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誤解を招く表示の危険性
開かずの踏切の「故障」表示の意味



急遽取り付けた注意書き(摂津本山)



2005年10月に京浜東北線の大森−蒲田間の踏切で、警報機、遮断機が作動しているのに進入した高齢の女性2人がはねられて死亡する事故が起きました。
これだけ聞くとなんと無謀な、と思うところですが、実はこのとき、踏切は確かに警報機と遮断機が作動していましたが、その警報機部分に「故障」という表示が出ていたのです。

JR東日本によると、踏切の連続遮断が30分を超えるとこの表示になると言うことですが、確かに当日は人身事故の影響でダイヤが混乱して「開かずの踏切」が本当に1時間程度開かなくなってしまったようです。

さらに2006年3月には東海道線の三河三谷付近の踏切でも同種の事故があり、やはり高齢の女性1人が亡くなっています。
JR東海によると、ここのケースでは15分以上の連続遮断で「故障」表示に変わるとのことですが、相次ぐ「故障」表示の誤解による事故に、国土交通省はJR東海に対して「故障」表示でも踏切に入らないように注意を促す看板の設置を指示しました。

冒頭の事故を起こしたJR東日本、さらにJR西日本、九州の各社は「故障」表示が誤解を招くとして、「故障」表示そのものを廃止する方針を決め、全廃の方向で改造を始めています。
トップの写真はJR西日本、摂津本山付近の踏切ですが、まだ改造前なのか、ご覧の通り以前はなかった注意書きが取り付けられています。

さて、事故を起こしたJR東海はと言うと、「故障表示が点滅する時には、警報機や遮断機を強制的に作動させる仕組みがある。人や車の交通は遮断され、安全が確保される」と説明しており、「故障を通行人に伝えることで、ほかの踏切へ迂回(うかい)してもらうことにもつながる。同時に故障の連絡もしてもらえる。表示を廃止する予定はない」としています。

確かに故障の時には警報機が鳴動して遮断機で遮断するというのはフェールセーフ機能としては優れているように見えます。だから作動中は入らなければ安全と言うのがJR東海の言い分なんでしょう。
しかし、「故障」と言う言葉が持つ本来の意味を考えた際、この表示は安全を担保するどころか、誤解による危険を招きかねないことは確かであり、JR東日本などが進めている、誤解の危険性に鑑みて表示そのものを撤廃する方針が正しいやり方でしょう。

「故障」というのは本来の機能を果たしえないことを言います。
警報機、遮断機が作動している踏切が「故障」しているとなると、どういう事態が考えられるでしょうか。
警報機と遮断機をセットで考えると、次のような場合分けになります。

1)遮断機が下りて、電車が通る=正常
2)遮断機が下りていないのに、電車が通る=故障
3)遮断機が下りているのに、電車が通らない=故障
4)遮断機が下りていないので、電車が通らない=正常

1と4は正常な作動です。2と3は故障ですが、遮断機が降りているとなると3の事象が発生していたということを考えるのが自然です。
「故障」に限らず、通常と違う動作や状態にある場合には、特別な表示を出すわけであり、この場合、遮断機が下りていて電車が通るのなら通常は故障とは言わないはずです。
ここまで「誤解」と言ってきましたが、見方によっては通常の考え方ともいえるわけで、「故障」表示なのに1の作動であると判断する発想の場合、通常ならかえって事故を引き起こします。

今回の一連の事故を受けた対応で不可解なのは、2回目の事故の当事者であるJR東海の発想です。
正常な状態となんら変わらないパターンの1の事象を「故障」と考えることを前提にしているばかりか、「故障」表示が出ていることを利用者がまず把握するシステムになっていることです。
警報機、遮断機がある踏切ですから、簡単な軌道回路とはいえ電車の運行と連動した「システム」が存在するわけですから、警報機が「故障」を表示した瞬間に、その情報を運行側にフィードバックするシステムをなぜ備えていないのか。
私鉄ですと踏切の手前にはきちんと遮断しているかを示す表示灯がありますし、JRでももっぱら支障物への警戒ですが、特殊発光信号機などの設備があるわけで、「故障」表示が出たら、前方の踏切で「故障」表示ありと伝達するシステム構築はさほど難しくないはずです。

誤解を招く表示は出すわ、運行側は前方の踏切が正常に作動していない(「故障」表示が出ていたら1の事象でも異常と考えろと言うのであれば、その作動は「正常でない」というべき)ことを把握できていないわと、安全管理という意味では非常にお粗末です。
道路信号の場合、故障で消灯しているときには交差点に進入するクルマは、全方向とも進入前に一旦停止することになっていますが、鉄道の場合はお構い無しに全速力で進入できるのです。

そもそも保安装置の一つである警報機・遮断機が「故障」しているのに通常通りの運行が前提と言うのも変な話です。運行側の保安装置は厳重に正常な作動を確認するのに、踏切のような外部に対しては外部が気をつけるべきという姿勢と言うのは通らない話です。

少なくとも「故障」表示は取りやめるべきですし、「故障」を表示させるような事態が発生した場合は、管理者がすぐ把握できるようにすべきです。そうすれば場所によってはスピーカーで連絡したり、最寄りの駅から職員を派遣できるでしょうから、「故障」を長時間放置することもなくなります。





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