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神戸港、外国客船入港時の問題点
「ミナト神戸」に求められるホスタビリティ



ポートターミナルに停泊中のVolendam号



我が国を代表する国際貿易港の一つである神戸港には、今なお毎年多くの外航客船が入港します。
こうした客船は国際間の移動手段ではなく、乗ること自体が目的のクルージングとしての運航ですが、各国からのさまざまな客船の入港は産業関連の船舶にはない華やかさを港にもたらします。

こうした「豪華客船」の入港は、船客が一時入国して神戸市を訪れることを必然的に伴うわけで、国際色豊かな観光客が1日ないし数日間の停泊中に港から市内に出かけることになります。

この10月は複数の客船が同時に入港する寄港ラッシュとなりましたが、たまたま神戸を訪れていて、時間があったので客船見物をしたところ、神戸市のキャッチフレーズと言うか金看板である「ミナト神戸」にしてはお粗末?な実態が目に付きました。

写真は2008年10月、2009年6月、10月撮影



●豪華客船の競演
横浜港と並び我が国を代表する二大国際貿易港である神戸港。貨物の取扱高など港湾としての実力は最盛期からかなり低下しているのが現実ですが、それでも今なお我が国の港と言えばまず横浜と神戸が頭に思い浮かぶのは、やはり豪華客船が数多く寄港する華やかなイメージに起因するところが大きいでしょう。

神戸港というと、独特なスタイル(実は灯台も内包している)のオリエンタルホテルが一体化された中突堤を中心とするメリケン波止場のエリアをイメージするわけで、西側のハーバーランドから中突堤、ポートタワーの夜景は神戸港を代表するシーンとして数多の媒体で目にすることができます。

しかし豪華客船のほとんどは中突堤ではなく、東側のポートアイランドへの神戸大橋の北詰に位置する新港第四突堤(四突)にあるポートターミナルに接岸します。ここは大正年間に竣工し、5万トンクラスまでに限定される中突堤と違い、5万トンクラスなら4隻、最大で10万トンクラスの接岸に対応した我が国最大の客船用ターミナルであり、クイーンエリザベス2ほか我が国に寄港した豪華客船の多くはこの神戸港ポートターミナルに寄港しています。

毎年春と秋が豪華客船の入港ラッシュですが、2009年10月9日はさらにその特異日ともいえる状況となり、中突堤に「飛鳥Ⅱ」と「Spirit of Oceanus」、さらに四突に「Volendam」が接岸と、客船ファンにとっては忙しい一日になりました。

中突堤には飛鳥Ⅱ(奥)とSpirit of Oceanus号(手前)


●豪華客船との出会い
仕事柄神戸空港を利用して神戸に行くことが多いのですが、その際に使うポートライナーからたまにこうした豪華客船が四突に接岸しているのを目にします。
この手の豪華客船は朝8時入港となることが多いようで、ちょうど接岸直後でデッキに鈴なりのクルーズ客が神戸港接岸を見守っているシーンを目にしますが、あと10分から15分遅い入港であれば歓迎放水を伴う入港シーンを見れるだけに、ちょっと残念です。

印象的だったのが2008年10月の「Amsterdam」(60874トン)の入港。最終の羽田行きに乗るべくポートライナーに乗ったところ、新港エリアに見慣れぬビルのような灯りが見えており、こんな場所にビルがあったっけ、と思っていると、それが四突接岸中の「Amsterdam」だったのです。
夜のポートターミナルの建物を圧倒するような巨大な船体に息を呑みましたが、実は神戸在住中には見に行くこともなかっただけに、こんなに美しいものならば見に行っていればよかったと後悔もしたのです。

Amsterdam号

その時は飛行機の時刻も迫っていたので車内からの「チラ見」でしたが、2009年6月の「Costa Classica」(52926トン)の入港の際にはちょうど神戸市内に宿泊していたこともあり、夜のポートターミナルに見物に出かけています。

Costa Classica号

そしてこの10月は、別稿でレポートした台風下の出張の最終日が「Volendam」(60906トン)の入港に重なっており、仕事が予想外に早く片付いたこともあり、予定の飛行機までの時間を「Volendam」見物に充てたのです。

●「Volendam」を見る
実は「Volendam」は押さえておらず、三宮に出て間もなく引退するポートライナー8000系でも見ようかとポートライナーの駅に出たところ、改札近くのインフォメーションボードに掲示されている入港予定に「Volendam」の文字を見つけて、豪華客船の入港に気付いたのです。

取り敢えずポートターミナルに向かうと1駅目の貿易センターで8000系とすれ違い、ポートターミナルで下車するとまずはホームから「Volendam」の威容を見ながら8000系を待ちました。
客船の入港が無い日は閑散としているホームも、この日は神戸見物の船客と思しき外国人を中心にポートライナーが着くと人だかりができます。

ポートライナー車内から

ポートターミナルに出て、デッキから「Volendam」を見ますが、木製の温かみのある意匠が目立つデッキに、白いテーブルクロスとナプキン、ワイングラスがガラス越しに見えるのはレストランでしょうか、そしてところどころカーテンが開いていて見える客室を目にすると、優雅なクルーズを想像してため息が出ます。

まだ日もある時間帯で、折角ですから神戸大橋を歩いて渡り、対岸のポートアイランド北公園から四突と「Volendam」を見てみました。
神戸市街と六甲山系をバックに停泊する「Volendam」、黒と白のカラーが映えます。

北公園から見るVolendam号


●ポートターミナルのアクセス事情
さてため息が出るような豪華客船見物をするうちに気付いたのがアクセスの問題点です。

基本的にバスとタクシーだけ、しかもバスの本数が必ずしも多くない中突堤と比べて、タクシーはもちろんのこと、ポートライナーのポートターミナル駅が隣接している四突は市内へのアクセスと言う意味では優れています。
港のアクセス事情というものは案外と良くないわけで、横浜港にしても大桟橋ターミナルはバスアクセスですし、大阪港の天保山ターミナルも同様です。まあ豪華客船の船客ともなればわびしくバスや電車で移動などしないということなんでしょうか、とはいえ神戸港でもポートライナー利用者が目立つだけに、海陸のアクセス結合はするにこしたことはありません。

ターミナル壁面に貼られた案内

ポートライナーができたのは1981年ですから1970年に竣工した現在のポートターミナルよりも後付けです。
当時としては海陸の結節は画期的だったのでしょうが、ひさし伝いに駅まで行けるとはいえ、駅の位置がやや斜交い気味で離れているのは残念です。さらに駅は神戸新交通の各駅の中でも一番簡素化されたレベルの一つであり、エレベーターはなく、エスカレーターも通常は上り運行の1本だけ。出改札は無人で、構内にトイレもないというのは、昨今の鉄道駅のレベルとしては最低水準に近いといっても過言ではないです。

これが国際貿易港の玄関口の駅であり、豪華客船の船客が市内への移動手段として数多く利用する駅と言うのはちょっとお粗末なのではないでしょうか。

ホームも一番簡素な造り


●バリアフリー対策の立ち遅れ
これがあくまで「見た目」レベルの話であれば良いのですが、三宮からポートターミナルを往復し、最後に神戸空港に向かった30分もない時間で、数多くの「問題」なシーンに出会ったのです。

まずはポートターミナルで見かけた8000系ですが、あとでその際に撮った写真を見ると「運転士」が乗っています。
これは珍しいシーンであり、しかもこの日あとで見かけた運用には乗車していなかったのです。
この列車がポートターミナルに着くと、車椅子に乗った外国人が「ご案内」されていましたが、あとで考えると無人運転だと降車の誘導に難があるがために「運転士」を添乗させたのでしょうか。

そして「ご案内」もエレベーターがない駅ゆえ、これも三宮から出張ってきたのでしょうか、係員がエスカレーターを下り運転に切り替えて対応していましたが、車椅子対応のエスカレーターでないようで、介助にかなり手間をかけていました。
障害がある人でもクルーズを楽しめるというのが「国際基準」ですから、こうしたケースは少なからずあるはずですが、寄港地の「玄関口」の対応がこれと言うのも非常にお粗末です。神戸空港駅など2006年開業の各駅はバリアフリー対応も完備しているだけに、ポートターミナル駅の状況は改善が急務です。

ホームからコンコースへは階段で


●きっぷはどうやって買うのか
さらにはポートターミナル駅では券売機の前で思案顔の船客が悪戦苦闘中です。
多機能型の券売機は日常利用者や、旅行者でも日頃日本の鉄道に慣れ親しんでいるのであれば便利ですが、初めて出会う外国人旅行者にとって見るとどうでしょうか。三宮まで200円の切符を購入するだけなんですが、カードや一日乗車券などいろいろな口座があり、どう操作すればいいのかがまずわからないようです。

切符購入に四苦八苦

改札機自体は苦もなく利用していますが、切符の購入が難物のようです。駅には三宮まで200円と言う英語の張り紙がしてありますが、その200円の切符をどうやれば購入できるのかが示していなければ意味がないのです。
上述の通りこの駅は無人ですから、聞く相手もいません。インターホンでの応答はあるのですが、そういう手段があることが分かるはずもありませんし。

三宮には「Volendam」はP03 ポートターミナル駅で下車。快速は通過。片道200円と英語による張り紙が各券売機の上に貼ってありますが、それでも悩む船客が後を絶ちません。ここまで案内しても分からないほうが悪い、と思うでしょうが、その200円の切符を目の前の券売機で買うという肝心な案内が抜けているのです。

三宮の券売機には案内があるが

実際に悩んでいる外国人からわずかな間に何回も聞かれたわけで、確かに券売機の上に掲出してあるものの、これが券売機と言う英語の表記はないのです。
目の前の券売機で買う、という一言が実は必要なのであり、本当に一から分からない人の立場に立って案内を考えるべきでしょう。

●電車はどれに乗ればいいのか
さらに問題なのが、切符はなんとか買えて、改札も通過できたとして、ホームに上がった瞬間に惑うのです。
ホームにいる電車がポートターミナルに止まるのか。券売機のところに「P03 ポートターミナル下車、快速は通過」と書いてあったじゃないか、というでしょうが、あそこでは200円の切符を購入するだけでいっぱいいっぱいなのです。

停車駅のスクロールは和文だけ

出発案内の停車駅案内は和文だけ。まさかと思うでしょうが、「神戸空港行き」「北埠頭行き(そのままループして三宮行き)」の表記だけで、どちらもポートターミナルまで行く、という英文の情報が実はないのです。
「Volendam」はP03 ポートターミナル下車、快速は通過と言う券売機の情報は、実はここに必要なのですが、無いのです。

降車駅はポートターミナルと言う情報が既に忘却の彼方になってしまった状態で、さらにまさかとしか言いようがない混乱が実際に発生していました。
何組かの船客が、ホームドア上部の路線図(これは英文併記)を指差して、「降りる駅は何処かいな」と侃々諤々の議論を始めています。
なかでも1組の老夫婦はご主人が「ポートターミナルだろう」と正解を言いますが、奥さんが「神戸空港じゃないの?」と不安げに問い返し、あわや夫婦喧嘩の発生かという状態になっていました。

ここでも結局奥さんが私に聞いてきたわけで、2つ目のポートターミナルで降りるべく案内しましたが、券売機のところの張り紙をここにも貼るか(1、2番線あわせて12枚にすぎない話です)、路線図のポートターミナル駅のところに「To ship」とでも書けばこの手の混乱は回避できます。

To Shipの一言が...


●国際都市としてのホスタビリティ
国際貿易港である神戸港の存在、さらには各国の領事館もあることから神戸は国際色豊かな都市と言うイメージが定着しています。
実際、街を歩いていると外国人を当たり前に目にするわけで、人口150万人の政令指定都市というと「大都市」ではありますが、都市の規模を冷静に考えると、外国人の比率は多いです。特に最近は各地で多く目にするアジア系に偏重することもなく、欧米系、アフリカ系の比率も多く、そういう意味ではまさに「国際色が豊か」と言える部分です。

そして市内の企業勤務とか、仕事で頻繁に訪れる外国人であれば、神戸の交通機関を使いこなせるのでしょうし、そうした外国人がほとんどというのも事実です。
しかし、今回図らずも目にした通り、外航客船の利用者もまた少なくないわけで、こうした「一見さん」的な外国人の訪問への対応、配慮もまた求められます。
神戸空港の利用促進の中で、全国から神戸への観光客を増やすという目標を掲げていましたが、ならば外航客船で神戸を訪れる外国人観光客もまた大事にする必要があります。

そう考えたとき、四突のポートターミナルに到着して市内に出かける船客にとって、神戸という街は分かりやすい街なのかどうか。
国際貿易港である神戸は、また世界での知名度も高いのですが、そこに「街に出るときに分かりづらい」「バリアフリーが問題」というような印象を受けると、なまじ知名度が高いだけに、その悪いイメージが予想外に海外で定着してしまう危険性もあります。

また日本における寄港地として神戸が選ばれるのも、その知名度に負うところが大きいだけに、「Feel Kobe」キャンペーンなど観光にも力を入れている神戸市は、そのホスタビリティを実効性のあるレベルに保たないと、「ミナト神戸」のブランドはいつまでも維持できないのです。

ポートターミナル内部






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