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ETCの意義も理解出来ない全車検問の愚
兵庫県警の呆れた対応


エル・アルコン  2006年4月26日

県内一ヒマなIC? 播磨道・播磨新宮IC



※この作品は「交通総合フォーラム」とのシェアコンテンツです。
※2006年7月1日 補筆


2006年4月27日付の神戸新聞ウェブサイトは、 「県警高速隊 専用レーン閉鎖し大規模に全車検問」 と言う記事を掲載しました。

リンク先のページは時間が経つと閲覧不能になるため、引用・評論するうえで批評元を参照出来ないのは問題なので、敢えて以下に全文を掲載します。(記者名は省略)


高速道路でノンストップ料金収受システム(ETC)利用車が増加する中、県警高速隊が、ETC車と一般車を区別しない「全車検問」に力を入れている。十分な減速をせずに料金所を通過する車が多いなど、ETC車検問の難しさは「全国的な課題」(警察庁)だが、同隊は、運転手が余裕を持って停止できるよう、料金所前で大規模な交通規制を行うなどして混乱を回避している。

渋滞緩和効果のあるETC車は、増加傾向にあり、西日本高速道路会社によると、利用率は約50%(二月末現在)に上るという。一方で、料金所通過時の二十キロの速度指示を守らない運転手が多く、専用レーンでも事故が多発。バーに衝突したり、前方の車に追突するなど、県内では昨年一年間で二百六十二件(同隊調べ)あった。

こうした状況から、「ETC車に停止させるのは危険」「渋滞が起きる」と懸念されてきたが、県内ではETCの利用率が高い大型車による酒気帯び運転や事故が絶えず、同隊が昨年末から、同社など道路管理者と協力し、全車検問を始めた。

方法は、ETC専用レーンは閉鎖し、一般車の併用レーンを使う。料金所を通過した車を手際よく検問できるよう隊員を集中的に配置。検問による渋滞や事故防止のため、時間や場所を選ぶとともに、不正車両などを監視する道路管理者らの活動と連携してより多人数で行うなど工夫している。

現在のところ全車検問による混乱やトラブルは特にないといい、同隊は「ETC車のドライバーらにも、高速でも検問があるという緊張感を持って運転してほしい。全車検問を定着させ、事故防止を図りたい」としている。


鉄拐山から第二神明須磨TBを望む

ETCレーンでの事故を例示するなど一見もっともらしいようだが、実はそれは検問と全く関係なく、要はノンストップのETC専用レーンだと、ターゲットの大型車を停車させるのが困難だから、兼用レーンでの運用にして取り締まりやすくする、ただそれだけです。
全く取り締まり側の都合だけの規制であり、一般道で走行中の車両に旗を振って誘導する検問が存在することを考えると、走行していると事故を誘発するから取締りが出来ないとしてETC専用レーンをわざわざ塞ぐ意味合いは少ないです。

記事にもあるとおり、普及が遅れていた関西圏でもここに来てETCの普及は急激に伸びており、先を行く首都高では今年度の最終的な普及率を90%に置いているなど、今や高速道路ではETCをつけていないほうが少数派と言う状態です。
そのETCの最大のウリは料金所をノンストップで通過できること。もっとも、高速道路事業者側の安全対策の不備を利用者側に転嫁する形で、レーン通過速度を20kmに規制すると言う本末転倒な措置が取られていますが、それでもETCにより料金所での渋滞が大幅に減少していることは確かです。

兵庫県内でも有数の渋滞ポイントであった第二神明の須磨料金所も、ETCの普及が急速に進むに連れ、数キロの渋滞は当たり前だった朝夕や休日午後の渋滞がめっきり減っており、特に休日午後の交通情報で須磨の名前を聞かないことも珍しく無くなっており、ETCによる劇的な渋滞解消は疑いの無いところです。

こうした道路利用者に、また道路事業者にとってもまさに革命的な改善が達成された同じ場所で、その立役者であるETCのノンストップ通過を全否定するような検問を実施すると言うのはどういうことでしょうか。
「道路交通法違反」の取り締まりだからやむをえないと言うつもりなんでしょうが、道路交通法の目的には「円滑な交通」があるわけです。高速道路という幹線交通を阻害することがその目的にかなうのか。ましてやその意義が、取り締まる側の都合に過ぎず、さらに言えば取締りの手間を惜しむことに他ならないのでは、交通を阻害する正当性すら疑われます。

今回の全車検問は、事業者も協力しているとありますが、一般レーンも兼用レーンも通れる非ETC車と違い、ETC車は兼用レーンしか通れなくなります。手渡し精算を厭わなければ一般レーンから入れるという指摘があるかもしれませんが、各種割引やマイレージの適用は無線通信による料金所通過が原則なのです。半数を超えるクルマのほうが狭い選択肢しか与えられないと言うのは話になりませんし、泣く泣く手渡し清算を選択する車両に対して割引の不適用やポイントの非付与といった経済的損失を強いているとしたらこれは不当な対応と言えます。

ETCのメリットを完全に封殺してまで強行する意味やメリットがあるのでしょうか。ETCはいろいろな手段を官民が講じて、少なからぬ税金を投じてようやくここまで普及し、そして渋滞解消などの大きな実を挙げているのですが、それを理解しているのでしょうか。
安直な検問方法を取らずとも、走行中の車両に対する取り締まりは他にも手段はあります。酒気帯び運転の摘発ならパーキング停車中や、高速に入る前のロードサイドの飲食店で摘発すればもっと効果的です。
一兵庫県民として、平素から真面目に取締りをしているとは到底思えない状態を痛感しているだけに、真っ当な利用者をさらにいじめるような今回の対策には失望と怒りを禁じえません。
定着させるなど言語道断、即刻中止すべきです。

【補筆】
2006年5月11日付の新聞は、兵庫県警が京都との府県境にある京都府側のラーメン店を、ドライバーと知りつつ酒類を提供した飲酒運転幇助の疑いで捜索したと報じています。
本来、誰がどう見てもおかしい、クルマでしか行けない飲食店での1人客への酒類提供が当たり前のように行われていたことを訝しむこえはありましたが、ようやくそのあたりまえな疑問へのあたりまえな摘発がなされたという感じです。もっとも、これがニュースになるということは、今まではこうした「元を断つ」施策が全く取られていなかった事の裏返しであり、今回の摘発はやらぬよりはマジですが、それがニュースにならないくらいにこうした「おかしい」事例は摘発してほしいです。

検問にしても、交通の安全と円滑のどちらを取るかという二者択一であれば、安全を優先すべきですが、必ず二者択一になるのではなく、両立する術があるはずであり、両立するように努めないといけないはずですし、そういう努力を前提に積極的に実施することで、悪事をすれば検問で必ず摘発される、という意識が浸透することによる抑制効果が期待できます。

ただ、今回の「全車検問」に関しては、専用レーンでも検問を行う、というものではなく、専用レーンで制止させるための周知や工夫を欠いた安直な安直な対策としか読めないわけで、ETC車に対する負荷を徒に高めているだけといわざるを得ません。
同じ全車検問であっても、専用レーンでも「止まれ」の旗で制止させることがあります、というのであれば、特段違和感も感じませんし、不利益も感じないのです。

納得がいく摘発や検問の方法は必ずあります。にもかかわらず、真っ当な利用者におかしいと思わせるような安直な手法や無意味な手法にややもすると走りがちであり、今回の対策もその意味で評価できないし、とんでもないと思うのです。



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