このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください |
交通におけるマナーを考える〜その4
着席定員通りに座るためには
守られないのは本当に幅員の問題なのか
●幅員拡大の流れ
ロングシートの着席定員をどうやって守らせるか。これは古くて新しいテーマであり、座席のシート部分を分割したり、バケットシートを採用して、正しい着座位置を促す対策に始まり、最近では体格向上による必然的な減少と考えて、一人当たりの幅員を広めに設定するなど、様々な対策が採られていますが、いまだ決定版といえる対策は見つかっていません。
特に幅員の問題は1944年登場の63系電車から205系まで旧国鉄時代を通して430mmと不変だったこともあり、さすがにそれは無理があると言うのがコンセンサスのようで、209系で450mm、E233系では460mmと拡大することで、幅が狭いから、という言い訳を封じる構えです。
確かに戦前、戦中と現在では日本人の体格はまったく違います。ドアの開口部の高さも近年の体格向上を考慮して高くなっていますから、座席の幅員もまた改良されて然るべきでしょう。
しかし、ではどのレベルが最適か、と考えたとき、この「拡大路線」は本当に正しいのでしょうか。
というと、実際の体格向上なんだから当然だろう、とお叱りを受けそうですが、本当にそうなのか、と言う悩みが頭の片隅にあるのです。
●「問題の所在」に対する疑問
実際に、どれだけの幅員を確保したら満足できるのか、という「理想値」を考えたとき、以前阪神電車の車内で見たシーンを考えると、求めるがままに広げても切りが無いのです。
つまり、日中の余裕のある時間帯で、本来1人当たり440mm、8人がけのロングシートに思い思いに座ると、概ね5人ないし6人で「いっぱい」になるのです。隙間が微妙に空いた格好で座り、でもその隙間には自然に座れない。計算すると600mm前後になるのですが、ではそれが理想と言われると、それは余裕の取りすぎではないかとしか言えないのであり、あるレベルの幅員まで「我慢」することを強いる必要があるのです。
7人がけのロングシートに6人が座り、しかも男女とりまぜてであり、太目の人が多いわけでもないのにぱっと見で特に隙間が空いているようにも見えない。となると(430×7÷6≒500)であり、1人当たり500mmは必要と言う計算ですが、そうなると10mm刻みにE233系なみに460mmに拡大しても大差が無いというか意味がないことになります。
だのになぜ460mmに拡大してまで7人がけを守るのか。名目だけの座席定員で4ドアロングシート化による着席定員の減少を小さく見せかけるトリックではあるまいし。
一方で430mmの従来型のロングシートでも7人がけが全く守られないと言うわけではないですし、そうなると1人当たり約70mmの差がどうして発生するのか。
ついでに言えば、従来型のロングシートの幅員が定まった時代、3等級制における2等車(ボックスシート)の1人当たりの座席幅は肘掛を除き470mm程度であり、新幹線N700系の座席幅も肘掛間で440mm(700系までは430mm、B席は460mm)です。肘掛があったり通路や窓側に肩を逃がすことができるとはいえ、優等車両や新幹線で肩がぴったり付くほど窮屈に乗っている話を聞かないだけに、通勤電車での現象は不思議とも言えます。
そうなると、そもそもこの手のロングシートの着席定員の根拠となった一人当たりの幅員はどうやって決められていたのか。私自身、これまで漠然と体格のみを考えていたのですが、ある時ロングシートに座って向かいを見ていてあることに気がついたのです。
●座り方の問題
つまり、座り方そのものに「問題」があるのではないのか。
6人がけで隙間が無いようなケースを注意深く見ていると、必ず誰かが、と言うか多くの人が肘を背ずりに付けています。つまり、肩幅を最大限とって、胴の幅+両腕分の幅を確保しているのです。そういう姿勢をとる原因として、携帯電話や携帯ゲーム機の操作、また新聞を広げ気味に読むと言う動作が概ねついているようです。
そう気がついて自分で座り方を考えて、着席定員を守れている形での着席、つまり、ラッシュ時の電車でどう座っているかを思い起こして再現してみると、肩を閉じ気味に座り、腕か手を身体の前で組んでいるのです。
肩を閉じ気味にすることで、着座部分ではお尻の幅がすなわち1人当たりの幅員になりますが、肘を背ずりに付ける座り方だと、お尻の幅+αを要することになります。
ひょっとすると、肩を閉じ気味に座る前提で幅員が計算されているのではないのか。
にもかかわらず、肩を開いて座る、あまつさえ肘を背ずりに付けるまで肩を広げて座っては、幅員の計算根拠となる姿勢がそもそも違うのですから、幅員が足りないのも当然です。
もちろん昔は肩を閉じて文字通り肩身を狭くして座っていましたが、今はそんな座り方まで強制されてはかなわない、と言う意見もあるでしょう。
しかし、みんなが満足するレベルの幅員と言うと先に述べたように最低でも500mm、自然体では実に600mm前後となるわけで、今の7人がけロングシートを5人がけにすることになるのです。
●混み合えば譲り合うという単純な話
着席定員をさらに削ってまで快適さを追求するのか。そういう考えもあるでしょうし、その反面、少し窮屈だが我慢してみんなで座ろう、というという考えもまた可能なはずです。
脇に荷物を置いて座らせないと言った論外の対応に限らず、肩肘を張らずに少し閉じるだけで、お互い少し窮屈ですが座ることが出来る。座れない苦痛に比べたらちょっと窮屈でも座りたい人のほうが多いでしょうし、楽に座れなかったら座らないほうがマシという人も少ないでしょう。
そう考えたとき、以前に触れた「江戸しぐさ」には「こぶし腰浮かせ」というマナーがあることが思い出されます。
隣人との間で、こぶし1つ分腰を浮かせて座り直すと、うまい具合に腰が動き、スペースが捻出されてもう一人座れるというものです。
これは渡し舟などの乗合船、まさに当時の公共交通機関でのマナーだそうですが、混雑時にお互いが譲り合って丸く収めようとする知恵は、現代の通勤電車にも通じるものがあるわけです。
座ってしまえば他は知らない、自分だけでなくみんなもやってるからいいだろ、とばかりに肩肘張って携帯やゲーム、新聞に没頭したりする前に、肩を閉じてお互い譲り合うことで着席できる人を増やす気配りがほしいですし、同時に肩で押し合わなくなるから隣人の行為で不快になることも減るメリットもあるのです。
そう、混みあえば譲り合って一人でも多く座り、空いていればゆったりと座ればいいのです。
当たり前の話であり、当たり前のマナーのはずですが、それが忘れ去られているのです。
この「当たり前」が忘れ去られてしまっている以上、「当たり前」が前提になっている着席定員が守られていないのは、ある意味当然ともいえますが、現状が正しい、座席定員など守らなくて当然と言い切れるかどうか。
問題の所在は体格向上というより、みんながマナーを忘れて守らなくなったことかもしれないわけで、現状が正しいとは言い切れません。
4扉ロングシートの7人がけで1人座れるか座れないという問題は、1両で6人、10両編成なら実に60人となります。1人1人の気配りとマナーの積み重ねが、1両分の着席定員に匹敵する人の満足につながると言うことを頭の片隅に入れて行動したいものです。
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