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矢印信号での転回は違反だったのか
青信号での扱いとの関係や矛盾する表示が示すもの



転回用の矢印信号もあるが(R20笹塚)



青黄赤の3色しかない交通信号ですが、意外とそのルールは複雑です。
その際たるものが右折矢印でのUターン禁止でしょうか。先日右折矢印でのUターンを容認すると言う報道がありましたが、多くの人が「えっ!?違反だったの」と思ったのです。

これも法律の分かりづらさゆえ、と理解したくなりますが、法律をよく読むと、もともと違反としていることがどうなの?という問題が見えてきました。
刑事罰を課すことになる法律ですから、罪刑法定主義の原則からその運用は厳格である必要があります。にもかかわらず、明確に右折矢印でのUターン禁止が見えてこない。さらに言えば、合法とされている青信号でのUターンすら法律上は出来るのかという疑問すら出てきたのです。


写真は2011年7月撮影



●「違反」への戸惑い
2011年7月14日、警察庁が右折矢印信号でのUターンを認めるように道路交通法施行規則を改正するとの報道が流れ、翌15日に改正案が公表され、8月20日までの期間でパブリックコメントの募集が開始されました。

それをメディアが一斉に報じたのですが、それに対する反応は、私を含めて「えっ」というものでした。理不尽な規制がようやくなくなる、という「ほっ」というのではなく「えっ」というのはなぜか。そう、そもそもそれが違反だったの?という戸惑いなのです。

道路上でのUターン、法律上は「転回」と呼んでおり、以下字数も少ないことから「転回」に統一しますが、普通転回をする際には、道路は左側通行ですから対向車線は右側に存在するため、右転回をすることになります。
ですから交差点で転回をするのであれば右に進路を変えるのですが、右への進行が示されている右折矢印信号で転回したら違反と言うのはなんとも理解不能の事態です。

●転回はどうすればいいの
この問題、公式見解はどうでしょうか。
実は木で鼻を括ったような回答があるわけで、青信号のうちに転回し、できない場合は停止線で止まるしかないのです。

青信号のうちに停止線を通過していれば、全赤の時間帯に交差点から抜け出ることが可能なので合法。停止線手前にいる場合は「右折」以外は赤信号なので停止線手前で止まらないといけません。
ですから転回車がいる場合、後続の右折車はせっかくの右折信号なのに進めないという事態になるわけで、おそらく現実にそれをしたらクラクション鳴らされまくりでしょうが、それが正当としているのです。

●法律はどうでしょうか
なんだかNHKの「バラエティ生活笑百科」での仁鶴師匠のような台詞ですが、これが違反なら法律に明記されているはずであり、それはどの規定に基づくのでしょうか。
ネズミ捕りその他で悔しい思いをする人も少なくないですが、切符を切られるにはそれなりの根拠があるわけで、違反行為とされるからには道交法にきちんとその規定があるはずです。

ちなみに道交法、正式には「道路交通法」ですが、こうした違反の定義はそれだけで決まっているわけではありません。道交法をよく読むと、政令で定める、内閣府令で定める、という表現が出てきます。
これを補完するのが「道路交通法施行令」(施行令)という「政令」であり、「道路交通法施行規則」(施行規則)という「内閣府令」です。

また交通標識については国土交通省令でこれを定めるとあり、「道路標識、区画線及び道路標示に関する命令」という国土交通省令があり、その内容を見ると、様々な道路標識にはそれぞれ関係する道交法、施行令、施行規則が付記されており、きちんと法律に基づいた意味を持っています。

●信号の定義
施行令第2条は「信号の意味等」として、

法第四条第四項 に規定する信号機の表示する信号の種類及び意味は、次の表に掲げるとおりとし、同表の下欄に掲げる信号の意味は、それぞれ同表の上欄に掲げる信号を表示する信号機に対面する交通について表示されるものとする。

とあります。(法=道路交通法)

表のなかで本件に関係するのは「青色の灯火」「赤色の灯火」「青色の灯火の矢印」です。
まず「青色の灯火」をみると、

一 歩行者は、進行することができること。
二 自動車、原動機付自転車(右折につき原動機付自転車が法第三十四条第五項本文の規定によることとされる交差点を通行する原動機付自転車(以下この表において「多通行帯道路等通行原動機付自転車」という。)を除く。)、トロリーバス及び路面電車は直進し、左折し、又は右折することができること。
三 多通行帯道路等通行原動機付自転車及び軽車両は、直進(右折しようとして右折する地点まで直進し、その地点において右折することを含む。青色の灯火の矢印の項を除き、以下この条において同じ。)をし、又は左折することができること。

とあります。

「赤色の灯火」はとみると、

一 歩行者は、道路を横断してはならないこと。
二 車両等は、停止位置を越えて進行してはならないこと。
三 交差点において既に左折している車両等は、そのまま進行することができること。
四 交差点において既に右折している車両等(多通行帯道路等通行原動機付自転車及び軽車両を除く。)は、そのまま進行することができること。この場合において、当該車両等は、青色の灯火により進行することができることとされている車両等の進行妨害をしてはならない。
五 交差点において既に右折している多通行帯道路等通行原動機付自転車及び軽車両は、その右折している地点において停止しなければならないこと。

となります。

そして「青色の矢印の灯火」はどうでしょうか。

車両は、黄色の灯火又は赤色の灯火の信号にかかわらず、矢印の方向に進行することができること。この場合において、交差点において右折する多通行帯道路等通行原動機付自転車及び軽車両は、直進する多通行帯道路等通行原動機付自転車及び軽車両とみなす。

となっています。

●そもそも転回って
施行令第2条の定義から転回の可否を読み取れるでしょうか。
取締りの根拠は、矢印信号は「矢印の方向に進むことができること。」のであり、転回はできないというものです。

では青信号はどうでしょうか。
「直進し、左折し、又は右折することができること。」とあるだけであり、転回とはどこにも書いていません。青信号でできるとされる「右折」と、矢印信号によるいわゆる「右折」は別物ということでしょうか。

実は道交法では転回について規定しているのはわずか3箇所です。

道交法第25条の2第1項で、

車両は、歩行者又は他の車両等の正常な交通を妨害するおそれがあるときは、道路外の施設若しくは場所に出入するための左折若しくは右折をし、横断し、転回し、又は後退してはならない。

とあり、同条第2項で、

道路標識等により横断、転回又は後退が禁止されている道路の部分においては、当該禁止された行為をしてはならない。

とあります。

残る1箇所は第53条第1項で、

車両(自転車以外の軽車両を除く。第三項において同じ。)の運転者は、左折し、右折し、転回し、徐行し、停止し、後退し、又は同一方向に進行しながら進路を変えるときは、手、方向指示器又は灯火により合図をし、かつ、これらの行為が終わるまで当該合図を継続しなければならない。

とあるだけです。

なお道交法第53条絡みで、施行令第21条に合図の内容が規定されており、そこでは、

右折し、又は転回するとき。

としてひと括りになっています。

●転回の位置付け
こうなるとどうでしょうか。
右折、左折と転回が併記されているのです。法律の世界ではこういう記載になっていると、「別物」として扱うことになります。施行令第21条を見ても、右折と転回が親戚みたいなものと言うことは容易に想像がつきますが、あえて別記していますし、標識でも右折禁止と転回禁止は別の標識です。

ほらやっぱり右折矢印信号での転回は違反だ、と言われそうですが、本題はここからです。
ではなぜ青信号で転回できるのでしょうか。

「青色の灯火」の定義では「直進し、左折し、又は右折することができること。」とあるわけで、右折と転回が違うのならば(同様に左折と転回も併記されているので別物です)、転回=直進でなければ青信号で転回できる法的根拠はありません。

実はこの定義ではという説もあるのですが、いかに法律が浮世離れしているとはいえ、進路が180度違う行為を同じとするのは常識を疑います。
しかし法律はこうした常識を疑うケースが多いのも現実ですが、道交法を見るとさすがに無理筋なのです。

直進と転回の併記が無いので同一視できると言う解釈が成立する余地は確かにありますが、「青色の灯火」の第3号との整合性はどうでしょう。

多通行帯道路等通行原動機付自転車及び軽車両は、直進(右折しようとして右折する地点まで直進し、その地点において右折することを含む。青色の灯火の矢印の項を除き、以下この条において同じ。)をし、又は左折することができること。

ここでいう「直進」はどう見ても真っ「直」ぐ前に「進」むことを想定しています。
ちなみに道交法では「通行」と「進行」を使い分けており、道交法第36条(交差点における他の車両等との関係等) での進路妨害に関する規定を見ると、第1号では、

車両である場合 その通行している道路と交差する道路(以下「交差道路」という。)を左方から進行してくる車両及び交差道路を通行する路面電車

とあります。

要は信号がなく、優先道路の関係が無い交差点においては、自分から見て左手から交差点に進入して来た車両が優先であり、相手が路面電車であれば両方向とも優先されるということですが、「進行」は方向性を持ち、「通行」はそれが無いという使い分けがなされています。

それを踏まえると、「直進」は前方への進行と解するべきであり、通行区分を越えて対向車線に入って逆戻りする転回を含むと考えるべきではないでしょう。
そもそも道路において車両は左側通行という大前提があり、道交法第17条第4項では、

車両は、道路(歩道等と車道の区別のある道路においては、車道。以下第九節の二までにおいて同じ。)の中央(軌道が道路の側端に寄つて設けられている場合においては当該道路の軌道敷を除いた部分の中央とし、道路標識等による中央線が設けられているときはその中央線の設けられた道路の部分を中央とする。以下同じ。)から左の部分(以下「左側部分」という。)を通行しなければならない。

とあり、それを越えて進路を変える転回が直進とは到底言えません。

●他規定との矛盾
もともと転回について道交法が中途半端なのは否めません。
そのため現状では信号交差点や通行区分がある交差点での転回総てが違反になるという解釈のほうが自然になってしまいます。

転回用の矢印信号(R20初台)

矢印信号で転回ができるように右折矢印とは別に転回用の矢印信号を設けている交差点がいくつかありますが、ではその交差点ではどの車線から転回をすべきでしょうか。

「右側車線から」と訴えるのは代々木署(R20初台)

右折レーンからの転回を警察自身が指示している訳ですが、車両通行帯を規定した道交法第20条第2項を見ると、

車両は、車両通行帯の設けられた道路において、道路標識等により前項に規定する通行の区分と異なる通行の区分が指定されているときは、当該通行の区分に従い、当該車両通行帯を通行しなければならない。

とあります。(前項の規定とは、左端から1番目(3車線以上の場合は右端を除く車線)を走行すべしという規定)

また指定通行区分を規定した道交法第35条第1項では、

車両(軽車両及び右折につき原動機付自転車が前条第五項本文の規定によることとされる交差点において左折又は右折をする原動機付自転車を除く。)は、車両通行帯の設けられた道路において、道路標識等により交差点で進行する方向に関する通行の区分が指定されているときは、前条第一項、第二項及び第四項の規定にかかわらず、当該通行の区分に従い当該車両通行帯を通行しなければならない。ただし、第四十条の規定に従うため、又は道路の損壊、道路工事その他の障害のためやむを得ないときは、この限りでない。

とあります。(第40条は緊急自動車通行時の規定)

上記初台交差点は通行区分があります初台交差点の区分表示は右折方向のみ

右折レーンに書かれているのは右を向いた矢印です。右折を指示している車線から右折と違う転回ができる根拠はなんでしょうか。

●矛盾する表示
さらに言えば、矢印信号で転回できないのであれば、必要ない表示、矛盾する表示があるわけです。

典型的な例として、矢印信号のある交差点にある転回禁止の標識です。
もちろんダメ押しの標識と言う見方も出来ますし、矛盾はしていませんが、追い越し禁止の標識が交差点に立っていないように、通常は重複した規制標識は表示しないのに、なぜ敢えて交差点ごとに転回禁止の標識があるのか。

転回禁止は本来不要?(環七高円寺駅入口)

さらにこの転回禁止の標識に補助標識がついていると話は違ってきます。
時間帯指定の補助標識、つまり0時から5時まで、とか、8時から20時まで、とある場合、上述の道交法第25条の2第2項で、「道路標識等により横断、転回又は後退が禁止されている道路の部分においては、当該禁止された行為をしてはならない。」とあるのですから、転回が禁止されていない時間帯の転回は可能となります。

時間帯指定つきの転回禁止ということは、それ以外の時間帯は転回が可能ということです。
転回について道交法が直接規定している数少ない条項に該当するのに、信号がそれを許さない。まさに矛盾です。

0時から5時以外は転回可能のはずだが信号が...
(R298美女木六丁目)

このケースはR298の戸田市内にあるほか、矢印信号での転回を積極的に取り締まっている警視庁管内でも、都心も都心、東京の大手町交差点が該当します。

8時から20時以外は転回可能のはずだが...
(20時過ぎ。大手町交差点)

このほか、道路標識とは違うために設置者が「間違えた」という整理も可能ですが、矢印信号での転回を前提とした案内が堂々と掲出されているケースもあります。

谷津干潟へはUターンでどうぞ(R357若松)

この交差点は右折レーンを本線と全く区分した車線に誘導しており、そこでの信号が矢印信号しか出ない構造になっているのです。

しかし右折車線は完全分離その先で待つのは矢印信号


●転回をめぐる不可思議
これまで見てきたように、そもそも道交法において転回を明確に規定していないことが混乱を招いていると言えます。

右折と転回は別物、というのが足元の解釈でありますが、指定通行区分は両者を同一視しないと成立しない状況です。
実はこの問題に限定して考えると、「別物」が優勢なんですが、別物としているがゆえに、右折車を阻んで停止線で止まるしかないという矢印信号での事態にも匹敵するような、一般常識的には理解できない事態が発生しています。

つまり、右折禁止の交差点でも転回ができるのです。
右折禁止の交差点の右側レーンといったら通常は直進レーンですが、ここで右ウインカーを出して立ち止まっていても合法なのです。

右折禁止だが、8時から20時以外は転回可能?
(本郷通り・第二合同庁舎交差点)

普通こういうシーンに出くわしたら、右折禁止も知らないド阿呆が、と非難轟々でしょうが、道交法的にはありえるのです。
それがド阿呆とみられるくらいならまだしも、対向車線から見ると危険極まりない存在です。つまり、曲がって来ないはずの場所から対向車が首を出すのです。「T」の字型の交差点の横棒を左から右へ走っている時、対向車が自分の車線に入ってくることは通常想定の範囲外ですから。

こうした事態は法律上の定義の遊びではなく、実際に右折禁止(右左折禁止)の標識と転回禁止(時間帯指定)が並立している箇所があるわけです。これは転回禁止(時間帯指定)と矢印信号の併記と同じであり、前者の転回を容認するのであれば、後者も合法にならないとおかしいです。

●そもそも道交法の趣旨は
第1条で目的としてこう定めています。

この法律は、道路における危険を防止し、その他交通の安全と円滑を図り、及び道路の交通に起因する障害の防止に資することを目的とする。

この目的を前に、今の転回の扱いはどうでしょうか。
対向車に邪魔されずに転回できる矢印信号での転回が違反で、右折禁止でも転回できたり、対向車がいる青信号でしか転回できないという危険度が高い状態で転回を強いています。

転回自体が危険だから転回禁止でいいよ、という声もありますが、今の道路の整備が転回を前提にしていることが多いことが分かっていない書生論です。

三郷IC西出口を降りると矢印信号しか出ない交差点が

例えば都市高速や都市部の高速道路のように、並行する道路からのランプウェイでアクセスする場合、位置関係によっては往路も復路も転回しないとアクセスできません。転回すべき交差点が右折車線のみ青を示すとか、右折後前方の信号に従うといった交差点なら問題ありませんが、そうでない箇所も常磐道と首都高の三郷IC西出口のようにあるわけです。

右折レーンのみの信号。指定方向の標識も転回対応
(R14浅間神社前)
右折後前方の信号に従うこと
(R14幕張町付近)

また中央分離帯で仕切られ、転回しないと家に帰れない、というケースも多々あります。そんなの左折や右折を繰り返して元に戻ればいい、という人もいますが、幹線道路で完結する流動を、交差する別の道路や、生活道路に導入することが道交法の趣旨に合致するかどうか。よく考えたいものです。

分合流がやりやすいUターン路(R298三郷市谷口)

そして転回に対応してUターン路を設けているケースもありますが、こうしたケースでは信号がなく、転回後に合流する際に難しい左車線への合流を強いたり、道路の形状が直角交差で、信号の無い横道から右折合流というこれも危険な行為になっています。

直角交差のUターン路を出入庫のバスも使う
(R14松代橋手前)


●そもそも今回の改正自体がおかしい
警察庁のサイトを見ると、法律の手当ては、施行規則の改正とあり、改正案をみると、施行規則第4条に下記の通り第2項を新設し(旧第2項は第3項に繰り下げ)ています。

青色の灯火の矢印及び黄色の灯火の矢印の種類及び形状は、別表第一の二のとおりとする。

そして別表第一の二を見ると、もともと「歩行者専用」「歩行者・自転車専用」の表示について規定していた箇所に続いて、「第四条関係」として矢印信号の種類(意味)と形状が追加されています。

このうち右折矢印信号の「灯火の矢印の種類」で、

車両等(令第二条第一項の多通行帯道路等通行原動機付自転車及び軽車両を除く。)が右折し、または転回することができることとなるもの。

(令=道路交通法施行令)

とすることで、右折矢印信号で転回ができる、としたのです。

しかし、ここで右折と転回を別物とした定義で済ませたにもかかわらず、施行令第2条や道交法第35条第1項について全く手当をしていないため、青信号での転回と、右折レーンから転回ができる根拠に疑義が残っています。

転回は右折の一種です、と簡単に定義するだけで丸く収まるのに、そうしませんでした。
「別に規定があるものを除き、転回に関する規定は右折に関する規定を準用する。」、とでも手当てすれば矛盾も残さずに改正できたはずですし、そのレベルであれば通達でもよかったはずです。

●裁量行政の限界
なぜこんなその場凌ぎのような対応にしたのか。
おそらく総てを手当てすると、今までの取締りの根拠が崩壊するだけに(青信号での転回、右折レーンでの転回という「違反」を放置し、矢印信号での転回だけ取り締まってきたと言うこと)、何とか取り繕おうとしているのが見え見えと言ったら言い過ぎでしょうか。

また、法律や政令の改正だと、議員や閣僚の前に現状の不可思議な運用を説明することになり、場合によっては右折=転回なんだから改正不要、という指摘になりかねず、これまでの運用の不備を逆に指摘されかねないことを恐れたのではという邪推も可能です。

だから内閣府令だけをいじったのかもしれませんが、そのため、道交法が規定する右折レーンの問題に加え、施行令レベルでも青信号での転回だけが不可、と読めるというもっと大きな不具合が発生をどう考えるのでしょうか。

そもそも行政は法による支配を受ける存在であり、法律の授権なしに立法作用を営むことは許されないはずです。
重要事項を立法府の専権事項である法律に明記せず、行政府の裁量である政省令に委ねることですら批判があるのに、政省令からも読み取れない、政省令に授権されていない部分で行政府の裁量で解釈が決まるということが許されるのか。

道交法は行政法ではありますが、その違反が刑事訴訟になるように、刑事法としての側面が強いです。
ゆえにその違反行為の定義について曖昧さを残す、行政裁量によって変わるということは、罪刑法定主義の原則から見ても好ましくありません。

また今回交通関係の六法をいろいろ見てみましたが、判例つき六法ですら転回に関する判例も見当たらないことから、矢印信号における転回の可否(及び青信号、右折レーンからの転回を容認すること)についての解釈は、裁判所の有権解釈による定義でもありません。

さて、本件の論点については実は道交法関連を解釈する書籍に記載があると言う話もあります。
行政法の世界ではこうした「例解本」が唯一の根拠というケースが多いのですが、最後は通達、指導レベルに委譲されて、かつ対象も業界に限定されているような状況であればこうした「例解本」は頼りになる存在ですが、刑事法的要素の強い、明文規定が求められる局面では、法令上はこうした「例解本」に授権はしていないのに根拠になりうるのか疑問です。

こうした書籍は往々にして所管の官庁の人間が著者、編者になっているわけで(何年か前に「公務員のバイト」では、と問題になりましたね)、省令はともかく、法律や政令の解釈が最終的に監督官庁次第というのはまさに裁量行政です。

民間企業の事業活動に関してはノーアクションレター制度が導入されており、監督官庁が法令適用の判断を示す制度があるため、整合性の無い、その場凌ぎの対応は排除されつつありますが、こうした事例を見ると、一般市民に関しても同種の制度を導入してほしいですね。
もちろん「青信号は転回可能、矢印信号は転回不可」という統一見解になる可能性はありますが、監督官庁の判断が法令と矛盾している、というような問題点が明確化するため、より慎重かつ合理的な解釈に収斂する効果はあるでしょう。

●過ちては則ち改めるに憚ること勿れ
だいたい、矢印信号の意味において、「矢印の方向」を、矢印の方向にハンドルを切る一連の動作ではなく、交差道路に出ると言う狭い解釈をしていることが間違いだったとなぜ言えないのでしょうか。
それであれば、通達レベルで再確認するだけでよかったともいえるからです。

右方向への矢印信号で、正確な矢印の方向に道がなく、直進気味やUターン気味の道路への「右折」を示しているケースもありますが、「矢印の方向に進行することができること。」という施行令の規定で、交差道路に出ると言う行為まで要求する反面、矢印から90度近くずれた方向に進むことまで容認するという「拡大解釈」が可能なんですから、転回もそれに含めることに無理は無かったのです。施行令第21条で右ウインカーは右折と転回時に出すとされているように、別物ではありながら、限りなく近いものという位置付けですから。

右斜め前か右に戻る方向しかない(r288船橋市金杉)しかし信号は「右の方向」のみ

そうすれば、右折禁止の交差点で、本来ありえない方向から転回車が出てくるといった危険な事態もなくなりますし、転回にまつわる危険性が大幅に減らせるのです。
にもかかわらずなぜ真逆の方向の解釈で今まで運用してきたのか。ドライバーの多くが「えっ」と思う運用は取締りのためにあり、安全のためではなかったという結論しか導けません。

それでも今回、2012年4月からとはいえ、そして矛盾が温存されているとはいえ、手当てがなされただけでも良しとしないといけないのが悲しい現実です。




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