221 | 0 | 27,811 |
3 | 1,124 | 9,756 | 5 | 70 | 0 | 10,953 |
4 | 603 | 3,289 | 0 | 48 | 0 | 3,940 |
5 | 4,640 | 17,621 | 5 | 189 | 0 | 22,455 |
6 | 2,418 | 8,047 | 0 | 164 | 0 | 10,628 |
(単位1000人、年間)
●分析
母数の範囲を広げる過程を見ると、23区対大阪市という母数は東京都対大阪府の37%程度。大都市近郊の14%程度に過ぎないことが分かります。
逆に大都市近郊からさらに首都圏全域に近いエリアに拡大してもあまり伸びないので、大都市近郊で考えるのが妥当かと思います。
このとき、2の表では航空対鉄道は17:83。バスはわずかに0.8%です。
一方、鉄道がどう考えても圧倒的優位に立つ京都を外しますと21:79。京都関係が大都市近郊移動で占める割合は全体で約20%ですが、航空は3%、鉄道は23%と、空路が不便な京都絡みの需要が鉄道に占める割合の大きさがうかがえます。
俗に鉄道と航空は85:15とかいいますが、このデータから言えることは1999年度の段階ですでに実質2割のシェアを航空が確保しているということです。
このあとの航空の伸びと「のぞみ」シフトの2001年10月改正、また「昼特急」に代表される高速バスの急増がどう影響しているかですね。
※本稿初出は2003年9月であり、その時点での分析、試算。
●数字の評価
航空が20%伸びても全体のパイの大きさから、鉄道とのシェアは3ポイント程度の奪還にしかならないということから、悲観することはないと見ることは可能です。今後懸念されるシフトが、航空が需要を創出した従来型の変化ではなく、鉄道からのシフトという場合は、劇的なシェアの変化も有り得ますが、一方で羽田、伊丹、関空のリソースを考えると、明らかに需要に応じきれないわけです。
その状況下においては、「のぞみ」を睨んだ運賃政策による収益の上限はありますが、一方で不健全なダンピングによる空席対策も不要になるわけで、限られた範囲内での収支改善が予測されます。
ただ、悲観することは無いとはいえ、足元の状況は予想外に食われているというのも事実です。
従来、大都市近郊の利用者分を加算すれば新幹線のシェアはまだまだ大きいというのが通説でしたが、それを入れても8割「しか」ないわけで、航空が不利、というか名古屋同様航空がライバルになり得ない京都を除くと、この時点で4分の1を侵食されているという見方も出来ます。
●現在の推測
その後、新幹線の「のぞみ」中心ダイヤへ大きく変わった2003年10月改正、さらには航空の伸張、また高速バスの急増に加え、昨今は格安ツアーバスもまた無視できないものになっています。
このあたりの変化が明らかになるのはこの2005年度に予定されている第4回調査の結果を待たねばなりません。
とはいえ、それなりに推測する資料はあるので、足元までの数字を推測してみましょう。
航空は国土交通省航空局の資料により区間別の利用者数の数字が2004年度まで出ているのですが、鉄道はありません。唯一、JR西日本が出している「データで見るJR西日本」の最新版である2004年度版に、東京都−大阪府間の鉄道、航空のシェア比が出ているので、そこから推測することになります。
上記の第3回調査の数字は航空が1999年度、鉄道が2000年度ですが、航空の数字を1999年度から2000年度の伸びで補正して合わせてみることにします。実はこの補正値の算出、航空局のデータが無いため、全日空の経営成績にある東京−大阪線の伸び率124.7%を使います。
このとき、東京都−大阪府(上記の「6」の数字)は航空シェアが27.26%となり、「データで見る...」の2000年度の航空シェア28%とほぼ一致します。
ここから以下のように試算してみます。(単位:1000人)
年度 | 航空実績 | 伸び率 | 航空6 | 航空 シェア | 鉄道 シェア | 鉄道6 |
2000 | 6,686 | 124.7 | 3,015 | 28 | 72 | 8,047 |
2001 | 7,347 | 109.9 | 3,313 | 30 | 70 | 7,730 |
2002 | 7,483 | 101.9 | 3,374 | 31 | 69 | 7,510 |
2003 | 7,774 | 103.9 | 3,505 | 33 | 67 | 7,116 |
2004 | 8,123 | 104.5 | 3,662 | N/A | N/A | N/A |
航空実績:航空局資料
航空6:1999年度の第3回調査の数字に東京−大阪線の伸び率を掛けたもの
航空シェア/鉄道シェア:「データで見るJR西日本」
鉄道6:航空6の推測値をベースに、「データで見る...」のシェアで割り返したもの
ここで注目すべき点は、2001年10月の「のぞみ」増発の影響が航空にはほとんど無いこと、そして鉄道データが出ていませんが、航空データを見る限りでは2003年10月の「のぞみ」中心ダイヤへの改正ですら、航空側に影響は出ていないのです。
少なくとも東京都−大阪府という括りでは、航空の伸張は総需要の増加、つまり新規需要の創出とは言い難く(あくまで推測の結果とはいえ、利用総数は減少している計算になる)、航空の増加と裏腹に、鉄道は利用を確実に落としていると言うことです。
そう考えると、航空が利用を伸ばした2004年度に鉄道も利用を伸ばしたかというと疑いが生じるわけで、仮に2004年度を2003年度横ばいと置くか、2002年度〜2003年度なみの減少率とおいた場合、鉄道のシェアは横ばいで66%、減少で65%となり、2/3を割り込む計算になります。
第3回当時の試算ですと、大都市近郊相互間では東京都−大阪府相互間より6ポイント程度低い数字が出てましたが、この計算を当てはめるとそれでも30%に近づく数字になっていますし、京都地区を除けば30%を超えていることになります。
新幹線の数字は航空に蚕食されたものもあるんでしょうし、高速バスに流れていったものもあるでしょうから、対航空だけで見ることは危険なんですが、いずれにしても東京都−大阪府に限れば新幹線のシェアは既に航空の「2倍」もない、つまり、現在毎時2本の航空機を6本にしたら総需要をまかなえてしまう計算になります。
そう考えると、かつて鉄道のシェアが8割から9割はあるとされてきた時分に、航空では需要は到底賄い切れないのだから、と言われていたことすら揺らぎ始めています。
もちろん両者がオールオアナッシングになるはずもなく、それぞれの特徴を活かして共存することが望ましいのはいうまでもないでしょうが、ここまで来ると、東京−大阪は新幹線が常識、というような固定観念がもはや通用しないと言うことを踏まえないと、正しい評価は出来なくなっているのです。
このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください |