このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください





駐車違反摘発方法の変更における問題
改正道交法の施行に反対する




2004年に改正された道路交通法、携帯電話使用に関する罰則の新設や飲酒運転に対する罰則引き上げなどこれまでに施行された内容は皆さんもご存知のことでしょう。
その中にある駐車違反摘発の民間委託および摘発基準の変更は2006年6月1日施行と定められており、間もなく新ルールでの運用が始まります。

これまでは警察官が行ってきた摘発を民間に委託することで、警察官をより重要な仕事に就かせることが出来ると言う目論見があるのですが、そうした民間委託の問題に加え、摘発基準の変更については仔細が伝わるにつれて大きな問題が存在することが分かってきました。

●摘発方法の変更についての問題
従来はタイヤにチョークで印をつけるなどして駐車の事実を把握していましたが、今回からはデジカメで撮影することで確認することになりました。
修正・補正が可能なデジカメに証拠能力があるかという問題もさることながら、時間をおいて確認していた「駐車」の判定を、その一瞬だけで実施することになりました。

例えば速度違反を摘発する時には、スピードガン機能による測定を併用しており、警察官の現認もしくはカメラによる撮影における「違反の証拠」としては充分なものがあります。
ところが「駐車違反」については、従来の摘発のように時間の経過を加味しないと、一時的な停車なのか駐車なのか、極端な場合は渋滞等による停止なのか全く判別することが出来ません。

もちろん運転者がクルマを離れたことを要件にしていますが、後述する問題のほか、修正・補正が可能なデジカメでの撮影ということや、撮影条件によっては運転者の存在が見えない撮影も可能であり、駐車であるかと言う事実の認定とするには疑義があります。

●要件の厳格化についての問題
駐車の定義としては、クルマの停止状態から「停止」として定義される「貨物の積卸しのための停止で5分を超えない時間内のもの及び人の乗降のための停止を除く」を除き、 「又は車両等が停止し、かつ、当該車両等の運転をする者(以下「運転者」という。)がその車両等を離れて直ちに運転することができない状態にあることをいう」とあるわけですが、今回の改正では運転者がクルマを離れていることが摘発のトリガーになっているようです。

先に指摘しましたデジカメによるその瞬間のみの撮影による証拠方法と合わせると、野球の隠し玉のような摘発もありえるわけです。
そこまで酷いケースはなくても、後述するような問題が発生します。

●摘発の公平性についての問題
要件を厳格化するということは、裁量の幅をなくし例外を作らないことを意味します。
すなわち、同一箇所で10台駐車違反があったとしたら、例外なく摘発しないといけません。瞬間的な基準ですから、そこまで追いきれるかどうか。摘発し切れないから貴方は摘発、貴方は放免、ということが法律の適用で有り得るのでしょうか。

技術的な問題はそれでも弁解の余地はあるのでしょうが、いちばん懸念されるのが摘発に「手心」が加えられるということです。
よく言われるのが「黒塗りスモークの高級乗用車」の摘発を本当にするのか、ということ。その他、商店街でパーキングメーターを店の業務用車の駐車場替わりにしているようなケース。デジカメで撮影しておくだけでなく、ステッカーを印刷してクルマに貼付するという工程があるわけですが、そういう「強面」や「町の有力者」系統のクルマも等しく摘発出来るのか。従来の摘発ではまずこういう系統はスルーされていただけに一般市民の不満が大きいのです。

また、年度末を控えて予算が不足してきた頃に取り締まりが増えると言うウワサがあるわけですが、ただでさえ恣意的な側面が入りやすい摘発において、厳格適用の名に於いて「隠し玉」のような摘発がなされない保証はありません。実際、今回の改正による「収入増」を予算化しているわけですが、本来発生しなければそれで良しと言う性格の「収入」を予算化すること自体が非常識なうえ、「収入増」が無いと予算未達となることから不適切な摘発に走る危険性が懸念されます。

●民間委託に関する問題
いちおう身分は準公務員というようになるようですが、官公署や郵便局のバイトと決定的に違うのは、司法権を委ねられるということです。
「司法警察官」(いわゆる警官)が現認した法令違反に対して民間が撮影やステッカー貼付と言った実務を行うのであれば問題は少ないのですが、摘発対象かどうかの判断も民間が行うと言うということです。もちろん現行犯は誰でも逮捕出来ると言う刑訴法の規定はあるのですが、あくまで例外的な事態を想定しているわけで、今回のそれは民間が法定違反の要件を判断して司法権を行使するという、司法権についての大きな変革とも言えますが、法曹界をはじめとして問題意識はないのでしょうか。

●駐停車の定義に関する問題
道交法上の定義を厳格解釈すると言うことになるのですが、ちょっとでも塁を離れたらタッチアウトになる野球ならともかく、通常の使用においてそれを厳格解釈するとどういうことが起きるでしょうか。
急に便意を催して便所を借りるために数分間停車したらどうなのか。クルマに何か汚れがついたようなので周囲を見るために停車したらどうなのか。

それどころか、自宅の前に停車して荷物を家に運び込むとか、門扉を開けるとか、階段しかない集合住宅の場合はそれだけで数分はかかることがありますが、それらはどうでしょうか。厳格解釈するとどれもアウトのはずですし、実際にそう言うケースで従来型の取り締まり(チョークで印をつける)を受けたケースもあるやに聞いています。(さすがに二度目が来るまでは停めないので大事には至らないですが)
車庫法の改正で自宅から相当離れていても車庫証明が取得できる現行制度の下では、自宅前に停車して運転者以外の人の乗降や荷物の積み下ろしを行うことが前提になっているといえますし、天候や時間帯によっては駐車場まで行ってから自宅との間を徒歩と言うのは、治安上非常に難があります。

●商業車に関する問題
宅配便をはじめとする配送車をどうするのか。クルマを持たず駐車場もない客先に配達する時にどこに停めるのか。引っ越しのトラックはどうするのか。
一方で、運転者がいれば対象外と言うことで、運転手と助手の2人乗務にする対応をとる事業者もあるようですが、駐停車には変わりないのにそれならOKというのも変な話です。
また、タクシーなどが路駐して昼寝をしているようなケースや、客待ちで車線を延々と塞いでいるのも対象外になるわけです。

●必要な対策
もちろん路駐が迷惑行為であることは論を待ちませんが、法律の適用を厳格化するだけでは対応出来ません。住宅街の生活道路で自宅の前で荷物や子供を家との間で運んでいるとか、それを出来ないとするのは一般常識を問われかねないようなケースの適用除外はまず明文化すべきですし、法令での明示が不可能であればガイドラインを公表すべきです。

現行の運用を前提にした法令も改めないといけません。
道路の状況を全く無視した「市内全域」扱いの規制はその際たるものです。住宅街においては人の乗降や荷物の運搬を想定した5分ないし10分間の停車(運転者が降車するケースもあるので、現行法規での「人の乗降」だけでは不充分)を容認すべきでしょう。現行規制でも60分以内駐車可というケースがあるのですが、ほとんどお目にかかれない幻の標識であり、摘発の運用で捌いているから幻でも問題がなかった面は否めません。

商業車の場合も、2人乗務なら適用除外とか、昼寝停車や客待ちならOKという本来趣旨から言うとおかしな事態は摘発対象とする代わりに、上記のように配送による10分以内の停車を許容するとか、引っ越しなどでの占有許可の発行をもっと簡素化する(工事などでの占有とは別の、「簡易占有」と言うような制度を作るべき)ことも必要です。

そもそも官公署自体が現行の運用を前提にしている面があるのも否めません。
来客用駐車場が事実上ない警察署や自治体の出張所でのチャイルドシートの貸出はその際たるものです。さすがに警察ではそう言う案内は受けませんでしたが、自治体の場合、駐車場の有無を問うとちょっとだけだからと路駐(それも国道に)を勧められたくらいです。
運用の元締が路駐を前提には出来ないはずで、きちんと駐車場を整備するか、駐車場のある場所までの配達や運搬を手配するなどの対応を施行日までに完了しているのでしょうか。

●6月1日施行は見送るべき
もともとこの改正は、駐車禁止区域の抜本的見直しとセットでした。
メリハリのある駐車禁止区域の設定があれば、摘発も万人が納得できるものだったのでしょうが、なぜか見直しは無くなってしまったため、おかしなものになっています。

クルマは移動、運搬の手段であり、動くことに意義があるのですが、その大前提として駐停車しないと用益そのものが出来ないのです。
「市内全域」規制に瞬間的な要件充足による摘発では、クルマの利用が全く出来なくなるといっても過言ではありません。道交法は円滑な交通を目的としているのであり、交通そのものを規制する目的ではないはずです。改正はまさに手段と目的が入れ替ったものであり、社会生活に与える影響が大き過ぎます。

先だって、PSE法の中古電気器具への対象が社会問題になり、事実上骨抜きになりましたが、実際問題として中古電気器具の流通がストップしたからといって大多数の国民の生活に影響が出るものではないわけで、経済産業省の認識など不手際があったことは事実ですが、そこまで騒いで特例を設けるようなものであったかは疑問です。
一方で今回の改正は、クルマを所有、運転する人のみならず、物流その他への影響は計り知れないわけで、これこそ非を鳴らすべき性格の問題ですが、メディアを筆頭に問題意識の無さには目を覆います。

駐停車禁止の見直しがなくなった時点で、現実的なクルマの使用に支障が出るような欠陥法規になり下がった改正は、関連法規や社会常識との整合性が取れない限りは施行を見送るべきです。






交通論の部屋に戻る


Straphangers' Eyeに戻る


このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください