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「あおり運転」厳罰化に欠けている視点
「なぜ」の分析が無ければ解決しない問題



高速道路でのいわゆる「あおり運転」に対する道交法の罰則が10月から厳罰化されます。
「あおり運転」というと、乱暴な運転で無辜なドライバーに迷惑をかけるというイメージが強いですが、飲酒運転のように社会的に大きな影響を及ぼした重大事故が多発しているわけでもないのに、法改正にまで至るのはなぜか。

確かに「あおり運転」の形式的要件が成立するケースを見ることは多いですが、法改正による厳罰化で総てが解決するのか。高速道路の実態を考えると、少なからぬ疑問を感じるのです。


●「あおり運転」厳罰化の法改正
高速道路を走行中に前車との車間を取らずに追い上げる「あおり運転」。
法令上の定義は「車間距離不保持」に属しますが、状況によっては危険運転に問われます。政府は8月25日に、10月から高速道路でのいわゆる「あおり運転」を厳罰化することを閣議決定しました。

「高速道での「あおり運転」10月から厳罰化」

政府は25日、高速道路で行う「あおり運転」の行為に対し、車間距離不保持の違反点数を現在の1点から2点に、反則金を普通車で6,000円から9,000円に引き上げる内容の改正道交法施行令を閣議決定した。
罰則も「5万円以下の罰金」から「3月以下の懲役または5万円以下の罰金」に厳罰化する。高齢ドライバーの保護などが狙いで、今年10月1日から施行する。
道交法は前方の車が急停止した際、追突を避けられるだけの車間距離をとるよう義務付けており、全国の警察本部は昨年、高速道路を中心に11,939件の違反を取り締まった。

(読売)


確かに高速道路などで前車との車間を極端に詰めて走る姿をよく見ます。またルームミラーを見るとすぐ後ろに迫ってきているのを見ることも少なからずあります。
そういうケースを考えると、「あおり運転」への規制も頷けます。

しかし、高速道路を走ったことがあれば、事はそんなに単純でないことはお分かりいただけると思います。そしてそこに今回の法改正の問題点と、実効性への疑問があるのです。

さらに言えば、今回の議論は「あおり運転」への罰則だけを強化したことが分かる通り、その原因を前車の側だけに求めた偏面的なものといえます。
そもそもまず考えるべきなのは、車間距離不保持が問われるくらい前車に接近する原因であり、それを考えると後車の非ばかりを問うても問題は何も解決しないことが見えてきます。

●「あおり運転」はなぜ発生するのか
なぜ「あおり運転」がこうも発生するのか。
本来の範疇であり、厳しく罰するべき存在と言えるのは、流れを乱して自分本位に走り、自分より遅いクルマがあればベタ付けして煽る、という論外なケースでしょう。
ステレオタイプな表現をすれば、追越車線で前車をパッシングで追い散らしてかっ飛ぶ「高級外車」や大型トラックというイメージです。

しかし、こういうクルマがかくも多いのかというと、そうではないと断言できます。
ところが「形式的要件」を充足しているクルマは多いわけで、なぜ「実質」と「形式」の間に差があるのか。
これは「あおり運転」がなぜ発生するのかを考えると、その問題点が見えてくるのです。

当たり前の話ですが、「あおり運転」は煽られる前車がいないと成立しません。
どんなに飛ばしていても、前車がいなければスピード違反など他の罰則を課すことはできても、車間距離不保持とはいえません。

そして煽られると言うことは前車と後車の間に明白な速度差があるということです。速度差がなければ前車との間隔は詰まりませんから、煽ることは不可能です。
その前車と後車の速度差がなぜ発生するのか。それが「あおり運転」発生の真の原因なのです。

もちろんいかなる場合においても煽る意思がなければ「あおり運転」は発生しませんから、理由を問わず「あおり運転」を罰するべきと言うこともできます。
しかしながら単純にそれをルールとした場合、前車と後車の行為に対する評価に実は不公平が生じるのです。

●前車による原因行為の責任は
そもそも高速道路は基本的に片側2車線以上が確保されており、速度差がある車両が走行していても、追越車線を使って追い越すことで低速車による「ブロック」を防ぎ、高速走行を可能にしています。

形式的に「あおり運転」が発生しているケースの大半は、本来速度差のある場合に行えるはずの追い越しが出来ない状態で発生しているわけで、その状態がどういう理由で発生しているのかを分析し、解決することで解消するケースが多いと見ます。

もちろんだからと言って車間距離不保持でも構わないと言うつもりはありませんが、全体的に交通量が多く、追い越しが出来ない状態でもないのに、本来機能するはずの機能を殺すような走行をしている側を「容認」し、それによって本来享受できるはずのメリットを刈り取られてしまう側に一方的な忍従を強いるというのは、その原因行為のなかには「違法」行為もあるだけに、社会正義に則った法律の適用、運用としても好ましくありません。

道交法は「規制」や「違反」だけを定めているのではありません。道交法はその第1条で目的として、「この法律は、道路における危険を防止し、その他交通の安全と円滑を図り、及び道路の交通に起因する障害の防止に資することを目的とする。 」と示しているように、円滑な交通の実現もまたその目的にしています。

そういう意味では、期待される機能を阻害する交通方法は、円滑な交通の実現に反するといえるわけであり、公平に取り締まることが期待されます。

●前車の責任は軽くない
まず再認識しないといけないのは、追越車線は「追い越し」のために存在するのであり、追い越し後は走行車線に戻らないと「通行帯違反」となり、道交法違反となるのです。
実はこれに対する取り締まりは実行されていて、スピード違反、シートベルト着用違反に継ぐ摘発件数となっているのですが、スピード違反の1/6程度とあっては、現場の印象からすると「摘発率」がかなり低い印象を受けます。

また、追いつかれた車両の退避義務というものもあるわけで、特に法定速度に格差がある大型貨物の場合、規制速度区間外であれば本来この規定により速やかな走行車線への復帰が求められるはずです。

しかし現実はどうなのか。
追越車線を、そこにいれば追い越せる、速く走れるエスカレーターのように勘違いしているクルマが少なくないわけです。ちなみにこの夏の「1000円高速」による渋滞防止の啓蒙キャンペーンには、渋滞を見ると我も我もと追越車線に車線変更することが渋滞の深度化の原因として、車線維持を要請しています。

今夏の啓蒙キャンペーン

追い越しのマナーも悪く、追い越し終了後も漫然と追越車線を走行しているクルマが多く、思い出した頃に走行車線に戻った時には、前方には広々と空いた2車線が広がる、と言うことも少なくありません。
また、速度差を持って追越車線を進行していると、走行車線から急に飛び付く様に車線変更してくるケースも多く、しかも走行車線の速度から充分に加速していないため、たちまち追越車線が詰まるのです。

最悪なのは走行車線よりは確かに速いが、速度差がほとんど認められないレベルで追い越しをかけるクルマです。一般道の対面通行区間(白破線)でこのような追い越しをかけたらたちまち追い越し可能区間を過ぎてしまい重大事故を起こしますが、多車線道路であることをいいことに延々と併走としか言いようが無い状態で「追い越し」を続けているケースが大型を中心に多いです。

その他、暫定2車線区間で発生しがちなケースとして、圧迫感もあるのでしょうが、対面通行区間では規制速度も満足に出さないのに、追越車線がある区間になるとなぜかスピードアップしたり、追越車線に出て「併走」したりして、また対面通行区間で速度を落とす、というのもあります。

こういうケースに遭遇すると、後車はイライラが募るわけです。
焦るほうが、イライラするほうが悪い、とお説教が降ってくるのでしょうが、レベルの低い走行に支障されても耐えるだけ、というのはあまりにも一方的です。
そしてそれまでの巡航速度から速度を落とさざるを得ないばかりか、加減速を繰り返すような走行であることが多いことから、後車が一定の速度で走っていると不意に車間距離が縮まることが多く、形式的な「あおり運転」が発生するのです。

●漫然とした走行は渋滞の主因
結局、流れに乗れない、流れが見えない走行が総ての元凶と言えます。

速度差が把握できていない、追越車線の流れが分かっていないから加速もせずに飛び出してくる。
自分が今どのくらいのスピードで走っているかが把握できないから漫然と追越車線に居座っても違和感を感じないのです。

こうした漫然とした走行は、自然渋滞発生の「サグ」での速度低下にてきめんに現れます。
上り坂での速度低下に対応できないままに走ることで後続が詰まるあの現象です。サグの地点に差し掛かって渋滞が解消したとき、前車の速度回復にきちんとついていっているクルマがいる反面、しばらく渋滞時の速度のまま走ってから渋滞解消に気づいて慌てて加速するクルマの2種類に分かれますが、後者は上述のような「あおり運転」を惹起するクルマと重なると思われますし、渋滞になると追越車線に入りたがるクルマでしょうから、余計に追越車線の機能を殺ぐわけです。

IC合流地点とはいえほとんどが追越車線へ
(追い抜きがかけられず追走中)


●円滑であれば誰も無理はしない
パッシングをして追い散らすような確信犯は別として、たいていの形式的な「あおり運転」は交通が円滑であれば発生しないでしょう。

急ぎたいクルマにそこまで配慮する必要はないという人もいるかもしれませんが、特に高速道路の場合、「急ぐ」目的で利用しているのですから、その最大のメリットを奪われることを是認することは出来ません。

「そんなに急いでどこへ行く」と言いますが、100kmで走れるのに80kmで抑えられたら、それが10分も続いたら10分後には3.3km、時間にして2分程度の差がついているのです。
こうした現象が何回も繰り返されたら、ロングドライブになればその差はかなり大きくなります。

クルマの運転というのは免許証の存在からも分かる通り、技術に関する国家資格に基づく行為であり、ある程度の水準の技量が求められます。
特に高速道路においては事故の発生可能性やその結果の重大性に鑑みると、高い水準を求めて当然であり、そういう意味では「あおり運転」の厳罰化は否定しませんが、その原因行為となっている漫然とした走行の「取り締まり」とまではいかなくとも、防止策の啓蒙や義務化を要求して然るべきと考えます。

おりしも「1000円高速」で交通量が急増した反面、明らかに技量が劣るレベルのクルマも従前に増して多く見かけるわけで、さらに「高速道路無料化」となったらその傾向に拍車が係ることは必死なのです。

「あおり運転」を厳罰化しても、危険防止に関しては対症療法の域を出ないものであり、永続的な危険防止を求めるのであれば、高速道路の正しい走り方というものを周知徹底することが必要です。
そしてそれは足下の「規制すればいい」という単純な道交法の運用では決して達成できないのです。





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